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20.西の大森林
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大通りを抜け西の外門へ来た私達はそのまま外門を潜った。特にこれといって明確な理由はないのだが強いてあげるとすればまだ西側へ行ったことがないからだろうか。
当然、その理屈で行けば北側も含まれるわけだ。西側の探索を終われば次は北側の予定だ。
外門を通った際の浮遊感の後、西側の景色が飛び込んできた。東側と同様に森林地帯であることに変わりはない。しかし、その規模が全く違った。東側が森林地帯と言うなれば西側は差し詰め大森林といったところだろうか。
「つくづくこの妖精都市は森に囲まれてるわね。もしかしたら北側もここと同じ景色なのかしら」
「エリカの言いたい事もわかるけど、一応妖精の住処って設定だからしょうがないんじゃない?」
「まあ深く考えても仕方ないか」
「この森の名前、アダベル大森林って言うみたい。薬草がいっぱい生えてそう」
「これだけ植物が生えてたら薬草くらい余裕だよ。薬草以外にもキノコ類や木の実なんかも錬金術に使えるんじゃない?」
「錬金術自体まだ試したことないから分かんないけど、木の実とかも材料として使えると思う。一応使えそうなやつは採取しておこうかなって思ってる」
錬金術師からしたらまさに素材の宝庫だろうな。あの青々とした若木なんか使えそうじゃないか。この白いキノコだって薄っすら光を放っている。絶対、錬金術で使えそうだ。
実は大森林というほど樹々は込み合っていなかったりする。巨木がボンボンボンと一定の間隔で生えている感じだ。なので巨木と巨木の間はかなりの距離がある。地面は大きな根が飛び出しているが意外と歩きやすく平らだ。
巨木自体は見上げるほど高く、枝葉は頭頂部周りに密集しているが地上からは遥か天辺。見上げても正直枝葉と認識するのは難しい。
そんな広大なマップであるアダベル大森林をエリカとチカ三人で歩いていると遠くから金属音が聞こえてきた。
「他のプレーヤーが居るみたい」
「敵?」
「たぶん味方だと思う」
数分進んだ先、モンスターと戦う一団が見えてきた。構成は剣士二人と魔術師一人。剣士でごり押し、魔術師が補助を担当しているみたいだ。モンスターは蔦がうねっているので植物系のモンスターと推察した。
「へぇあんなごり押しでも行けるもんだね」
「でも魔術師一人に掛かる負担が大きすぎるからいつか躓くと思う」
「その点、私達はバランス良い構成だよね!」
「いや、私達もどっこいどっこいだと思うけどね。近接一人って……それに魔術師であるチカは一つも回復スキルもってないじゃんか」
「うぐっ、それを言われると頭が痛い。次町に帰ったら補助系か回復系のスキル覚えに行くよ」
「えっ、回復系のスキルもあったの!?」
「うん、あったよ。でもマーリン師匠がクイックがいいって……」
「なんて地雷魔術師なんだ」
「つ、次こそは回復スキル取るからいいもん!」
「これは次も変なスキルを習得してくるパターンよユーリ」
「その変なパターンはいらないから、普通に回復系のスキルを習得してきて」
回復系のスキルを差し置いて軽減系スキルを習得してくるとは。始め悪くないスキルだと思ったが思い違いも甚だしい。これはあれだ、習得する順番を間違えたんだ。けしてスキルが悪い所為では断じてない。ただ単にチカがアホな子だったということだ。
「というかそれならそのマーリン師匠だっけ? も軽減系のスキルを勧めるんじゃなくて回復系のスキルを勧めてくれればよかったのに」
「私が便利なスキルを教えてほしいって言ったから師匠が軽減系を勧めたのかも」
「それって単純にチカのミスじゃないかしら?」
「「……」」
そんなこんなで戦闘をしている三人組の近くまでやって来た。
「ん? あんた達は……仲間、だよな」
「陣営は同じだから味方だね。一応味方でも攻撃できるから気よつけてよ」
「おっおう」
「それじゃ!」
「おう」
互いに不干渉を貫いてその場をやり過ごした。
あっちはあっちで戦闘後だから疲労も蓄積しているはずだ。無暗に絡みたくないのはお互いさまだな。
すれ違って数分、私達も先ほどのつるを器用に振り回して攻撃してくるモンスターと接敵した。
「プラントアーチだってこのモンスターの名前」
「植物のアーチ? まあどうでもいい、私が攻撃するからカバーよろしく」
「任せておいて!」
今だ初期装備である私は深追いはせず、一定の間合いを保ちながら双剣で蔦を切り払っていく。
――ドォーン
相変わらず大きな音だ。チカのボムが蔦を巻き込み焼き払う。その隙に懐へ潜った私は切り結ぶ。蔦の中心部に核のような物が存在しその周辺を蔦が巻き付いて攻撃を防いでいる。
「エリカ!!」
「任せて」
――パァーン
エリカの狙撃により覆っていた蔦ごと貫いて核を破壊した。核を失った蔦はみるみる勢いを無くし最後には光の粒子へ変わった。
そんな感じで戦闘を数回熟し途中、休憩も挟みながらこのアダベル大森林を探索して行った。
「あれ見て」
最初に気づいたのはエリカだった。狙撃銃のスコープ越しに遠くのものが見えるのだから当然と言えば当然のことだ。
「うーん、湖?」
「結構大きいね」
「大体どのくらいだろう……10キロくらい?」
「それくらいありそうね。正直、大きすぎてどのくらいかなんて正確にはわからないけど」
「あー直径13・8キロだってこの湖」
「なんでそんなに詳しくわかるわけ?」
「だってマップをタッチすると出てくるじゃん」
「「? ……!!」」
チカの言った通り、マップに表示されている湖をタップすると詳細なデータがポップしてきた。名前はリキュウ湖というらしい。直径13・8キロの楕円型をした湖で巨大な淡水魚が採れるとある。その他にも水深四十メートルあって主が存在すると書かれている。
「このブラッドバスってこの湖の主の名前かな?」
「たぶんそうだと思う。基本的に気性は穏やかって書いてあるから戦いになる心配はしなくてよさそう」
「山の主みたく緊急の討伐依頼が来たりして……」
「流石にそれはないと思う、けど」
「「「………………」」」
「フラグ回収とはいかなかったみたいだね」
「無駄話はこのくらいにして、近場を探索して行きましょ。ついでに錬金術に使えそうなものも探してみましょうか」
西外門から西へ一時間ほど行った先、リキュウ湖という場所を探索することになった。道中、錬金術に使えそうな素材は各自採取してあるがこのリキュウ湖周辺はまた毛色が違う素材が生えていた。
試しにゼンマイっぽいくるっと丸まっている植物を引っこ抜いてみた。
――チリーン。
《ゼンマイ×1を入手しました》
ゼンマイを獲得したようだ。ゼンマイのテキストを確認してみるとあれこれ使い道が記載さていた。薬膳料理にもよく錬金素材としても使えるようだ。具体的な錬金できる情報も載っていてこのゼンマイは気付け薬の素材に使えるみたいだ。
ちなみにマーケットで価格をみて見ると百三十メタだった。
「いろんな素材があるわね。……ほらこれ見て」
「ん? なにこれ、白い苔? これも素材なの?」
「そう、これ一つで二千メタよ」
「ほぉーこの苔が二千メタするのかぁ」
エリカが樹にくっ付いている拳大の白い苔を渡してきた。ふわふわとした毛が特徴的で不思議な苔だ。
「ふむふむ、こういったところで素材を集め、そして資金を稼ぎスキルを身に付けたり装備を整えたりするのが王道っぽいね」
「そう考えると私達の通って来た道は邪道なのかもよ」
「別に王道だろうと邪道だろうと関係ないけどね」
「違いない」
