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雨霧つゆは

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13.新装備

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「いや、リリア・バーンズ知らんし誰だよそれ」

 私以外の二人がセットを買ったため泣く泣く私も買う羽目になった。所持金の半分をはたいて買った防具セットだったが装備してみると案外悪くない。
 見た目に反して着心地はよく何より軽い。それでいて動作の邪魔にならない細かな配慮が施されていた。

「バーンズ工房、恐るべし」

 装備を一新した私達はまたもやボッソ平原へと繰り出した。今回特にエリカとチカは新な武器を手に入れたのでその試運転と性能の調査が主な目的だ。

「それじゃ私から」

 アンクルホーンの群れに対しておおよそ百メートルくらい離れた所からエリカが構えた。照準を合わせて引き金を引く。

――ダダダ、ダダダ、ダダダ

 断続的な音が鳴り響きアンクルホーンに着弾していく。今回エリカが買ったセットには遠距離武器である狙撃銃ではなく中距離のアサルトライフルが入っていた。
 三十発入りのマガジンを使い切ったところでアンクルホーンの群れは光の粒へと変わっていた。

「なんか狙撃士、チートくさ」
「人気なのもわかるねぇ」
「人気なくて悪かったわね」
「えぇーそんなこと言ってないってばぁ」
「次、チカ」
「うっうん」

 エリカの次はチカだ。魔術士らしく黒いローブを纏い、先がくるっと捻じれた長杖を持って前に出た。

「クイック、ウインドアロー、クイック、ボム」

 後から聞いた話なのだがクイックは基本マナを使うことはない。だがマナを込めることで次の魔法のマナ消費を大幅に軽減できるらしい。マナを使ったクイックは紫色の光の波動を周囲に撒き散らす。
 ここがファンタジー世界だということを感じさせてくれるくらいには綺麗なエフェクトだ。

 チカの放った一本の風の矢と爆破魔法は一体のアンクルホーンを貫き、三体を巻き込んで消滅した。こちらの攻撃に気づいた残りのアンクルホーンが突進してくる。

「任せて!」

 颯爽と駆けながら二本の剣を抜いた私はすれ違いざまに振り抜いた。瞬く間に三体を葬り去り、残り二体のアンクルホーンも始末した。

「剣は剣の綺麗さがあるよねぇ」
「そうね。剣の軌跡が魔法とは違った別の綺麗さがあるわよね。これで魔剣なんかあったらもっと綺麗かも」
「ま、けん……がく」
「あっユーリが倒れた」
「そんな鈍らでもまだまだ使えるわよ」
「ちょっそんな傷口に塩を塗るようなことを!」

 そんなこんなでアンクルモンスターを狩って行った。エリカのアサルトライフルにチカの魔法。どちらも威力が前の装備より格段に取り回し威力共に上がっているので新装備の性能は及第点といったところか。
 しかし、なんだが先を越された気分だ。いや、実際に性能としては先を行かれたんだけども。

「またプレーヤーがいるわね。何かの狩場なのかしら」

 前回プレーヤーと思しき者達に遭遇した場所でまたエリカがプレーヤーを発見した。前回同様、猪型のモンスターと交戦中のようだ。

「今回は剣、剣、魔法、魔法……召喚、かな?」
「召喚? テイマーとか召喚士てきなやつか」

 エリカによると赤黒い狐が火球をだして援護しているそうだ。

「レアモンスターの狩場なのかもね。妖精陣営の人かな?」
「それはないわ。赤いプレーヤーマーカーが付いているから他の陣営だと思う」
「そうか……メルさんが言っていたのがこれか」
「メル、っていうとあの忍者の……」
「うん、他の陣営がうろついてるからって言ってたやつ」
「そう言えば、あれから連絡は取ったの?」
「いや、まだ取ってない。そんな時間なかったから」
「ふー、じゃ前回と同じく撤退?」
「そうだね、そうしよっか」

 猪狩りをしている他プレーヤーを他所に私達は再び撤収することに決めた。といっても町に帰るわけじゃない。いろいろ仕入れた情報を試しに行く予定だ。

「東に向かうよ」
「バーンズ工房の人が言ってた……何とか山の?」
「ホムラ山ね」
「本当に掘りに行くつもり?」
「そりゃもちのろんですよ! 初期装備のままでいられるかってんだ!」

