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雨霧つゆは

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16.新たな主

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 山の主を無事討伐することができた私達はそのままダンジョン外へと強制転送させられた。転送先は小屋の裏側。そこにはノブチカさんとホムラが心配そうに洞穴を見つめている姿が目に入った。

「おぉ! 無事討伐してくれましたか!!」

 目を輝かせんばかりのノブチカさんには悪いが、顔が近い。そんな興奮気味のノブチカさんに山の主討伐の報告を行った。

「あっ、それと勾玉砕けちゃった」
「山の主を倒した今となっては詮無きことです。無事、お三方が戻られただけでも上々です」
「そう言ってもらえると助かります。そう言えばあの勾玉ってどんな効果があったんですか?」
「一度だけ致命の一撃を防ぐ効果が備わっていると聞き及んでおります」
「ということはつまり、勾玉が砕けたってことは一度死んでるってこと?」
「そういうことになりますな」

 三種勾玉には一度だけ即死ダメージを防ぐ効果があったようだ。山の主が最後に放った毒玉っぽい攻撃を防いだのはそういうことだったのかと理解した。

「ユーリ、時間……」
「うん知ってる。残り二分切ったんでしょ? まぁ仕方ないんじゃない、今回は失敗ってことで」
「ユーリがそれでいいならいいけ」
「寧ろこっちこそごめん」
「いいのよ、気にしないで」

 山の主の討伐依頼自体は達成した。しかし、元々のホムラの意思というクエストはカウントを続けている。現在も58、57、56と秒数を刻んでいる。

「お話中誠に申しわけないのですが、継承の儀を執り行ってもよいですかな?」
「継承の儀?」
「時間もあまりないものですから……ささ、ホムラ様」
「うん、じい任せた」
「それでは――大自然の恵み、山の地流、新緑の風……」

 なにやら儀式が始まった。ノブチカさんが言うには継承の儀式らしいがいったい何をこれから行うつもりなのか皆目見当がつかない。継承というからには何かを引き継ぐ儀式なんだろうけど。

「――大いなる神々の祝福を与えたまえ」

 するとホムラの体から光が溢れ始めた。山からも淡い黄緑色の粒子が浮かび上がるとホムラへ流れていく。両手を広げながらいるホムラに光が集まり次第に神々しく輝き出した。

――チリーン。
《クエスト:ホムラの意思の目標を達成しました。 メイン目標達成報酬:ホムラ石 サブ目標達成報酬:白大蛇の鱗×5》

――チリーン。
《特別報酬:ホムラの祝福。Yes/No》

――チリーン
《ホムラの祝福を受けました》

「おおぉ!! 一気にクエスト達成した!!」
「なるほど、このクエストの目的ってホムラを山の主にするイベントだったか」
「そういうことになるわね」
「お陰様でお三方には大変お世話になりました。長年の願いでありましたホムラ様の継承も無事執り行うことができました。誠にありがとうございます」

 そう言ってノブチカさんとホムラが深々とお辞儀をしてきた。慌てて頭を上げるよう促す。そして暫く二人と話をしいろいろと情報を仕入れた。

 今回特別報酬であるホムラの祝福について効果を聞いてみた。内容はホムラ山で採掘をする際、稀少な鉱石を獲得しやすくなるというものだった。とてもありがたい祝福を頂いたと三人で喜んでいたがまだ効果があるらしい。
 祝福の効果は全部で三つ。一つ目は先ほど話した稀少鉱物の獲得率上昇。二つ目は炎系の魔法、技の熟練度上昇率アップ。そして三つ目は何とスキルを貰った。
 スキルの名前は“朧火”。効果は武器へ朧の炎を付与できるというスキルだ。試しにスキルを発動すると何の変哲もない双剣が蒼い炎に包まれ、カッコいい武器に変身してしまった。
 朧の炎を纏った武器には炎系最強とも言われる極炎属性が付与されるそうだ。

「極炎を纏った武器で斬られた者は例え表面的に消えたとしても内なる炎に蝕まれる、とありますな」
「えっ、それってヤバくない?」
「迂闊に使えないスキルね」
「最強スキルゲットだね!」

 更に朧火のスキルについてテキストを読むととんでもないスキルだということが発覚した。

「ちょっこのスキルヤバ過ぎ!! 二人もテキスト見てみなよ!!」
「…………これは極悪レベルのスキルね。ある意味チート級よ」
「おおぉ、エリカちゃんの言う通りまさにチートスキルだ!」

