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30.七天万宮

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――チリーン。
《制限区域:北区入出許可証が必要です。 許可申請Yes/No》

――チリーン。
《北区入出の許可がなされました。》

「入出制限区域があるなんて……すご」

 指定された北区に行くと日本でよく見る巨大な鳥居があった。鳥居に近づくと入出許可が必要だと言われたが直ぐに入出許可が下りた。

 北区に入ると以前旅行に行ったことがある京都の町並みに似た光景が広がっていた。日本文化が息づく京都の町並みを感じさせる建物群。柳通りや桜、赤い欄干に鬼の面が備え付けられた橋など日本人なら誰しも懐かしさを感じる風景だ。

 北区中央通りを更に北へと進むと目的地である七点万宮が顔を覗かせた。七点万宮。それは日本にある五重塔を思わせる建物だった。真っ赤な塗装で五重塔とは比べ物にならないほど高さがある。そして天辺には、金色の龍の装飾品が飾られていた。まるで侵入者を監視するか如く睨みつける龍に鳥肌がたった。

 金色の龍が飾られる七点万宮へと掛かる巨大な橋を渡り、手入れの行き届いた枯山水を見ながら暖簾の掛かった入口へと辿り着いた。

――チリーン。
《制限区域:七点万宮 所有者:鏡夜月ルナールclan 入出許可制限区域。 許可申請Yes/No》

――チリーン。
《入出許可がなされました。制限を一時的に解除します。戦闘禁止区域により戦闘制限が掛かります。》

 入口横にある見取り図を見ながら桜花の間を探す。桜花の間はこの建物の十階に位置しているようだ。
 中央にある花模様があしらわれた昇降機を使い、十階で降りた。ところどころ金色の刺繍が施された赤い絨毯、桜の模様が入った障子、ガラス越しに町の様子を一望できる展望デッキ。全てに圧倒される。そんな長い通路の先、桜花の間と彫られたプレートの前に見慣れたプレーヤーであるメルの姿があった。

「め、メルさん……この建物、凄すぎませんか!!」
「その話はまた今度。よく来てくれた……サクヤ、例の人たち来たよ」
「メル、ご客人を入れて差し上げて」
「わかった……三人とも、入って」

 メルさんが片側の障子を引き私達を招き入れてくれた。

「ようこそいらっしゃいました。鏡夜月のクランリーダー、サクヤです。こちらが副リーダーのタツキ、そして参謀兼諜報のメルです。わざわざご足労頂きありがとうございます」

 桜花の間。その一室は広々とした空間、綺麗に敷き詰められた畳、空間を演出する装飾品、どれをとっても素晴らしい物だった。これほどまでに高貴さを漂わせる建物もそうないだろう。そしてこの空間に相応しい着物姿の女性プレーヤー、鏡夜月のクランリーダーことサクヤが挨拶してきた。

「あっこ、こ、これはご丁寧にどうも。あっ! 私、ユーリといいます。こっちがエリカ、こっちがチカです。ほ、本日はお招きい、いただき――」
「――ふふ、別にそこまで畏まらなくてもいいですよ」
「サクヤはいつもこういう口調だから畏まらなくていい。疲れるだけだから」
「時々、メルは棘のある言葉を言いますよね。私は悲しいです」
「疲れるのは事実。早く本題に入らなくていいの?」
「そうですね、皆さんそちらにお掛けになってください」

 木製で光沢のあるテーブルと腰掛け用の椅子が数脚。向かい側に三人、こちら側に三人向き合う配置だ。エリカ、私、チカと真ん中に座らされサクヤさんと対面した。

 深い青色、寧ろ黒色に近いロングヘアーにタレ目がちの優し気な目。整った顔立ち、どことなく漂う気品、丁寧な口調。サクヤさんの第一印象は、私と住む世界が絶対違う人物だ! と思った。なんというか人の上に立つのに、これほど相応しい人もいないかもしれないほどカリスマを感じる。

「それで、この人らがメルの目を付けてたプレーヤー?」
「タツキ、お客様の前です。煙管を仕舞ってください」
「別にいいだろ、なあ?」
「は、はいぃぃ!」
「ほらいいってよ」
「……はぁ」

