ドクターダーリン【完結】

桃華れい

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第2部

フェーズX

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「ママ!」
 呼ばれて振り向く。スマートフォンを手にした娘が、廊下から診察室を覗いていた。
「お兄ちゃんから連絡きたよ。駅に着いておじいちゃんの車に乗ったって」
「ありがとう。じゃあもうすぐ着くね」
 涼と圭さんが兄弟で開院する外科クリニックが完成した。オープンはまだ少し先だが、その前に今日は身内を招待してのお披露目会だ。
 十八歳になった息子は、都内で一人暮らしをしながら医者を目指して医大に通っている。電車で駅に到着した彼を、今日のカメラ担当である私の父が車で拾いながらここへきてくれる。今声をかけてくれた娘は、今年十五歳になる中学三年生だ。
「涼、そろそろ白衣着て」
「ああ」
 のりの利いた真新しい白衣を涼に羽織らせる。新築のクリニックにも初めて袖を通す新品の白衣にも、病院特有の消毒液のにおいはまだない。
「ありがとな。こうして開院できるのは彩のおかげだ」
「そんなことないよ。涼ががんばったからだよ」
「彩が支えてくれたからだよ」
 改まってお礼を言われてはにかんでいると、娘がにやにやしながら私たちを眺めていた。
「パパとママっていまだにラブラブだよね。二人のときはそうやって名前で呼び合ってるし、よく手繋いで歩いてるし。なんでそんなに仲いいの?」
「どうしたの、いきなり」
 戸惑う私をよそに涼はあっさりと答える。
「ママがとーってもかわいいからだ」
「もう、何言ってるの。ちょっとお兄さんたちにも声かけてくるね」
 圭さんも四十歳手前で落ち着いて結婚した。お相手は私よりも年下で、ご夫婦の年の差は十八歳だ。いつかの涼が、圭さんは年下好きと話していたのは本当だった。今は圭さんも隣の診察室でその若い奥様と準備をしているはずだ。カメラマンがもうすぐ到着することを伝えよう。
 その前に物陰に隠れて少しだけ盗み聞きをしてみる。
「なんだあ。ママのこと顔で好きになったの?」
「ママがかわいいのは顔だけじゃないぞ。仕草も考え方も発する言葉も全部だ」
「ふうん」
「見た目も十分かわいいけどな。昔、一緒に海へ行ったらまわりの男の人はみんなママを見てた。二人でパーティーに参加したときも。いつもそんな感じなのに、ママは全然気がついてないんだ」
「どうして?」
「ママはパパのことしか見てなかったから」
 自惚れている。でも当たっているから嘘ではない。私はくすりと笑った。
「パパもモテたでしょ~」
「パパもママしか見てないからわからないよ」
「今でも?」
「もちろん。でも今はママだけじゃなくて、もう一人のかわいい天使にも夢中だよ」
 私は顔をほころばせながら隣の診察室へ向かった。
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