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5章 開拓編

103話 魔導ライン

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「さてと、冒険者が早速来たってこと何だけど。……ふむふむ、なるほど確かに強くはなさそうね」

 管理画面には四人組の男女混合のパーティーが映し出されており、絶賛ゴブリンと戦闘中だ。
 剣士二名と魔法職二名の構成で、前衛を剣士二人が前線を抑えつつ敵を切り崩し、後衛の魔法職二人は片方が攻撃魔法主体でもう片方が支援魔法を主に使いサポートに徹している。
 それなりに良くできた戦闘方法だが、いささか魔術師に頼り過ぎな部分が見えるので、この先苦しい戦いになった時その辺を改善すると初心者を卒業だろう。
 ゴブリン五匹を相手取り上手く立ち回っているので、その他の冒険者を観察していくことにする。

 現在ダンジョンには、八パーティーの三十八名が侵入中で、どれも同じ似たような初心者達ばかりだ。
 となると早速ルネス侯爵が何らかの通達を出したに違いない。
 皆同じ同ランク帯というのはどうも不自然な気がする。

 そんな初心者達に紛れて、一番先を行く二人の冒険者だけが他の者達より明らかにランクが高い。
 説明文によるとC級とのことらしいく、どのくらい強いのか判断できないが只今十一階層を散策中。
 魔物と戦闘してドロップ品を集め、珍しいアイテムを採取しており、その無駄のない動きと連携は確かにベテランということを窺いさせる。

「まあ、C級でも最下層まではこれないと思うから一先ずは安心かな。みんな黙々と採取やドロップ品を集めしてるから何かのクエスト的なものでも受けてるのかな?」

 取り敢えずは冒険者の事はほっといて大丈夫だとして、これから街が作られるという事で今後も冒険者が増えると予想される。
 その為、ダンジョンの充実を図っておけば更に冒険者が増え、DPも沢山稼げるだろう。
 そうなれば更なるダンジョンの成長を見込めるし、色々手の込んだ仕掛けや装飾ができる。
 恐らく大都市では初級ダンジョンと伝わっていると思われるので、上層を充実させ初心者に優しく下層に行くにつれて難易度が高い仕様にして行こう。
 ルネス侯爵はあまり目立った動きはして欲しくは無いようだったが、極端にいいアイテムをばら撒かない限りは大丈夫だろう。
 というかそんな高級アイテムを買うDPもないのだから心配するだけ無駄だ。

「当分の間はぼちぼちDPを稼ぎつつ、レアなアイテムを入れたり内装関係をしたりかな。今のところ特に重要な案件は……ないか」

 詳しいことはコア部屋ゆっくり考えるとして、ベッドから立ち上がり最下層までスラリンを連れて転移する。
 大きな魔法陣をが現れると同時に光を放ち、次の瞬間には目の前に見慣れたダンジョンコアことタマちゃんが見えた。

「そういや、タマちゃんに魔導ラインのこと聞きそびれてたなぁー。内装弄りのついでに聞いときますかな」

 コアが浮かぶ祭壇まで歩いて行くとタマちゃんに声を掛けられた。

≪レイ! 何か侵入者が沢山入ってるけど大丈夫なの?≫

 おっとその辺はタマちゃんには話していなかった。
 先ほどの確認した情報を簡単に説明して、今回の冒険者については大丈夫だろうと言っておく。
 スラリンを移動させいつも通りクッションになってもらい、管理画面を操作していく。

「そう言えばさぁー、魔導ラインについてまだ説明がなかったと思うんだけど……今暇だからちゃんと説明してよね」

≪あっ! そうだったね! その話はまだしてないんだった。異界の者を撃退する代わりに話す約束だったもんね。わかったよ≫

 頭上から思い出したように響いてくるタマちゃんの声。
 ダンジョンのお宝を適当なDPで見繕ったナイフや槍、武器や防具、装飾品などといった物をドロップ品としてあちこちばら撒く。
 低品質なアイテムたちは中堅者以降の者達には不満が出そうだが、初心者にぴったりだろう。
 大都市でどのくらいの値段で取引されているかは知らないが、このくらいの品質のアイテムなら大丈夫な奴を選んでいるので問題はないと思うが、これでも騒ぎ出すのであればもう少し考える必要が出てくるだろう。

≪なぜ魔導ラインを急ぐ必要があるのかと、レイは疑問に思っているかもしれないけど、僕達コアにして見ればとても重要で自然な事なんだよ。まさか変なの者が来るとは予想外だったけどね。それで、なぜ急ぐほど重要な事なのかと言えば、ダンジョンを消滅させないように維持させる為というのが大きな理由かな。もともとダンジョン自体この世界にとっては『悪』らしく、詳しい話は僕も分からないんだけど、その所為でこの世界では中々維持するのが難しいの。だから早く安定させる為に急いで魔導ラインを引いているって訳だね≫

「なるほどね。ダンジョンコアにとっての『生存本能』ってわけね、何となくだけど理解はした。でも別に急いで引かなくてもダンジョンマスターであるあたしが居れば問題ないと思うんだけど?」

≪確かに早い段階でダンジョンマスターを見つけられたのは幸運だったけど、なまじ知能があるダンジョンマスターだといつ何をしでかすか分からなくて、コアとしては凄く不安だったんだよね。そもそもダンジョンマスターって言葉を話さないし≫

 遠まわしに知能がある分何をするか分からないから厄介だと思っていたわけだ。
 ということは、始めイベントで大騒ぎしていたタマちゃんはその時から信用していなかったってことなのか。

「確かに信用してなかったとは言いにくい話よね」

≪まぁ……うん、そうだね≫

 取り合えずはタマちゃんに信用してもらえるように考えなくてはいけないようだ。
 そんな風に考えながらも管理画面を淀みなく操作する姿はダンジョンマスターそのものだった。
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