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雨霧つゆは

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26.女王の威光

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 テントをワンタッチで片付け、その他の道具を仕舞い探索を開始した。前回、白い鹿を追って入った道へと歩を進めた。入り組んだ木の根に阻まれながらもなんとかマップを埋めていく。

「トレント出たよ!!」
「「了解」」

 樹々の隙間からズルズルと動くモンスターを発見し、戦闘に移った。新たに仕入れた黒鬼で連撃をお見舞いしつつ、チカのボムで焼き払いエリカのチャージライフルで風穴を開ける。
 二人も新調した武器を確かめながら戦闘を熟していく。二十万メタも払って手に入れたチカの長杖ことエンブリウス。マナ伝導率に優れ、尚且つ変換率も良いらしく、マナの消費が少なく済んで喜んでいる。おまけに軽量で耐久性もいい、流石、高級武器なだけある。

 今回から採用されることになったエリカのチャージライフル、モロズキ改。マッドな仕上がりのチャージライフルは言わずもがな、ゲシュタルトテキストなサチさん作成の武器だ。先細りした二つの構造、テキストにはスフィア構造と記載されてあるがここではあえて触れないことにしよう。
 二対に伸びた突起の中心から弾倉にチャージされた高密度のエネルギーを圧縮して撃ちだす。撃ちだす際、突起の内側を静電気が走り、弾倉からチャージされたエネルギー弾を分解した際に起こる崩壊のエネルギを利用して高出力のエネルギーを発射する仕組みらしい。
 高出力のエネルギー弾が敵に着弾すると空間をくり抜いたように風穴を開ける。私のイメージとしては小型の超電磁砲レールガンを撃っているように見える。

 ビィーンビィーン、っと音を立てて光の柱が跳ぶさまは爽快感満載だろう。反動も殆どないため快適そうだ。欠点を上げるとしたら銃が重いことくらいだろうか。

 そして私の持つ双剣、黒鬼。短刀であるため初期武器より若干短いが特に問題はない。握りやすいグリップなので力を入れなくても遠心力だけで難なく敵を切り裂ける。
 相変わらずカウンターはタイミングと威力調整に神経を使って難しいがチャージ連撃はとても快適で楽しい。黒い刀身が乱舞する際に時折、キラリと怪しく反射するのもポイントが高い。

「次!!」

 トレントの次は蜂型のモンスター、キラービーだ。黄色と黒の二色でカラーリングされたキラービーは強靭な顎と尻から覗く細く鋭利な針が特徴だ。主に尻から飛び出た針で差そうとしてくるので厄介だ。おまけに二十センチほどの体長なため本当に戦いにくい。

――グシャァ、ズブ、シャリーン

 右手に持つ短刀で正確に頭部を切り裂き、左手は別の獲物を探す。空を切りながら捉えたキラービーの胴体を横一線して分断した。体を回転させ連撃スキルに繋げる。
 体を回転させた遠心力に任せて双剣を斜めに切り上げ、片方ずつ斜めに切り裂き二匹仕留める。チャージ連撃に繋げるため再度斜めに切り上げた左手の黒鬼を水平に構え、右手の黒鬼でチャージ態勢移る。体内を走るマナが黒鬼へと流れていく感覚を見極めながら放つ。
 右手に持つ黒鬼がマナをうけ赤いラインが鮮明になり始めた頃、走りながら近くに居たマタンゴへと振り下す。左手でキラービーを袈裟斬り、活性化した体が自然と型どおり連撃を放っていく。

「クイック、フリーズ、エナジーレイン!」
「右は任せて!」
「お願いエリカちゃん!」

 連撃の最中でのエリカとチカが連携して近くのキラービーと応戦しているのがわかった。魔法の合間にアサルトライフルの連射音が響く。

「くっ、キラービーが多すぎる!!」
「これじゃキリがないわ!!」

 既に百体近く討伐しているが以降に止む気配がない。次から次へとキラービーが湧き続けこちらへ向かって来る。

――チリーン。
《特殊個体:クイーンビーが出現しました》

「うわぁっ!! 女王来るよ!!」
「この忙しいタイミングで!!」
「右にクイーン見えるよ!!」

 チカが森の右側はへと魔法を撃ち込んだ。クイックの魔法でマナ軽減したボムが空間を圧縮していき、盛大に爆発した。周囲の樹々を数本吹き飛ばしながら待機していたキラービーの一団の一部を壊滅させた。 
 続けざまにエリカがチャージライフルに切り替えクイーンを狙い撃つ。弾倉から吐き出されたエネルギー弾が静電気により融解し高出力のエネルギーが直線上へ光の柱を伸ばした。
 しかし、女王はエリカの攻撃をキラービーを何重にも壁にして防いだ。

