べゼルシス・オンライン

雨霧つゆは

文字の大きさ
上 下
10 / 38

10.クエスト

しおりを挟む
 本日二度目のログインを果たした。噴水広場前に私を含めエリカとチカ三人で降り立つ。噴水広場は一時間ほど前より格段にプレーヤーが増えていた。

「それでこれからどうする? 取り敢えず選択肢としてさっき覚えたスキルの試運転と連携を試すためにも戦闘して熟練度を上げるのが定石そうだけど」
「それもそうなんだけど、ほらさっきチカが言ってたやつを試そうかなって」
「解放クエストの話?」
「そうそうそれ。戦闘行く前にギルドに寄ってこ」
「了解。チカもそれでいいわね?」
「はーい」

 昼食を摂っているときのことだ。皆が習得したスキルについて話が盛り上がっているときに、チカがこんなことを言った。

『そう言えばマーリン先生が妙なことを言ってたんだけど、レベルを解放していない者が初めての修練者とは嘆かわしいって』
『それって……』
『そのままの意味、じゃないかしら』
『私の時は何にもなかったけど』
『私も』
『『……』』
『ん? どうかした?』

 というやり取りが裏であった。クロードがレベルについて話した覚えもないし触れる素振りすらなかった。単に私が話を振らなかったというのもあるのだがチカの師範だけボソッと零したらしい。

 このVRMMOにはレベルが存在する。初めてギルドに寄った時、受付嬢は『確認されていません』と言っていた。裏を返せば確認されていないだけでレベル自体存在しないというわけではない。何らかの条件が存在していてその条件を満たしていない所為で確認されていないだけかもしれない。どういった条件なのかは定かではないけどスキルを習得する、が解放の引き金になっていることも十分にありえる。
 それを確かめるため再度ギルドに寄ろう、そういう話だ。

「おぉ、ギルドも賑やかになってるねぇ」
「確かに。この人数じゃ待たないといけない」

 ギルドの受付は全部で六つ。そのどれもが長蛇の列をなしていた。ファンタジー特有の多種多様な種族が織りなすギルドを見るとこれぞVRMMOって感じの印象を受ける。
 ヒューマンからウンディーネ、サラマンダーにシルフ、角の生えたヒューマン。ヒューマン?

「ねぇエリカ、角の生えたヒューマンって種族あったっけ?」
「恐らくデミヒューマンじゃないかしら。見た目は同じだけど角が特徴的だってテキストにはあったわね」
「あれがデミヒューマンかぁ。へぇーじゃあ、あの猫っぽいのがケットシー……?」
「次の方どうぞ」
「あっはい!」

 なんとなく違和感を感じた気がするがちょうど私達の順番が回って来た。

「すみません。クエストについて聞きたいんですが」
「クエストですね。クエストに関してはお手元のプレーヤー画面にてクエスト受諾申請を行えますのでそちらの方から申請をお願いします」
「あっそれと――」
「――ちっ、いつまで掛かってんだよ。おせーはぁ」
「おいおいギルドってもうこんなに込んでんのかよ」

 後ろに並ぶ他プレーヤーのぼやきに冷や汗が流れる。

「いえ、ありがとうございました」
「それでは次の方どうぞ」

 私達三人はいそいそとギルドを後にした。ギルドを出た後も絶え間なくプレーヤーの行き来が激しさを増し、落ち着いて話もできないので場所を変えることした。

 ギルドから離れ南外門へと続く大通りを避け、脇道を移動する。植物の蔦先に芽吹くつぼみが淡く発光して脇道を照らす。お陰で暗くて歩きにくいということはない。

「ギルドの方はだいぶ出入りが激しくなってきてるわね。さっきの様子じゃおちおち受付と話なんかできやしないわ」
「確かにね。けどこれでギルドに用はなくなったよ」
「どう言うこと?」
「そのままの意味。私が思ってたギルドって言うのは何かしらのクエストを受注したり報告したりするものだと思ってたんだけど違ったみたい。ギルドはあくまでもクエストや何かのこまごまとした申請の手続きを処理する場所って置き換えると考えやすいかも」
「処理……、それってあくまでも処理する場所であって実際に申請なんかは別ってこと?」
「そう。さっきの受付嬢がクエストはプレーヤー画面で申請を行えますよって言ってたんだけど、恐らくステータス画面から直接クエストを受注できる仕様なんだと思う。その方が合理的で効率的だからね」

