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2章 侵入者編

21話 あたしにコミュ力があれば

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 レベルメンターとオールドヴァンパイアを召喚し、魔物の管理と強化を命令するとお次はイベントで獲得したDPを使ってダンジョンのレイアウトを考えていく。

(DPはたんまりとある。これで念願のミノちゃんが買えますよぉくっくっくっ)

 苦労してイベントをこなした甲斐があったというもの。
 取り敢えずは、一階層から三階層にキャバリとナイトの永続魔法陣を三つずつ設置し三階層にミノタウロスを五体ほど置く。

 特に目新しい魔物はそのくらいで、次は内装を弄っていく。

(洞窟は結構暗かったからこの通りからここまで松明を設置して……)

 松明を途中途中に設置し隅の方は虫壁という壁に作り変えた。
 この虫壁とは、緑色の小さい光を放つ壁のことをいい、決して虫が入っているわけではない。

 三階層までは、大きく変更はせず四階層の森林地帯をレイアウトしていくうちに疑問に思った。

(初心者には、難しくね?)

 それから階層ごと入れ替え新たに一からレイアウトを考えていく。

(初心者でも戦い易い場所といえば……この草原フロアとかどうかな?)

 四階層は一面草原フロアで手頃な魔物を配置して、休憩スポットにする。
 
 五階層から小さめの部屋をいくつか繋げた小森林を作成。
 中にはトレント系とモーマット系、ノームを複数体詰め込んだ。

 六階層に広域森林地帯をもってきて、ちまちまと宝箱の調整や内装を弄っている時に侵入者の通知が来きた。

「タマちゃーん、なんか侵入者が来たみたいだからちょっと確認してみてよ! 今あたし手が離せないからさぁ」

 侵入者に関しては、タマちゃんに丸投げすることにした。

(どうせ大したことないでしょうし)

 高を括っているとタマちゃんが爆弾発言をした。

≪うぅ~ん、あんまり強そうなのはいないかな。このギルドマスターとか言う老人なんて特に弱そうだし問題なさそうだね≫

「問題大ありじゃぁぁああああああ!!」

≪うわぁああ!? 驚かさないでよぉ~≫

 大声を上げながらスラリンから勢いよく体を起こすと管理画面を確認する。

(うはっ!? ホントにギルドマスターってある。つーか何故来たし!! ギルドマスターと言えば冒険者ギルドの司令塔ってイメージがあるけど……何故来たし!!)

 重要な事を二回呟き詳細を隈なく確認して、早々オールドヴァンパイアに事情を話し対応を取らせた。
 
(ヤバいどうしようできればこのままどっか行って欲しいけど、何の目的で来たのか見当が……あっ! あの冒険者前にあたしの所にきた奴じゃん!!)

「まさかあの冒険者、ギルドマスターを引っ張り出せるだけの権力があるとは……タマちゃん何か良い意見ない?」

 藁にも縋る気持ちで問いかける。

≪そうだねぇー弱そうだしやっちゃえば?≫

 脳筋発言をするタマちゃん。

「あたしが聞いたのが馬鹿だったよ」

≪えっ! なんで? 弱そうだよ?≫

(こいつは何もわかちゃいないギルドマスターの恐ろしさを)

「ギルドマスターってのは冒険者の中でも最上位に位置するくらい強いんだよ。他の冒険者を束ねるくらいだから弱いわけがない」

≪そっそうなの? 流石レイは物知りだぁ~あははは≫

(さてはこの玉適当に言ったな?)

 それから暫く動向を見ているとオールドヴァンパイアが転移してきて頭を下げ声を掛けてくる。

「恐れながらお願いしたい事があるのですが、長テーブルとソファーを二つお願いできないでしょうか?」

(うん? 何故このタイミングでテーブルとソファー? まあいいや)

 宝箱のタブに移動してそれらしいのをチョイスした。
 このアイテム自体レア度が高いため銀の宝箱にいれて目の前に出現させる。

「その中に入ってるはずだから」

「ありがとうございます」

 ヴァンパイアは宝箱に触れると転移して行った。

(あっ! 何に使うのか聞けばよかった)

 それから侵入者を確認していると四階層に到達しており、以前は森林地帯であったが今は一面草原に変わっている。

(どうやら驚いているみたいね)

 画面越しにも冒険者の慌てふためく姿が見えると前方にオールドヴァンパイアが出現した。

(えっ!!)

 ヴァンパイアを中心に大きな魔法陣が現れると冒険者共々転移したので、急いで転移先を調べると八階層にいた。
 それも先ほど用意したテーブルとソファーが中央に並べられている。

(どういうこと? 話でもするつもりかなぁ?)

