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プロローグ

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 国民たちの怒号や非難、泣き叫ぶ声で広場は埋め尽くされている。しかし、その標的は主に断頭台の前に立つ私ではなく、広場の前列で高らかに笑いをあげているハイド皇太子とその愛人のアンナだった。当の本人たちはそれを気にも留めていない様子だ。何人もの国民が断頭台に乗り上げようとしたり、ハイド皇太子とアンナに何かを投げつけようと試みているようだったが、皇室の騎士によってそれらは全て阻止されていた。

 今日は私、ジュリアの処刑執行日だった。そのために多くの国民がこの広場に集められていた。罪状は身に覚えもない国家反逆罪だ。何よりも国民を愛する私が反逆罪など企むわけがないのに。

 死を目前にしても、恐怖などはなかった。この計画を立てたであろうハイド皇太子とアンナにも憎しみなどはない。ただ、自分の不甲斐なさを悔いていた。

 唯一の心残りはこの国に住む国民だけだ。私の全ての望みは国民が幸福に暮らせること、それだけだった。それが両親の望みでもあった。そのためにどんな犠牲をしても耐えてきたが、どうやらここまでのようだ。処刑人に誘導され、断頭台に頭を載せる。目を覆い、涙する国民たちの姿が見える。生まれた時から皇太子の婚約者として育てられ、国民のために身を捧げてきた。だが、その役目を果たせなかった以上この結果は当然なのかもしれない。

「最後に残したい言葉はあるか、罪人よ」
 ハイド皇太子が軽蔑するような目付きで吐き捨てるように言った。

「まあ、流石ハイド様、こんな極悪人にもお優しいんですね」
 その隣で腕を組むアンナは扇子で口元を隠しながら笑っている。

 私は大きく息を吸い込んだあと、出来るだけ多くの国民に言葉が届くように叫んだ。

「愛する国民たちよ、私はいつまでもあなた方が健やかに暮らせることを......」
 まだ言葉の途中だったのだが、ハイド皇太子が処刑人に合図を送り、刃が落とされた。



「哀れな人間どもだ」
 その様子を眺めながら、ロベルトは呟いた。
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