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雨霧つゆは

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12.武具屋

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 隠し要素に近いレベル解放クエストを受注してボッソ平原にいるサイ型のモンスターを三百体討伐を果たしたまでは良かった。レベルもちゃんと解放され表記されるようになった。しかし、レベルが解放されたところで今のところ恩恵を一つも感じていない。

「あれ? 贈り物が届いてるよ」
「ん? 贈り物? どれどれ」

 慌てて確認すると確かに1件贈り物があることがわかった。

――チリーン。
《称号:解放者を獲得しました》

「なんだ、称号か」
「称号が解放されたね。装備、はできないか」
「称号装備で幾らかステータスにボーナスが付いたりするもんね普通のゲームだったら」

 紅茶とクッキーをおかわりしながら暫くレベルについて話し合った。称号についてもボーナス補正があるのではと期待したがそう甘くはなかった。一時間ほど経った頃、喫茶店を出た。

 レベルを解放するという目標を達成した後のことを考えていなかったので一先ず戦闘しようということになり、再びボッソ平原へ赴いた。
 
 サイ型のモンスターであるアンクルホーンの群れを横断しながら戦闘に突入。二振りの剣で剣舞をお見舞いして更に南下していく。エネラルの南外門から出発してボッソ平原を抜け南へおおよそ一時間ほど経過した。

「アンクルシープにアンクルホーク、アンクルスモールタイガーであっちがアンクルライダーっと」

 ボッソ平原を更に南下していくとアンクルシリーズのモンスターが増えてきた。独特な着色と身体的な特徴がそれぞれのモンスターの個性を表していて覚えるのにそう苦労はしない。

「待って! プレーヤーがいるわ」
「えっ!」
「ちょっ隠れるところないよ!」
「伏せるよ! エリカはそのままプレーヤーを見てて」

 ボッソ平原を探索しつつアンクルモンスターを狩っていたときだ、不意にエリカがプレーヤーを発見した。その数四人。大盾、剣士、魔法使い、盗賊とバランスの良い構成で戦闘を行っているらしい。肉眼で確認するにはだいぶ遠い距離だ。

 見つからないよう私達は地面から生える草に紛れて伏せた。

「なにと戦ってるかわかる?」
「大きい、猪っぽいのと戦ってる。盾が猪の攻撃を防いで剣士と盗賊が攻撃、魔法使いが補助って感じの戦いかたね」
「んーどうしよ、できれば接敵したくないんだよね。数的にこっちが不利だし、おまけに初期装備」

 レベル解放やスキルの習得で忙しく遠まわしにしてきた。というかそっちまで手が回らなかったというべきか。

「それでどうする? 戦闘が終わったらこっちに来る可能性もあるわよ」
「もち、町に全速力で帰る!」
「やっぱりか」
「私が先頭を走るから二人はその後をついて来て」
「じゃあ私エリカちゃんのカバーはいるよ。その武器じゃ戦うのは難しいそうだから」
「お願いするわ」
「それじゃ……3、2、1、ゴー!」

 体を起こしプレーヤーとは逆の方角へ可能な限り早く走る。途中、アンクルホークが絡んでくるがチカがボムの魔法で妨害、進路上に落ちてきた奴だけ剣で切り飛ばす。十分ほど全力で北へ走り一旦後方確認を行う。
 プレーヤーがこちらを追いかけて来ているということもなく無事やり過ごせた。

「んー切れ味落ちてきてるっぽいね」
「消耗品だからしょうがないんじゃない?」
「確かにね。なら町に帰ったら装備品覗いてみよっか?」
「それが良さそう。早いとこ初期装備を変えたいところよね」

