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正門から校舎まで植えられたイチョウが黄色に染まり、秋の終わりを告げていた。
時雨のような優しい雨が降っていた日、菜穂は傘をたたんで雨の中を歩いていた。何もかもがにじんで、絶対にあるであろう境界線をぼかす。溶けあうような景色はモネの水彩画のようで、いつまでも見飽きない。
皆傘をさしているが、菜穂はフード付きのダウンジャケットだ。人通りを避けてイチョウの真下でしばらく見上げていると、他にも仲間がいることに気がついた。その人は透明傘をさしていたが。
校舎に近いイチョウの下、マスタード色のブルゾンをはおり、景色に溶け込んでいる姿はまるで一葉の写真。だが、風景と一体になりながらも、目を惹きつけるような存在感。
ふっとその視線が流れ、こちらを向いたような気がした。菜穂は正門に近いイチョウだったから、距離は意外とある。微笑まれたような気がして、菜穂も笑顔で応えた。
とたんに周囲の喧騒が消え、色彩が濃くなったような錯覚にとらわれた。この世に二人きり、濃密な時間を共有している。そのことが、何だか嬉しかった。
大学1年の晩秋。藤枝伸を意識した瞬間だった。
倫理学の准教授。見た目の爽やかさとわかりやすいやや砕けた講義で、生徒の人気を集めている。必修科目の倫理学概論は受講する人が多く、大講義室である。
最前列の席はファンが陣取り、菜穂はすり鉢状になっている中段くらいの場所が定位置となっていた。
教壇を見下ろす感じは映画館の座席みたいで現実感がなく、タブレットで見るTiktokのようだった。
その先生に昨日抱かれたなんて、思い出しただけで顔が熱くなってしまう。
うん、これは寝不足のせい。ぜったい寝不足のせい。2回戦どころか、朝も激しく抱かれたせいじゃない。
「ヤッホー」
西洋美術史の教室で筆記用具をだしていると、友人の荒井榛名が隣りに腰かけてきた。
グロスはピンク、短めのボブカットはアッシュピンク。バッグももちろんピンク。自称ピンクちゃんである。卒業後はアパレル企業のバックオフィスの仕事が待っている。
本当は学芸員になりたかったらしいが、新規採用の競争率の厳しさに無念のリタイア。
「まあ、見るだけの人でもいいかな」
好きなモノがはっきりしていても、好きなトコに進めない。多くの若者が直面する壁。
もっとも、知らない世界が多すぎて、何が好きか、何に向いてるなんかわからないんだけど。
自分らしさ、自分にしかできないこと、時間は有限だ。後悔しない生き方を選べ。
一見耳障りのよい言葉だが、たかだか成人したばかりの若者にとって、呪縛のようだ。
同時にダブルスタンダードで、ライフプランの充実とか、資格を持てとか、老後の心配をしろとか、社会に貢献しろとか、しっかり生きろとか。
振り返るほどの過去もないのに、まだ社会にもでていないのに、多くの人が折り合いをつけて生きているのに、どうして若者だけに理想を説くのだろう。
それ、自分に言ってくれない?
社会は絶望的で、会社はブラックばかりと負の側面をアピールされても気力をもってかれる。
「希望の持てない社会は~」と言っている人たちは、どうして目の前の社会を改善することに注力しないんだろう。
煽るだけ煽ってさ。国の将来を若者だけに押し付けないで。自分たちができないことをどうしてやらせようとするの。若者の未来に自分の未来を重ねないで。
誰の意見も聞きたくなくなる。聞いたところで混乱するだけ。矛盾するもっともらしい説明にサンドバックされて疲弊する。
言ってる大人がつくった世界でしょ。
自分たちはまだ若すぎて社会を変えていく力がない。自分もいつかそっち側に立って同じことを言うのだろうか。
世間は口数が多すぎる。本気で若者を育成したいなら、暖かく見守りながら、自分たちが規範を示すべきなんじゃないの。未来をつくるのは、今生きてる人間でしょ。若者だけじゃない。
若者以外の人間が袋小路に陥っていて、突破口として若者に頼りたいんだろうけど、その若者の足を引っ張ってどうすんの?
