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「さて、まずはどこから探すかの?」
「書庫なんかどうでしょうか。あそこは広いですし、隠れるのにも、隠すのにもうってつけです。荒木さんが被害者にせよ、犯人にせよ一番可能性が高いと思います」僕は提案する。
「ふむ、諫早殿の意見に賛成じゃ。諫早殿の言っていた書庫の惨状も見ておきたいからの」
僕たちは書庫に着くと、さっそく荒木さんを探す。小さな図書館と同じ大きさの書庫だ。探すのには骨が折れた。
「収穫はなしじゃの。じゃが、ここに来て気づいたことがある。諫早殿も気づいているかもしれんが、やけにことわざ辞典が多いの」
「ええ、そうなんです。いくら読書家でも、ことわざ辞典ばかりあるのが不思議なんです。普通、一、二冊あれば十分だと思います」
「ポイントはそこじゃよ。『春の間』に落ちていたのも、『夏の間』に落ちていたのも、普通の辞書ではなく『ことわざ辞典』じゃったからのう」
「え、そうなんですか!? 全然気づかなかった……」
僕には観察力が足りないらしい。
「まあ、無理もあるまい。わし自身もこの辞書の山を見て気づいたんじゃ。荒木殿は見つからなかったが、収穫はゼロではなかったようじゃ」
喜八郎さんは満足げだった。
「さて、三日月さん、他にどこがあるかの?」
「残りは救護室、キッチン、ワインセラーです。ワインセラーはキッチンの奥にあります」
「じゃあ、次は救護室に向うとするかの」
救護室は空振りに終わった。
「最後にキッチンとワインセラーじゃな。あとのグループが荒木殿を見つけておれば、良いのじゃが……」
救護室から広間をのぞいても、どちらのグループもいない。まだ荒木さんは見つかっていないらしい。
キッチンに着くと、調理具の数々が目に入る。もちろん、包丁の類は鍵がかかった場所に入れてある。もし仮に荒木さんが犯人でも、刃物を凶器にはできない。鍵はツーロックで、荒木さんと三日月さんが一つずつ持っている。しかし、油断はならない。誰が犯人にせよ、「夏の間」の事件ではライターを使っている。身近にある物での犯行の可能性が高い。
「キッチンにも見当たらないわね。あとはワインセラーだけど、どうかしら」と冬美さん。
「でもよ、他のグループが見つけている可能性もあるぞ」磯部さんは楽観的だ。
「それを祈るかの。思ったよりワインセラーは大きいのぉ。この館にふさわしい大きさじゃ。諫早殿、すまんが扉を開けてくれんかの」
扉はかなりドッシリと鎮座している。年配の方に開けられる感じはしない。
「もちろんです。後ろに下がってください。せーのっ」
渾身の力で扉を開ける。重い。何とか開けきる。
「さあ、若造はどきな」
磯部さんは僕を押しのけると中に飛び込む。僕は危うく転倒しそうになったが、なんとかこらえる。これだから磯部さんは好きになれない。
「ふん、中々の品揃えだな。悪くはない。執事探しが終わったら、いいのを一本開けるか」
僕たちはワインセラーの通路を手分けして探す。
「こっちにはいないわね」
「こっちにもいないのぉ」
その時だった。磯部さんが何かを蹴り飛ばした。それは割れたワインボトルだった。ワインボトルの横に何かがある。
「おい、これって、まさか……うわああぁぁああ」
ワインボトルの横にあったのは――倒れ込んだ荒木さんだった。
あたりには赤ワインがまるで鮮血のように飛び散っていた。
「書庫なんかどうでしょうか。あそこは広いですし、隠れるのにも、隠すのにもうってつけです。荒木さんが被害者にせよ、犯人にせよ一番可能性が高いと思います」僕は提案する。
「ふむ、諫早殿の意見に賛成じゃ。諫早殿の言っていた書庫の惨状も見ておきたいからの」
僕たちは書庫に着くと、さっそく荒木さんを探す。小さな図書館と同じ大きさの書庫だ。探すのには骨が折れた。
「収穫はなしじゃの。じゃが、ここに来て気づいたことがある。諫早殿も気づいているかもしれんが、やけにことわざ辞典が多いの」
「ええ、そうなんです。いくら読書家でも、ことわざ辞典ばかりあるのが不思議なんです。普通、一、二冊あれば十分だと思います」
「ポイントはそこじゃよ。『春の間』に落ちていたのも、『夏の間』に落ちていたのも、普通の辞書ではなく『ことわざ辞典』じゃったからのう」
「え、そうなんですか!? 全然気づかなかった……」
僕には観察力が足りないらしい。
「まあ、無理もあるまい。わし自身もこの辞書の山を見て気づいたんじゃ。荒木殿は見つからなかったが、収穫はゼロではなかったようじゃ」
喜八郎さんは満足げだった。
「さて、三日月さん、他にどこがあるかの?」
「残りは救護室、キッチン、ワインセラーです。ワインセラーはキッチンの奥にあります」
「じゃあ、次は救護室に向うとするかの」
救護室は空振りに終わった。
「最後にキッチンとワインセラーじゃな。あとのグループが荒木殿を見つけておれば、良いのじゃが……」
救護室から広間をのぞいても、どちらのグループもいない。まだ荒木さんは見つかっていないらしい。
キッチンに着くと、調理具の数々が目に入る。もちろん、包丁の類は鍵がかかった場所に入れてある。もし仮に荒木さんが犯人でも、刃物を凶器にはできない。鍵はツーロックで、荒木さんと三日月さんが一つずつ持っている。しかし、油断はならない。誰が犯人にせよ、「夏の間」の事件ではライターを使っている。身近にある物での犯行の可能性が高い。
「キッチンにも見当たらないわね。あとはワインセラーだけど、どうかしら」と冬美さん。
「でもよ、他のグループが見つけている可能性もあるぞ」磯部さんは楽観的だ。
「それを祈るかの。思ったよりワインセラーは大きいのぉ。この館にふさわしい大きさじゃ。諫早殿、すまんが扉を開けてくれんかの」
扉はかなりドッシリと鎮座している。年配の方に開けられる感じはしない。
「もちろんです。後ろに下がってください。せーのっ」
渾身の力で扉を開ける。重い。何とか開けきる。
「さあ、若造はどきな」
磯部さんは僕を押しのけると中に飛び込む。僕は危うく転倒しそうになったが、なんとかこらえる。これだから磯部さんは好きになれない。
「ふん、中々の品揃えだな。悪くはない。執事探しが終わったら、いいのを一本開けるか」
僕たちはワインセラーの通路を手分けして探す。
「こっちにはいないわね」
「こっちにもいないのぉ」
その時だった。磯部さんが何かを蹴り飛ばした。それは割れたワインボトルだった。ワインボトルの横に何かがある。
「おい、これって、まさか……うわああぁぁああ」
ワインボトルの横にあったのは――倒れ込んだ荒木さんだった。
あたりには赤ワインがまるで鮮血のように飛び散っていた。
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