それから暫くエリカと二人でぶらっとしながらリキュウ湖周辺の探索兼採取をまったり行った。その頃、チカはというと興奮気味に辺りを駆けずり回っているようだった。
当然、その理屈で行けば北側も含まれるわけだ。西側の探索を終われば次は北側の予定だ。
外門を通った際の浮遊感の後、西側の景色が飛び込んできた。東側と同様に森林地帯であることに変わりはない。しかし、その規模が全く違った。東側が森林地帯と言うなれば西側は差し詰め大森林といったところだろうか。
「つくづくこの妖精都市は森に囲まれてるわね。もしかしたら北側もここと同じ景色なのかしら」
「エリカの言いたい事もわかるけど、一応妖精の住処って設定だからしょうがないんじゃない?」
「まあ深く考えても仕方ないか」
「この森の名前、アダベル大森林って言うみたい。薬草がいっぱい生えてそう」
「これだけ植物が生えてたら薬草くらい余裕だよ。薬草以外にもキノコ類や木の実なんかも錬金術に使えるんじゃない?」
「錬金術自体まだ試したことないから分かんないけど、木の実とかも材料として使えると思う。一応使えそうなやつは採取しておこうかなって思ってる」
錬金術師からしたらまさに素材の宝庫だろうな。あの青々とした若木なんか使えそうじゃないか。この白いキノコだって薄っすら光を放っている。絶対、錬金術で使えそうだ。
実は大森林というほど樹々は込み合っていなかったりする。巨木がボンボンボンと一定の間隔で生えている感じだ。なので巨木と巨木の間はかなりの距離がある。地面は大きな根が飛び出しているが意外と歩きやすく平らだ。
巨木自体は見上げるほど高く、枝葉は頭頂部周りに密集しているが地上からは遥か天辺。見上げても正直枝葉と認識するのは難しい。
そんな広大なマップであるアダベル大森林をエリカとチカ三人で歩いていると遠くから金属音が聞こえてきた。
「他のプレーヤーが居るみたい」
「敵?」
「たぶん味方だと思う」
数分進んだ先、モンスターと戦う一団が見えてきた。構成は剣士二人と魔術師一人。剣士でごり押し、魔術師が補助を担当しているみたいだ。モンスターは蔦がうねっているので植物系のモンスターと推察した。
「へぇあんなごり押しでも行けるもんだね」
「でも魔術師一人に掛かる負担が大きすぎるからいつか躓くと思う」
「その点、私達はバランス良い構成だよね!」
「いや、私達もどっこいどっこいだと思うけどね。近接一人って……それに魔術師であるチカは一つも回復スキルもってないじゃんか」
「うぐっ、それを言われると頭が痛い。次町に帰ったら補助系か回復系のスキル覚えに行くよ」
「えっ、回復系のスキルもあったの!?」
「うん、あったよ。でもマーリン師匠がクイックがいいって……」
「なんて地雷魔術師なんだ」
「つ、次こそは回復スキル取るからいいもん!」
「これは次も変なスキルを習得してくるパターンよユーリ」
「その変なパターンはいらないから、普通に回復系のスキルを習得してきて」
回復系のスキルを差し置いて軽減系スキルを習得してくるとは。始め悪くないスキルだと思ったが思い違いも甚だしい。これはあれだ、習得する順番を間違えたんだ。けしてスキルが悪い所為では断じてない。ただ単にチカがアホな子だったということだ。
「というかそれならそのマーリン師匠だっけ? も軽減系のスキルを勧めるんじゃなくて回復系のスキルを勧めてくれればよかったのに」
「私が便利なスキルを教えてほしいって言ったから師匠が軽減系を勧めたのかも」
「それって単純にチカのミスじゃないかしら?」
「「……」」
そんなこんなで戦闘をしている三人組の近くまでやって来た。
「ん? あんた達は……仲間、だよな」
「陣営は同じだから味方だね。一応味方でも攻撃できるから気よつけてよ」
「おっおう」
「それじゃ!」
「おう」
互いに不干渉を貫いてその場をやり過ごした。
