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5章 開拓編
125話 契約書
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ミリアが侯爵へ報告に行って待つこと十数分。
テーブルの上に置かれた茶菓子を摘まみつつ、仲間と雑談してい過ごしていると扉が開かれた。
扉を開き視界に映ったのは、ここに仕えているであろうメイドだ。
その次にシックな服装を身に纏ったルネス侯爵とミリアが見える。
「待たせたようですまない。何かと忙しい身なのでな」
そう言って以前、ダンジョン内で会ったルネス侯爵が対面のソファーへと腰かけた。
もちろん後ろにはミリアが側付き兼護衛役として控えている。
ルネス侯爵の堂々とした佇まいに、自然と姿勢を正すレイ。
その他二名は緊張と無縁なのか、先ほどと変わらない態度で対面に座る男を観察しているようだ。
「それで、ダンジョンマスターであるレイ殿がなぜ、大都市に居られるのか伺ってもよいか? 無論、話せる範囲で構わないので教えてもらいたい」
あらゆる場面で交渉事の経験があるルネス侯爵でさえ、未知の存在であるダンジョンマスターをどう扱ってよいか模索している段階。
いろいろと事情があるにせよ、何の理由もなく大都市へ赴くはずはない。
なら何用で訪れたのか尋ねるのはごく自然な流れだ。
もし、何らかの目的があって赴いているのであれば便宜を図り恩を売ることが出来れば今後の交渉材料となりえる。
レイから見るルネス侯爵は堂々した威厳ある人として映ることだろうが、内心は如何に優位に立てるかという貴族らしい思いが渦巻いていた。
「んーこれと言って目的はないんだよね。ダンジョンはあたしが居なくても上手く回ってるし、強いて言うなら……目的を探すのが目的、かな」
「……なるほど、要は暇を持て余しているという解釈で構わないか?」
「概ねその解釈で合ってる、と思う」
「ふむ」
特に目的もなく大都市へ訪れた、そんなダンジョンマスターに何を思ったのか顎に手を当て考えだした。
自分の考えていた理由のどれにも当たらないと分かり小さく息を吐いた。
最悪の展開も考えていたが気優に終わったことにホッとした。
それと同時に以前から考えていた案を推し進める絶好のタイミング。
瞬時に考えを導き出したルネス侯爵は慎重に言葉を選らぶ。
僅か数秒で思考し考えを纏める辺り、さすが侯爵といったところか。
「レイ殿も知っていると思うが、現在ダンジョンを中心に村を建設している最中だ。ゆくゆくは町へ……と思っている。しかし、ここで一つ問題があってな」
耳打ちするような仕草にレイは興味津々で頷いた。
ダンジョン村ができる当時からうわ言の様に呟いていた事が現実になり、はしゃぐ様子を頻繁に見ていたクリティカやリューエルは微笑ましくも自分たちの主である為、見守っていた。
陰から見守られていたとは知らず、村が建設されていく様子に夢中で秘かに資源の提供も行うほど。
それ程までに、レイにとってダンジョン村とは興味の対象であり娯楽の一環であった。
ルネス侯爵から聞かされる内容は当然、レイにとってとてもそそられる話である。
「という訳でな、村を発展する為にはどうしてもダンジョンの資源が重要なのだ。どうだ、力を貸してはくれまいか?」
「なるほどね。村を発展させるのは面白そうだから賛成だけど、こっちにメリットってないよね? その辺りどう思います?」
「それは勿論、力を貸してくれるというのなら色々と便宜を図る。出来る範囲でなら融通も聞かせられるだろう。それに、後ろ盾はあって損はなかろう?」
ここぞとばかりに話を投げてくるルネス侯爵にレイは暫し考え込む。
村の発展はルネス侯爵に提案される前から資源を提供するという意味で既に支援は行っている。
なので今更断る理由もなく、寧ろ堂々と村育成を楽しめるというのであれば問題ない。
しかし、この話を聞く限りでは一方的な利益しか表面上見られない為、こちら側へのメリットの提示という形で質問してみた。
その回答がこれである。便宜や融通など具体性に欠ける内容に考えさせられるが、万が一のことを考えると後ろ盾は欲しい。
よってこの交渉と言えるか分からないが、レイはこの話に乗ることにした。
「わかりました。その話に乗ります、ですので何かしら証が欲しいです」
「ふむ」
