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10.クエスト
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本日二度目のログインを果たした。噴水広場前に私を含めエリカとチカ三人で降り立つ。噴水広場は一時間ほど前より格段にプレーヤーが増えていた。
「それでこれからどうする? 取り敢えず選択肢としてさっき覚えたスキルの試運転と連携を試すためにも戦闘して熟練度を上げるのが定石そうだけど」
「それもそうなんだけど、ほらさっきチカが言ってたやつを試そうかなって」
「解放クエストの話?」
「そうそうそれ。戦闘行く前にギルドに寄ってこ」
「了解。チカもそれでいいわね?」
「はーい」
昼食を摂っているときのことだ。皆が習得したスキルについて話が盛り上がっているときに、チカがこんなことを言った。
『そう言えばマーリン先生が妙なことを言ってたんだけど、レベルを解放していない者が初めての修練者とは嘆かわしいって』
『それって……』
『そのままの意味、じゃないかしら』
『私の時は何にもなかったけど』
『私も』
『『……』』
『ん? どうかした?』
というやり取りが裏であった。クロードがレベルについて話した覚えもないし触れる素振りすらなかった。単に私が話を振らなかったというのもあるのだがチカの師範だけボソッと零したらしい。
このVRMMOにはレベルが存在する。初めてギルドに寄った時、受付嬢は『確認されていません』と言っていた。裏を返せば確認されていないだけでレベル自体存在しないというわけではない。何らかの条件が存在していてその条件を満たしていない所為で確認されていないだけかもしれない。どういった条件なのかは定かではないけどスキルを習得する、が解放の引き金になっていることも十分にありえる。
それを確かめるため再度ギルドに寄ろう、そういう話だ。
「おぉ、ギルドも賑やかになってるねぇ」
「確かに。この人数じゃ待たないといけない」
ギルドの受付は全部で六つ。そのどれもが長蛇の列をなしていた。ファンタジー特有の多種多様な種族が織りなすギルドを見るとこれぞVRMMOって感じの印象を受ける。
ヒューマンからウンディーネ、サラマンダーにシルフ、角の生えたヒューマン。ヒューマン?
「ねぇエリカ、角の生えたヒューマンって種族あったっけ?」
「恐らくデミヒューマンじゃないかしら。見た目は同じだけど角が特徴的だってテキストにはあったわね」
「あれがデミヒューマンかぁ。へぇーじゃあ、あの猫っぽいのがケットシー……?」
「次の方どうぞ」
「あっはい!」
なんとなく違和感を感じた気がするがちょうど私達の順番が回って来た。
「すみません。クエストについて聞きたいんですが」
「クエストですね。クエストに関してはお手元のプレーヤー画面にてクエスト受諾申請を行えますのでそちらの方から申請をお願いします」
「あっそれと――」
「――ちっ、いつまで掛かってんだよ。おせーはぁ」
「おいおいギルドってもうこんなに込んでんのかよ」
後ろに並ぶ他プレーヤーのぼやきに冷や汗が流れる。
「いえ、ありがとうございました」
「それでは次の方どうぞ」
私達三人はいそいそとギルドを後にした。ギルドを出た後も絶え間なくプレーヤーの行き来が激しさを増し、落ち着いて話もできないので場所を変えることした。
ギルドから離れ南外門へと続く大通りを避け、脇道を移動する。植物の蔦先に芽吹くつぼみが淡く発光して脇道を照らす。お陰で暗くて歩きにくいということはない。
「ギルドの方はだいぶ出入りが激しくなってきてるわね。さっきの様子じゃおちおち受付と話なんかできやしないわ」
「確かにね。けどこれでギルドに用はなくなったよ」
「どう言うこと?」
「そのままの意味。私が思ってたギルドって言うのは何かしらのクエストを受注したり報告したりするものだと思ってたんだけど違ったみたい。ギルドはあくまでもクエストや何かのこまごまとした申請の手続きを処理する場所って置き換えると考えやすいかも」
「処理……、それってあくまでも処理する場所であって実際に申請なんかは別ってこと?」
「そう。さっきの受付嬢がクエストはプレーヤー画面で申請を行えますよって言ってたんだけど、恐らくステータス画面から直接クエストを受注できる仕様なんだと思う。その方が合理的で効率的だからね」
クエストを受けるためにわざわざ直接ギルドを訪れないといけないとは非効率だ。妖精陣営の人口がどのくらいいるのか知らないが仮に一万人と仮定するととてもじゃないが捌ききれないだろう。
そう言った観点や実際にプレーヤーとしてゲームを楽しむ場合、まどろっこしい現実的な問題はなるべく排除したいはずだ。仮想世界に来てまでごちゃごちゃ面倒な手続きはしたくない。
