戦場のマドンナ‥‥振り上げるのは大鎌か聖剣か‥‥

せせらぎバッタ

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「山東さん?」
「渋沢さん?」

「まさか、こんなところで会うとは。俺、びっくりした」
「翔子ちゃん、お友達?少し休憩していいわよ。料理も落ち着いてきたし」

 えっ?あの時のオネエ?

 翔子がノンアルコールビールを手に隣りに座った。
「ねえ、せっかくなんだから、山東さんが真ん中の方がいいんじゃないか?」
「いや、おまえ手が早いからだめ。ベタベタ触るのが目に見えてる」

「そうなの?」
 翔子がキョトンとした顔で小山田を見る。もっと自覚してほしい。

「改めて紹介するけど、会社の同僚の山東さん、俺の自慢の先輩。こちらが友人の小山田」
「はっ、そうなの?そ、そりゃ、偶然というか運命的だね」
 小山田が取ってつけたような笑い声をあげた。

「ここでバイトしてるの?その、副業規定とか、」
「ああ、バイトじゃなくて、お手伝い。無報酬よ。ただ会社の人には言わないでいてもらえると助かるんだけど」

 ああ、俺しか知らない秘密の共有。最高じゃないか。

「あれ、朱美さん?」
「そうよ。母の一周忌も無事終わったし、月に1,2回くらい助っ人に来ているの」
 そういえば、翔子の実母が亡くなったと聞いていた。まだ60代だったらしい。人は死ぬようでなかなか死なないが、死なないようですぐ死ぬものなのだ。

「ここでダンスがうまいセクシーなウエイトレスって、山東さんのことでしょう」
 小山田が割り込んでくる。口説くことにまだ未練があるらしい。
「そんなことはないと思いますけど、ダンスは適当だし、セクシーなのかどうか、場所柄、こんな格好してるだけで」

 翔子が戸惑うように自分の姿を見下ろす。不躾とは思いつつ、つられるように洋介の視線も下におりる。細いネックレスをプレゼントしたくなるような繊細な鎖骨から、形よく隆起したバスト。腰に下りるに従いキュッとしまっていく腰。張り出した臀部から伸びる脚は官能的な太腿、可愛い膝小僧を経て、足首へと続く。サンダルをはいた素足は、アクセントのペディキュアのためか指先まで目がいってしまう。

 ゴクリと生唾を飲み込んだ。小山田が脇腹をつついてきた。耳元でボソッと「頑張れよ。俺が煽ってやるから」
 ようやく諦めてくれたようだ。

 ダンスナンバーがかかった。人がダンスフロアになだれこむ。
「踊ろう」洋介は翔子の手をとり、立ち上がった。今なら素の彼女をつかまえられるかもしれない。リラックスしているこの場所なら。小山田は席でふりふりと手を振る。

 混んではいたが、翔子が近づくと常連客が場所を開けていく。モーゼの十戒か?
 曲に合わせ身体がビートを刻む。みるみる首周りに汗がにじみだしてくる。

「ジャケット暑くない?」
「暑い!」

 ジャケットを受け取り、小山田に放り投げる。二人分の上着をキャッチした小山田がニヤニヤ笑っている。
 ミラーボールの不規則なライトが翔子の全身を照らす。顔、胸、腰、どこに光があたろうが、セクシーさは変わらない。金太郎飴みたいだ。
 ああ、たまらない。

 スローな曲に変り、戻ろうとした彼女の手を取った。「このまま、しばらく一緒に踊ってくれないか」
 翔子は頷き、腰に回した手は振りほどかれなかった。顔を近づけるとずらされたので、仕方なく耳元に顔を寄せた。

「近づきすぎかな」
「うん、そう思う」
「好きになっていい?」
「それ、聞くこと?」
「リスクヘッジを怠らないだけだ」
「意外と手堅いのね」
「そういう翔子さんは」

 山東さんから、翔子さんに変えてみた。不快に思われたらどうしよう、言ってから後悔する。

「わたしは憶病なのかもしれない」
 しばらく無言の後に押し出された声に思わず顔を見た。はにかんだ笑顔を見て抱きしめた。汗で湿ったチューブトップが手のひらに吸い付いてくる。