って、こういうのも若者の浅はかな甘えって言うんだろうな。
『頭から入るんじゃなくて、五感をフル活用して、浮かび上がってきた感情に向き合ってみなさい。
きれいなモノ、感動する映画、ふと立ち止まりたくなる街角のきらめき。心地いい音楽。名作のメタファー。出会おうと思えば世界は無限に広がる。
べつに人じゃなくていいんだ。喜怒哀楽の感情とがっぷり取り組みなさい。
ああ、何も感じない人は、しばし自分と向き合ったあと、病院のドアを叩くことを勧めるがな』
教室がどっとわいた。一発目の授業の冒頭で藤枝先生がかけた言葉だ。人生を変える出会いに憧れていた菜穂は、心が軽くなるのを感じた。
世の中には「私を変えた出会い」とか、「親友とは学生時代に知り合った」とか、事実なんだろうが、それがなかったらどうしよう、人生失敗しちゃうの?
相手次第の偶然に人生を委ねらざるを得ないなんて、科学的じゃないよね。
神の見えざる選別試験が始まったようで不安でたまらなかったのだ。
「何ぼさっとしてるの?」
榛名に声をかけられ、講義が終わったことに気づいた。かなり年配の講師がドアを開けて出ていくところだった。
「あ、もう終わったんだ」
「今日はもう授業ないでしょ。少しお茶して帰ろうよ」
いつも行くとこは決まってるが、今日は大学から離れたカフェを提案した。見知った顔がないところがいい。昨日のことを言いたくてたまらない。
二人でカフェラテを注文すると、榛名がニヤニヤしてくる。
「何かあった?」
「えっ、何でそう思うの」
「だって、藤枝先生のこと何も言わないんだもん。それにいつもと違うカフェに行こうなんて、こりゃ、誰かに聞かれたくないんだなって思うわよ」
うっ、そっか。
菜穂は昨夜のことをかいつまんで語った。
うん、うんと聞いていた彼女は聞き終えると、「それピンクだな」といった。
榛名は「ロックだぜ」という意味で「ピンクだな」という。つまり、肯定の最上系の感想ということか。
「うん、でもぉ」
ワンナイトじゃ物足りないけど、このまま安定しないつきあいをして、自分が壊れないだろうか。
傷つくならまだいい。やがて癒えるから。でもぶっ壊れちゃったら「ロックだぜ」なんて言ってられない。消滅の危機だ。
「どこがピンクなのよ」
「だって、ピンクだもん。憧れのスパダリの先生とお近づきになれて、長年の想いがかなって。それって最高!!ピンク以外の何ものでもない」
なぜかドヤ顔をされる。
「そうなんだけど、自分に自信がないっていうかぁ、嫉妬や独占欲でメンヘラになったり、追い詰められてリスカしちゃったらとかぁ、自分が自分でなくなるようなぁ」
「あっ、じゃあ、会う時はいつもワンナイトって思えば」
「はあ、そんなにうまく切り替えられないよ」
「じゃあ、やめれば。青春の1ページとしてもいい思い出になるよ。それもピンクだぜ」
恨みがましい拗ねた顔でカフェラテをすする。榛名のさっぱりした性格は好きだ。堂々巡りの話はアッサリ切り捨てられる。
「って、もう答えでてるんでしょ」
「うん」
いろいろ考えてはみたが、好きが勝る。惚れた方が負けとはこのことか。ベッドではとても大事に扱われたし。
思い出して顔がパッと赤くなった。
「やだなぁ。何思い出してるの」
今朝の目覚めは先生に起こされた。下腹部のうずきにうっすら目を開けると、絶賛クンニングス中の頭が見えた。ゾクゾクした歓喜が全身に広がり、力がどんどん抜ける。と同時に愛液があふれるでるのを感じた。
「起きた?ああ、いいね。昨夜の潤んだ瞳も良かったけど、起き抜けの無防備な顔もいい。ほら、どこが感じるか教えてごらん」
上目遣いに見つめられ、恥ずかしさで思わず顔を隠す。
「ああ、ここはもうこんなにいやらしく濡れている。いけない子だなぁ」
欲望にたぎった目で愛おしそうに愛撫する手はどこまでも優しく、触れた先から溶けていく
「だめだよ。ちゃんと見せて。じゃないと縛っちゃうよ」
縛る?身体がピクンとはねる。
筋肉の緊張を敏感に察した伸は、「ああ、もうしょうがないな。縛るのは次の時ね。顔を隠したいなら目隠ししようか。自分だけ見ているなんてフェアじゃないからさ。さあ、どっちがいい」
右手の中指が入り、かき回された。左手は乳首をつまみ、近づいてきた唇は口を押しあける。
「感じてる顔を見たいんだよ。もっと舐めて欲しいだろ。じゃないともう挿れちゃうよ」
「ああん、いじめないで」
「じゃあ、後ろから舐めてやろう」
身体の向きを変えられ、お尻を突き出す体勢となった。ふるいついてくる艶めかしい唇の感触に蜜はどんどんあふれてくる。
やがて固いものが挿入された。きっちり膣におさまりピストン運動が繰り返されると、菜穂の喘ぎ声がどんどん激しくなる。
「ああ、いい声で鳴くな。たまらないよ」
