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3章 紛争編

41話 悪魔

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 魔法陣から現れたのは黒く細長い胴体に対の羽根と赤黒い二本の角を頭部に生やした体長3m程の悪魔だった。
 すぐさまローブの者を切り捨てると悪魔まで突っ走り魔剣を躍らせた。
 すれ違いざまに悪魔の左手を魔剣で払うと簡単に切り落とすことができた。
 悪魔は切り落とされた腕を見つめると切り口の部分が蠢き始めそこから手が生えていく。

(ちっ! 再生能力持ちか)

 再び接近すると魔剣を左脇から斜めに切り上げ逆の手を切り飛ばし、返す刀で首を切るつけるが切断には至らなかった。
 一端間合いを取り悪魔の様子を確認する。
 赤い目が此方を捉え見据えると声を発してきた。

「人間の割にはよくやる。私に傷を付けるとはその武器も中々の物と見えるが所詮人間では私達悪魔には勝てんよ」

 以前にも悪魔とは数回戦ったことがありこれらは勿論すべて切り伏せた。
 悪魔には二つのタイプがあり、最も多いのが目の前で行われていた魔法陣を介して悪魔を召喚する方法で、もう一つは人の負の感情から生まれる憑依型の悪魔の二通りが大まかな発生方法だ。
 今回は前者の魔法陣による悪魔の召喚で後者より、より強力な悪魔が出やすい。
 何故なら魔法陣の規模にもよるが召喚する大きさで魔力を込める量が違う為だからだ。
 魔法陣へ魔力を流す者の質や量によって変化する悪魔は憑依型のものより多くの魔力を与えられ召喚される。
 総じてこういう儀式めいた悪魔召喚を用いるのは裏の者と相場が決まっており、大概は強大な悪魔を召喚する為に多くの魔力を込めるので必然的に強力な悪魔が生まれやすくなるというわけだ。

 切り飛ばした悪魔の両手は再生され今度は体をごと此方を向くと右手をかざし魔法を構築し始めた。

「我が問いに応えよ。万物の源、名をリュテン。汝、血と肉を喰らいし魔の者よ、力の本流に染まりし傑物の与えたもう天地の災厄。行使したるは彼の者への『苦痛』煉獄の炎をもってこれを発現し顕現せよ。力を示し我に従いて力を与えたまえ――」

(ちっ生まれたてで魔法まで使うのかこの悪魔は)

 すかさず悪魔へ対抗する為左手を突き出し魔法を行使する。
 今回は素早く且つ威力がある魔法を選ぶ。
 私達が詠唱を始めると周辺で敵ローブ排除していたナイトローズが素早く離脱して行った。

(いい判断だ)

「我が問い掛けに応えるは風の精霊ムルハ。汝、誇り高き気高き王よ、我の願う力を彼の者へ行使するは『暴風』数多風を纏いてこれを発現し顕現せよ――」

 ほぼ同時に魔法が完成し後は魔法の質で勝るしかない。
 体を巡る魔力をありったけ目の前の魔法陣へ流し込む。

『ディマイカ・デル・ディアルフェニス』

『ゼス・ログート・フューネリス』

 同じタイミングで魔法を発言すると、正面から煉獄の炎が押し寄せてくる。
 それに対するのは暴風で巻き上げられた風の渦。

 それぞれ炎の波と風の竜巻が衝突すると凄絶な衝撃波を辺りへ撒き散らす。
 拮抗しているように見えるが次第に竜巻が炎を飲み込んでいく。
 飲み込んだ炎を纏いながら直進すると悪魔ごと消し去り尚も森を焼き払いながら進む。

(うわっ!? やり過ぎた……)

 炎の竜巻が止まったのはそれから数刻後、森を突き進み敵の潜伏してた場所を焦土とかし街にまで迫っていたころやっと消え去った。

 今回で一番肝が冷えたのは間違いなくこの炎の竜巻だろう。
 後先考えず上級魔法を行使した為、危うく街に被害が出るところだった。

(もう少しで私が敵対することになっていたな。守る側が本陣へ被害を出しては元も子もない、私もまだまだだな)

 どうやら悪魔と戦闘をしている間にカナリッジ軍は進軍を始めており、丁度その場所を竜巻が進んだ為に敵をせん滅したらしい。
 我ながら思うところはあるが結局は結果がすべてだと自身に言い聞かせた。

 それから程なくして小競り合いは終了した。
 私の放った上級魔法によってという言葉がつくが。

 オラクトリアの騎士本部へ赴いた時はあれこれ聞かれた。
 特にあの巨大な炎の竜巻を。
 ここからでも視認できる程大きかったらしいという警備隊長は怯えながら言った。
 勿論あれこれ質問に答えてから敵の残党がいないか指示を出す。

 敵の進軍位置を薙ぎ払っただけなのでこの後、再び仕掛けてくるとも限らないので警戒を維持させる。
 偵察隊も同じく放ち暫く経った頃、報告が上がってきた。

「ロマーリア将軍、先ほど偵察隊から報告がり敵陣営を確認したが撤退を確認との事です」

「そうか、撤退も見せかけとも限らんこのまま警戒を怠るなと周囲の者には言っておけ。私はこれから一端グラストルへ戻る」

「今からですか?」

「そうだ、私はこれから重要な任務があるのでな早々発たせてもらう」

「はあぁ任務ですか……」

 警備長の間抜けな返事を聞き流し出発の準備をする。
 行きと同じ者達に声を掛けると慌てて支度をし始めた。
 程なくして準備が調うとこれから向かうであろうダンジョンに思いを馳せながらグラストルへ馬車を走らせた。
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