「キスしていい?」
「ダメ。ここ、わたしの職場だもの」
「こんな野獣の群れの中、勝利宣言しとかないと気が気じゃないよ、俺」
「勝利したのかな?」

 口元がからかうように笑っていた。ドクンと心臓が跳ね上がり、動悸が激しくなってくる。暗がりの壁に誘い、覆いかぶさる。そっと唇を重ねた。
「もう遅いよ。好きになっちゃったからね」

 カウンターに戻ると、朱美と小山田が世間話をしていた。
「さて、俺はそろそろ帰るかな。久しぶりに美好んちにでも泊まることにしたわ」
 美好は彼女である。芸術の相手と称する女性の扱いもなんだが、本命彼女の扱いも雑である。それでも人生を回していけているのは、若さなのだろうか。

「翔子ちゃんもあがっていいわよ。お手伝いありがとう」
 朱美が洋介に目配せした。今日はなんていい日なんだ!

「また連絡するよ」
 駅で小山田を見送り、洋介は翔子と並んで歩き始めた。米兵を含め外国人が多く、至るところにあるアルファベットの看板が、日本であって日本でないような不思議な感覚になる。映画のロケ地に迷い込んだようだ。

「腕組みたい。その方が安心だろう」
 洋介は肘をつきだし、おねだりする。翔子が笑いながら、「人ってわからないものね。あんなスキなしの渋沢さんがね」
「そっくりその言葉お返しします」

 腕を組むだけでは飽き足らず、立ち止まってキスをした。抱きしめると胸のふくらみがあたり、洋介のジュニアが猛ってくる。

「どこか二人っきりになれるところで休まないか」
 潤んだ瞳と目があう。このまま別れたくない。翔子は頷き、どぶ板通りから2本離れた路地を進んでいった。蔦が門柱にからまる古びた一軒家を差し、ここよといった。

 それ以上の説明はなく、鍵を使って玄関を開け先に中へ入っていく。灯りを点けると目の前に階段があった。翔子は慣れた足取りで上っていく。アメリカンアンティークの置物が多いせいか、時の概念が歪んでいくような錯覚に囚われた。ここはどこで、今は西暦何年だ?

 後に続き、部屋に入った。おっと、翔子の部屋だ。彼女の匂いが充満している。クイーンサイズのベッドにビューローのライティングデスク。

「あ、いきなりベッドのある部屋に案内しちゃった。でも1階は朱美ちゃんが使っているから」
 先にベッドに腰かけ、バツの悪そうな翔子を引き寄せる。早くジーンズを脱ぎたい。固くなったペニスが痛みを訴える。

「嬉しいよ。抱いてもいい?」

 唇を重ね、舌を入れるときつく吸われた。そのまま口内を探るように味わう。手は勝手に翔子のチューブトップの下にもぐりこみ、豊かな乳房を愛撫する。喘ぎ声がだんだん激しくなる。ずりあげポロンと現れた乳首を唇ではさんだ。両手で胸をもみしだき、交互に左右の乳首を吸う。翔子の腕は洋介の首に回され、じれったいように腰が動いてきた。頃合いを見て性器に手を伸ばすと、愛液がトロリと触れてきた。指を入れかきまわす。

「あ、ああ、」

 小刻みに揺れる腰とせつなそうな声に、さらに力を入れる。ビクンと身体が跳ね、荒い息遣いが聞こえてきた。洋介は顔をさらに下げ、翔子のショートパンツとパンティをひきおろし、女性器に顔をうずめた。
 波がまた襲ってくるかのように、翔子の息も絶え絶えになり膝がが震えてきている。

「ああ、あ、またきちゃう」
 ジワーとあふれてきた蜜をすすると、洋介は服を脱いだ。翔子の上半身も裸にし、しばしそのエロティックな肢体を眺める。

「いや、何を見ているの?」
「うん、キレイだなと思って。焦れちゃう?」
「いじわるいわないで」

 恥じらう顔を見つめながら、ペニスを挿入した。挿れた瞬間狂おしいまでに飲み込まれ、抜こうとすると全力でしがみついてくる。膣に搾り取られる快感に洋介の意識は宙に放り出される。しっとりと魂に寄り添ってくるもうひとつの魂。時空の歪みを感じるのは、前世を思い出させるためのものだったのかもしれない。

「翔子、好き。ああ、最高だ」
 果てながら力強く抱きしめ、ドクドクとあふれる精子の感触に心が満たされていくのを感じた。
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