6 / 18
6.ベッド
しおりを挟む屋敷の裏庭。洗濯ものがある場所だ。
「で、では皆さん……よろしくお願いいたします」
パチパチパチパチ。
なぜかレーモン、ウルク、執事長テット。数十名のメイドたちに拍手が送られる。
(なんでこんな人が集まっているんだ……てか! 屋敷全員いるのか!? ……注目されるのは得意じゃないんだよなぁ……)
大黒鳥(クロオバード)の肉は屋敷に提供した。他のクチバシや鉤爪は冒険者ギルドへ売り、その報酬をウルクは全額くれた。本人曰く、何もしていないからだそうだ。そんなことはないと言ったのだが、聞いてはくれなかった。
羽は一枚ずつ分けて、目の前に山盛りになっている。
「まずは大黒鳥(クロオバード)の羽を【洗濯(ウォッシュ)】していきます」
この前見せた通りのことをやると、質問が飛んで来る。
「アルト様、失礼ですがその工程では、羽の汚れが落ちるだけなのでは?」
「えぇ、その通りです。大黒鳥(クロオバード)は名前の通り羽が黒いですが、実は生まれた頃の羽は真っ白なんですよ」
「真っ白……? そんな話は聞いたことが……」
「昔、大黒鳥(クロオバード)の卵が食べたいと言われましてね……それで巣を見つけたことがあるんです」
「な、なんとまた無茶ぶりな……そんなご主人がいるんですね」
「えぇ、もちろん卵は在ったのですが……赤ちゃんも居ましてね。心が痛んで無理でしたよ、ハハ」
その言葉にメイドたちが潤んだ瞳を見せる。
「アルトさんって優しいのね……」
「辛い話を笑顔で……明るい方よね……」
俺の耳には届かず、口を動かしながら作業を続けた。
「大黒鳥(クロオバード)は真っ白な羽から黒くなる。その理由が気になって調べたら、どうやら汚れで黒くなるらしいんです。汚れた分だけ羽が堅くなるという性質だったみたいです」
「汚れ……? ほう、そんな話は聞いたことがないの」
「大黒鳥(クロオバード)は晴れの日にしか出てきません。それは羽が濡れると汚れが落ちるからなんですよ」
「ほう! なるほど……っ!! そういうことだったのか……!!」
レーモンが驚嘆していた。
他の人物たちも挙ってうなずき、興味深そうに話を聞いてくれる。
「防具にする際は光沢を保つために漆を塗りますよね。それで強度が維持されていますけど……こうして洗うと、ほら、真っ白になるんです」
「「「おぉ……ッ!!」」」
美しいほど白い羽に、みなが声を漏らした。
「さ、触ってもいいですかな?」
「ええ、どうぞ」
「……これはっ!! 柔らかく触り心地も良い……っ! 大黒鳥(クロオバード)の羽がこんな風になるだなんて……っ」
「わ、儂も良いか!」
困り顔で「どうぞ」と答えると、みんなが触りたいと言い出した。
「確かにベッドに使えば王都の最高級……いや、これはそれ以上の代物……凄いですね」
一度掴んだら離さなくなってしまったため、不満が溜まる前に急いで残りの羽も洗うと、ウルクが違和感に気付く。
「……待て、なんだかミントの香りがしないか?」
「確かにするの」
「あっ眠る時に心地が良くなるよう、羽毛たちに染みこませてありますからね」
視線が一気に集まる。
えっ……【洗濯(ウォッシュ)】する時に一緒に匂いを【付与魔法(エンチャント)】しただけだが……ダメだったのかな。
付与魔法については話してはいけないと言われたから黙っていた。
「……アルト様、これをレーモン様のベッドに使うのですか?」
「えぇ……まぁそうですが……」
「「「……」」」
お互いに顔を見せ合い、さっと戻してくる。
ウルクが先陣を切って言う。
「アルト、私のも作ってくれないか?」
「アルト様、わたくし、ぜひともお願いしたいことがあります」
メイドたちも便乗してくる。
「わ、私もです!!」