快楽で逃げそうになる腰をしっかりつかまえられ、奧まで突き上げられた。突かれるたびにメスの野獣と化し、人間を忘れそうになる。
「えっと、激しかった」
「ちょ、菜穂。耳まで真っ赤ぁ」
ピンクじゃないのが惜しいなといって、榛名はケタケタ笑った。
「好きといってくれるし、大事にしてくれるのもわかる。でも、いつか先生に他の女性の影ができたら、わたし、つらいと思う」
「失恋は誰でもつらいよぉ。そん時はいっぱい慰めてあげるから」
「つらいだけならまだいいんだけど、メンタルやられて壊れちゃって、自分がなくなっちゃうかもとか」
「おおお、一世一代の恋??ピンクだぁ」
榛名はそこで斜め上を向く。何か考えている時のクセだ。
「まあ、ヒトの気持ちなんて変わるし。明日菜穂は誰かと恋するかもしれない。蛙化現象でうんざりするかもしれない。あんまり深く考えない方がいいよ。私達ももうすぐ社会人だし。会社勤めが始まったら、傷つかずに自然消滅するかもしれないし」
「あー、それもイヤだぁ」
「ねえ、せっかく親しい関係になれたんだから、前向きに行こうよ。壊れるくらいボロボロになったら、会社辞めてワーホリで好きな国に行けばいいし。恋愛は3年で終わるらしいから、3年間まじめに働いてお金貯めるのもいいんじゃない」
ああ、傷心の若い女が外国でイケメンと恋に落ちる!パリがいいかな。ウイーン、ロンドン?アジアもいいわね。いいな、いいな、映画の世界みたい。
榛名の妄想はとどまるところを知らない。コホッと咳払いをする。
「今から失恋の準備をするのもどうかと思うけど、榛名ありがとう。背中を押してもらえたよ」
ウソを並べ立てて縛ろうとせず、菜穂の選択を尊重しようとしてくれている。そこに誠実さを感じた。
愛されているのは感じる。セックス以外も共有してくれる。約束も何も保証してくれないけれど、それが先生のつきあい方なら、行くとこまでいくしかないか。
それから先は榛名の年下のボーイフレンドの惚気けを、さんざ聞かされた。
時雨のような優しい雨が降っていた日、菜穂は傘をたたんで雨の中を歩いていた。何もかもがにじんで、絶対にあるであろう境界線をぼかす。溶けあうような景色はモネの水彩画のようで、いつまでも見飽きない。
皆傘をさしているが、菜穂はフード付きのダウンジャケットだ。人通りを避けてイチョウの真下でしばらく見上げていると、他にも仲間がいることに気がついた。その人は透明傘をさしていたが。
校舎に近いイチョウの下、マスタード色のブルゾンをはおり、景色に溶け込んでいる姿はまるで一葉の写真。だが、風景と一体になりながらも、目を惹きつけるような存在感。
ふっとその視線が流れ、こちらを向いたような気がした。菜穂は正門に近いイチョウだったから、距離は意外とある。微笑まれたような気がして、菜穂も笑顔で応えた。
とたんに周囲の喧騒が消え、色彩が濃くなったような錯覚にとらわれた。この世に二人きり、濃密な時間を共有している。そのことが、何だか嬉しかった。
大学1年の晩秋。藤枝伸を意識した瞬間だった。
倫理学の准教授。見た目の爽やかさとわかりやすいやや砕けた講義で、生徒の人気を集めている。必修科目の倫理学概論は受講する人が多く、大講義室である。
最前列の席はファンが陣取り、菜穂はすり鉢状になっている中段くらいの場所が定位置となっていた。
教壇を見下ろす感じは映画館の座席みたいで現実感がなく、タブレットで見るTiktokのようだった。
その先生に昨日抱かれたなんて、思い出しただけで顔が熱くなってしまう。
うん、これは寝不足のせい。ぜったい寝不足のせい。2回戦どころか、朝も激しく抱かれたせいじゃない。
「ヤッホー」
西洋美術史の教室で筆記用具をだしていると、友人の荒井榛名が隣りに腰かけてきた。
グロスはピンク、短めのボブカットはアッシュピンク。バッグももちろんピンク。自称ピンクちゃんである。卒業後はアパレル企業のバックオフィスの仕事が待っている。
本当は学芸員になりたかったらしいが、新規採用の競争率の厳しさに無念のリタイア。
「まあ、見るだけの人でもいいかな」
好きなモノがはっきりしていても、好きなトコに進めない。多くの若者が直面する壁。
もっとも、知らない世界が多すぎて、何が好きか、何に向いてるなんかわからないんだけど。
自分らしさ、自分にしかできないこと、時間は有限だ。後悔しない生き方を選べ。
一見耳障りのよい言葉だが、たかだか成人したばかりの若者にとって、呪縛のようだ。
同時にダブルスタンダードで、ライフプランの充実とか、資格を持てとか、老後の心配をしろとか、社会に貢献しろとか、しっかり生きろとか。
振り返るほどの過去もないのに、まだ社会にもでていないのに、多くの人が折り合いをつけて生きているのに、どうして若者だけに理想を説くのだろう。
それ、自分に言ってくれない?
