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雨霧つゆは

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33.魔道具店

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 サクヤさんの支援者になった後、これからについて話し合った。その中で領主選定において私達の役割はモンスターを討伐すること。その過程でレベルを上昇させることが今回の鍵になる。あばよくば他のプレーヤーを倒してポイントを稼げれば理想だ。

 ともあれその日、サクヤさん達が管理している七天万宮の一室を借りさせてもらった。そして翌日。立候補の締め切りが期間が終了し、運営から通知がきた。その通知には今回立候補したプレーヤー数が表示されていた。その数、二百五十二名。

「250人も参加してるとは予想外。こんなに多いんだね立候補者」
「果たして250人が多いと見るべきか少ないと見るべきか……どっちにしろ私達がすることは変わりないわ」
「そうだねぇ、早く他の番人を倒しにいかないと! どこから行く?」
「東の山の番人がいいんじゃないかな? ホムラちゃんいるし、聞いたら教えてくれるかも」
「そうね、私は賛成」
「じゃあ私も」
「決まりだね。それじゃホムラ山に出発!」

 七天万宮で一夜を明かし、サクヤさんから仮許可証を貰い、それぞれ連絡ができるようにフレンド登録をした。そして正午、領主選定が始まった。今から十日間ひたすらポイントを稼ぐ毎日だ。

 ホムラ山へ出発する前にバーンズ工房へ寄った。目的は私のオーダーメイド品が完成したという通知が来たからだ。

「こんちわーボリスさん」
「おお、来たべな。オーダー品持って来るだべからちょっと待ってだべ」

 バーンズ工房の店員ボリスさんに挨拶をした。すると完成品を持って来るため裏の方へと入っていた。数分後、大きな化粧箱を抱えてきた。

「これがオーダーメイド品だべ。確認して欲しいだべ」

 化粧箱にかかる紺色の布を取り払ったボリスさんは化粧箱をこちらへと寄せてきた。

「名前は影虎。特性は闇と土だべ。持ち主のマナに反応して成長するマイナリーウェポンを今回はチョイスさせてもらっただべ。姉貴曰く、細い刀身と昇り柄を素材の特徴を活かして作るのが難しかったが面白い物ができた、と言ってただべ」

 化粧箱に納まる二振りの剣。黒と金色の二色でカラーリングされた剣は、まさしく影虎の名をイメージして作られているようで繊細で緻密な計算から生み出された、そう感じさせるほどの出来栄えだった。
 左右対称に収められた剣を握ってみた。するとスゥーッと持ち上がった。まるで重力を感じさせない剣に心が躍った。

 右手に剣をを持ち左手で鞘を抑える。ゆっくり抜くと黒紫の刀身が露わになった。細身でありながら繊細な作り、しかし、肉厚な太さを兼ね備え剣。まさに私のオーダー通りの青龍刀だ。多少、刀よりだがそこも含めて影虎ということにしておこう。

「それじゃこれは貰っていくよ!」
「毎度ありだべ。またよろしくだべ」

――チリーン。
《武器:影虎×1を入手しました》

 店を出て早速、影虎の性能チェックだ。

《影虎:攻撃力+60% 回避率+30% カウンター補正+40% 魔法耐性+50% 耐久値100% 能力:耐久軽減、自己修復、限界吸収 固有能力:影縛り、影喰い 状態異常:魔力枯渇》
《テキスト:半神族の素材を用いて作られたオーダーメイド品。神族素材特有の高いステータスを誇り、装備者の魔力によって成長・変化するマイナリーウェポン。装備者次第では一級品に化ける可能性を秘めた一品だが、常時状態異常である魔力枯渇による魔力管理が重要になってくるため、魔力を使うスキルを使う際は注意が必要。 製作者:リリア・バーンズ》

