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「友人と来ているので、確認してみます」
菜穂が立ち上がると、柏木は軽く手を上げた。
「榛名ぁ。あそこのおじさんが飲みに行かないかって言ってるんだけど。いろいろな業界の話教えてくれるって。どうする」
榛名は最初チラリと目をやったかと思うとガン見しはじめた。
「ちょ、ちょっと榛名ぁ」
「イケオジじゃん。いいんじゃない。行こ!」
あっけなく決まる。交流会は途中退場だ。
榛名は動物的な嗅覚で未来を切り開いていく。失敗することもあるだろうが、それでくよくよすることもない。直感に従って、何事も「ピンク」かどうかで決めていく。菜穂のようにグダグダ考えるタイプとは真逆の存在だ。熟慮の末到達した菜穂の結論と、ひらめきの榛名の結論はほぼ同じ。思考のショートカットが絶妙にうまい。
会場の近くの縄のれんをくぐると、「らっしゃーい!」という威勢のいい声が出迎えた。ちょっとディープな居酒屋。学生はおらずサラリーマンがひしめいている。
おしぼりで手を拭き、適当に飲み物とつまみを頼む。お通しはさつま揚げとコンニャクのピリ辛煮。
「で、今日の成果をお聞かせ願えるかな」
「はい、ファッションブランドN社がいいなと思いました。インターンも募集しているということなので、後で正式にエントリーしようと思ってます」
「ああ、あそこね。風通しのいい会社だと聞いてるよ」
「榛名、すご。もうそんなに進んでんの」
菜穂はあせりを覚える。
「そういう菜穂だって、外資系のファンド会社に興味持ってたじゃん。エントリーしてみれば」
「ほう、外資系ね。何が響いたの」
「えっ、名刺をくださった方がとてもステキで、憧れちゃったんです」
「いいんじゃないか。とりあえず進めたら。合わないと思ったら、即退場すればいいんだから。俺のかつての志望動機より立派だよ。もっとも志望動機にはそう書かない方がいいけどね」
「さすがにそれくらいの常識はありますよぉ」
「もしOGとかで、人材紹介会社や派遣会社の人がいればあたって見るといいよ。あの業界はすべての会社が対象だから、業界どころか会社の内情までよく知ってるはずだ。そうだな、その会社に就職する気がないわけだから、就活で紹介予定派遣も考えているとか、適当にいって話を聞くといいね」
「さすが、年の功ですね。だてに年食ってない!」
榛名!さすがにわたしだってそこまで言わない。
「やれやれ、ショックだな。まあ、俺は明日会社の部下に『女子大生と昨日飲んだ』って自慢するけど。おじさんじゃなくてイケオジ扱いされたということにしておいていいかな」
それから柏木は広告代理店時代の話や現在仕事を請け負ってる会社の話をいろいろとしてくれた。もちろん守秘義務に触れるような裏話はなかったが、リアルな会社の情報は今後の就職活動におおいに役立ちそうだ。
21時頃にはお開きとなり、3人で帰途についた。榛名と別れ、菜穂は柏木と同じ地下鉄のホームに立った。
「今日はありがとうございました」
「どういたしまして、おじさんも久しぶりに若い子と話して若返った気分だよ。まだ話したりないくらいだ」
柏木が流し目をくれる。イケオジの色気にドキッとした。落ち着いていて包容力のある感じ。これに比べると藤枝先生はまだまだやんちゃな感じがするかも。
「柏木さんはいい感じに年を重ねているんですね」
「おお、いいね。明日の自慢がこれでまたひとつ増えたな。もうひとつ自慢できるものくれないかな」
「えっ、なんですか。これ以上、何もでてきませんよ」
「もう一軒つきあわないか。もうちょっとお酒を飲みたい気分だ」
どうしよう。こんな時間に男性と二人っきりなんて、雄太が心配するだろうか。
「迷っているのはYESの証拠。さっ行くぞ。大丈夫、取って食ったりしないから」
頭の中は雄太への言い訳でいっぱいだ。言い訳を考えている時点で、本音は行きたいことに気がついた。自分の知らない世界を広げてくれるような、怖いもの見たさのような。
ジャズが流れるほの暗いワインバーに入った。ボックス席なのに、柏木は菜穂の隣りに座った。菜穂の戸惑った顔を意に介さず、メニュー表を開く。
「どんなのがいい。俺はすっきりしたのがいいから、ソーヴィニヨン・ブランにしようかな」
「あ、わたしもそれでいいです」
