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01.VRMMO
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薄暗い部屋。照明を一切付けずモニターから放たれる科学光だけが唯一室内を照らしていた。画面の変化に伴って青白く光も形を変え部屋に影を作り出す。
モニターに映るのは私が最近意識して見始めた攻略サイトだ。様々な角度と幾多の検証によって得られた攻略情報が事細かくかつ見やすく記載されている。攻略サイトの名前は『べゼルシス・オンライン完全攻略サイト』という。
現在、オンラインゲームの多くが仮想空間内へプレイヤーの五感をダイブさせるフルダイブ型のシステムが主流だ。私がネットで漁っているべゼルシス・オンラインというゲームもまたその一つだ。
右手に持つマウスでモニターのカーソルを動かし情報を閲覧していく。青と白の二色を上手く使い爽やかな印象に仕立てているこの完全攻略サイト。閲覧者の視点に立ち、シンプルかつ見やすい配慮がされ他の攻略サイトと差別化を図ろうと意識しているところに私は運営者の努力を感じた。
ここ数週間、このサイト自体には何度も訪れている。既に繰り返し読み込んだ記事が頭に浮かぶほどだ。それでも毎日この攻略サイトへ訪れるのは新しい攻略情報が更新されていないかチェックするためだ。
今日も今日とて新たな情報が更新されていないかサイト内を隈なく見て回ったがお目当ての情報はなかった。もはや日課になりつつある更新チャックを終えた私はふと思い出した。このオンラインゲームの概要について見ていないことに。
ところでゲームを始める際、二通りのパターンがあると私は思っている。前者はゲームに付属する説明書を読む者、後者は説明書を読まない者。説明書にはゲームのあらすじまたはストーリーといった部分と始めるうえで必要な操作システムが書かれていて、説明書を読む読まないはプレイヤーの裁量に委ねられる。付属する情報を熟読して始めるかあるいは実際にプレイすることで身に付けながら理解していくかは人それぞれだが、私はどちらかというと後者の分類に入りそうだ。
モニターに表示される攻略サイト内をスクロールしてべゼルシス・オンラインについて紹介されているであろうリンクにとんだ。画面は逸早く切り替わり概要が載ったページへと移動する。
ありきたりな紹介記事と考察が載せられたページを興味なさげにスクロールし、概要が記載されてある場所へ辿り着く。
ベゼルシス・オンライン。プレイヤーの五感を仮想世界へトランスさせる技術、トランスファーユニットエンジンを採用したVRMMORPG。テクシス社が提供する次世代還元システムが売りのオンラインゲームで、プレイヤーは古龍、獅子、不死鳥の三つの陣営に分かれて資源やアイテムを奪い合う。奪った資源やアイテムを使って自陣営を育成したり自身の武器を強化したりと幅広いやり込み要素が存在し、最終的に他陣営すべてを征服した陣営が勝利者となる。
ここまでがべゼルシス・オンラインを簡単にまとめた概要だ。PvPやPvEがメインではあるがその中にも各種の育成といったやり込み要素が魅力的なオンラインゲームだ。だがこのゲームの最大の売りはそこではない。それじゃあ何が最大の売りなのか? と問われればこう答えるだろう、次世代還元システムと。
他VRゲームにも功績によって幾らかカムバックする還元システムがある。賞金稼ぎと呼ばれる――換金を元に生活をする――者がいるくらい現代の還元システムは充実している。そんな中、一年前に発売されることになったべゼルシス・オンラインは大きな反響を生んだ。
次世代と謳っているこの還元システムだが、一番の売りは何といってもゲーム内通貨をリアルマネーに換金できることだろう。還元という言葉が正しいのか分からないが仮想世界のお金が現実のお金へと換金できる。夢のようなシステム。そして換金レートは一分の一、つまりリアルマネーを一万分稼ごうと思ったら仮想世界の通貨を一万稼げばいい。
現代ではまずありえない高換金レートに当時は大きなニュースになった。そのお陰かべゼルシス・オンラインのソフトは発売から一年経った現在も入荷待ちの状態だ。この可笑しな状況でもべゼルシス・オンラインの人気は衰えるどころか増すばかかり。
その一旦を作っているのは販売元であるテクシス社にある。普通のVRソフトやその他一般的なゲームソフトの販売は需要があり続ける限り供給するのが普通だ。しかし、このテクシス社という販売会社は一シーズンあたり一万本という制限を設けて販売しており、一年を経った今でも最大で四万人のプレイヤーしかまだ存在しない。シーズン毎にネットに設けられたエントリー枠から抽選が行われ当選した者だけがプレイすることを許される。
そんな狭き門を潜って当選を果たしたのが、オンラインゲーム漬けの毎日を送り終いに勤め先を辞めてリアル賞金稼ぎに転職した朝倉友里こと私だ。
「データチップが届くまでにあと三日…………待ち遠しすぎて死にそう」
実際、会社を辞めて正解だったと今では思う。一ヶ月好きでもない仕事をして貰える給料が二十万少々とは悲しすぎる。私が会社を辞めた当時から既に換金システムは存在していて、オンラインゲームが好きだったことも相まって今では立派な賞金稼ぎだ。
換金システムを取り入れているゲームを遊んでは現金へと換金していく作業はなかなか楽しいものがある。利益を得る地盤を作るまでがなにより大変だが慣れればどうってことはない。私の現在の収入は月に四十を行ったり来たり。楽しいゲームをしていてお金も貰える、これほど私に見合った仕事はないと今では胸を張って言える。
だがそれもあと三日で終了する……かもしれない。現在は三つのオンラインゲームに絞って利益を得ているが、半年前に今期の販売分である抽選へエントリーしたものが見事当選した。これで一年遅れだが漸くべゼルシス・オンラインをプレイすることができる。これに伴って利益を上げている三つのタイトルを一旦停止して、べゼルシス・オンラインへ注力することに決めた。
よってべゼルシス・オンラインで利益を稼げるようになるまでは無給になるわけだが、この日のために無駄金を使わず最低限の資金で運営していたこともあって貯蓄はばっちりだ。この先数年は無給でも大丈夫だがその頃には稼げるようになっているはず。万が一ダメだった場合は、今利益を上げている三つのオンラインゲームをまた再稼働させればいい。
なので現状私がしなくてはいけないのは兎にも角にも情報収集。現在進行形で行っている攻略サイトというサイトに目を通して三日後に備えることだ。
「そうだ、千佳と恵梨香にリプしとこ」
私は一旦モニターから視線を外し、机に置かれた電子端末を取って親友二人にチャットを入れておくことにした。
モニターに映るのは私が最近意識して見始めた攻略サイトだ。様々な角度と幾多の検証によって得られた攻略情報が事細かくかつ見やすく記載されている。攻略サイトの名前は『べゼルシス・オンライン完全攻略サイト』という。
現在、オンラインゲームの多くが仮想空間内へプレイヤーの五感をダイブさせるフルダイブ型のシステムが主流だ。私がネットで漁っているべゼルシス・オンラインというゲームもまたその一つだ。
右手に持つマウスでモニターのカーソルを動かし情報を閲覧していく。青と白の二色を上手く使い爽やかな印象に仕立てているこの完全攻略サイト。閲覧者の視点に立ち、シンプルかつ見やすい配慮がされ他の攻略サイトと差別化を図ろうと意識しているところに私は運営者の努力を感じた。
ここ数週間、このサイト自体には何度も訪れている。既に繰り返し読み込んだ記事が頭に浮かぶほどだ。それでも毎日この攻略サイトへ訪れるのは新しい攻略情報が更新されていないかチェックするためだ。
今日も今日とて新たな情報が更新されていないかサイト内を隈なく見て回ったがお目当ての情報はなかった。もはや日課になりつつある更新チャックを終えた私はふと思い出した。このオンラインゲームの概要について見ていないことに。
ところでゲームを始める際、二通りのパターンがあると私は思っている。前者はゲームに付属する説明書を読む者、後者は説明書を読まない者。説明書にはゲームのあらすじまたはストーリーといった部分と始めるうえで必要な操作システムが書かれていて、説明書を読む読まないはプレイヤーの裁量に委ねられる。付属する情報を熟読して始めるかあるいは実際にプレイすることで身に付けながら理解していくかは人それぞれだが、私はどちらかというと後者の分類に入りそうだ。
モニターに表示される攻略サイト内をスクロールしてべゼルシス・オンラインについて紹介されているであろうリンクにとんだ。画面は逸早く切り替わり概要が載ったページへと移動する。