 新装備を調達した際、バーンズ工房の店員に資金調達をどうしたらいいか聞いてきた。すると町から東へ一時間くらいの所にホムラ山があると教えてくれた。そのホムラ山ではいろんな鉱物が掘れるから取れるだけ取って資金にするといいとのアドバイスをもらった。
 中にはレアな鉱石も取れるらしく、売れば一儲けできるとか。

 ホムラ山で採れるのは主に鉄鉱石と銀鉱石、レアなやつだとミスリル鉱石やヒヒイロガネ、そして掘れれば一獲千金のホムラ石だ。小石ほどのホムラ石で大体現在の相場でいくと八十万メタくらいだそうだ。

「てなわけで資金調達しにホムラ山に行くぞー!」
「おー!!」
「ついでに私の剣も作るぞー」
「おー!」
「……」
「ほらエリカちゃんも」
「えっ、お、おー」


***


 一度町へ帰還した後、東のホムラ山に向けて東外門を通り抜けた。そのまま東の森林地帯を道に沿って歩き、途中、二股の分かれ道を左に進んだ先がホムラ山だ。

 標高が高く山の頂に薄っすら雪が積もっていて周囲を雲が覆っている。話ではこの山で間違いなさそうだ。

「たしか麓に村があるって、あれかな?」

 ホムラ山の麓には昔から山を祀る村があるという話だ。視界の先、霧がかかったような村が見える。村の周囲に灯篭のような物が辺りを照らしている。

「へぇーなんか和って感じの村だねぇ。なんか田舎を思い出す」
「たしかに綺麗な装飾品ね。現代でいうところの灯篭祭りみたいなものかしら」
「きれーい」

 エリカの言う通り、近づいてみるとより灯篭祭りが伝統なんですとでも言わんばかりの村だ。特に門もなく灯篭の道を三人で進み村へ踏み入れた。

――チリーン。
《クエスト:ホムラの意思を開始します》

「えっ強制イベント!!」
「ちょっ不味くない!?」
「強制イベントかぁ、おっ時間制限付きだ」
「なんでチカはこうも呑気なのかねぇ」
「さぁ、そんな事よりどうするのよ! カウントが始まってるわよ!」

 村に足を踏み入れた瞬間強制イベントとは。それも時間制限付きのイベントだ。ちなみに制限時間は三時間で時間内に何かをすればクリアのようだ。

「まあまあ落ち着いて。こういう系のセオリーはまず村人の話を聞くことから始まるの。恐らく何かしらの問題を抱えていると思うからそれを解決すればクリアなはず」
「な、なるほど。流石、伊達にオンラインゲームをやってないわね」
「まあね。それより早く聞き込み調査するよ」
「手分けした方が良さそうね」
「だね。三十分後、ここに集合で」
「わかったわ」
「はーい」
「それじゃ、聞き込み開始!」

 セオリー通り私達はまず村の聞き込み調査を行った。三つに分かれ片っ端から村人と話して回る。石畳を歩きながら木造づくりの家々がまるで和風をイメージして作られたように思えた。たぶん気のせいではないだろう。

「すみません。少し話をお聞きしたんですが」
「んお? ホムラには初めてかい?」
「はい、先ほど着いたばかりで」
「ならゆっくりしてき。ここは美味しい物が沢山あるで」

 まず手始めに杖を突いているお爺さんに話し掛けてみた。あれこれ話してみたが村の良さを話すだけでクエストに関係していそうな話は一つも出なかった。

「キーマンがいるはずなんだけど……すみません、この村の村長さんってどこにいるか知りませんか?」
「おや、村長さんかい? それならこの通路を真っ直ぐ行って大通りを左に進んで行くと白い建物があるよ。そこが村長の家さね」
「ありがとうございます」

 おばさんに言われた通り、大通りに出て左へ、そして上り坂を進んで行った。すると聞き慣れた声が聞こえた。

「曲者だ! 地下牢に入れろ!」
「ちょっと待ってください。私はただお話をお聞きしたくて村長さんにお会いする為にここに――」
「――小賢し嘘を。そうやって儂の家に忍び込もうとしたのだろう!!」
「な、なんでそうなるんですか!!」
「うまうまぁー」
「エリカ! チカ! いったいどうしたの?」
「わかんない。村長を尋ねたらいきなり捕まって」
「ふむ、もう一人おったか。捉えよ」
「えっちょっ、どこ触って! うあ!」
「曲者を牢屋へ入れておけ!!」

 なぜかは知らないがどうやら私達は捕まったらしい。
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