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雨霧つゆは

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19.採掘

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「まさかユーリが私の会社を知ってるとは思わなかったよ」

――ザッ、ガツッ

「まぁね。親友のことなら何でも知ってるよ」

――ガッ、ガツッガツッ、ガツッ

「その発言何だか気持ち悪いわね」

――ガツッ、ザッ、ガガ……キーン

「気持ちわるいとは失礼な!」
「あっ、これじゃないかしら?」
「どれどれ」

 現在私達はホムラ山の内部にてせっせと採掘作業に勤しんでいた。山の主であるホムラに許可を取って良い鉱石が掘れる場所を教えてもらい、高密度の鉱石群がある場所をつるはし片手にひたすら掘る。
 お目当ては何といってもホムラ石。何かと出費の多い季節、資金稼ぎは重要だ。なぜなら武器、防具のメンテナンス代から素材購入までやることなす事すべてに金が掛かるからだ。

 さて、少し時は遡り三時間ほど前。一度ログアウトした私達はチカの退職届を会社に叩き付けるため代行サービスを依頼した。昔、といっても四年前だが私も依頼した事のある退職代行サービスだ。早い安い短いの営業文句が売りの代行サービスで、噂通りのサービスだった。

 チカが用意した退職届や印鑑、その他諸々の書類を渡して翌日には手続き完了した。なんとスマートな代行サービスかと頼んだ私も驚いた。私が依頼した時は三日ほど掛かったのだが以前よりも退職代行サービスに磨きがかかっていたようだ。

 そんなこんなで無駄な時間を割くことなく再びべゼルシス・オンラインにログインした私達は金を稼ぐためつるはしを三本買ってホムラ山に直行というわけだ。

「おぉーホムラ石だ」
「やった!」
「くぅー本職の私を差し置いて採掘するとは……採掘者の何たるかを教えて進ぜよう! 八ッ!」

――バキィーン……ドカドカドカ

「どうだ見たか!!」
「凄いわね!」
「うわぁホムラ石がたくさんある!」

 私のサブ職は採掘師。文字通り採掘をする職業だ。その特徴は何といっても採掘だ。採掘をする際、採掘道具を持つとステータスが一時的に上昇する。特に筋力のパラメータ補正が高い。
 数回ホムラ石を掘り当てただけで熟練度が二へ上昇。今のハイパワーダイナミック採掘で熟練度三へと到達した。

「私も私もぉ」
「ほらここ掘れワンワン!」
「ここ? よーし…………おおーホムラ石ゲットぉおおお!!」
「その感覚的に当たりがわかるスキル凄いわね。羨ましわ」
「採掘師の特権だね。そういうエリカも宝飾師なんだからホムラ石使って何か作ってみたら?」
「流石にこんな高価なもので試せないわよ。精々試すとしたら鉄鉱石がいいところよ」

 そう言うエリカのサブ職は宝飾師。金属や宝石を加工して装飾品、例えばブローチを作ったりできる職業だ。加工対象が金属、宝石、鉱石と限られるがなかなか面白そうな職業で、マーケットでも宝飾品は高値で取引されていることからも需要が高い職業だと言えよう。

 ついでにチカの職業も紹介しよう。チカの職業は錬金術師。メイン職業が魔術師なのでそれに寄せたと思われる。錬金術師は様々な物を使って錬金する職業だ。具体的な例で挙げると薬草を煮詰めて回復成分を抽出しポーションを作ると言った結構ハードルの高い職業だ。おつむの鈍いチカには相性が悪い職業かもしれない。
 ちなみにこれらのサブ職は変更することができる。サブ職変更権という権利を購入することで変更できる。その額なんと一千万メタ。目が眩む金額だ。

「それじゃあ鉄鉱石で試してみたら? 幾らエリカが採掘してもサブ職が違うから熟練度は上がらないよ。いざって時のために熟練度を上げておくことをおすすめするね」
「まあその内ね。今はいろいろ軌道に乗せるまで割ける時間がないでしょ?」
「確かに、エリカの言うことももっともだ」
「そうでしょ? それでいつまで掘るつもり? 結構ホムラ石は集まったようだけど」
「限界まで掘る予定。出来ればホムラ石は私達が独占したい」
「そこまでする?」
「理由はいろいろとあるんだけど……」