テーブルに置かれたベルを鳴らすとすぐさまノックが返ってきた。
侯爵の合図で部屋に入ってきたのは白と黒を基調とした執事だ。
「契約書と身分保障の証を持ってまいれ」
「畏まりました」
数分後、応接室に戻って来た執事の手から紙と金色の彫金が施された物を侯爵は受け取った。
「こっちは契約書、文字通りの意味を持つ物だ。それでこっちが我がシュトレウス家の家紋が彫られてある身分証だ」
茶色い紙とセットで置かれたのが丸い紋様が入った金属だ。
話によると家紋が彫られてあるらしく、これを持つ者は侯爵が身分を保証するとのこと。
なので厄介毎に巻き込まれた際には、これを提示することで速やかに処理することができるらしい。
「……ふむ、次はレイ殿の番だ」
契約書にルネス侯爵が名前を記入し終えると薄っすら文字が光る。
続いてレイの目の前へ契約書が置かれた。
「レイは知らなかもだけど、契約書は殆ど魔法による契約が一般的だから。それと内容を見た限り、さっき話してた内容と同じだから安心して交わしていと思うよ」
小声でレイに耳打ちするクロエ。
先ほど光ったのは魔法が関係していると分かったレイは、羽ペンを持ち名前を記入しようとした。
だが、ふとこちらの言葉が掛けないことに気づく。
契約書の内容もさっぱり理解できないので当たり前と言えば当たり前なのだが。
羽ペンが止まったことに口元を引き締め一瞬鋭く細められたルネス侯爵の瞳を見てしまったレイ。
動揺するあまり嫌な汗がジワリと吹き出す。
「そのまま書いてみるといいよ」
そこへレイの持つ羽ペンが止まったことに察したクロエが助け舟を出す。
クロエに言われた通り以前の意識のまま『レイ』と書くと、その文字は変形し書き記された。
魔法が干渉して自動的に翻訳してくれたのだと思い、緊張から解放され思わずため息をついた。
「これで契約は完了だな。こちらがレイ殿の分だ」
二つに分裂した紙にびっくりしていると身分証と契約書を渡された。
「それでダンジョンについて幾つかばかり聞きたいのだが……」
契約書を懐に仕舞い、こちらが本題とばかりにルネス侯爵が口を開いた。
テーブルの上に置かれた茶菓子を摘まみつつ、仲間と雑談してい過ごしていると扉が開かれた。
扉を開き視界に映ったのは、ここに仕えているであろうメイドだ。
その次にシックな服装を身に纏ったルネス侯爵とミリアが見える。
「待たせたようですまない。何かと忙しい身なのでな」
そう言って以前、ダンジョン内で会ったルネス侯爵が対面のソファーへと腰かけた。
もちろん後ろにはミリアが側付き兼護衛役として控えている。
ルネス侯爵の堂々とした佇まいに、自然と姿勢を正すレイ。
その他二名は緊張と無縁なのか、先ほどと変わらない態度で対面に座る男を観察しているようだ。
「それで、ダンジョンマスターであるレイ殿がなぜ、大都市に居られるのか伺ってもよいか? 無論、話せる範囲で構わないので教えてもらいたい」
あらゆる場面で交渉事の経験があるルネス侯爵でさえ、未知の存在であるダンジョンマスターをどう扱ってよいか模索している段階。
いろいろと事情があるにせよ、何の理由もなく大都市へ赴くはずはない。
なら何用で訪れたのか尋ねるのはごく自然な流れだ。
もし、何らかの目的があって赴いているのであれば便宜を図り恩を売ることが出来れば今後の交渉材料となりえる。
レイから見るルネス侯爵は堂々した威厳ある人として映ることだろうが、内心は如何に優位に立てるかという貴族らしい思いが渦巻いていた。
「んーこれと言って目的はないんだよね。ダンジョンはあたしが居なくても上手く回ってるし、強いて言うなら……目的を探すのが目的、かな」
「……なるほど、要は暇を持て余しているという解釈で構わないか?」
「概ねその解釈で合ってる、と思う」
「ふむ」
特に目的もなく大都市へ訪れた、そんなダンジョンマスターに何を思ったのか顎に手を当て考えだした。
自分の考えていた理由のどれにも当たらないと分かり小さく息を吐いた。
最悪の展開も考えていたが気優に終わったことにホッとした。
それと同時に以前から考えていた案を推し進める絶好のタイミング。
瞬時に考えを導き出したルネス侯爵は慎重に言葉を選らぶ。
僅か数秒で思考し考えを纏める辺り、さすが侯爵といったところか。
「レイ殿も知っていると思うが、現在ダンジョンを中心に村を建設している最中だ。ゆくゆくは町へ……と思っている。しかし、ここで一つ問題があってな」
