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雨霧つゆは

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14.地下牢

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「痛!!」
「うへぇ」
「ちっ」
「エリカちゃん、殺気が漏れてるよ」

 村長宅で捕まった私達ははなれにある地下牢へと入れられた。そこそこ広い地下牢は鉄格子越しに灯篭の光が届く程度の暗さだ。
 みんな掴まっているというこは同じ考えだったようだ。やはりこういう調査系は一番偉い人から情報がもらえることが多い。故に初歩的な攻略方法なのだが。

「どうなってんだか……」
「お前たちも捕まったのですか?」
「ん? そうなんだよ。わけわかんなくてさぁこっちは困って……誰?」

 自然と会話が成立してしまったがエリカでもチカでもない。幼い少女の声音だ。思わず固まってしまった。

「わ、わたしは……ほむら、ぐずっ」

 なぜか少女が泣き出した。

「いーけないんだーいけないんだー」
「やかましいわ! ふっ」
「あぅ」
「よしよし泣かないの……よしよし」
「ぐすっ、すん、んぐ……すん」
「エリカが子守りが上手いだなんて初めて知った」
「失礼ね、子守くらい私だってできるわよ」

 灯篭の光が弱くて始めの内はわからなかったが夜目が効いてくると自然とシルエットが浮かんできた。小さく膝を抱え牢屋の隅で丸くなっている少女の姿が目に入った。
 そして小さな頭からぴょこぴょこと可愛いケモモミが二つ起立している。暫くエリカが優しく頭を撫でるとぐずりも止んだ。

「ホムラちゃんは何でこんな所に入れられているのかな?」
「ほ、ほむらは……悪い子、だから」
「悪い子? ……どういう意味?」
「いや、私に聞かれても困るわよ」
「ならエリカが聞き出してよ。たぶんイベント絡みだと思う」
「……わかったわ」

 一先ず情報を聞き出す役をエリカにお願いするとして私は現状を整理することにした。

 まず、ひとつ思ったことがある。それはなぜ私達が捕まったのかといことだ。エリカたちも私と同様に村の情報を集めるなら村長の下へ行くのが手っ取り早いと思い、村人から村長宅の場所を聞きだして訪れたようだ。
 村長宅には誰もおらず中の様子を覗っているとき、たまたま外出していた村長が帰宅。村長は自身の家で何やら怪しい人物を発見。そして兵を呼ばれて捕まったと、そういう経緯らしい。そのあと偶然訪れた私もとばっちりを受けて捕まると……。

「これって私、悪くなくね?」
「なにがぁ?」
「いや、なんでもない」
「事情を聞いてきたわ」
「おおぉで、どうだった?」
「それが……」

 エリカがホムラから聞きだした話をまとめるとこうだ。とある昔、山の麓にある村には山の主を沈める儀式が毎年のように行われているようだ。毎年一人、若い娘を生贄に捧げることで村を守るという山の神との誓約が存在するそうだ。
 そして今年選ばれたのがホムラらしい。この地下牢に入れられて一ヶ月経つらしい。

「なんかゲームにして凝ってるよね」
「おいおいチカ君は夢のないこと言うなぁ……まぁゲームなんだけどさ」
「それでこの地下牢を出る方法でも見つけた? このままだとタイムオーバーで終わるわよ」
「それもそうだね。残り時間はっと、二時間と十分とそれじゃ取り敢えずこの地下牢から出るとしますか」
「出るとしますかって、どうやって出るか算段でも思いついたわけ?」
「まあ見てなって」

 こういった脱出方法のセオリーも熟知しているということをこやつら二人に知らしめるいい機会だ。私はセオリー通り地下牢の隅っこを手探りで探してみる。この手の脱出ゲームは部屋の隅に隠しスイッチやら仕掛けがあるものだ。

「んー無いか。じゃ次!」

 今度は壁だ。地下牢の壁面に触れるとボタンを押すのと同様に壁の一部が押せる仕掛けがあるのは定番中の定番。

「んー特にギミックのありそうな……場所はないか」
「ねぇ、まだぁー」
「うるさいなぁ、ちょっと待っててよ」


 ならば次は超有名な脱出方法……

「隙間抜け! 隙間開け! 格子変形!」
「何やってるわけ?」
「やー、これりゃ困ったなー、マジで抜け出せないや。意外とやばいかもね」
「あんねぇ・・・・・・。残り一時間三十分、本気で考えないと不味いはね」

