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23.触らぬ神に…
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「キュビィ?」
胴体、頭部共に黒く目は赤い。頭から伸びる枝先には白いボンボン。この大森林には不釣り合いなモンスターを前にどう対処すればいいか私達は迷っていた。
基本的にモンスターはプレーヤーを認識すると襲い掛かってくる。稀に、先ほど大鹿を狩りそこなったが逃げるモンスターも存在するようだ。だが、目の前にいるモンスターはそのどちらとも違うようだ。
中立モンスター。ふとそんなことを思った。ゲームの中にはプレーヤーから攻撃をしかけない限り襲い掛かってくる事はない中立モンスターというものがある。以前プレーしていたVRゲームにもそう言った中立モンスターをよく見かけた。もしかしたら今目の前にいる黒い生物もその類ではないのか。
「ちょっ! そんなに近づいたら危ないって!!」
「大丈夫だって。……ほら、触っても攻撃してこない」
「いや、えぇっと、でも、ほら」
「ユーリ、言いたい事はわかるけど現実を受け入れましょう」
「キュビィ?」
「……はぁ、中立モンスターに触るかなぁふつう」
仕方なく切り株に腰かけた私はこの訳のわからないモンスターを観察することにした。
モンスター名は、クロンとある。種族は樹霊とあり精霊の一種だということが判明した。テキストには《大老木に宿り少しずつ生命を吸い取る黒精霊。老木を枯らし新たな若木へとエネルギーを循環させる役割を持つもの。基本的に性格は穏やかでその姿を見ることは極々稀だ。一度敵対した者を執拗に追いかけ回す習性があり、敵対すると頭頂部から生える綿毛が真っ赤に染まり襲い掛かってくる。神災級の強さを誇るため、迂闊に攻撃しない方が得策である。入手素材:???》
「うわぁ、こいつやばい奴じゃん。チカ、絶対攻撃しちゃダメだからね!!」
「わかってるわかってる、だってこんなに可愛いモンスターを攻撃するわけないじゃんかぁ」
「か、可愛いかは置いとくして……真面目に攻撃しちゃダメだよ?」
「わかってるって……はい、あーん!」
私の忠告を他所にチカはクッキーを取り出し餌付けし始めた。差し出されたクッキーに興味を持った黒精霊クロンがふわふわと綿毛を揺らし害がないか確かめている、ように見える。
「キュビィ、ビィビィ……ザクザクザク、キュビビィ!」
「美味しい? まだ沢山あるよ、ほら」
クッキーに害が無いことがわかったのかバリバリ食べ始めた。頭から生える綿毛を左右に揺らしながらクッキーをたべる姿は何とも……愛らしい? 不思議だ。
十枚ほど平らげた黒精霊クロンはふわっと消え去った。
「何だったんだろうね」
「何か貰ったよ!」
「えっ!! な、なに貰ったの?」
「えーっと、クロンの綿毛っていう……素材かな?」
「あの頭から生えてた綿毛のことかしら?」
「たぶん、恐らくは……」
取り敢えず価値を手っ取り早く知るため、マーケットでクロンの綿毛と検索を掛けてみる。しかし、検索結果は0件だった。
「マーケットには売ってないね。稀少な素材なのかも」
「ふーん、なら持っておこうかな。その内、錬金に使えるかもしれないし」
「ええぇ、流石に錬金に使うのは不味いんじゃない? 仮にその綿毛が超が付くほどレアな素材だったらどうするよ?」
「あぁそれもそうだね。金庫に入れとくかなぁ」
「それが良さそうね。それはそうと早く森の番人とやらを討伐しに行かない? ほら見て」
エリカが視線を向けた先、遠くの方にプレーヤーの一団が見えた。七、八人ほどが慎重に警戒しながらこちらに向かって来ている様子がわかった。
「まぁそうなんだけど、森の番人どこにいるのか分かんないんだよねぇ。この森って広大じゃん? 私達が探索したのってほんの少しだし」
「んーとなるともう少し奥まで進んでみるしかない、か」
「マップ埋めも兼ねて探し回って見るのもありだね。なんならテントとか買ってさ、野営してみる?」
「それ面白いかも! いいわねぇ、わくわくしてきた」
「よし、なら一旦町に戻って道具を買い揃えるか」
「わかったわ。チカもいいわね?」
「うん、おっけ。ちょうどクッキーの仕入れもしたかったから好都合だよ」
というわけで妖精都市エネラルに戻った私達は野営をする道具を揃えるため、道具屋に向かっていた。
「チカかぁー、さっきのドロップ品ちゃんと金庫に仕舞っときなよー」
「ふふん、もう預けたよ」
「ならよかった。……着いたよ」
いつものバーンズ工房にいるボリスにいい道具屋を教えてもらい赴いたのがここ、テマリ道具屋総本店。エネラルを中心として周辺各地の村や町に店を出店している有名な道具屋だとボリスが言っていた。