「こ、これは何ともあれな……」
「どんな感じ?」
「マナ喰らいの武器って感じだね。補正値が高いから強いのは強いんだけど……双剣士ってそんなにマナがない職業なんだよなぁ」
「あっそれなら、これからアクセサリー見に行かない? 私もマナ消費を抑えるのとマナを増やすの見たいからさ」
「その手があったか!」

 影虎の運用を考えるとどうしても魔力不足がネックだ。正直、もともと魔力量の少ない双剣士との相性はあまり良くない。チカの提案に従ってアクセサリーで補うことにした。
 というわけで魔道具店レイモンドにやって来た。途中、サクヤさんの運営する施設を利用しようと思ったが手っ取り早さを考えこっちにした。それに領主選定のルールにはメタの消費でポイントが獲得できるとあるし、一石二鳥だ。

――チリーン。
「ようこそレイモンド魔道具店へ。本日はどういったお品をお求めでしょう?」
「ええっと、マナを増やす魔道具を見に来ました」
「それでは案内いたしますね」

 以前の道具屋でもそうだったが、ちゃんと店員が案内してくれるのはありがたい。

「こちらが魔力関係の魔道具になります。それではまた何かありましたらお声をお掛け下さい」
「ありがとうございます」

 案内された先に、ガラス張りで管理されてある魔道具たちがずらりと並んでいた。その一角に私が求めている魔力増幅系の魔道具があった。

「なになに……マナリング、魔力を増幅させる魔道具。そのまんまだ」

 マナリングの補正値は八%。雀の涙程度しか上がらない。ちなみにこれで二千メタだ。魔道具高い。その他にもいろいろあったがこれと言ってよさげなのはなかった。

「一番いいのがこれかぁ」

 私が手にした腕輪の名前はチャネリングマイレージ。マナ補正値が三十%と飾られている中では一番補正値が高い魔道具だ。おまけに能力がひとつ付いている。チャネリングという体力を魔力に変換する能力だ。能力自体は常時発動型なので装備するだけで発動する。

「体力を削って魔力に変換するかぁ、体力が減ったらチカに回復してもらえばいいし……よし、これかお……すみませーん」

 そこまで性能は良くないが購入することになった。正直、マーケットで買えればよかったのだが、それだとポイントがもらえないので仕方ない。

 サクヤさんに教えてもらったことなんだがメタ消費にマーケット購入は含まれないらしい。大きい買い物をする時は私の運営する店に寄ってね、と帰り際に言われた。サクヤさんに言われてなかったら絶対マーケットで買ったに違いない。
 なんでも不正対策でマーケットは除外されているのではないか、と。たしかに考えれば私が薬草を百万メタで売ってエリカかチカが薬草を百万メタで買えば百万ポイント付くことになる。それだと選定の意味がなくなり、ルールが崩壊する。そういった事をさせないための措置なのだろうと理解した。

 そんなわけで私はチャネリングマイレージを二つ買った。掛かったお金は二十万メタだ。

――チリーン。
《魔道具:チャネリングマイレージ×2を入手しました。》
《領主ポイント20万pt獲得しました。所属する立候補者へポイントが加算されました。》

 早速、チャネリングマイレージを二つ装備した。装備欄の空きがあと一つあるが今回は二つだけに止めておくことにした。

「ユーリはもう買ったんだ?」
「うん買ったよ。エリカは何か買わないの?」
「一つだけ買ったわ。敵から見つかりにくくなるイヤリング」
「なるほど、狙撃士向けの能力だね」
「おまたせぇー」
「チカは何かったの?」
「リーティングルアっていう杖に装備できる魔道具とエコルアっていう魔力消費を抑える魔道具を二つ買ったよ」
「へぇー幾らしたの?」
「二つで二十万ちょっとかなぁ」

 ちなみにエリカのイヤリングは十万メタしたそうだ。エリカと私合わせて三十万。そしてチカの分も足すと五十万メタ。この短時間に五十万ポイントを稼いだことになる。
 
「よし、ホムラ山に行こっか!」

 それぞれ魔道具を購入した私達はホムラ山に向けて東の外門へ向かった。
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