 朧火のテキストに書かれた内容を纏めるとこうだ。極炎属性を付与された者は体力を除く全ステータスが一時間だけ10%弱体化する。ついでに言うと最大三回まで重複可と補足にある。つまり最大30%相手のステータスを弱体化できると。まさにチート級のスキルだ。

「何よりこの重複三回までってところが恐ろしいわね。最大で30%? ぶっ壊れスキルね」
「ちっちっち、そこも確かに凄いのは認めるけど本当にこのスキルがぶっ壊れなのは別にあるんだなぁこれが」
「そうなの?」
「こんなやばいスキルをノーリスクで使える点にあるんだなぁこれが」
「た、確かに……ゴクリ」

 エリカは私が言った意味を理解したようだ。そうこのスキルの凄いところは制限が一切ないことだ。唯一の欠点である全魔力と引き換えという点だってこの極炎属性を付与できるなら些細な問題だ。それに効果時間十分というのもこのスキルをチート級たらしめている要因の一つだろう。

「ホムラ、山の主になれたの。お前達のお陰なの」
「うぅホムラたん!」
「山の主になると良い事でもあるの?」

 素朴な疑問をもったエリカの質問にノブチカさんが答える。

「山の主になるとこのホムラ山を自由にできるのです。例えば一年中暖かい季節にしたり、実り豊かにしたりと自在に操ることができます」
「それは凄いですね!」
「しかし、あまり大地の力を使い過ぎると山が衰える原因にもつながりますゆえ、無暗に使えないのです」
「もふもふ『や、やめるのです!』 ……環境を変えられるだけの力を使えば山が衰えるのは何となくわかる気がする」

 ホムラのケモ耳を堪能しながらノブチカさんの話に耳を傾ける。

「それだけ繊細な調節が必要である山の主にホムラちゃんがいきなりなって大丈夫なの? 普通じゃ考えられないけど」
「ホムラ様はもともと山神一族と呼ばれる一族の末裔なのです。山神一族は山を正常に保つ役割を与えられた神の一族で、潜在的に山を管理する能力が備わっています。末裔であるホムラ様も必然とそのお力をお持ちです」
「山神一族ね。ならあの白い蛇も山神一族なのかしら?」
「いえ、白蛇は他所から来た者です。もともとこの山は山神族であるホムラ一族が管理していた場所なのですが、いつ頃からかあの蛇が住み着いてしまったのです。数年で勢いを増した白蛇が当時の山の主を打倒するのは時間の問題でした。白蛇が山の主へとなり替わってから私どもは機会を覗っていました。しかし、我々の動きを察した山の主は年に一度、生贄を要求するようになりました」
「なるほど、何となく話が見えてきた気がするわ」
「はい、ホムラ様ご本人は山の管理は出来ても山の主を倒すほどの力はお持ちではないので、この現状を変えて下さる方々を切に願っておりましたところ」
「私達が来たってことね」
「そうでございます。お陰様でホムラ様が山の主へとなることができたのもお三方のお力添えあってのものです。改めてご助力感謝申し上げます」

 何度目かのお礼を受け取った。暫くホムラの狐耳を堪能した私達は二人と別れて妖精都市エネラルへ帰還することになった。強制クエストから地下牢幽閉、山の主の討伐といろいろあったが中々楽しいひと時だった。

「またおいでなすって下さい」
「はい! 採掘しに来ます!」

 ホムラとノブチカさんと別れた私達は元来た道を下り、橋を渡った。驚いたことに橋を渡った先にあった村はなくなっていた。

「このイベントのためだけに作られた村だったのかぁ。また凄い事するなぁ」
「きれいさっぱり無くなってるわね、驚きだわ」
「クイック、ウインドアロー」

 襲い来る鳥型のモンスター、アイアンバードをチカの放った風の矢が弘を描きながら突き刺さった。落ちてきた所を私が止めをさ……せなかった。

「くそっ初期装備じゃダメか」
「私がやるわ」

 狙撃銃を構えたエリカがアイアンバードの頭を撃ち抜き討伐した。

「マジ、どうにかしないと戦いにすらなってないなぁ」
「クエスト報酬で白大蛇の双牙だっけ? それでオーダーメイドして貰えばいいじゃない」
「まあその予定。鱗もあるからいいのができると思う」

 というわけで初期装備から脱するため町についたら武具屋に寄ることにした。
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