「ホントだ。ステータス画面の下に現在のクエスト状況ってのがあって受注や進行状況、達成率なんかも細かく載ってるよ」
「本当、初期にしては結構クエストが豊富ね」
「ふむふむ、どれどれ……おぉ確かに沢山ある…………あったよ解放クエスト」
「えっ、どれどれ!」
「下から六番目」
「あった!」
三十種類くらいクエストが一覧されている欄の下から六番目に目的のクエストが表示されていた。
「なになに、解放クエストはスキルを三つ以上習得した場合のみレベルを解放できる……なるほど、私達は運が良かったみたいだね」
「ええ、そうね初修練者だけに与えられた無料習得権とでも言えるボーナスが無かったら大分遅れることになったわ。今から10万メタ溜めるってなると何日掛かるか想像できないわね」
エリカの言う通り、現状十万メタ溜めるのは大分根気が必要だ。というのも一回の戦闘で手に入るメタが数十メタほどだからだ。もう少し強いモンスターを倒せばそれなりに貰えるかもしれないけど、現状だとどうしてもスキルの熟練度を上げるのが先になるだろう。そうして狩れるモンスターの幅を広げていってお金を溜める、このルートが序盤の攻略の流れになりそうだ。
「取り敢えず二人とも解放クエストを受けといて」
「わかったわ」
「ほーい」
「それとこの事は他言無用だよ。特にチカ! 気よつけてよね」
「なんでそこで私が出てくるのぉ」
「あなたが一番そそっかしいからに決まってるじゃない」
「まぁこの話はこの辺にして外に出るよ」
二人を伴って急いで私は町を飛び出した。南外門から真南を目指して南下していく。
「町の南側にボッソ平原があるんだけ?」
「このクエスト表記通りならね」
解放クエストの詳細欄には達成条件が書かれていた。指定された場所のモンスターを一人百体討伐。妖精都市の南側にあるボッソ平原という場所でモンスターを狩ればクエスト達成のようだ。
「でも実施には三百って表記されてるよ? バグかな?」
「多分、私達がパーティーを組んでるせいだと思う」
「ああ、なるほど」
「となると勘のいいプレーヤーと被る前に早く達成したいってことで急いでるわけね」
「その通り。10万メタなんてこの短時間で物理的に集められるわけないから少ないと思うんだけど。この世界もリアルマネー持ち込めるかなぁ何とも言えない」
「課金となると10万だもんね。そうそう課金する人はいないと思うけど、暇を持て余した人なんて幾らでもいるし……ユーリの言う通り早くモンスター狩って達成したいね」
「うん。……実はそれだけじゃないんだけどね」
この手のVEMMOは基本PKが許されている。むしろこっちが本命といっても過言ではないかもしれない。殺伐とした雰囲気もMMOならではのものだろう。
故に狩場で鉢合わせした時なんかギスギス感が最高潮に達するわけだ。
「あれ! なんとか平原じゃない?」
「ボッソ平原ね」
「ボソボソ平原!!」
「あっこら! 魔術師が先にいくなぁ!!」
チカが脱兎のごとく走り一番乗りを果たした。その後を私とエリカも続いた。
「それでこれからどうする? 取り敢えず選択肢としてさっき覚えたスキルの試運転と連携を試すためにも戦闘して熟練度を上げるのが定石そうだけど」
「それもそうなんだけど、ほらさっきチカが言ってたやつを試そうかなって」
「解放クエストの話?」
「そうそうそれ。戦闘行く前にギルドに寄ってこ」
「了解。チカもそれでいいわね?」
「はーい」
昼食を摂っているときのことだ。皆が習得したスキルについて話が盛り上がっているときに、チカがこんなことを言った。
『そう言えばマーリン先生が妙なことを言ってたんだけど、レベルを解放していない者が初めての修練者とは嘆かわしいって』
『それって……』
『そのままの意味、じゃないかしら』
『私の時は何にもなかったけど』
『私も』
『『……』』
『ん? どうかした?』
というやり取りが裏であった。クロードがレベルについて話した覚えもないし触れる素振りすらなかった。単に私が話を振らなかったというのもあるのだがチカの師範だけボソッと零したらしい。
このVRMMOにはレベルが存在する。初めてギルドに寄った時、受付嬢は『確認されていません』と言っていた。裏を返せば確認されていないだけでレベル自体存在しないというわけではない。何らかの条件が存在していてその条件を満たしていない所為で確認されていないだけかもしれない。どういった条件なのかは定かではないけどスキルを習得する、が解放の引き金になっていることも十分にありえる。
それを確かめるため再度ギルドに寄ろう、そういう話だ。
「おぉ、ギルドも賑やかになってるねぇ」
「確かに。この人数じゃ待たないといけない」
ギルドの受付は全部で六つ。そのどれもが長蛇の列をなしていた。ファンタジー特有の多種多様な種族が織りなすギルドを見るとこれぞVRMMOって感じの印象を受ける。
ヒューマンからウンディーネ、サラマンダーにシルフ、角の生えたヒューマン。ヒューマン?