ここだったら良品の野営セットやその他、小物なんかも揃っていると教えてくれた。
――チリンチリン。
「いらっしゃいませ。テマリ道具屋へようこそ、本日はどういった品をお求めでしょうか?」
「あっ、野営用のテントとかってありますか?」
「はいございますよ。ご案内いたしますね」
出迎えてくれた店員に案内されたのはテントやランタン、鍋、乾燥薪といったレジャー関係のコーナーだ。金属の棚に分解されたテントが置かれ、野営に必要な道具が一通り揃っていた。
「へぇ釣り具もあるんだ。……ルアーも結構あるんですね」
「はい、釣り具関係は意外と需要がありまして。ご存知だとは思いますがエネラルの西に大きな湖があります」
「ああ、先ほどまでその付近で探索してました」
「そうなんですね。それでリキュウ湖と呼ばれる湖では魚が獲れるんですよ。有名なものだとリキュウフィッシュですかね、ポーションの材料や料理に使われて需要が高いんですよ! リキュウ鍋って料理があるくらいですからもしお時間がありましたら一度召し上がって見て下さい。味は私が保証します」
「ほほぉ、それは良い事を聞きました。是非とも食べてみたいですねそのリキュウ鍋……っとそれじゃこのテント一式を三つ、それ以外にも一通りお願いします」
「お買い上げありがとうございます」
テントについて詳しいことはわからないことが多いので初心者オススメのテント一式とその他、料理道具、釣り道具セット、燃料、ランタンなどまとめて購入した。しめて八千六百メタだ。
「ありがとうございました」
「こちらこそ、必要な物が見つかりましたら本店のご利用をお待ちしております」
テマリ道具屋で一式道具を手に入れた私達は早々西外門へ向かった。
「あっユーリ、ちょっと一回落ちるわ」
「ん? 何か用事でも思い出した?」
「ステータス画面の右端みて見て」
「ん? 右端……あぁもうそんな時間かー。確かに一旦落ちてご飯とか食べた方がいいかも」
画面の右端にある逆三角形で表示してある省略バーを押すと現実世界の体調を示すグラフが出てきた。それと現実の時間を表す時計も時を刻んでいる。
一時的な睡眠状態へ移行するフルダイブ型の機器には、こうやって現実の体をリアルタイムにモニタリング機能が備わっている。長時間潜り過ぎると警告も表示するため適度な休憩が必要だ。
エリカの言う通り、現実世界で午後十一時を回った頃合いだったので休憩がてら一旦ログアウトすることになった。
胴体、頭部共に黒く目は赤い。頭から伸びる枝先には白いボンボン。この大森林には不釣り合いなモンスターを前にどう対処すればいいか私達は迷っていた。
基本的にモンスターはプレーヤーを認識すると襲い掛かってくる。稀に、先ほど大鹿を狩りそこなったが逃げるモンスターも存在するようだ。だが、目の前にいるモンスターはそのどちらとも違うようだ。
中立モンスター。ふとそんなことを思った。ゲームの中にはプレーヤーから攻撃をしかけない限り襲い掛かってくる事はない中立モンスターというものがある。以前プレーしていたVRゲームにもそう言った中立モンスターをよく見かけた。もしかしたら今目の前にいる黒い生物もその類ではないのか。
「ちょっ! そんなに近づいたら危ないって!!」
「大丈夫だって。……ほら、触っても攻撃してこない」
「いや、えぇっと、でも、ほら」
「ユーリ、言いたい事はわかるけど現実を受け入れましょう」
「キュビィ?」
「……はぁ、中立モンスターに触るかなぁふつう」
仕方なく切り株に腰かけた私はこの訳のわからないモンスターを観察することにした。
モンスター名は、クロンとある。種族は樹霊とあり精霊の一種だということが判明した。テキストには《大老木に宿り少しずつ生命を吸い取る黒精霊。老木を枯らし新たな若木へとエネルギーを循環させる役割を持つもの。基本的に性格は穏やかでその姿を見ることは極々稀だ。一度敵対した者を執拗に追いかけ回す習性があり、敵対すると頭頂部から生える綿毛が真っ赤に染まり襲い掛かってくる。神災級の強さを誇るため、迂闊に攻撃しない方が得策である。入手素材:???》
「うわぁ、こいつやばい奴じゃん。チカ、絶対攻撃しちゃダメだからね!!」
「わかってるわかってる、だってこんなに可愛いモンスターを攻撃するわけないじゃんかぁ」
「か、可愛いかは置いとくして……真面目に攻撃しちゃダメだよ?」
「わかってるって……はい、あーん!」
私の忠告を他所にチカはクッキーを取り出し餌付けし始めた。差し出されたクッキーに興味を持った黒精霊クロンがふわふわと綿毛を揺らし害がないか確かめている、ように見える。
「キュビィ、ビィビィ……ザクザクザク、キュビビィ!」
