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第2部
フェーズ8-19
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私と花には従姉がいる。二十五歳で既婚、去年の秋に子どもが生まれたばかりだ。その従姉が出産報告を兼ねて久しぶりに実家に遊びにくるというので、私も顔を出した。
「ただいま」
「お姉ちゃん、おかえり~」
「あーちゃん、久しぶり! 元気だった?」
生まれて三カ月になる赤ちゃんを抱いた従姉と伯母、母と花にリビングで迎えられた。従姉は遠方に住んでいて会うのは数年ぶりだ。久しぶりに会った彼女はすっかり母親の顔だ。子どもの頃から彼女は私たち姉妹を「あーちゃん」「はーちゃん」と呼ぶ。彼女は菫という名前なので「すーちゃん」だ。
「ご無沙汰してます。出産おめでとう」
「ありがとう。あーちゃんも結婚おめでとう。さっき結婚式の写真を叔母さんに見せてもらってたの。旦那さん、イケメンで素敵よね。しかもお医者さんだなんて」
私ははにかんで笑った。結婚の報告はハガキで知らせた。彼女の出産についても母から聞いたのと今年の写真つき年賀状で知ってはいたが、直接お祝いを伝えるのは初めてだ。
「あーちゃん、体の具合はもう大丈夫?」
「うん。もうすっかり」
「主治医が旦那さんなら、こんなに安心なことはないわよね」
隣に座る伯母もうんうんと頷いている。
「あーちゃん、抱っこしてみる? はーちゃんにもさっき抱っこしてもらったの」
すーちゃんに言われて、眠っている赤ちゃんをソファで抱っこさせてもらう。女の子だ。赤ちゃんを抱くなんて初めてだから緊張する。起こしてしまわないか心配だ。思っていたよりも重たい。三カ月でもうこんなに大きくなるんだ。あったかくて柔らかくて、干したてのお布団みたい。髪の毛がふさふさだ。ほっぺはお餅のようで、手はとても小さい。
「彩も予行練習しておかないとね」
「あら、あーちゃんもそろそろ?」
母と伯母が言った。
「いえ、私はまだ……」
「先生は早く欲しがってそうだけどね」
母よ、なぜそれを知っているの? 夏のバーベキューでの会話でも聞いていたのだろうか。
「ご主人の年齢ならそろそろ考えてるかもしれないわね」
なんだ、年齢的なことを言っているだけかと勝手に安心する。
「待って。もしも今お姉ちゃんに子どもができたら私、高校生でオバさん!?」
花が焦る。彼女は高校二年生だ。今私が妊娠すれば高校生で叔母さんになってしまうが、まだその予定はないので安心してもらいたい。
「あーちゃんが抱っこしてると、おチビさんぐっすりだわ。安心するのかしら」
はーちゃんが子どもの顔を覗き込んで言った。本当にぐっすりと眠っている。ぷっくりとした手がぴくりと動いた。夢を見ているのだろうか。自然と顔がほころぶ。従姉の子でもこんなに愛しい。この子に触れているだけで心が透明になっていくようだ。
涼と私の子どもが生まれたら、どんなに愛おしく感じることだろう。二年後くらいには自分の子をこうして抱っこしているのだろうか。二年後か。もう少し早くてもいいかもしれないと思ってしまった。
とはいえ、ピルを正しく服用しているうちはまず妊娠することはないわけで。ピルをやめたあとは妊娠しやすいと聞いたことがある。涼は一度火がつくと止まらないし、避妊をしなくなったらすぐにできちゃう気がするな。子どものことを考える前に、今はとにかく怪我を治さないと。
ご飯を食べさせてあげるのも、大変だったり面倒だったりなんてことはまったくなくて、私は好きでやっている。特にこれが楽しくて。
「はい、あーん」
「楽しんでるだろ」
「少し」
今日もカルシウムが多い魚料理にした。早く帰ってきてくれるのはうれしいけれど、怪我が治ってくれたほうがもっとうれしいから。
「いつもありがとな」
「お礼なんていいよ。私は好きでやってるんだから」
大きな子どものお世話をしているみたい。多少はいつかのための練習になっているだろうか。子どもはじっとしてくれないだろうから全然違うかな。楽しいなんて言っていられないかもしれない。
「彩」
涼が私を見つめている。
「ん?」
「怪我が治ったら、広い家に引っ越して子ども作ろうか」
「え」
箸を持ったまま私は固まってしまった。
「いや、引っ越しはあとでいい。先に子作りしよう」
「急にどうしたの? あ、私が従姉の赤ちゃんがかわいかったって話したから?」
「そういうわけじゃない。予定より早いけど、俺がそうしたくなったんだ。彩は? まだいい?」