ワインの種類なんてよくわからない。ここは任せちゃえ。
ブラックのエプロンをキリリと巻いたボーイがオーダーをとっていく。
「今日はいい日だな。菜穂ちゃんに出会えたし、異業種交流もたまには悪くないね」
いつの間にか、君島さんから菜穂ちゃんに変ってる。
あ、どうしよう。距離が詰められる。
「柏木さん、イケオジってよく言われます?」
「どうだろうな。今は菜穂ちゃんを口説きたくてしょうがないから、ただのスケベオヤジかもしれない。あ、乾杯!」
グラスを掲げ、ワインに口をつけた。
「そうなんですか。口説くんですか。あの、これ、もう口説かれてるんですか?えっ、そうなんですか」
「困ったな。そんな真顔で訊かれるなんて。素直に口説かれてくれよ。もっともどう口説こうか、さっきから少年のようにドキドキしてるんだけど」
手をつかまれ、心臓に導かれた。菜穂の方がドキドキしてくる。
「ねっ、ドキドキしてるでしょ」
「柏木さんの普段のリズムがわからないので、何ともいえません」
「つれないなぁ」腰に手をまわされた。
お酒のせい?だからこの手を振り払えない?言い訳をまた考えてる。その時点でもう篭絡されているようなものだ。
ノックアウト寸前。
「いいね、そのつんとした顔も。もっといろんな顔が見たいな」
ギュッと抱き寄せられる。腰のあたりがしびれたようになる。
「こんなことされるとは思わなかった」
「一目ぼれなんだ。取って喰いはしないと言っただろう。せいぜい全身にキスをするくらいだ」
耳元でささやかれた。やぱい。喰われそうだ。
「わたし、彼がいるんです」
「気にしないさ。彼がヤクザだったら、ごめんなさいしてすぐ帰るけど」
菜穂はプッと吹き出した。顔を向けると唇が迫ってきた。
軽く触れ「彼氏にはわからないキスマーク。宣戦布告だ」
「もう、やめてください!」
「いいな、彼は。こんな可愛い菜穂ちゃんを独り占めしてるのか。あんなことも、こんなこともしていて」
「彼とわたしはラブラブなんです」
「でも、俺のことも気になる。そうだろう」
腰に伸びた手が背中を官能的に愛撫しはじめた。ゾクゾクっと震え、女の芯が濡れてきた。
「どうしてそう思うんですか」
「だって、菜穂ちゃんは感じている。気づいてないかもしれないけど、瞳がトロンとしてきているよ。チラチラ光って、とってもキレイだ」
「お酒と照明のせいです」
「そういうことにしておいてあげるよ」
首筋もなでられた。ああ、だめだ。落ちそう。いや、もう落ちているのか。
「ホテルに行こう」
「帰ります」
かろうじて残ってる理性が菜穂をおしとどめた。
「残念だな。じゃあ、これを一杯飲んだら帰ろう」
エレベーターで扉が閉まると抱きすくめられた。強引に唇も奪われる。地上に降りると暗がりに連れてかれ、キスをされる。最初は抵抗していた菜穂だが、そのうち力が入らなくなった。
舌先で口内をすみずみまで探索され、菜穂はされるがまま。
「まだその気にならない?」
「展開が早すぎます」
「今日このまま帰したら次はないと思うからさ。俺も必死なんだ」
「ええ?必死といわれても」
「抱きたい。メチャクチャ抱きたい」
通行人がいないのを幸いに、柏木の手が胸をなで回しはじめた。
「あ、あん、だめ、やめて」
「ああ、いい声だ。まだその気にならない。もう濡れてるだろう。欲しくならない」
「ああ、だめ、お願い」
菜穂は抵抗する。最後の力を振り絞って突き放した。
「だめか。じゃあ、ひとつ聞く。彼がいなかったら俺に抱かれた?」
「たぶん」菜穂はコクンと頷く。
「じゃあ、俺に抱かれたいってことだよね。お互い求めあっているのに、どうしてひとつになれないんだろう。俺のはカチカチに勃ってるし、キミは濡れて、受け入れる準備ができている。もう、セックスするの一択だろう。もっと自分に素直になってもいいんじゃないの。後悔させないから、俺に委ねてくれよ」
菜穂は無言をつらぬく。柏木は嫌いじゃない。なし崩し的にこうなってしまったが、どこかで抱かれてもいいと思っている。
雄太がいるのに。
「触られたから。柏木さんに触られたら気持ちよかったの。身体が反応したの」
「だったらなおさら。今夜帰したくないなぁ」
今日会ったばかりの人に性欲をかきたてられることがあるんだ。自分の知らない一面。肉体の悦びに蹂躙されようとする理性。
これ、これが男の煩悩の正体?