「アルトさん!! お金はいくらでも出しますから……っ!!」
詰め寄られ、困っているとレーモンがみんなを抑えた。
「待て待て、儂が一番最初じゃ」
レーモンが睨まれる。
ビクッとしながら、苦笑したかと思えば表情が明るくなる。
「大黒鳥(クロオバード)を何体も討伐なんて、アルトの労力が尋常ではない……そうじゃ。これから冒険者ギルドに依頼を出して、大黒鳥(クロオバード)の羽を納品してくれるよう頼んでみる。それでアルトに作ってもらうというのはどうだ?」
「名案ですね、おじい様。それなら負担も減って良いかと」
俺の方へ振り向き。
「アルトくん、君に依頼を出したいのだ。もちろん報酬……王都のベッドよりも良い物だからなぁ……うむ、一個一万ゴールドでどうじゃ?」
「い、一万⁉ 一個でですか⁉」
一万ゴールドなんて、相当な大金だ。
「君と使用人の分も含めて四十万くらいかの」
ここに居る使用人だけでも四十万ゴールド……高給の鉱山採掘の人が、数年は何もせずに暮らせて行けるほどの大金だ。
「それくらいの価値はある! 儂の人を見る目は間違えない。才能ある者にはしっかりとそれ相応の物を与えるのは当然だ!」
俺の心がぼっと熱くなる。
こんなこと、と思っていたことが評価されている。
「アルト、君は自分のことを過小評価しすぎだ。君は十分に凄いんだ」
「……ウルク」
「どうか私たちの力になってくれないか?」
必要とされている。
俺のことを『無能』と呼ぶ人はここにはいない。
「分かりました! 何個でも作りましょう!」
*
夕方になるころにベッドは完成した。それから、夕食を済ませ
レーモンのベッドを部屋に運んだ。
ベッドは羽毛敷きパットにし、腰の負担を減らす設計にした。
「ほほぉ……どれどれ、儂は長いことまともに寝れていないが……」
ベッドに入り込んでいく。
「おほっ! これ凄い……沈んでいくようじゃ……香りもよく、眠れるのぉ……おほっ」
「おじい様……ちょっとその声は……」
「レーモン様……そのお歳で情けない声は……」
「やめい! ……てか、うるさいわ! 眠れぬだろうが!」
俺たちは退出し、ドアのすき間から覗き込むとレーモンは一瞬にして眠りについていた。
その光景に、テットがつぶやく。
「これは世間に知られると大変ですね……」
思わず聞き返す。
「そうなんですか?」
「洗濯もそうでしたが、あなたがやってきた努力は尋常な物ではない……あなたの才能を利用しようとする悪い輩もでて来るでしょう」
そんなに凄いことだという自覚はなかった。
自分の身の振り方は気を付けた方がよいのかもしれない。
「でも、レーモンさんがちゃんと眠れてよかったです!」
「アルト様……」
心優しいアルトの言葉に、テットが涙ぐむ。
「大丈夫だ、テット。アルトは私が守る」
「ウルク様まで……ふふっでは、私はこれで」
テットが執務に戻ると、二人っきりとなった俺とウルク。
言葉が見つからず、俺も部屋に戻ろうとした。
「お、俺も部屋に戻るから……」
「待って」
裾を掴まれる。
「アルト、夜に部屋へ来てくれないか? 大事なことがあるから」
「えっ……」
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~
天秤兎
ファンタジー
突然、何故か異世界でチート能力と不老不死を手に入れてしまったアラフォー38歳独身ライフ満喫中だったサラリーマン 主人公 神代 紫(かみしろ ゆかり)。
現実世界と同様、異世界でも仕事をしなければ生きて行けないのは変わりなく、突然身に付いた自分の能力や異世界文化に戸惑いながら自由きままに転職しながら生活する行き当たりばったりの異世界放浪記です。
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる