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雨霧つゆは

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22.連携と運用

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「それで、チカはどんな魔法を覚えてきたわけ」

 チカにも私とエリカが今回習得したスキルを大雑把にだが説明した。そして次はチカの番である。

「えぇーっと習得したスキルは全部で三つ。一つ目は皆が言ってた回復魔法“キュア”。対象一人を癒すスキル。二つ目が“フリーズ”。氷結系のスキルで杖先からブレスを放てるようになった」
「ブレス? ドラゴンが口から吐くあのブレス?」
「そうそうイメージとしては杖先からドラゴンブレスが出る感じ」
「それは凄そうなスキルね」
「もぐもぐ、んくっ……三つ目は“エナジーレイン”。このスキルはちょっと変わっててエナジーレインの前に発動した魔法の属性や一部効果を引き継いで攻撃できる魔法なんだ」

 チカの今回習得した魔法は三つ。一つ目は回復魔法であるキュア。対象を癒すスキルだ。やっと回復スキルがパーティーに加わったお陰で、よく被弾してポーションをがぶ飲みする私とおさらばだ。そうこのスキルは前衛職である私のためにあると言っても過言ではないスキルだ。

 二つ目はフリーズ。杖先からブレスの如く凍える魔法を放つスキル。射程がそこまで長くないことを除けば欠点らしい欠点はない。まあ近接魔法として運用する方が賢明といえよう。

 最後にエナジーレイン。チカの説明通りなら事前に使った魔法の特性を付与させた矢を放てるとか。修練場で行った時はボムの後に使ったエナジーレインに爆破属性が付与され、フリーズの後なら氷結属性がという感じらしい。ついでに言うとクイックの後にエナジーレインを使うとエナジーレインにクイックの特性が付与され、次の魔法のマナ消費が軽減されるとか。
 エナジーレイン自体そこそこマナを使うため、連発は禁物だが属性や特性を真似するので意外と使える魔法らしい。

「そんな感じかなぁ私は」
「おけおけ」
「そのエナジーレインだっけ? は使いようによっては面白そうな魔法ね。戦闘の時にいろいろ試してみたら?」
「うん、そのつもり。一服したし森に行く?」
「私はいいよ」
「私もいいわ」
「ならアダベル大森林に行きますか! っとその前に、クエスト受けていくよー」

 クエスト画面から《討伐依頼:森の番人一体討伐。報酬:巨木樹×1》というクエストを受注した。

「巨木樹が欲しいの?」
「いんや、ただ単に朧火の実験相手」
「ああーなるほど、理解した。森の番人のクエストを受ければいいのよね?」
「そうそう。チカも受けといてよー」
「わかったぁ」
「それじゃー出発!」


「はい到着!」

 喫茶店でクエストを受注し、駆け足でアダベル大森林へやって来た。プレーヤーがあちこちで戦闘を繰り広げているため場所取りに時間が掛かったがやっと戦闘開始だ。
 今回の戦闘で新スキルの扱いと運用、使い所を模索していくとしよう。

 現在地はエネラルから西へ一時間、リキュウ湖を北の方角へ十分ほど行ったところだ。前回の採取でお世話になった場所とも言える。

「おりゃぁぁあああ!」
「そっちに行ったわ!!」
「クイック、ボム、エナジーレイン!」

 連撃とは違った型のあるチャージ連撃を木人ことプラントネクターに叩きこむ。丸太でできた人形の脇腹、腹、腕、頭と順にチャージ連撃をお見舞いする度、皮がめくれ繊維が剥き出しになっていく。

 他にキノコ型のモンスター、マタンゴの群れが押し寄せるがチカが新たに習得したエナジーレインの餌食になった。ボム魔法の爆炎属性を身に付けたエナジーレインがチカから扇形に拡散して行き、標的へと次々に着弾していく。その様はまるで爆弾が投下されているようだ。

「スナイプ、スピニング」

――ダダダダダダダ……

 アサルトライフルにも持ち替えたエリカが閃撃の如く光の針で何もかも貫いていく。ファンタジー世界の世界観を真っ向からぶち壊す音に多少幻滅しつつも戦闘を繰り返していった。