耳打ちするような仕草にレイは興味津々で頷いた。
ダンジョン村ができる当時からうわ言の様に呟いていた事が現実になり、はしゃぐ様子を頻繁に見ていたクリティカやリューエルは微笑ましくも自分たちの主である為、見守っていた。
陰から見守られていたとは知らず、村が建設されていく様子に夢中で秘かに資源の提供も行うほど。
それ程までに、レイにとってダンジョン村とは興味の対象であり娯楽の一環であった。
ルネス侯爵から聞かされる内容は当然、レイにとってとてもそそられる話である。
「という訳でな、村を発展する為にはどうしてもダンジョンの資源が重要なのだ。どうだ、力を貸してはくれまいか?」
「なるほどね。村を発展させるのは面白そうだから賛成だけど、こっちにメリットってないよね? その辺りどう思います?」
「それは勿論、力を貸してくれるというのなら色々と便宜を図る。出来る範囲でなら融通も聞かせられるだろう。それに、後ろ盾はあって損はなかろう?」
ここぞとばかりに話を投げてくるルネス侯爵にレイは暫し考え込む。
村の発展はルネス侯爵に提案される前から資源を提供するという意味で既に支援は行っている。
なので今更断る理由もなく、寧ろ堂々と村育成を楽しめるというのであれば問題ない。
しかし、この話を聞く限りでは一方的な利益しか表面上見られない為、こちら側へのメリットの提示という形で質問してみた。
その回答がこれである。便宜や融通など具体性に欠ける内容に考えさせられるが、万が一のことを考えると後ろ盾は欲しい。
よってこの交渉と言えるか分からないが、レイはこの話に乗ることにした。
「わかりました。その話に乗ります、ですので何かしら証が欲しいです」
「ふむ」
テーブルに置かれたベルを鳴らすとすぐさまノックが返ってきた。
侯爵の合図で部屋に入ってきたのは白と黒を基調とした執事だ。
「契約書と身分保障の証を持ってまいれ」
「畏まりました」
数分後、応接室に戻って来た執事の手から紙と金色の彫金が施された物を侯爵は受け取った。
「こっちは契約書、文字通りの意味を持つ物だ。それでこっちが我がシュトレウス家の家紋が彫られてある身分証だ」
茶色い紙とセットで置かれたのが丸い紋様が入った金属だ。
話によると家紋が彫られてあるらしく、これを持つ者は侯爵が身分を保証するとのこと。
なので厄介毎に巻き込まれた際には、これを提示することで速やかに処理することができるらしい。
「……ふむ、次はレイ殿の番だ」
契約書にルネス侯爵が名前を記入し終えると薄っすら文字が光る。
続いてレイの目の前へ契約書が置かれた。
「レイは知らなかもだけど、契約書は殆ど魔法による契約が一般的だから。それと内容を見た限り、さっき話してた内容と同じだから安心して交わしていと思うよ」
小声でレイに耳打ちするクロエ。
先ほど光ったのは魔法が関係していると分かったレイは、羽ペンを持ち名前を記入しようとした。
だが、ふとこちらの言葉が掛けないことに気づく。
契約書の内容もさっぱり理解できないので当たり前と言えば当たり前なのだが。
羽ペンが止まったことに口元を引き締め一瞬鋭く細められたルネス侯爵の瞳を見てしまったレイ。
動揺するあまり嫌な汗がジワリと吹き出す。
「そのまま書いてみるといいよ」
そこへレイの持つ羽ペンが止まったことに察したクロエが助け舟を出す。
クロエに言われた通り以前の意識のまま『レイ』と書くと、その文字は変形し書き記された。
魔法が干渉して自動的に翻訳してくれたのだと思い、緊張から解放され思わずため息をついた。
「これで契約は完了だな。こちらがレイ殿の分だ」
二つに分裂した紙にびっくりしていると身分証と契約書を渡された。
「それでダンジョンについて幾つかばかり聞きたいのだが……」
契約書を懐に仕舞い、こちらが本題とばかりにルネス侯爵が口を開いた。
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以来(依頼)は笑った
自分はあまり気にならなかったですけど直したほうがきれいだと思います( ´ ▽ ` )
待ってました(^-^)/あざーす
楽しみに待っていてくださり、ありがとうございます。
これからも更新できるように頑張りたいと思います。
更新お願いします。楽しみにしてます
ご感想ありがとうございます。
ぼちぼち更新できるように頑張りたいと思います。