セックスしたい。身体は痛切に訴えている。が、しかし、体内で暴れるそんな欲望はとうてい受け入れられない。
雄太に悪いから?ちがう。一夜のアバンチュールでいいと思うほど、この男に惹かれてないんだ。
頬を両手ではさまれ、額にキスされた。「ほら、身体は拒否してないよ」
何かを言おうとした口に舌が滑り込んでくる。きっともう少しで落ちると思ってんだろうな。柏木の口は執拗に舌を吸ってくる。背中に回った手はカットソーの下に滑り込み、素肌を丹念に刺激する。
「ああ、若い身体はいいね。肌にハリがあるよ。きっとシミ一つなくてキレイなんだろうな。なあ、俺に抱かれちまいなよ。たっぷり可愛がってやるから」
柏木は背骨に沿ってスッと指を走らせた。菜穂は今にも崩れ落ちそうだ。
どうする菜穂。流される??
菜穂が立ち上がると、柏木は軽く手を上げた。
「榛名ぁ。あそこのおじさんが飲みに行かないかって言ってるんだけど。いろいろな業界の話教えてくれるって。どうする」
榛名は最初チラリと目をやったかと思うとガン見しはじめた。
「ちょ、ちょっと榛名ぁ」
「イケオジじゃん。いいんじゃない。行こ!」
あっけなく決まる。交流会は途中退場だ。
榛名は動物的な嗅覚で未来を切り開いていく。失敗することもあるだろうが、それでくよくよすることもない。直感に従って、何事も「ピンク」かどうかで決めていく。菜穂のようにグダグダ考えるタイプとは真逆の存在だ。熟慮の末到達した菜穂の結論と、ひらめきの榛名の結論はほぼ同じ。思考のショートカットが絶妙にうまい。
会場の近くの縄のれんをくぐると、「らっしゃーい!」という威勢のいい声が出迎えた。ちょっとディープな居酒屋。学生はおらずサラリーマンがひしめいている。
おしぼりで手を拭き、適当に飲み物とつまみを頼む。お通しはさつま揚げとコンニャクのピリ辛煮。
「で、今日の成果をお聞かせ願えるかな」
「はい、ファッションブランドN社がいいなと思いました。インターンも募集しているということなので、後で正式にエントリーしようと思ってます」
「ああ、あそこね。風通しのいい会社だと聞いてるよ」
「榛名、すご。もうそんなに進んでんの」
菜穂はあせりを覚える。
「そういう菜穂だって、外資系のファンド会社に興味持ってたじゃん。エントリーしてみれば」
「ほう、外資系ね。何が響いたの」
「えっ、名刺をくださった方がとてもステキで、憧れちゃったんです」
「いいんじゃないか。とりあえず進めたら。合わないと思ったら、即退場すればいいんだから。俺のかつての志望動機より立派だよ。もっとも志望動機にはそう書かない方がいいけどね」
「さすがにそれくらいの常識はありますよぉ」
「もしOGとかで、人材紹介会社や派遣会社の人がいればあたって見るといいよ。あの業界はすべての会社が対象だから、業界どころか会社の内情までよく知ってるはずだ。そうだな、その会社に就職する気がないわけだから、就活で紹介予定派遣も考えているとか、適当にいって話を聞くといいね」
「さすが、年の功ですね。だてに年食ってない!」
榛名!さすがにわたしだってそこまで言わない。
「やれやれ、ショックだな。まあ、俺は明日会社の部下に『女子大生と昨日飲んだ』って自慢するけど。おじさんじゃなくてイケオジ扱いされたということにしておいていいかな」
