べゼルシス・オンライン

雨霧つゆは

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36.地の番人

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 サクヤさんの知り合いと思われる人物と思わぬところで接触を果たした私達は二股の道を左に進み門番がいるエリアまで来た。そこは今までの建物の中や洞穴のような場所ではなく、円上の開けた場所だった。

――チリーン。
《討伐クエスト:地の番人の討伐。Yes/No》

――チリーン。
《討伐クエストを開始します。地の番人討伐 0/1 報酬:???》

 討伐クエストを開始すると遠くの方で遠吠えが始まった。次第に数と大きさが増していく。すると森を掻き分けて出てきたモンスターは狼だった。

 灰色の五メートル程の狼で、手下を十匹以上つれて現れた。

「グレートダイアウルフね。手下は任せる、大きいのは私に任せて!」
「あっユーリだけずるいぃ!」
「手下を倒したらおいで!」
「くっ」

 周りの雑魚はエリカとチカに任せるとして私は親玉の気を引いて二人に敵意が向かわないよう立ち回る。

――ワォォォォオオオオオオン

 グレートダイアウルフの遠吠えを皮切りに戦闘が始まる。二人を残して前へ出てた私はすれ違う狼へ斬り付け、蹴り飛ばし間をあけボスと接敵した。

 くすんだ灰色の毛並みをしたグレートダイアウルフ。グルグル喉を鳴らせて私を威嚇する。口から白唾液を垂らし血走った目でこちらを睨みつける。対して私は双剣を抜き佇む。しかし、いつでもスキルを撃てる姿勢だけは崩さない。

 後ろの方では既に戦闘が始まっていて、エリカのアサルトライフルとチカの魔法の音が鳴り響く。その度、狼の悲鳴が鳴り粒子へと変わる音が断続的に聞こえた。

「…………はっ!」

 鼓舞を使い淡く黄色いエネルギーを纏った私は突進した。それと同時にグレートダイアウルフも跳びかかってきた。

「しめた、ブリッツ!」

 剣の間合いに入ったグレートダイアウルフ。その更に懐へと入るためブリッツを使用して潜り込んだ。そして一閃。ゴワゴワとした毛の上から肉を切り裂く。前足の付け根辺りから側面にかけて大きく傷を付け再度睨み合う。

「ユーリ、こっちは片付いたわ!」
「私も攻撃するよ!」
「気をつけてね!」

 後方で手下を瞬殺したエリカとチカがこちらに合流した。正面に私、後方にエリカとチカ。手下を全滅させられ前後を挟み打ちになったグレートダイアウルフは怒りのあまり唸り声を上げこちらに向かってきた。

「アオォオオオオオオンンン!!」
「チャージ……スラッシュ!!」

 戦闘を重ねる度、熟練度が溜まっていくスキルたち。私の思いつきにより最適化され生み出されたのがチャージ連撃にスラッシュを加えたチャージスラッシュ。魔力をチャージした連撃を更にスラッシュという強攻撃が加わり威力が跳ね上がる。

 若干空中へ飛び上がりオリジナルの連撃と右手から振るわれる強攻撃がグレートダイアウルフを襲う。先ほどの斬り付けより威力は各段位上がり、チャージスラッシュの乱舞で私の足程の大きさの前足を切り飛ばす。そして首筋、横腹、内腿、尻尾と空中連撃をお見舞いした。

「ハイクイック、ウインドレイン!」
「最後は私が仕留めるわ」

 クイックの熟練度が溜まりハイクイックへと昇格した軽減スキルとウインドアローとエナジーレインが組み合わさったウインドレインが、右前足を切り飛ばしバランスを崩しているグレートダイアウルフを襲った。
 魔法矢を無数に直撃し弱り切ったグレートダイアウルフへ止めを刺したのはエリカの狙撃だった。弾丸は銃口から飛び出すと空気を振動させ頭を打ち抜いた。撃ち抜かれたグレートダイアウルフは体から力を失いそのまま横たわるようにして光の粒子に変わっていった。無事、討伐が完了した。

