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5章 開拓編

123話 招待

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 冒険者ギルドに立ち寄った帰り、途中で人だかりを発見して興味本位で覗いてみるとそこにはミリアがいた。
 どうやら部下が何かしでかしたらしく、詳しいことを聞いてみたが「いつものことだから」と濁されてしまった。
 それよりも、何でここに居るのか凄い形相でミリアに問い詰められ、なんて答えたものかと頬をかく。

「いやぁ、いろいろあってねぇ」

「そうなの? まぁいいんだけど……いや、良くはないんだけどさ。それよりこのあと予定とかあったりする?」

「このあと宿に戻るだけだから予定は特にはないけど?」

「ならさ……お城に来ない?」

 急な提案に何か嫌な予感がしたが、不穏な雰囲気を感じたミリアは頭をブンブン振ってそういうのはないからと話す。
 なんならここに居る間はお城で過ごすといい、とも提案してきた。
 ミリアそれだけで決めていいのか訊ねると「私、それなりに偉い人だから!」そう言い胸を張って自慢する。

「それに……本音を言えばルネス侯爵があなたに会いたがってたのが、一番の理由だけどね」

「あたしに? また何で」

「それは、レイが特別だからだよ」

「……なるほど」

 人混みの中で情報の拡散を恐れたミリアは、重要な部分を伏せて話をする。
 周りの大衆は円陣の中心でコントをしている騎士に野次を飛ばしているため、こちらの様子を窺っている者は少ない。

 ルネス侯爵がねぇ……政治に利用されなければいいけど。
 その時はミリアに何とかしてもらえば問題ないか。
 最悪クロエに頼めばなんとでもなるし、前に話した印象ではそういった迂闊な事をする人には見えなかったから大丈夫かな。

 一先ず、あれこれ考えた末にお城へお邪魔することに決めた。
 寝床も貸してくれるって話だったので、安い宿で休むよりかはましだ。
 それに一番の理由は、お城って女の子なら憧れるよね? と、いたってシンプルなものだったりする。

「わかった、お城に行ってもいいよ。そのかわり、何かあったら助けてよね?」

「うんうん、了解! なら早速案内するよ」

「ちょっと待って! お供が二人いるけどいいよね? それと一度宿に寄らせて!」

「お供? ああ、うんいいよ」

 その場でお互いに一旦別れてミリアは部下を、あたしはお供の二人を探しに行く。



「そう言う訳だからさ、お城に行くよ!」

「お城に行くって……また急な話だね」

 宿屋の入り口前、先ほど宿のチェックアウトを終えクロエに事の顛末を説明した。
 急な話にはなるが納得してもらうことにして、待たせているミリアを早々に紹介することに。
 因みにタマちゃんからは既に一つ返事で了解をもらっている。

「クロエは知らないかもしれないけど、こっちにいる人がミリアちゃんね!」

「ルネス侯爵領専属、近衛騎士団団長を務めているミリアと言います。どうぞお見知りおきを」

「これはご丁寧にどうも、私はクロエっていいます。こちらこそ、よろしくお願いします」

 お互いに自己紹介をして握手を交わしたミリアとクロエ。
 何時にも増して丁寧な対応をするクロエに笑いつつ、ミリアと部下二人を伴って城へ赴くことになった。



――――――――――――



 道中、なるべく人目を避けて裏路地を通ったので少々時間がかかったが、特に問題なくお城へ到着した。
 これぞお城! といった感じの印象を受けた。

 大きな鉄の格子に覆われた門。
 重そうな鎧を着込んだ二人の門兵が身じろぎせず、粛々と仕事を熟していた。

「お戻りになられましたかミリア将軍」

「ご苦労」

「そちらの方々は?」

「こちらは重要なお客人だから粗相のないように」

「畏まりました」

 そう言って検査も碌にされずミリアを追って入城した。

「よかったの?」

「流石に規則とは言え、今回は異例だからいいの!」

 ということらしいので、長い階段を上りながら何気ない風景を楽しむ。

 町の北側に構えるルネス侯爵の居城は、本人の性格を表すように厳格でどこか落ち着いた印象を受ける。
 周囲を格子で囲まれ、内側には城の象徴である女神エイアを模した巨大で精巧な彫刻と噴水がある。

 女神エイアは、平和と守りを司る神で名の知れた神だ。
 平和とは裏腹に、平和の為ならどんな手段も厭わない冷酷な神とも言われ、女神エイアを信仰する権力者は主に後者を称えることが多い。

 巨大な彫刻と噴水に圧倒されつつも、ミリアに促されてとある一室へ案内された。

「一先ず、ここで寛いでて。ルネス侯爵に話を通して来るからさ」

「うん、了解」

 唐突に机に置かれたベルを鳴らすミリア。
 すると、数秒後にドアをノックする音が鳴り、一人のメイドが現れて恭しく礼をした。

「失礼します」

「こちらのお客様にお茶菓子を用意してあげて」

「畏まりました」

 ミリアの注文を受けメイドは再び恭しく頭を下げ退出した。
 一連の動作が洗礼されていて、教育が行き届いているんだなぁと思った。

「それじゃ、私は報告に行くからまた!」

「ほいほい」

 片手を上げて出ていったミリアから視線を移して、部屋に置かれた剥製や装飾品を眺めていると隣に座るクロエが声を掛けてきた。

「この後、捕まるってことはないよね? わたし嫌だよそんなの!」

「心配性だなぁ、何かあったらミリアちゃんにお願いしてあるから大丈夫だって! 万が一それが駄目だったらその時はクロエにお願いするよ!」

「はぁ……警戒心が薄いねぇ」

 あたしの言葉に溜息をついたクロエはソファーに深く座って目を瞑った。
 そんなクロエの言葉に一抹の不安が生まれ、それこそ万が一の事態になった時の対処法を考えているとコンコンとノックの音が響いた。
 入室の許可をクロエが出すと、先ほどのメイドがお茶菓子を持って来たようだ。
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