「ギギィィイイイ!」

 女王の叫びで周囲に待機していたキラービーが突撃してきた。大量の羽音を鳴らせながら濁流のように押し寄せてくる。

「一旦、撤退すよ!! 流石に三人だけじゃ捌ききれない! 私が殿するから先に行って!」
「わかったわ! チカ、道を切り開くわよ」
「わ、わかった。ぼ、ボム!」

 なるべく二人の下へと行かせないよう何とか双剣を振るうがカバーしきれない。討ち漏らしたキラービーをエリカのアサルトライフルが小刻みに撃ち抜く。そしてチカが退路を確保するべく爆破魔法であるボムを連発、ポーション回復、連発と繰り返しながら進んでいった。

「痛っ!!」

 何度も連撃を繰り返すうち、双剣を振る速度が落ちてきためキラービーの攻撃を左腕に受けてしまった。チクリと針に刺された痛みを右腕に感じながらも連撃を繰り返していると、VSバーチャルスクリーンの端に毒状態を知らせるアイコンが表示された。

「毒った!!」
「私も!!」
「ちょっ今援護するから待っ、痛!! ……私も毒状態だ」

 三人して毒状態に陥ったその時、女王が羽をバタつかせ始めた。

――ブブブブブブ

「ギギギビャァアアアア!!」

 鼓膜をつんざく様な叫びと強烈な衝撃波が頭上から降り注ぐ。

――チリーン。
《特殊スキル:テリトリーが発動しました。リスポーン制限が掛かります》

「ちょっと!!」
「これはもう四の五の言ってないでアレを使うしかないみたいだね。二人とも覚悟はいい?」
「私はいつでもいいよ!」
「耐久が大幅に減るけど仕方ない。命には代えられないものね」

 二人に了解を得た。敵が特殊スキルを使うと言うならこちらも特殊スキルで応戦するしかない。

「「「朧火!!」」」

 特殊スキルである朧火を発動したことで各自の武器に蒼い炎が宿る。私は双剣に、エリカはチャージライフルに、チカは長杖に、それぞれ朧の炎がゆらゆらと地面へ影を落とす。

「行くよ!」

 朧火を発動したお陰か、武器の重みを殆ど感じなくなった。蒼い炎が宿った双剣を一振りする度、朧の炎が衝撃波のように広がり敵を蹂躙していく。

――ダダダダダダダダダ

 後ろではレート無視の高出力エネルギーの柱が幾重にも空中を駆け巡る。恐らく狙撃士のスキルであるバーストを使用したのだろう。凄まじい威力と光景だ。

「キュア、クイック、ウインドアロー、エナジーレイン!」

 エリカの横ではチカが身の丈を越える長杖、エンブリウスを巧みに操りながら魔法を繰り出す。回復を自身へ入れ、風の矢を放った後に風の属性を持ったエナジーレインが拡散しながら女王とその配下を襲う。
 天から高速で迫りくるエナジーレインがキラービーたちを貫いていく。貫かれたキラービー達はたちまち蒼い炎に包まれ粒子へと変わった。

 数百以上いたキラービーが一瞬にして壊滅。残り数匹とクイーンだけが残った。

「そんな肉壁、今の私には通じんわぁあああああ!!」

 両手を広げコマの要領で回転し残党を排除した。

「ブリッツ、ブリッツ、ブリッツ……隙ありぃいいいイイイ!!」

 短距離だけ瞬間移動するブリッツを連続使用して距離を強引に詰め、黒鬼で交差するように切り裂いた。

「ギギィィイイイイイイイイ!!」

――パリーン。
《特殊個体:クイーンビーを討伐しました。 報酬:女王の翅×1》

 盛大に光の粒を撒き散らし女王であるクイーンビーは消滅した。
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