あっちはあっちで戦闘後だから疲労も蓄積しているはずだ。無暗に絡みたくないのはお互いさまだな。
すれ違って数分、私達も先ほどのつるを器用に振り回して攻撃してくるモンスターと接敵した。
「プラントアーチだってこのモンスターの名前」
「植物のアーチ? まあどうでもいい、私が攻撃するからカバーよろしく」
「任せておいて!」
今だ初期装備である私は深追いはせず、一定の間合いを保ちながら双剣で蔦を切り払っていく。
――ドォーン
相変わらず大きな音だ。チカのボムが蔦を巻き込み焼き払う。その隙に懐へ潜った私は切り結ぶ。蔦の中心部に核のような物が存在しその周辺を蔦が巻き付いて攻撃を防いでいる。
「エリカ!!」
「任せて」
――パァーン
エリカの狙撃により覆っていた蔦ごと貫いて核を破壊した。核を失った蔦はみるみる勢いを無くし最後には光の粒子へ変わった。
そんな感じで戦闘を数回熟し途中、休憩も挟みながらこのアダベル大森林を探索して行った。
「あれ見て」
最初に気づいたのはエリカだった。狙撃銃のスコープ越しに遠くのものが見えるのだから当然と言えば当然のことだ。
「うーん、湖?」
「結構大きいね」
「大体どのくらいだろう……10キロくらい?」
「それくらいありそうね。正直、大きすぎてどのくらいかなんて正確にはわからないけど」
「あー直径13・8キロだってこの湖」
「なんでそんなに詳しくわかるわけ?」
「だってマップをタッチすると出てくるじゃん」
「「? ……!!」」
チカの言った通り、マップに表示されている湖をタップすると詳細なデータがポップしてきた。名前はリキュウ湖というらしい。直径13・8キロの楕円型をした湖で巨大な淡水魚が採れるとある。その他にも水深四十メートルあって主が存在すると書かれている。
「このブラッドバスってこの湖の主の名前かな?」
「たぶんそうだと思う。基本的に気性は穏やかって書いてあるから戦いになる心配はしなくてよさそう」
「山の主みたく緊急の討伐依頼が来たりして……」
「流石にそれはないと思う、けど」
「「「………………」」」
「フラグ回収とはいかなかったみたいだね」
「無駄話はこのくらいにして、近場を探索して行きましょ。ついでに錬金術に使えそうなものも探してみましょうか」
西外門から西へ一時間ほど行った先、リキュウ湖という場所を探索することになった。道中、錬金術に使えそうな素材は各自採取してあるがこのリキュウ湖周辺はまた毛色が違う素材が生えていた。
試しにゼンマイっぽいくるっと丸まっている植物を引っこ抜いてみた。
――チリーン。
《ゼンマイ×1を入手しました》
ゼンマイを獲得したようだ。ゼンマイのテキストを確認してみるとあれこれ使い道が記載さていた。薬膳料理にもよく錬金素材としても使えるようだ。具体的な錬金できる情報も載っていてこのゼンマイは気付け薬の素材に使えるみたいだ。
ちなみにマーケットで価格をみて見ると百三十メタだった。
「いろんな素材があるわね。……ほらこれ見て」
「ん? なにこれ、白い苔? これも素材なの?」
「そう、これ一つで二千メタよ」
「ほぉーこの苔が二千メタするのかぁ」
エリカが樹にくっ付いている拳大の白い苔を渡してきた。ふわふわとした毛が特徴的で不思議な苔だ。
「ふむふむ、こういったところで素材を集め、そして資金を稼ぎスキルを身に付けたり装備を整えたりするのが王道っぽいね」
「そう考えると私達の通って来た道は邪道なのかもよ」
「別に王道だろうと邪道だろうと関係ないけどね」
「違いない」
それから暫くエリカと二人でぶらっとしながらリキュウ湖周辺の探索兼採取をまったり行った。その頃、チカはというと興奮気味に辺りを駆けずり回っているようだった。
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