ありきたりな紹介記事と考察が載せられたページを興味なさげにスクロールし、概要が記載されてある場所へ辿り着く。
ベゼルシス・オンライン。プレイヤーの五感を仮想世界へトランスさせる技術、トランスファーユニットエンジンを採用したVRMMORPG。テクシス社が提供する次世代還元システムが売りのオンラインゲームで、プレイヤーは古龍、獅子、不死鳥の三つの陣営に分かれて資源やアイテムを奪い合う。奪った資源やアイテムを使って自陣営を育成したり自身の武器を強化したりと幅広いやり込み要素が存在し、最終的に他陣営すべてを征服した陣営が勝利者となる。
ここまでがべゼルシス・オンラインを簡単にまとめた概要だ。PvPやPvEがメインではあるがその中にも各種の育成といったやり込み要素が魅力的なオンラインゲームだ。だがこのゲームの最大の売りはそこではない。それじゃあ何が最大の売りなのか? と問われればこう答えるだろう、次世代還元システムと。
他VRゲームにも功績によって幾らかカムバックする還元システムがある。賞金稼ぎと呼ばれる――換金を元に生活をする――者がいるくらい現代の還元システムは充実している。そんな中、一年前に発売されることになったべゼルシス・オンラインは大きな反響を生んだ。
次世代と謳っているこの還元システムだが、一番の売りは何といってもゲーム内通貨をリアルマネーに換金できることだろう。還元という言葉が正しいのか分からないが仮想世界のお金が現実のお金へと換金できる。夢のようなシステム。そして換金レートは一分の一、つまりリアルマネーを一万分稼ごうと思ったら仮想世界の通貨を一万稼げばいい。
現代ではまずありえない高換金レートに当時は大きなニュースになった。そのお陰かべゼルシス・オンラインのソフトは発売から一年経った現在も入荷待ちの状態だ。この可笑しな状況でもべゼルシス・オンラインの人気は衰えるどころか増すばかかり。
その一旦を作っているのは販売元であるテクシス社にある。普通のVRソフトやその他一般的なゲームソフトの販売は需要があり続ける限り供給するのが普通だ。しかし、このテクシス社という販売会社は一シーズンあたり一万本という制限を設けて販売しており、一年を経った今でも最大で四万人のプレイヤーしかまだ存在しない。シーズン毎にネットに設けられたエントリー枠から抽選が行われ当選した者だけがプレイすることを許される。
そんな狭き門を潜って当選を果たしたのが、オンラインゲーム漬けの毎日を送り終いに勤め先を辞めてリアル賞金稼ぎに転職した朝倉友里こと私だ。
「データチップが届くまでにあと三日…………待ち遠しすぎて死にそう」
実際、会社を辞めて正解だったと今では思う。一ヶ月好きでもない仕事をして貰える給料が二十万少々とは悲しすぎる。私が会社を辞めた当時から既に換金システムは存在していて、オンラインゲームが好きだったことも相まって今では立派な賞金稼ぎだ。
換金システムを取り入れているゲームを遊んでは現金へと換金していく作業はなかなか楽しいものがある。利益を得る地盤を作るまでがなにより大変だが慣れればどうってことはない。私の現在の収入は月に四十を行ったり来たり。楽しいゲームをしていてお金も貰える、これほど私に見合った仕事はないと今では胸を張って言える。
だがそれもあと三日で終了する……かもしれない。現在は三つのオンラインゲームに絞って利益を得ているが、半年前に今期の販売分である抽選へエントリーしたものが見事当選した。これで一年遅れだが漸くべゼルシス・オンラインをプレイすることができる。これに伴って利益を上げている三つのタイトルを一旦停止して、べゼルシス・オンラインへ注力することに決めた。
よってべゼルシス・オンラインで利益を稼げるようになるまでは無給になるわけだが、この日のために無駄金を使わず最低限の資金で運営していたこともあって貯蓄はばっちりだ。この先数年は無給でも大丈夫だがその頃には稼げるようになっているはず。万が一ダメだった場合は、今利益を上げている三つのオンラインゲームをまた再稼働させればいい。
なので現状私がしなくてはいけないのは兎にも角にも情報収集。現在進行形で行っている攻略サイトというサイトに目を通して三日後に備えることだ。
「そうだ、千佳と恵梨香にリプしとこ」
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