 エリカにホムラ石を独占するメリットを説明した。ホムラ石の需要は値段が上がる前にもある一定の需要があった。なぜならホムラ石が消耗品だからだ。バーンズ工房の店員ボリスが言っていたようにホムラ石は炉の温度を上昇させる効果がある。他にどういった使い道があるか知らないが現在知っているのは炉の温度を上げるってことだ。
 炉の温度を上げることで出来るのは何か? それは高純度、高密度の物質を溶かすことができることだ。するとどうなるか、必然的に高価だが加工することができなかった物質まで加工できるというわけ。

「ホムラ石を独占することで鍛冶師の炉を関節的に操れるってこと?」
「正解。ホムラ石以外に炉の温度を上げる素材があればアウトだけどね。でもその心配も当分ないと思う」
「なんでそう言いきれるの?」
「ボリスさんが言ってたじゃん。数ヶ月後には1000万に高騰するかもって」
「あっ確かに、そう言えばそんなこと言ってたわね」

 高額に高騰するってことはだ、それだけ需要が高まるわけで他の競合素材があまりないと推測できる。

「だからその大本であるホムラ石を独占しちゃえば市場をコントロールできるってわけ」
「なるほどね。こっちには山の神も味方してくれてるから現実的な話だ」
「そういうことー、だから掘るよ!! ホムラ石」
「リーダーの命令だから仕方ない、付き合ってあげる」
「エリカにもちゃんとメリットがあるんだよ?」
「メリット?」
「現金が稼げる」
「そうだ無駄話をしている場合じゃない! 掘って掘って掘りつくすわよ!」
「わかりやすいなぁーエリカは」

 それからはというもの採掘師の“直感”のスキルを頼りに採掘を進めて行った。採掘作業を始めてから大よそ四時間。大量のホムラ石を獲得した私達はそれぞれ三等分になるように分けた。
 大体現在の相場を三百万とした時、総額四千万メタだ。一人当たり一千三百万といったところか。しかしながら、市場をコントロールするだけの数を集めたとは到底言えない金額だ。

「資金が足りなくなったら今後も採掘をここで続けるからね」
「了解」
「はーい」
「んじゃ一旦帰還!」

 取り敢えずエネラルへ帰還することにした。流石に三人で四千万メタ近く所持しているのは正直怖い。 ロストした時の絶望感を想像したら身震いが止まらない。町についたら速攻、貸金庫行だ。

 ホムラ山から一時間かけ無事、エネラルへと帰還した私達は早々中央タワーへ向かった。マップ通りなら四階に目的地の銀行があるはずだ。

「エネラル中央銀行へようこそ」

――チリーン。
《中央銀行:銀行機能の解放。登録料0/10000 Yes/No》

――チリーン。
《銀行機能が解放されました》

 これで銀行の機能が解放された。すかさずステータス画面を開きホムラ石と三百万メタを入れた。

「ふぅこれで一安心と」
「これからどうする? また採掘に行く?」
「さっき帰り際にホムラちゃんから聞いたんだけど、暫くは大地の力を使って鉱物は増やせないみたい。力を使い過ぎたって言ってた」
「それは残念な知らせね。ならあの鉱石はじっくり倉庫で温めてから売るとしますか」
「それが良さそう」
「ねえねえ、あれって何だろう? お祭りかな?」

 エリカと今後のことで話をしている最中にチカが肘を突っついてきた。チカに促されるままに視線を向けた先にあったのは何やら見世物のようだ。大きいゾウ型の生き物に乗った仮面の男と下で何やら口上を述べてる二人組だ。
 そしてそれを囲むプレーヤーたち。不思議な光景を前に通行人たちの誰もが足を止める。

「何かの見世物じゃない?」
「チカ、行くわよ」
「あぁーもう!」

 チカをエリカが引っ張り大通りを進んで行った。向かう先は西の外門だ。
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