それから柏木は広告代理店時代の話や現在仕事を請け負ってる会社の話をいろいろとしてくれた。もちろん守秘義務に触れるような裏話はなかったが、リアルな会社の情報は今後の就職活動におおいに役立ちそうだ。
21時頃にはお開きとなり、3人で帰途についた。榛名と別れ、菜穂は柏木と同じ地下鉄のホームに立った。
「今日はありがとうございました」
「どういたしまして、おじさんも久しぶりに若い子と話して若返った気分だよ。まだ話したりないくらいだ」
柏木が流し目をくれる。イケオジの色気にドキッとした。落ち着いていて包容力のある感じ。これに比べると藤枝先生はまだまだやんちゃな感じがするかも。
「柏木さんはいい感じに年を重ねているんですね」
「おお、いいね。明日の自慢がこれでまたひとつ増えたな。もうひとつ自慢できるものくれないかな」
「えっ、なんですか。これ以上、何もでてきませんよ」
「もう一軒つきあわないか。もうちょっとお酒を飲みたい気分だ」
どうしよう。こんな時間に男性と二人っきりなんて、雄太が心配するだろうか。
「迷っているのはYESの証拠。さっ行くぞ。大丈夫、取って食ったりしないから」
頭の中は雄太への言い訳でいっぱいだ。言い訳を考えている時点で、本音は行きたいことに気がついた。自分の知らない世界を広げてくれるような、怖いもの見たさのような。
ジャズが流れるほの暗いワインバーに入った。ボックス席なのに、柏木は菜穂の隣りに座った。菜穂の戸惑った顔を意に介さず、メニュー表を開く。
「どんなのがいい。俺はすっきりしたのがいいから、ソーヴィニヨン・ブランにしようかな」
「あ、わたしもそれでいいです」
ワインの種類なんてよくわからない。ここは任せちゃえ。
ブラックのエプロンをキリリと巻いたボーイがオーダーをとっていく。
「今日はいい日だな。菜穂ちゃんに出会えたし、異業種交流もたまには悪くないね」
いつの間にか、君島さんから菜穂ちゃんに変ってる。
あ、どうしよう。距離が詰められる。
「柏木さん、イケオジってよく言われます?」
「どうだろうな。今は菜穂ちゃんを口説きたくてしょうがないから、ただのスケベオヤジかもしれない。あ、乾杯!」
グラスを掲げ、ワインに口をつけた。
「そうなんですか。口説くんですか。あの、これ、もう口説かれてるんですか?えっ、そうなんですか」
「困ったな。そんな真顔で訊かれるなんて。素直に口説かれてくれよ。もっともどう口説こうか、さっきから少年のようにドキドキしてるんだけど」
手をつかまれ、心臓に導かれた。菜穂の方がドキドキしてくる。
「ねっ、ドキドキしてるでしょ」
「柏木さんの普段のリズムがわからないので、何ともいえません」
「つれないなぁ」腰に手をまわされた。
お酒のせい?だからこの手を振り払えない?言い訳をまた考えてる。その時点でもう篭絡されているようなものだ。
ノックアウト寸前。
「いいね、そのつんとした顔も。もっといろんな顔が見たいな」
ギュッと抱き寄せられる。腰のあたりがしびれたようになる。
「こんなことされるとは思わなかった」
「一目ぼれなんだ。取って喰いはしないと言っただろう。せいぜい全身にキスをするくらいだ」
耳元でささやかれた。やぱい。喰われそうだ。
「わたし、彼がいるんです」
「気にしないさ。彼がヤクザだったら、ごめんなさいしてすぐ帰るけど」
菜穂はプッと吹き出した。顔を向けると唇が迫ってきた。
軽く触れ「彼氏にはわからないキスマーク。宣戦布告だ」
「もう、やめてください!」