 行に一時間ほど掛かった道を三十分ほどかけて町に帰ってきた。マップを見ながら武器や防具などが売られている区画へ向かった。

 数ある武具屋の中から良さそうな店をピックアップし三人で話し合いながら決めた。何店舗かはしごする予定ではある。まず、一つ目、ハンス武具店からだ。

――カランカラン。

「いらっしゃい!」

 ドアベルの音が鳴り響くのと同じくらいに中肉中背の男が声を掛けてきた。

「武具を見せてもらっていいですか?」
「あいよ」

 店内を物色しながら各自の装備を見ていく。
 まず私が見て回ったのはもちろん武器だ。二対一組でセット売りされている双剣コーナーへ。所持金は戦闘で集めた分を含めて四千メタ程なのであまりいいのは買えない。武器以外にも防具も見繕わないといけないのでなかなかやり繰りが大変だ。

 棚に交差して置かれている双剣。各武器から値札が垂れ下がっている。安くても千五百メタから二千メタは掛かりそうだ。

「ふむふむ、ローエン渾身の力作ツバキ改。ハヤブサの如き素早い連撃ができ尚且つ品質も良いオススメの一品、3000メタ。次、ローエン自慢のコスパ重視武器ヒイラギ。たなびく風の如く軽やかな切れ味で誰もが納得する一品、2800メタ。次、ローエン会心の出来栄え浪剣、野生染みた見た目とは裏腹に繊細な切れ味と優しい握り心地。使用者に優しい一品、3500メタ」

 何故かローエンという鍛冶屋からの卸が多い。大体7割以上がローエン作で何とも笑える売り文句と共に飾られていた。中には私好みの双剣もあったが軽く予算オーバーするほどの金額だった。

 双剣以外の武器や防具を見て回ったがどれもローエン作だ。エリカとチカも微妙な顔をしていたので次の店に移ることにした。

 続いて二軒目、バーンズ工房。このお店はオーダーメイド品やモンスターからドロップしたアイテムを加工したりと中級者向けっぽい店だった。

「すみません。このお店には双剣って売ってないんですか?」
「んだー双剣だべか? んなマイナーな武器は置い取らんべ」
「えっ双剣ってマイナー何ですか!?」
「そうだべなぁ、マイナーちゅうよりかは人気のないジョブだべな。取り回し、扱い、金額や消耗具合を考えれば誰もなりたがらないだべな。だからうちでは置いとらんべよ」
「でも、さっき寄ったハンス武具店は置いてありましたけど」
「んだーローエンのとこの武具屋か。よしなよしな、あんな見てくれだけの武器なんぞ買う価値もねぇだべ」
「そ、そうなんですか……買わなくてよかった」
「双剣ならオーダーメイドになるげど、どうするだべ?」
「んーあまり軍資金がないので今回は止めときます。ちなみにオーダーメイドだとどのくらい掛かりますか?」
「そうだべなぁ、最低でも一万メタは掛かるだべな。それに加工費を入れても二万メタくらいだべか」
「二万……」

 アンクル系のモンスターを二千体討伐する計算だ。やはりオーダーメイド品はお金がかなり掛かるようだ。

「すみません、この魔術師セット一つ下さい!」
「私も、この超軽量薄型防弾服セットと7.62の弾を三十発下さい」
「ちょっ!」
「毎度ありだべ。それぞれ3500メタだべ、弾は追加で50メタだべ…………確かに」

 なぜか狙撃士と魔術士のセットは売っているという理不尽。なぜ双剣士セット売ってないし。おまけに初心者向け用に詳しい説明が書かれた広告まで張られている始末だ。

「なぜ双剣は売っていない、理不尽だバーンズ許すまじ」
「ユーリも防具だけでも買ったら? ここの武具店、なかなか良いのが揃ってるわよ」
「お嬢さん、お目が高いだべ。この武具屋はあの名高いリリア・バーンズが一から丹精込めて打ってあるからどの品も良品だべ」
「いや、リリア・バーンズさん自体知らないんだけど、エリカの言う通り品揃えは良さそうだね」
「あのリリア・バーンズを知らないだべか!?」
「そうなんですよぉ。私達、初めてなもので」
「いやチカよ、NPCの話に間に受けなくても……そうじゃなくて、私も防具買う!」
「毎度ありだべー」

 こうして私は二千メタの防具セットを購入したのだった。
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