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おまけ
裏フェーズ3-7
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仕事のあとで久しぶりに馴染みの小料理屋を訪れた。退院祝いをするために彩を連れてきた日以来だ。ここは以前に担当した患者とその両親が家族で営んでいる店だ。家から近いのと落ち着く雰囲気が気に入っていて、ときどき気が向いたときに一人でくる。
今日は一人だからカウンター席につく。カウンターには他に男女一組が、背後に並ぶ個室は長い暖簾がかかっていてよく見えないが何組か入っているようだ。今日は平日だから混んではいない。静かにくつろげそうだ。
「先生、お久しぶりです。かわいい子を連れてた四月以来ですかね。今日は一緒じゃないんすか?」
黒髪を後ろで結んだ元患者の男が、俺にメニューを渡して言った。
「仕事終わりのこんな遅い時間に連れてくるわけないだろう」
「もしかして、振られました?」
小声でからかわれる。無視してメニューを開き、適当に何品か注文した。
カウンターの向こう側で注文したウーロン茶を用意しながら、彼がまた声をかけてきた。
「デートだったんすよね? 珍しいじゃないすか。大事な場面で使ってもらってうれしいっすよ」
「わけありだったから使わせてもらった」
「わけありって、もしかして人の盗ったとか?」
差し出されたウーロン茶をカウンター越しに受け取る。
「俺のだけど、今はまだ手を出せない女」
まるで聖女だ。もしかしたら永遠に触れられない可能性もあるが。彩の俺への気持ちがただの医療者に対する好意なら、俺はいずれあいつを手放さなければならない。婚約指輪をあんなにうれしそうに受け取っていたんだからそんなことにはならないと思いながらも、心の奥底では恐れている。
最初こそ建前で、「高校生同士で付き合いたくなったらいつでも乗り換えていい」なんてことを伝えた。今ではもうかわいくてたまらなくて、絶対に手離したくない。
「なんすか、それ? 興味あるなあ。先生のそういう話聞いたことないじゃないすか。なんなら相談に乗りますよ?」
興味津々だ。この様子だとねほりはほり訊かれそうだ。店選び失敗か? 彩をまた連れてきたとして、こんな調子でからかわれると困る。連れてくるのはしばらくあとにしよう。
「手を出せないって、いつまで?」
「あと半年くらいは」
「俺なら無理っすわー」
だべってないで仕事をしてくれ。そうだ、手が空いているなら訊いてみるか。
「このあたりでケーキを買うならどこの店がいい?」
「うーん、いろいろありますけど。どういうのが好みすか?」
「誕生日用のデカいやつ」
「彼女さん用っすか!」
目を輝かせながら、市内のケーキ屋を何店舗か教えてくれた。彩の誕生日当日は、自宅で家族と過ごしてもらったほうがいいだろう。その次に会う日曜に、朝から買いにいこう。
今日は一人だからカウンター席につく。カウンターには他に男女一組が、背後に並ぶ個室は長い暖簾がかかっていてよく見えないが何組か入っているようだ。今日は平日だから混んではいない。静かにくつろげそうだ。
「先生、お久しぶりです。かわいい子を連れてた四月以来ですかね。今日は一緒じゃないんすか?」
黒髪を後ろで結んだ元患者の男が、俺にメニューを渡して言った。
「仕事終わりのこんな遅い時間に連れてくるわけないだろう」
「もしかして、振られました?」
小声でからかわれる。無視してメニューを開き、適当に何品か注文した。
カウンターの向こう側で注文したウーロン茶を用意しながら、彼がまた声をかけてきた。
「デートだったんすよね? 珍しいじゃないすか。大事な場面で使ってもらってうれしいっすよ」
「わけありだったから使わせてもらった」
「わけありって、もしかして人の盗ったとか?」
差し出されたウーロン茶をカウンター越しに受け取る。
「俺のだけど、今はまだ手を出せない女」
まるで聖女だ。もしかしたら永遠に触れられない可能性もあるが。彩の俺への気持ちがただの医療者に対する好意なら、俺はいずれあいつを手放さなければならない。婚約指輪をあんなにうれしそうに受け取っていたんだからそんなことにはならないと思いながらも、心の奥底では恐れている。
最初こそ建前で、「高校生同士で付き合いたくなったらいつでも乗り換えていい」なんてことを伝えた。今ではもうかわいくてたまらなくて、絶対に手離したくない。
「なんすか、それ? 興味あるなあ。先生のそういう話聞いたことないじゃないすか。なんなら相談に乗りますよ?」
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「あと半年くらいは」
「俺なら無理っすわー」
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「このあたりでケーキを買うならどこの店がいい?」
「うーん、いろいろありますけど。どういうのが好みすか?」
「誕生日用のデカいやつ」
「彼女さん用っすか!」
目を輝かせながら、市内のケーキ屋を何店舗か教えてくれた。彩の誕生日当日は、自宅で家族と過ごしてもらったほうがいいだろう。その次に会う日曜に、朝から買いにいこう。
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