眠たい眠たい、眠たい夜は

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※38.陽、目覚める

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 いって、と耳に吹き込まれる。その声に突き飛ばされるように達した。

 筋の張った首にぎゅうとしがみつきながら解放の空白に耐え、やがて腕から力を抜いてベッドに身を預ける。
 犬のように口を開けて呼吸しながら見上げた水岡は、ほんのり明るい部屋のなかで、迷うようにじっと陽を見おろしていた。

「しないの?」
「したいです。けど」

 いきなりは負担が、とか、痛みが、なんでぶつぶつつぶやく口をふさぐ体力はなかったので、陽は寝転んだまま両腕をひろげた。
 不思議そうにかぶさってくるその顔をはさむように手をあて、笑う。

「俺はしてほしいよ」

 かさついた頬を親指で撫でながら、そろりと膝を持ち上げる。
 傷つけないようにそっと、水岡の股の間で兆しているものを膝で擦り上げれば、整った眉がぐっと寄った。

「……たちが悪い」
「へへ」

 ぐっと大きな身体をのばし、十分に買い込んだローションの封を切る。ひたとあてられた指の冷たさに一瞬心臓がすくんだけれど、すぐに熱に馴染んでわからなくなる。
 もちろんそこを使った経験などなくて、だから心の準備はできていても、身体の素直な反応はどうしようもなかった。
 こわばる肉をなだめるように、水岡はじれったいほど時間をかけて指を入れてはゆっくりと動かす。

「つらい?」
「っ、わかんな……っ」

 本音を言えば脂汗が出るほど気持ち悪かったけれど、止めたくない気持ちのほうが大きかった。
 必死で呼吸を整えていると、苦いコーヒーに砂糖を振るように、萎えかけた性器をあやされる。快感と不快感がマーブル模様に交じり合って、緊張と弛緩を繰り返した身体が混乱し始めた瞬間をねらったように、腹の奥でちいさな火花が散った。

「……あ」

 触れられた瞬間、何かのスイッチを入れたように身体の内がぐねぐねと動き出すのがわかった。そこを拓いている水岡にも、もちろん伝わっているだろう。

「ここ、いいですか?」

 ぐ、と指先を曲げるように押し込まれて、陽は悲鳴をあげた。
 こんな気持ちよさは知らない。
 つめたく感じるほどの高熱で神経を締め上げられたような、逃げ場のない快楽。

「や、まって、そこ、変だから」
「でも、中すごいですよ」
「や、あ、ああ……っ」

 あごを、首を、胸を反らす。両腿の間に割り入った水岡にしがみつくことができなくて、深い谷に落ちそうな心細さに、陽はシーツをにぎりしめた。
 気持ちいい。怖い。さみしい。はやく。

「いたくていいから、はやくきて」

 ほろ、とこぼれた生理的な涙を気にする余裕もなかった。きっとひどい顔をしているだろう。
 水岡はぐっと耐えるような険しい顔をしていて、それがひどく遠くに見えた。手の届かないところまで離れてしまったような気がして、急に不安になる。

 離れないで。傍にいて。目をつむっているあいだに、もうどこにも行かないで。

 だから、指とはくらべものにならない熱がねじ込まれたときも、痛みより安堵が勝った。

「あ、あ……」
「きつ……」

 額に汗を浮かべ、じれったいほどゆっくり腰を進める水岡がかわいそうでかわいくて愛おしくて、陽はできる限り深く息を吸い、普段意識していない筋肉をゆるめようと努力した。
 なのに、水岡がふいに身体を曲げて胸に吸い付いてきたりするから、つかみかけた身体の手綱を取り落としてしまう。

「ん……ふ、んん」

 分厚い舌で押し付けるように乳首をねぶられ、とんでもない声が出そうで慌てて口を押さえた。とがめるように歯でこすられる。
 火であぶられるような性感はそのまま腹をくだって下腹部に溜まり続け、いつの間にか萎えていた性器がしなり始めていた。そのことに気づいたらしい水岡が、胸の頂を吸い上げるのと同時に陽の熱を擦り上げるものだからたまらない。
 ようやく全長がはいったころには、二人とも汗だくになっていた。
 大仕事を終えたようなため息が重なって、思わず顔を見合わせる。おかしくて笑うと、きゅっと中の熱を締め付けてしまって、つながった所から甘い痺れが広がるから困った。

「っ、笑わないでくださいよ」
「ごめん、だってさ」
「出ちゃったらどうするんですか」

 ふー、と慎重に息を吐く水岡がかわいくてたまらない。陽はだるい両足を動かして、股の間に押し付けられた腰を抱き込む。

「何度でも出してよ」

 どちらかが、あるいは両方が音を上げて眠るまで。何度でも、二人で。もしかしたら、眠りに落ちた夢の先でも。
 引いては寄せる熱を、同じだけの熱で受け止める。
 くらくらするほど果てのない交歓を繰り返していよう。
 そうして夜を乗り越えて、一緒に朝を迎えたい。
 何度でも。



 半透明のベールが滑り落ちるように目が覚めた。
 遮光カーテンの縁が淡く白く光っている。
 サラサラのシーツのつめたさと、しっとりと熱をもつ人肌の感触。
 同じ速度で脈打つ鼓動は、まだ眠りの向こうにある。そのことにほっとする。長い夜は去って、昼が始まる。それを少しだけ残念に思えることが、うれしい。

 ちいさく震えるまぶたが開く瞬間を待っている。
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