社会は絶望的で、会社はブラックばかりと負の側面をアピールされても気力をもってかれる。
「希望の持てない社会は~」と言っている人たちは、どうして目の前の社会を改善することに注力しないんだろう。
煽るだけ煽ってさ。国の将来を若者だけに押し付けないで。自分たちができないことをどうしてやらせようとするの。若者の未来に自分の未来を重ねないで。
誰の意見も聞きたくなくなる。聞いたところで混乱するだけ。矛盾するもっともらしい説明にサンドバックされて疲弊する。
言ってる大人がつくった世界でしょ。
自分たちはまだ若すぎて社会を変えていく力がない。自分もいつかそっち側に立って同じことを言うのだろうか。
世間は口数が多すぎる。本気で若者を育成したいなら、暖かく見守りながら、自分たちが規範を示すべきなんじゃないの。未来をつくるのは、今生きてる人間でしょ。若者だけじゃない。
若者以外の人間が袋小路に陥っていて、突破口として若者に頼りたいんだろうけど、その若者の足を引っ張ってどうすんの?
って、こういうのも若者の浅はかな甘えって言うんだろうな。
『頭から入るんじゃなくて、五感をフル活用して、浮かび上がってきた感情に向き合ってみなさい。
きれいなモノ、感動する映画、ふと立ち止まりたくなる街角のきらめき。心地いい音楽。名作のメタファー。出会おうと思えば世界は無限に広がる。
べつに人じゃなくていいんだ。喜怒哀楽の感情とがっぷり取り組みなさい。
ああ、何も感じない人は、しばし自分と向き合ったあと、病院のドアを叩くことを勧めるがな』
教室がどっとわいた。一発目の授業の冒頭で藤枝先生がかけた言葉だ。人生を変える出会いに憧れていた菜穂は、心が軽くなるのを感じた。
世の中には「私を変えた出会い」とか、「親友とは学生時代に知り合った」とか、事実なんだろうが、それがなかったらどうしよう、人生失敗しちゃうの?
相手次第の偶然に人生を委ねらざるを得ないなんて、科学的じゃないよね。
神の見えざる選別試験が始まったようで不安でたまらなかったのだ。
「何ぼさっとしてるの?」
榛名に声をかけられ、講義が終わったことに気づいた。かなり年配の講師がドアを開けて出ていくところだった。
「あ、もう終わったんだ」
「今日はもう授業ないでしょ。少しお茶して帰ろうよ」
いつも行くとこは決まってるが、今日は大学から離れたカフェを提案した。見知った顔がないところがいい。昨日のことを言いたくてたまらない。
二人でカフェラテを注文すると、榛名がニヤニヤしてくる。
「何かあった?」
「えっ、何でそう思うの」
「だって、藤枝先生のこと何も言わないんだもん。それにいつもと違うカフェに行こうなんて、こりゃ、誰かに聞かれたくないんだなって思うわよ」
うっ、そっか。
菜穂は昨夜のことをかいつまんで語った。
うん、うんと聞いていた彼女は聞き終えると、「それピンクだな」といった。
榛名は「ロックだぜ」という意味で「ピンクだな」という。つまり、肯定の最上系の感想ということか。
「うん、でもぉ」
ワンナイトじゃ物足りないけど、このまま安定しないつきあいをして、自分が壊れないだろうか。
傷つくならまだいい。やがて癒えるから。でもぶっ壊れちゃったら「ロックだぜ」なんて言ってられない。消滅の危機だ。
「どこがピンクなのよ」
「だって、ピンクだもん。憧れのスパダリの先生とお近づきになれて、長年の想いがかなって。それって最高!!ピンク以外の何ものでもない」
なぜかドヤ顔をされる。
「そうなんだけど、自分に自信がないっていうかぁ、嫉妬や独占欲でメンヘラになったり、追い詰められてリスカしちゃったらとかぁ、自分が自分でなくなるようなぁ」
「あっ、じゃあ、会う時はいつもワンナイトって思えば」
「はあ、そんなにうまく切り替えられないよ」
「じゃあ、やめれば。青春の1ページとしてもいい思い出になるよ。それもピンクだぜ」