 クエストを受けるためにわざわざ直接ギルドを訪れないといけないとは非効率だ。妖精陣営の人口がどのくらいいるのか知らないが仮に一万人と仮定するととてもじゃないが捌ききれないだろう。
 そう言った観点や実際にプレーヤーとしてゲームを楽しむ場合、まどろっこしい現実的な問題はなるべく排除したいはずだ。仮想世界に来てまでごちゃごちゃ面倒な手続きはしたくない。

「ホントだ。ステータス画面の下に現在のクエスト状況ってのがあって受注や進行状況、達成率なんかも細かく載ってるよ」
「本当、初期にしては結構クエストが豊富ね」
「ふむふむ、どれどれ……おぉ確かに沢山ある…………あったよ解放クエスト」
「えっ、どれどれ!」
「下から六番目」
「あった!」

 三十種類くらいクエストが一覧されている欄の下から六番目に目的のクエストが表示されていた。

「なになに、解放クエストはスキルを三つ以上習得した場合のみレベルを解放できる……なるほど、私達は運が良かったみたいだね」
「ええ、そうね初修練者だけに与えられた無料習得権とでも言えるボーナスが無かったら大分遅れることになったわ。今から10万メタ溜めるってなると何日掛かるか想像できないわね」

 エリカの言う通り、現状十万メタ溜めるのは大分根気が必要だ。というのも一回の戦闘で手に入るメタが数十メタほどだからだ。もう少し強いモンスターを倒せばそれなりに貰えるかもしれないけど、現状だとどうしてもスキルの熟練度を上げるのが先になるだろう。そうして狩れるモンスターの幅を広げていってお金を溜める、このルートが序盤の攻略の流れになりそうだ。

「取り敢えず二人とも解放クエストを受けといて」
「わかったわ」
「ほーい」
「それとこの事は他言無用だよ。特にチカ! 気よつけてよね」
「なんでそこで私が出てくるのぉ」
「あなたが一番そそっかしいからに決まってるじゃない」
「まぁこの話はこの辺にして外に出るよ」

 二人を伴って急いで私は町を飛び出した。南外門から真南を目指して南下していく。

「町の南側にボッソ平原があるんだけ?」
「このクエスト表記通りならね」

 解放クエストの詳細欄には達成条件が書かれていた。指定された場所のモンスターを一人百体討伐。妖精都市の南側にあるボッソ平原という場所でモンスターを狩ればクエスト達成のようだ。

「でも実施には三百って表記されてるよ? バグかな?」
「多分、私達がパーティーを組んでるせいだと思う」
「ああ、なるほど」
「となると勘のいいプレーヤーと被る前に早く達成したいってことで急いでるわけね」
「その通り。10万メタなんてこの短時間で物理的に集められるわけないから少ないと思うんだけど。この世界もリアルマネー持ち込めるかなぁ何とも言えない」
「課金となると10万だもんね。そうそう課金する人はいないと思うけど、暇を持て余した人なんて幾らでもいるし……ユーリの言う通り早くモンスター狩って達成したいね」
「うん。……実はそれだけじゃないんだけどね」

 この手のVEMMOは基本PKが許されている。むしろこっちが本命といっても過言ではないかもしれない。殺伐とした雰囲気もMMOならではのものだろう。
 故に狩場で鉢合わせした時なんかギスギス感が最高潮に達するわけだ。

「あれ! なんとか平原じゃない?」
「ボッソ平原ね」
「ボソボソ平原!!」
「あっこら! 魔術師が先にいくなぁ!!」

 チカが脱兎のごとく走り一番乗りを果たした。その後を私とエリカも続いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

最後に言い残した事は

白羽鳥(扇つくも)
ファンタジー
 どうして、こんな事になったんだろう……  断頭台の上で、元王妃リテラシーは呆然と己を罵倒する民衆を見下ろしていた。世界中から尊敬を集めていた宰相である父の暗殺。全てが狂い出したのはそこから……いや、もっと前だったかもしれない。  本日、リテラシーは公開処刑される。家族ぐるみで悪魔崇拝を行っていたという謂れなき罪のために王妃の位を剥奪され、邪悪な魔女として。 「最後に、言い残した事はあるか?」  かつての夫だった若き国王の言葉に、リテラシーは父から教えられていた『呪文』を発する。 ※ファンタジーです。ややグロ表現注意。 ※「小説家になろう」にも掲載。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...