 画面を確認しているとヴァンパイアが転移してきた。

「マスター準備が調いました」

 頭を下げあたしに告げてくる。

「なんの準備が調ったの?」

 頭を上げると戸惑った表情をあたしに見せる。

「マスターが『対応』対話しろと仰いましたのでその準備が調ったのでございます」

「うん、確かに『対応』撃退しろって言ったけど……」 

 どうやら少々食い違いが生じているようだ。
 此方を不安げに窺うヴァンパイアを見ているとこっちまで不安になってきた。
 時間が過ぎていくにつれて怯えが混じっているようにも見えてくる。

(さて、どうしたものか。あたしが出て行って話せって事だろうけど正直、うまく話せる自信がないのよね。あっちでもそこまで人と話すのは得意だったわけじゃないし)

 彼方の世界では、普通に友達や親友と呼べる者もいた。
 だからと言って人前に立って話せるほど、あたしのコミュ力が高くはない。
 身内や親しい仲の友人ならいざ知らず、見たことも話したこともない他人といきなり話すのは誰しも難易度が高いだろう。
 あたしの今の状況はまさにそれだ。
 会ったことは……画面越しには見たがこれは会った内には入らないだろうし勿論話なんかしたこともない。

(ホント困ったなぁーやってくれるよヴァンパイア君。いや、ヴァンパイアおじさん)

 暫く談義した結果、ちょっと話をすることにした。
 スラリンから体を起こし立ち上がると、ローブのフードを深く被り身だしなみを整え、ヴァンパイアとスラリンを伴って八階層へ転移する。

 八階層には、画面で確認した爺さんと耳の長いエルフと思われる者がソファーへ座っており、初侵入者の冒険者達は、ソファーの後ろで此方を探るような視線を向け警戒している。

(始めてエルフって種族を見たけど……この生き物卑怯よ!! 顔整って過ぎやしませんかね? ちゃっかり冒険者の数も増えて、ああぁ~七人いるから『七色の角』ってわけね)

 対面のソファーに座り、念のため隣にスラリンを配置しておく。
 スラリンがソファーへ這いずって移動すると、エルフの人が腰に差した剣の柄を握った。

(やはりこの世界のスライムが強いってのは、これで証明されたわけね)

 取り敢えず最も聞いておきたい質問をしてみる。

「一つ聞きたい、ここには何の目的で来たの?」

 そう一番聞いてみたかった質問だ。
 出来立てほやほやのダンジョンにギルドマスターが態々来るなんて何かあるのだろうと勘ぐるのもしかたない。

「お主……本当にダンジョンマスターか?」

 白髪のギルマスが質問とは違う答えを、それも質問で返してきた。
 フードの内側では既に顔が引きつっているあたし。

「此方が先に質問したと思ったのだけど、まあいいやそうあたしがダンジョンマスターよ」

(おっし!! 噛まずに言えた!!)

 それとギルマスが勘違いしているようなので、フードを脱でみる。
 フードを脱ぐと「ええ!?」っとエルフが驚きの声をあげすぐさま口元を手で隠す。

(そんなに驚くことかなぁ~もしかしてあたしの顔ってそのまんまじゃないとか!?)

 顔を確認したい衝動に駆られるが我慢した。
 
「それでそろそろこっちの質問にも答えてくれる?」

 ギルマスに促すように話し掛ける。

「その問いに答えるなら、ダンジョンを探索しに来たとしか言えぬな」

 このダンジョンに探索しに来たようだ。
 しかしそれは、あたしが聞きたい答えじゃない。
 ここはしっかりと問い詰めよう。

「何のために?」

 暫しの沈黙後に溜息交じりに話す。

「それはこのダンジョンが有用かどうか調べる為にだな」

(ほほぉーこのダンジョンが使えるか調査に来たというわけだ)

 考え事をしていると此方を窺うギルマスに返答をしていなかったこと気づく。

「そう」

 口から出たのは、短い言葉だった。
 考え事をしていたのでギルマスが話したことを忘れてしまったからだ。

「此方からも質問してもよいか?」

「いいけど」
 
 今度はギルマスが質問の許可を求めてきたので答えられる範囲で許可を出す。

「お主は人……なのか?」

(おいおい!! いきなりそれですか? 人ですかって……あたしって人なの?)

 ギルマスの質問に返答を考えていると疑問が湧いてくる。
 後で顔を確認するとして、ここは曖昧に答えておこう。
 それとここで雰囲気を出すため笑みを浮かべる。

「貴方には、あたしが人に見える?」

「儂の目には人に見えるが違うのか?」

「さぁどうだろうね。あたしもよくわかんない」

(さて知りたい事は聞いたしそろそろお帰り願いましょうか)

 隣のスラリンを右手で摘みながら感触を確かめているとまた質問がきた。

「最後にお主に名があったら聞かせて欲しいのだがいいだろうか……」

 此方を窺いながら弱腰に質問をするギルドマスターへタマちゃんの時に言った同じ名を答えておく。

「まあぁ役職がダンジョンマスターだから名は『レイ』ってことにしておいてよ」

(取り敢えずこっちでの名前をレイに統一しておくとして、そろそろ頃合いだろう。あっ! ここって八階層だから下の階層はただの平地になってるんだっけ)

 終わり間際、重要な事に気づく。
 六階層以降はまだ手をつけていないのでここから入口まで直接送ることにした。
 
「まあそういうことで、これで御開きね。それと入口までは送ってあげるから」

 ソファーから立ち上がりギルマスへ声を掛けるとギルマスもエルフと共に立ち上がる。

「じゃまた機会があったらね」

 顔を隠す為に、素早くフードを被り、画面を操作しギルマス一同を入口に転移するよう設定した。
 ローブのポケットに手を突っ込んで数秒後、転移が開始され目の前からいなくなった。

(あふぅ~緊張したあぁ)

 ここに来てから一番緊張したと言っていいだろう。

「こういうのは、先に許可取ってからしてよぁーはぁ~疲れた」

「申し訳ございません。次からは御伺い致します」

 再び大きな溜息を吐きながらコア部屋に戻った。
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