恨みがましい拗ねた顔でカフェラテをすする。榛名のさっぱりした性格は好きだ。堂々巡りの話はアッサリ切り捨てられる。
「って、もう答えでてるんでしょ」
「うん」
いろいろ考えてはみたが、好きが勝る。惚れた方が負けとはこのことか。ベッドではとても大事に扱われたし。
思い出して顔がパッと赤くなった。
「やだなぁ。何思い出してるの」
今朝の目覚めは先生に起こされた。下腹部のうずきにうっすら目を開けると、絶賛クンニングス中の頭が見えた。ゾクゾクした歓喜が全身に広がり、力がどんどん抜ける。と同時に愛液があふれるでるのを感じた。
「起きた?ああ、いいね。昨夜の潤んだ瞳も良かったけど、起き抜けの無防備な顔もいい。ほら、どこが感じるか教えてごらん」
上目遣いに見つめられ、恥ずかしさで思わず顔を隠す。
「ああ、ここはもうこんなにいやらしく濡れている。いけない子だなぁ」
欲望にたぎった目で愛おしそうに愛撫する手はどこまでも優しく、触れた先から溶けていく
「だめだよ。ちゃんと見せて。じゃないと縛っちゃうよ」
縛る?身体がピクンとはねる。
筋肉の緊張を敏感に察した伸は、「ああ、もうしょうがないな。縛るのは次の時ね。顔を隠したいなら目隠ししようか。自分だけ見ているなんてフェアじゃないからさ。さあ、どっちがいい」
右手の中指が入り、かき回された。左手は乳首をつまみ、近づいてきた唇は口を押しあける。
「感じてる顔を見たいんだよ。もっと舐めて欲しいだろ。じゃないともう挿れちゃうよ」
「ああん、いじめないで」
「じゃあ、後ろから舐めてやろう」
身体の向きを変えられ、お尻を突き出す体勢となった。ふるいついてくる艶めかしい唇の感触に蜜はどんどんあふれてくる。
やがて固いものが挿入された。きっちり膣におさまりピストン運動が繰り返されると、菜穂の喘ぎ声がどんどん激しくなる。
「ああ、いい声で鳴くな。たまらないよ」
快楽で逃げそうになる腰をしっかりつかまえられ、奧まで突き上げられた。突かれるたびにメスの野獣と化し、人間を忘れそうになる。
「えっと、激しかった」
「ちょ、菜穂。耳まで真っ赤ぁ」
ピンクじゃないのが惜しいなといって、榛名はケタケタ笑った。
「好きといってくれるし、大事にしてくれるのもわかる。でも、いつか先生に他の女性の影ができたら、わたし、つらいと思う」
「失恋は誰でもつらいよぉ。そん時はいっぱい慰めてあげるから」
「つらいだけならまだいいんだけど、メンタルやられて壊れちゃって、自分がなくなっちゃうかもとか」
「おおお、一世一代の恋??ピンクだぁ」
榛名はそこで斜め上を向く。何か考えている時のクセだ。
「まあ、ヒトの気持ちなんて変わるし。明日菜穂は誰かと恋するかもしれない。蛙化現象でうんざりするかもしれない。あんまり深く考えない方がいいよ。私達ももうすぐ社会人だし。会社勤めが始まったら、傷つかずに自然消滅するかもしれないし」
「あー、それもイヤだぁ」
「ねえ、せっかく親しい関係になれたんだから、前向きに行こうよ。壊れるくらいボロボロになったら、会社辞めてワーホリで好きな国に行けばいいし。恋愛は3年で終わるらしいから、3年間まじめに働いてお金貯めるのもいいんじゃない」
ああ、傷心の若い女が外国でイケメンと恋に落ちる!パリがいいかな。ウイーン、ロンドン?アジアもいいわね。いいな、いいな、映画の世界みたい。
榛名の妄想はとどまるところを知らない。コホッと咳払いをする。
「今から失恋の準備をするのもどうかと思うけど、榛名ありがとう。背中を押してもらえたよ」
ウソを並べ立てて縛ろうとせず、菜穂の選択を尊重しようとしてくれている。そこに誠実さを感じた。
愛されているのは感じる。セックス以外も共有してくれる。約束も何も保証してくれないけれど、それが先生のつきあい方なら、行くとこまでいくしかないか。
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