 簡易的な和装を着こなし、煙管から白い煙を漂わしているのはタツキさん。赤くクセッ毛のあるセミロング、鋭いような眠たそうな目、眉から頬に掛けて金色の龍がペイントされており、着崩した和装から覗く胸元がセクシーなお姉さんだ。少々、怖さがあるが人のよさそうな印象を受けた。

「タツキは臭い」
「おいおいメルよぉ、流石に失礼過ぎないか?」
「事実、タツキは煙臭い。煙管に無臭無煙機能があるのになぜ使わないのか理解に苦しむ」
「お子ちゃまにはこの良さがわからんかぁ、ふー」

 言わずもがな銀髪の美しい美少女忍者ことメルさん。忍びっぽい黒装束を身に付け、無口で鋭い一撃をかましてくる人だ。どうやら仲間にも容赦ないらしい。

「コホン……それでは本題に移りたいと思います。まず貴方方をお呼び建てしたのは他でもありません、領主選定についてです。お三方は詳しい内容をお読みになりましたか?」
「えっええ、もちろんです。少々複雑そうではありましたが理解はしています」
「それは良かった。それで領主選定に私は立候補しました。もちろん、パーティーでの登録なので獲得できるポイントには上限があります」
「たしか、100万ポイントでしたっけ?」
「はい、その通りです。立候補者だけでは不可能なのがこの領主選定。現実の選挙を模して作られているそうで、立候補者と支援者の関係を含めて領主選定なのです」

 サクヤさんの言う通り、支援者なくして立候補者は領主になれないのがこの領主選定だ。候補者は百万ポイントという制限が掛けられるため、どうしても支援者の力が必要不可欠だ。

「そこで私の支援者をお願いしたいのです」
「一応聞きたい。ユーリは領主選定に立候補する気はあるのか?」
「はっ! メルの言う通りです。ユーリさん達は立候補されるので?」
「えっ、いやぁその予定はないですねぇ」
「それは良かった。ならば支援者をお願いしたいのですが……」
「サクヤ、先走り過ぎ。支援者をお願いする前に説明を一旦入れるべき」
「メルの仰る通り、私は焦り過ぎているのかもしれません。メル、説明して差し上げて」
「……ふぅ、一度しか説明しないからよく聞くように」

 溜息交じりに役を買って出たメルさんは説明を始めた。

「私達が古龍陣営からわざわざ陣営を変えたのは領主になるため。この場合サクヤが領主になるわけだけど。今の古龍陣営は殺伐としている、その理由が領主」
「古龍陣営の領主はそんなにダメなんですか?」
「ダメというより横暴」
「そうね、まだ始めたばかりの方にはわからないと思うけど……古龍陣営は今、あるプレーヤーが支配しているの。領主の名前はグラズ。領主権限を使ってやりたい放題してる」
「サクヤが言うようにグラズが古龍陣営を支配してるから、私達は妖精陣営に来た。大雑把だけど経緯はこんな感じ。それで貴方たちが支援者をしてくれるならそれに見合った対価を用意する」
「対価というと?」
「一つ目は情報。先行組にしかわからない情報の提供。二つ目は資金の援助及び施設の利用。私達のクランが運営する武器屋、防具屋その他の施設を無償で提供する。今のところこんな感じだけどどう? 支援者にならない?」
「そんなに対価を貰ってもいいんですか? 支援するだけですよね?」

 メルさんが提示した好条件に思わず聞き返してしまった。

「このくらいの対価で領主に近づけるなら安いもの。支援者になったあかつきには扱き使うからそのつもりで」
「そ、そうなんだ」

 サクヤさんの支援者になったら扱き使われるのは確定そうだ。

「支援者の話もそうなのだけど、貴女方はその……このゲームにどのくらい時間を割けますか?」

 やはりそこは立候補者として一番気になるところだろう。ならこう答えよう。恐らく、これほど嬉しい答えが返ってくることはそうそうないはずだ。

「そうですねぇ、トイレとかお風呂とか食事以外でしたらいつでも」
「……」

 しかし、私が思い描くリアアクションとは程遠く、サクヤさんの表情が暗くなった。
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