「美味しい? まだ沢山あるよ、ほら」
クッキーに害が無いことがわかったのかバリバリ食べ始めた。頭から生える綿毛を左右に揺らしながらクッキーをたべる姿は何とも……愛らしい? 不思議だ。
十枚ほど平らげた黒精霊クロンはふわっと消え去った。
「何だったんだろうね」
「何か貰ったよ!」
「えっ!! な、なに貰ったの?」
「えーっと、クロンの綿毛っていう……素材かな?」
「あの頭から生えてた綿毛のことかしら?」
「たぶん、恐らくは……」
取り敢えず価値を手っ取り早く知るため、マーケットでクロンの綿毛と検索を掛けてみる。しかし、検索結果は0件だった。
「マーケットには売ってないね。稀少な素材なのかも」
「ふーん、なら持っておこうかな。その内、錬金に使えるかもしれないし」
「ええぇ、流石に錬金に使うのは不味いんじゃない? 仮にその綿毛が超が付くほどレアな素材だったらどうするよ?」
「あぁそれもそうだね。金庫に入れとくかなぁ」
「それが良さそうね。それはそうと早く森の番人とやらを討伐しに行かない? ほら見て」
エリカが視線を向けた先、遠くの方にプレーヤーの一団が見えた。七、八人ほどが慎重に警戒しながらこちらに向かって来ている様子がわかった。
「まぁそうなんだけど、森の番人どこにいるのか分かんないんだよねぇ。この森って広大じゃん? 私達が探索したのってほんの少しだし」
「んーとなるともう少し奥まで進んでみるしかない、か」
「マップ埋めも兼ねて探し回って見るのもありだね。なんならテントとか買ってさ、野営してみる?」
「それ面白いかも! いいわねぇ、わくわくしてきた」
「よし、なら一旦町に戻って道具を買い揃えるか」
「わかったわ。チカもいいわね?」
「うん、おっけ。ちょうどクッキーの仕入れもしたかったから好都合だよ」
というわけで妖精都市エネラルに戻った私達は野営をする道具を揃えるため、道具屋に向かっていた。
「チカかぁー、さっきのドロップ品ちゃんと金庫に仕舞っときなよー」
「ふふん、もう預けたよ」
「ならよかった。……着いたよ」
いつものバーンズ工房にいるボリスにいい道具屋を教えてもらい赴いたのがここ、テマリ道具屋総本店。エネラルを中心として周辺各地の村や町に店を出店している有名な道具屋だとボリスが言っていた。
ここだったら良品の野営セットやその他、小物なんかも揃っていると教えてくれた。
――チリンチリン。
「いらっしゃいませ。テマリ道具屋へようこそ、本日はどういった品をお求めでしょうか?」
「あっ、野営用のテントとかってありますか?」
「はいございますよ。ご案内いたしますね」
出迎えてくれた店員に案内されたのはテントやランタン、鍋、乾燥薪といったレジャー関係のコーナーだ。金属の棚に分解されたテントが置かれ、野営に必要な道具が一通り揃っていた。
「へぇ釣り具もあるんだ。……ルアーも結構あるんですね」
「はい、釣り具関係は意外と需要がありまして。ご存知だとは思いますがエネラルの西に大きな湖があります」
「ああ、先ほどまでその付近で探索してました」
「そうなんですね。それでリキュウ湖と呼ばれる湖では魚が獲れるんですよ。有名なものだとリキュウフィッシュですかね、ポーションの材料や料理に使われて需要が高いんですよ! リキュウ鍋って料理があるくらいですからもしお時間がありましたら一度召し上がって見て下さい。味は私が保証します」
「ほほぉ、それは良い事を聞きました。是非とも食べてみたいですねそのリキュウ鍋……っとそれじゃこのテント一式を三つ、それ以外にも一通りお願いします」
「お買い上げありがとうございます」
テントについて詳しいことはわからないことが多いので初心者オススメのテント一式とその他、料理道具、釣り道具セット、燃料、ランタンなどまとめて購入した。しめて八千六百メタだ。
「ありがとうございました」
「こちらこそ、必要な物が見つかりましたら本店のご利用をお待ちしております」
テマリ道具屋で一式道具を手に入れた私達は早々西外門へ向かった。
「あっユーリ、ちょっと一回落ちるわ」
「ん? 何か用事でも思い出した?」
「ステータス画面の右端みて見て」
「ん? 右端……あぁもうそんな時間かー。確かに一旦落ちてご飯とか食べた方がいいかも」
画面の右端にある逆三角形で表示してある省略バーを押すと現実世界の体調を示すグラフが出てきた。それと現実の時間を表す時計も時を刻んでいる。
一時的な睡眠状態へ移行するフルダイブ型の機器には、こうやって現実の体をリアルタイムにモニタリング機能が備わっている。長時間潜り過ぎると警告も表示するため適度な休憩が必要だ。
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