 こうなったらセオリーもくそもない。手当たり次第、思いつく方法を試せるだけ試してみる。

「ぐぬぬぬぬ」
「無駄なのです。この地下牢は堅牢な作りになってるのです」
「あぁぁあああああ」

――ガァン

「おい、うるせぇぞ! 静かにしないとしばくぞ」
「は、はいぃぃ」

 鉄格子を蹴ってみたり、持ち上げて見たりとあれこれ試す内に思わず叫んでいたようだ。

「ユーリって意外とチキンだよね」
「なんとでも言ってろってんだ!」

 見張りに怒られてから三十分が経ち、残り一時間を切った。これは本当に不味い状況になってきた。

――ッッ、ガサ

「ん? 今、変な音しなかった?」
「ちょっとそういう冗談はやめて」
「いや、冗談じゃなくて……」

――ガサ……ザザッ

「ほら! 今ガサって」
「いい加減にしないと叩くわよ!」
「ちょっもしかして、エリカって……ホラー系が苦手だったリして」
「悪かったわね怖いのが苦手で!」

――ザッ、ガザザサ、ザ、ザ、ガサ……。

「いやほら聞こえない?」
「マジ冗談抜きで叩く」
「エリカちゃん怖いよぉ、目がすわってるよぉ」
「ほら!」

――ボコーン

「いやぁぁぁああああ」

――パチーン

「グベェッハッ」

 壁に人一人通れるくらいの穴が空くと同時に私の頬にも鋭い痛みが走った。あまりの勢いで私は鉄格子に頭をぶつけてしまった。

「い、痛ぁ~」
「ごっごめんなさい、つい勢いで」
「おぉー壁に穴が空いた! 凄い、流石ユーリ」

 どうやらチカは私が壁に穴を空けたと思っているようだ。

「ホムラ様! ホムラ様はおらぬか!」

 大きな穴の向こうから忍びの格好をした覆面が出てきた。覆面は牢に入ると同時にホムラの名前を連呼した。

「じい!!」

 その声に反応したホムラがじいと呼んだ覆面の下へ駆け寄り、抱き着いた。

「よくぞ御無事でホムラ様!!」
「じいも元気そうでなのです。良かったのです!」
「ささ、参りますよ」
「うん!」
「ちょっと参るってどこに行くつもりですか?」
「ん? こちらの方々は?」
「あの村長に無実の罪で捕まった者達なのです」
「そうでしたか。ささ、お三方もついて来て下さいな」
「あっこれはどうも」

 覆面の言われるがまま私達は地下牢を脱出した。

 この覆面、ホムラのことをホムラ様と呼んでいた。ということはだ、ホムラは高貴な身分のご息女なのでは? ふとそんなことを思いつきながらも覆面が案内する獣道を私達三人は進んで行った。

 地下牢を抜け、崖下を川が流れる橋を渡り、急斜面の丘を登った先に小さな小屋へと辿り着いた。

「狭い場所ですがご勘弁をホムラ様」
「気にしないでいいのです」
「それは良かった。お三方もこちらへ」

――カンカンカンカンカン

 覆面促されながら私達は小さな小屋に入った。すると遠くの方ではけたたましい鐘の音が鳴り響き始めた。

「なんか遠くから鐘の音が聞こえるね」
「私達が脱走したからじゃない?」
「恐らくそうだと思うわ……それはそうと、貴方がいったい誰なのか教えてもらえるかしら?」
「私の名前はノブチカ・イイエモンというものです。代々ホムラ様の付き人をしている者です」

 そう言って男は覆面を脱ぎ去った。皺が幾重もあり年季の入った顔が現れた。名をノブチカ・イイエモンというらしい。失礼だがとても変な名前だ。

「この度は、ホムラ様を危険な者達からお救い頂き誠にお礼申し上げます」
「いえいえ、こちらは何もしてませんよ! むしろ救われた身です!」
「そんな謙遜なさらずとも私はわかっています。それよりひとつお願いしたいことがあるのです」
「お願いですか?」
「はい。お三方には是非とも、山の主を倒してもらいたいのです」

 ふむ、討伐依頼発生のようだ。
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