「おっトレントだ! 私がいくよ」
「よろしく」
「じゃあ、瞑想でもしてようかな」
「よぉーし……カウンターの練習だ」

 地面をのそりのそりと根っこを使って器用に動くトレント目掛けて走り出す。半自動パッシブの俊足が発動して更に加速し、連撃である程度弱らす。そしてクロスカウンターの練習開始だ。

 まず始めに相手の攻撃方法である鞭のようにしなる蔓を観察する。風切り音をさせながら迫りくる蔦は何とも痛そうだ。蔓どうし絡み合ってできた蔓は本体であるトレントから離れれば離れる程、弘を描いて飛んでくる。その為、比較的間合いの取りやすい懐付近でカウンターの練習をすることにした。

 迫りくる絡み合った蔓に向かって左手に持つ剣をぶつけた。だいたいこの辺だろうと威力を調整した剣だったがあっさりはじき返された。そのままの勢いで吹き飛ばされた私は地面を転がった。

「キュア」

 すると体を緑のヴェールが包み、痛みが消えていく。

「ユーリー! 折角、マナ回復してるんだからあまり攻撃を喰らわないでよー」
「努力するー」
「私達は休憩してましょうか?」
「そうだねぇ」

 襲い来る蔓に何度もはじき返されながら丁度二十回目くらいでカウンターが決まった。

「はぁはぁはぁ、うっぁ」
「お疲れ、コツ掴めそう?」
「無理」
「はや! 諦めモード入った感じ?」
「流石にこれは無理だわ。明らかに難易度高すぎ。中上級者向けなのがよくわかるはーよく師匠はできるなぁ」
「いや、NPCは出来て当たり前じゃない?」
「まぁそれを言ったら元も子もないけどさ……」
「ぼちぼちやっていくしかないわね」
「だね」

 ちょうどいい切り株に三人して座りながらクッキーを頬張る。戦闘終わりに微妙なチョイスだがしっかりした甘さが美味だ。もさもさは否めないけど。

「…………ねぇあれって何のモンスターかなぁ」
「ん? どれどれ……鹿? さぁ普通のモンスターじゃない? 休憩が終わったら狩ってみる?」
「わかったー」
「どうやらあの角の部分は木でできてるみたい」

 そういうエリカはスコープを覗き込んでいた。

「あっ逃げたわ!!」
「なにぃい? こうしてはいられない、追いかけるよ!」

 急いで荷物を片付け大鹿を折った。だが曲がりくねった樹の根が邪魔で思うように進まない。注意して進まないと今にも転んでしまいそうだ。

 樹々の間を抜けながら未だ逃走を続ける白い大鹿。

「グバァアア!」
「邪魔!」
「グギャァァアア」
「クイック、フリーズ!」
「後は任せて!」

――パァーン

 よりによってもこのタイミングで赤黒いトレントが現れたが私が幹を削り、チカが足元を凍らせ、エリカが止めを刺す。連携はバッチリのようだ。

「だ、駄目だ追いつけない!」
「しょうがない、諦め、ましょう」
「はぁはぁふへぇー」

 軽快に走る大鹿に物理的に後れを取った私達たちは諦めざるを得なかった。もしかしたらレアなモンスターだったかもしれないと思いつつも、来た道を引き返した。
 先ほどまで休憩していた切り株まで戻ってきた。すると切り株の上にこれまた見たことのないモンスターが居座っていた。
 見た目五十センチほどの体長で丸い胴体と頭部。そして頭部から伸びる枝先には白い綿毛がゆらゆらしている。体表は黒く目は赤い。頭の綿毛は白と怪しさ満点のモンスターだ。
 その異質さに私を含めエリカもチカも固まっている。

「なにあれ、何だか怖いんだけど」
「……不気味ね」
「魔法撃ってみよっか?」
「「……」」

 何というかチカはいつでもマイペースだなと今更ながら思った。
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