「いいな、彼は。こんな可愛い菜穂ちゃんを独り占めしてるのか。あんなことも、こんなこともしていて」
「彼とわたしはラブラブなんです」
「でも、俺のことも気になる。そうだろう」
腰に伸びた手が背中を官能的に愛撫しはじめた。ゾクゾクっと震え、女の芯が濡れてきた。
「どうしてそう思うんですか」
「だって、菜穂ちゃんは感じている。気づいてないかもしれないけど、瞳がトロンとしてきているよ。チラチラ光って、とってもキレイだ」
「お酒と照明のせいです」
「そういうことにしておいてあげるよ」
首筋もなでられた。ああ、だめだ。落ちそう。いや、もう落ちているのか。
「ホテルに行こう」
「帰ります」
かろうじて残ってる理性が菜穂をおしとどめた。
「残念だな。じゃあ、これを一杯飲んだら帰ろう」
エレベーターで扉が閉まると抱きすくめられた。強引に唇も奪われる。地上に降りると暗がりに連れてかれ、キスをされる。最初は抵抗していた菜穂だが、そのうち力が入らなくなった。
舌先で口内をすみずみまで探索され、菜穂はされるがまま。
「まだその気にならない?」
「展開が早すぎます」
「今日このまま帰したら次はないと思うからさ。俺も必死なんだ」
「ええ?必死といわれても」
「抱きたい。メチャクチャ抱きたい」
通行人がいないのを幸いに、柏木の手が胸をなで回しはじめた。
「あ、あん、だめ、やめて」
「ああ、いい声だ。まだその気にならない。もう濡れてるだろう。欲しくならない」
「ああ、だめ、お願い」
菜穂は抵抗する。最後の力を振り絞って突き放した。
「だめか。じゃあ、ひとつ聞く。彼がいなかったら俺に抱かれた?」
「たぶん」菜穂はコクンと頷く。
「じゃあ、俺に抱かれたいってことだよね。お互い求めあっているのに、どうしてひとつになれないんだろう。俺のはカチカチに勃ってるし、キミは濡れて、受け入れる準備ができている。もう、セックスするの一択だろう。もっと自分に素直になってもいいんじゃないの。後悔させないから、俺に委ねてくれよ」
菜穂は無言をつらぬく。柏木は嫌いじゃない。なし崩し的にこうなってしまったが、どこかで抱かれてもいいと思っている。
雄太がいるのに。
「触られたから。柏木さんに触られたら気持ちよかったの。身体が反応したの」
「だったらなおさら。今夜帰したくないなぁ」
今日会ったばかりの人に性欲をかきたてられることがあるんだ。自分の知らない一面。肉体の悦びに蹂躙されようとする理性。
これ、これが男の煩悩の正体?
セックスしたい。身体は痛切に訴えている。が、しかし、体内で暴れるそんな欲望はとうてい受け入れられない。
雄太に悪いから?ちがう。一夜のアバンチュールでいいと思うほど、この男に惹かれてないんだ。
頬を両手ではさまれ、額にキスされた。「ほら、身体は拒否してないよ」
何かを言おうとした口に舌が滑り込んでくる。きっともう少しで落ちると思ってんだろうな。柏木の口は執拗に舌を吸ってくる。背中に回った手はカットソーの下に滑り込み、素肌を丹念に刺激する。
「ああ、若い身体はいいね。肌にハリがあるよ。きっとシミ一つなくてキレイなんだろうな。なあ、俺に抱かれちまいなよ。たっぷり可愛がってやるから」
柏木は背骨に沿ってスッと指を走らせた。菜穂は今にも崩れ落ちそうだ。
どうする菜穂。流される??
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