「ねぇエリカ、角の生えたヒューマンって種族あったっけ?」
「恐らくデミヒューマンじゃないかしら。見た目は同じだけど角が特徴的だってテキストにはあったわね」
「あれがデミヒューマンかぁ。へぇーじゃあ、あの猫っぽいのがケットシー……?」
「次の方どうぞ」
「あっはい!」
なんとなく違和感を感じた気がするがちょうど私達の順番が回って来た。
「すみません。クエストについて聞きたいんですが」
「クエストですね。クエストに関してはお手元のプレーヤー画面にてクエスト受諾申請を行えますのでそちらの方から申請をお願いします」
「あっそれと――」
「――ちっ、いつまで掛かってんだよ。おせーはぁ」
「おいおいギルドってもうこんなに込んでんのかよ」
後ろに並ぶ他プレーヤーのぼやきに冷や汗が流れる。
「いえ、ありがとうございました」
「それでは次の方どうぞ」
私達三人はいそいそとギルドを後にした。ギルドを出た後も絶え間なくプレーヤーの行き来が激しさを増し、落ち着いて話もできないので場所を変えることした。
ギルドから離れ南外門へと続く大通りを避け、脇道を移動する。植物の蔦先に芽吹くつぼみが淡く発光して脇道を照らす。お陰で暗くて歩きにくいということはない。
「ギルドの方はだいぶ出入りが激しくなってきてるわね。さっきの様子じゃおちおち受付と話なんかできやしないわ」
「確かにね。けどこれでギルドに用はなくなったよ」
「どう言うこと?」
「そのままの意味。私が思ってたギルドって言うのは何かしらのクエストを受注したり報告したりするものだと思ってたんだけど違ったみたい。ギルドはあくまでもクエストや何かのこまごまとした申請の手続きを処理する場所って置き換えると考えやすいかも」
「処理……、それってあくまでも処理する場所であって実際に申請なんかは別ってこと?」
「そう。さっきの受付嬢がクエストはプレーヤー画面で申請を行えますよって言ってたんだけど、恐らくステータス画面から直接クエストを受注できる仕様なんだと思う。その方が合理的で効率的だからね」
クエストを受けるためにわざわざ直接ギルドを訪れないといけないとは非効率だ。妖精陣営の人口がどのくらいいるのか知らないが仮に一万人と仮定するととてもじゃないが捌ききれないだろう。
そう言った観点や実際にプレーヤーとしてゲームを楽しむ場合、まどろっこしい現実的な問題はなるべく排除したいはずだ。仮想世界に来てまでごちゃごちゃ面倒な手続きはしたくない。
「ホントだ。ステータス画面の下に現在のクエスト状況ってのがあって受注や進行状況、達成率なんかも細かく載ってるよ」
「本当、初期にしては結構クエストが豊富ね」
「ふむふむ、どれどれ……おぉ確かに沢山ある…………あったよ解放クエスト」
「えっ、どれどれ!」
「下から六番目」
「あった!」
三十種類くらいクエストが一覧されている欄の下から六番目に目的のクエストが表示されていた。
「なになに、解放クエストはスキルを三つ以上習得した場合のみレベルを解放できる……なるほど、私達は運が良かったみたいだね」
「ええ、そうね初修練者だけに与えられた無料習得権とでも言えるボーナスが無かったら大分遅れることになったわ。今から10万メタ溜めるってなると何日掛かるか想像できないわね」
エリカの言う通り、現状十万メタ溜めるのは大分根気が必要だ。というのも一回の戦闘で手に入るメタが数十メタほどだからだ。もう少し強いモンスターを倒せばそれなりに貰えるかもしれないけど、現状だとどうしてもスキルの熟練度を上げるのが先になるだろう。そうして狩れるモンスターの幅を広げていってお金を溜める、このルートが序盤の攻略の流れになりそうだ。
「取り敢えず二人とも解放クエストを受けといて」
「わかったわ」
「ほーい」
「それとこの事は他言無用だよ。特にチカ! 気よつけてよね」
「なんでそこで私が出てくるのぉ」
「あなたが一番そそっかしいからに決まってるじゃない」
「まぁこの話はこの辺にして外に出るよ」
二人を伴って急いで私は町を飛び出した。南外門から真南を目指して南下していく。
「町の南側にボッソ平原があるんだけ?」
「このクエスト表記通りならね」
解放クエストの詳細欄には達成条件が書かれていた。指定された場所のモンスターを一人百体討伐。妖精都市の南側にあるボッソ平原という場所でモンスターを狩ればクエスト達成のようだ。
「でも実施には三百って表記されてるよ? バグかな?」
「多分、私達がパーティーを組んでるせいだと思う」
「ああ、なるほど」
「となると勘のいいプレーヤーと被る前に早く達成したいってことで急いでるわけね」
「その通り。10万メタなんてこの短時間で物理的に集められるわけないから少ないと思うんだけど。この世界もリアルマネー持ち込めるかなぁ何とも言えない」
「課金となると10万だもんね。そうそう課金する人はいないと思うけど、暇を持て余した人なんて幾らでもいるし……ユーリの言う通り早くモンスター狩って達成したいね」
「うん。……実はそれだけじゃないんだけどね」
この手のVEMMOは基本PKが許されている。むしろこっちが本命といっても過言ではないかもしれない。殺伐とした雰囲気もMMOならではのものだろう。
故に狩場で鉢合わせした時なんかギスギス感が最高潮に達するわけだ。
「あれ! なんとか平原じゃない?」
「ボッソ平原ね」
「ボソボソ平原!!」
「あっこら! 魔術師が先にいくなぁ!!」
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