――チリーン。
《討伐クエスト:地の番人一体討伐。 1/1 報酬:討伐の証‐土‐》
《領主ポイント81400pt獲得しました。所属する立候補者へポイントが加算されました。》


***


 地の番人ことグレートダイアウルフを討伐し終えた私達は一旦エネラルへ帰還した。そのまま北区にある七天万宮へ向かい一室で休憩した。休憩後に現状の報告と次の門番の手掛かりを手に入れるためサクヤさんに会った。

「あらお帰りなさい。その様子ですと無事門番を倒せたようですね」
「お陰様で門番が見つかりなんとか討伐出来ました」
「それは良かったです」

 和菓子を頂きながら先ほどまでの報告を行った。その際、獅子陣営のプレーヤーに遭遇したことも話した。

「アルス……どこかで聞いたような」
「壁街戦の時、見逃した四人組のパーティーリーダーがそんな名前だった」
「ああ! あの時のプレーヤーでしたか、やっと思い出しました」

 どうやら面識自体はあるようだ。しかし、話の節々から物騒な単語が飛び交っている。

「その話はここまでにするとして、最後は白の番人ですね。白の番人は他番人に比べて手強いですからくれぐれも気をつけて下さいね」
「白の番人ってどんなモンスター何ですか?」

 他の番人に比べて手強いと言われてもピンとこない。なので白の番人について情報を仕入れるため質問してみた。サクヤさんの代わりにメルさんが教えてくれた。

「白の番人は半神族系のモンスター。名前はエンキンドゥ。見た目は神話に登場するフェンリルに近いモンスターで白と黒い毛並みが特徴の大きな狼。大きさはだいたい七、八メートルくらい」
「エンキンドゥ……よくギルガメッシュとセットに出てくるやつだ」
「他のゲームだとそんな感じのやつ。それで出現する地点は北を二時間くらい行ったところに氷山がある。その近くに割れ目があって、そこがエンキンドゥへ繋がってる」

 北にいる白の番人は白い大きな狼という。名前はエンキンドゥで氷属性の魔法を主に使ってくるようだ。それ以外にも魔法耐性が高く、弱点である炎属性以外は極端に効きずらく、斬撃打撃共に耐性をもつ厄介な相手だ。
 そんな白の番人がいる場所は北外門を二時間ほど離れた氷山近くの割れ目が番人へ繋がっていることがわかった。

「戦い方とか説明して上げたらメル」
「それもそうね。エンキンドゥには炎属性の武器が有効で――」
「――ああぁメルさん! 攻略に関しては考えがあるので」
「そう? ならいいけど」
「貴重な情報ありがとうございます。ところで、もう四日くらいですけど今ってどんな状況ですか?」

 領主選定が始まってから四日が過ぎた。何だかんだ番人を討伐するのに一日、二日費やしている。というのも番人の居場所を探すのに余りにも時間が掛かかるからだ。だいたい探し出すのに七、八割時間を使っている気がする。もちろん、他のモンスターを討伐する時間も含まれているがそれでも探索に結構時間を割いているのは事実だ

 その所為で既に四日過ぎた。私達も頑張って討伐してるが果たして順位はどのくらいか気になる。今後の目安にもなるから是非とも聞きたいところだ。

「総獲得ポイントは328万3620ポイント。現在、8位です」
「八位ですか……252組中八位はそこそこ健闘しているほうだと思いますが、一位とのポイント差が気になりますね。既に折り返し地点と考えると意外とピンチ?」
「そうですね、結果鑑みるにだいぶ健闘していると思います。ユーリさんのおっしゃる通り、一位との差は200万ほどの開きがあります。現在、折り返し地点と考えると残り期間が勝負時でしょう。なので貴方達三人にはこれから更に頑張ってもらわないといけないですね」

 心配して質問したのになぜか自分たちの首を絞める結果になってしまった。ともあれ、白の番人に向けて必要な物資を調達して北の外門へ向うことにした。
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