眠たい眠たい、眠たい夜は

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※37.陽、落ちる

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 天気予報みたいな口調で淡々と言うからつい反応が遅れて、その隙にキスされてしまった。降り始めの雪がふわっとくっつくみたな、軽いやつ。

 わあ、うれしいときも心臓って止まるんだな、と思った。

 さっきまであんなにバクバクしていたのに、いまは雪の降る夜みたいにしんと静まり返っている。よく女の子がアイドル見て死んじゃうとかきゃーきゃー言ってるけど、本当だ。

 陽の反応の無さを拒否されていないと捉えたのか、もう一度重なってきたくちびるに、下唇をそっと食まれる。思わず首を傾けて、より近づけるように角度を合わせると、ぺろりと舌でなめられた。
 熱く熟れた感触に、反射的に口を開く。忍んできた舌は同じ熱をもつ陽の舌にたどりつくと、溶けあいたいとでも言うように熱心に絡んでくる。

 水岡さんと、ちゅーしてる。

 羞恥と、同じだけの確かな歓喜に思わず目をつむると、服の裾からすべり込んできた手のひらに背中を撫で上げられて、背がしなった。

「ん……っ!」

 鼻にかかった喘ぎに、ギアを一段上げたように水岡の舌が激しく動く。その合間にも身体をさぐる手は止まらない。
 わきの下から腕へ手を入れられ、カットソーを脱がされると、暖房を入れていても防げない夜のつめたさに鳥肌が立つ。そのひとつひとつをなだめるように熱い手で撫でまわされて、陽はたまらず目の前の身体にしがみついた。

「ちょっと、まって。電気」

 襟足の髪を引っ張って訴えると、しぶしぶといったていで水岡が手を止める。

「全部消すのは無理です」
「別に見えなくてもいいでしょ」
「嫌だ」
「最初からハードルが高すぎる!」
「おれだって怖いんです」

 水岡は苦しそうに目を細めた。そこにちゃんと欲があることに安心して、どきどきする。

「男の人とするのは始めてだし、だからって一方的になりたくない」

 そんなことを言われてしまったら、もう何も言えないじゃないか。
 結局、ヘッドボードの一番端っこに、画面を暗く灯したスマホを置くことで手を打った。顔の陰影で表情は何となくわかるけれど、色や足先は見えない程度の照明。

「俺、まくらかぶってていい?」

 潔く服を脱ぎ捨てていく水岡の裸体にいたたまれなくって弱音を吐くと、「変なクセがつきそうなのでダメです」とにべもない。

「人を変態みたいに」
「ちがいますよ。おれが」

「へ?」と言ってる間にのしかかられて、何のためらいもなく下着ごとズボンを取り払われたから、変な声をあげてしまった。

「なになになに」
「そういうかわいいのはまた今度にしてください」

 そういう、にも、かわいいの、にもまったく心当たりがなかったけれど、また今度、の言葉にちょっとうれしくなってしまって、ほんのりほどけた身体のゆるみを狙ったかのように、性器をまっすぐに擦り上げられる。

「ああ、あっ」

 三か月を一瞬で飛び越え、たった一度の快楽を思い出した身体はあっという間に熱を上げ、陽がとまどうほどだった。

「や、まって、はやい」
「まてない」

 痛まないギリギリの強さで指をそろえて擦り上げられれば、先端の穴から甘い蜜を流しこまれたように下腹に重いうずきが溜まっていく。大きくて硬い手で擦り上げられるたびに、粘度を増していく水音。いたたまれないのと同じくらい興奮する。身体を丸めて肩にしがみつくと、応えるように首筋に吸い付かれてまた喘いだ。

 やばい。バカになるくらい、きもちいい。

「は……」

 熱のこもった吐息にうっすらと目を開くと、じっとこちらを見つめる男が荒い息をこぼしている。
 水岡さんも、興奮してる。
 脳からぞくぞくする快感が背骨を伝ってまた脈を太くする。本能のままに背をしならせ、胸をつき出すようにすると、屈みこんだ男がぱくりと胸の先端を咥えるものだから、またないた。

「あっ、や、だめ、それ」

 何とか手を動かして胸の上を這う頭を止めようとするも、尖らせた舌先で粒だった先端を押しつぶされてしまえば、へなへなと力が抜けてしまう。その瞬間を狙ったかのように、性器から離れた濡れた手が浮いた腰の背面に回った。ぐ、と持ち上げられると、同じくらい猛った熱が一番敏感な部分とこすれて、とっさに腰を突き出してしまう。
 熱同士をぎゅ、ぎゅと押し付け合うだけで、目の裏に火花が散るほど気持ちいい。

「あっ、や、だ、これ、止まんな……っ」
「っは」

 笑いを含んだ吐息にすら感じてしまう。いきたい、以外、なにも考えられなくなる。

「あっ、や、ああ、だめ、もう」
「いいですよ」
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