私も少し早まってもいいかなとちょうど考えていたタイミングだったから驚いた。きっかけは違えど、涼も私も同じタイミングで同じことを考えていたらしい。心が通じ合っているようでそれがまたうれしい。少し考えてから私は答えた。
「私もそうしたい」
涼が微笑んだ。二人でもとても幸せだけど、家族が増えたらきっともっと幸せだよね。
従姉たちの前で「私はまだ」と言ったのに、数カ月後には報告することになるかもしれないな。そして花を、ぎりぎり高校生のうちに叔母さんにしてしまうかもしれない。
「ただいま」
「お姉ちゃん、おかえり~」
「あーちゃん、久しぶり! 元気だった?」
生まれて三カ月になる赤ちゃんを抱いた従姉と伯母、母と花にリビングで迎えられた。従姉は遠方に住んでいて会うのは数年ぶりだ。久しぶりに会った彼女はすっかり母親の顔だ。子どもの頃から彼女は私たち姉妹を「あーちゃん」「はーちゃん」と呼ぶ。彼女は菫という名前なので「すーちゃん」だ。
「ご無沙汰してます。出産おめでとう」
「ありがとう。あーちゃんも結婚おめでとう。さっき結婚式の写真を叔母さんに見せてもらってたの。旦那さん、イケメンで素敵よね。しかもお医者さんだなんて」
私ははにかんで笑った。結婚の報告はハガキで知らせた。彼女の出産についても母から聞いたのと今年の写真つき年賀状で知ってはいたが、直接お祝いを伝えるのは初めてだ。
「あーちゃん、体の具合はもう大丈夫?」
「うん。もうすっかり」
「主治医が旦那さんなら、こんなに安心なことはないわよね」
隣に座る伯母もうんうんと頷いている。
「あーちゃん、抱っこしてみる? はーちゃんにもさっき抱っこしてもらったの」
すーちゃんに言われて、眠っている赤ちゃんをソファで抱っこさせてもらう。女の子だ。赤ちゃんを抱くなんて初めてだから緊張する。起こしてしまわないか心配だ。思っていたよりも重たい。三カ月でもうこんなに大きくなるんだ。あったかくて柔らかくて、干したてのお布団みたい。髪の毛がふさふさだ。ほっぺはお餅のようで、手はとても小さい。
「彩も予行練習しておかないとね」
「あら、あーちゃんもそろそろ?」
母と伯母が言った。
「いえ、私はまだ……」
「先生は早く欲しがってそうだけどね」
母よ、なぜそれを知っているの? 夏のバーベキューでの会話でも聞いていたのだろうか。
「ご主人の年齢ならそろそろ考えてるかもしれないわね」
なんだ、年齢的なことを言っているだけかと勝手に安心する。
「待って。もしも今お姉ちゃんに子どもができたら私、高校生でオバさん!?」
花が焦る。彼女は高校二年生だ。今私が妊娠すれば高校生で叔母さんになってしまうが、まだその予定はないので安心してもらいたい。
「あーちゃんが抱っこしてると、おチビさんぐっすりだわ。安心するのかしら」
はーちゃんが子どもの顔を覗き込んで言った。本当にぐっすりと眠っている。ぷっくりとした手がぴくりと動いた。夢を見ているのだろうか。自然と顔がほころぶ。従姉の子でもこんなに愛しい。この子に触れているだけで心が透明になっていくようだ。
涼と私の子どもが生まれたら、どんなに愛おしく感じることだろう。二年後くらいには自分の子をこうして抱っこしているのだろうか。二年後か。もう少し早くてもいいかもしれないと思ってしまった。
とはいえ、ピルを正しく服用しているうちはまず妊娠することはないわけで。ピルをやめたあとは妊娠しやすいと聞いたことがある。涼は一度火がつくと止まらないし、避妊をしなくなったらすぐにできちゃう気がするな。子どものことを考える前に、今はとにかく怪我を治さないと。
ご飯を食べさせてあげるのも、大変だったり面倒だったりなんてことはまったくなくて、私は好きでやっている。特にこれが楽しくて。
「はい、あーん」
「楽しんでるだろ」
「少し」
今日もカルシウムが多い魚料理にした。早く帰ってきてくれるのはうれしいけれど、怪我が治ってくれたほうがもっとうれしいから。
「いつもありがとな」
「お礼なんていいよ。私は好きでやってるんだから」
大きな子どものお世話をしているみたい。多少はいつかのための練習になっているだろうか。子どもはじっとしてくれないだろうから全然違うかな。楽しいなんて言っていられないかもしれない。
「彩」
涼が私を見つめている。
「ん?」
「怪我が治ったら、広い家に引っ越して子ども作ろうか」
「え」
箸を持ったまま私は固まってしまった。
「いや、引っ越しはあとでいい。先に子作りしよう」
「急にどうしたの? あ、私が従姉の赤ちゃんがかわいかったって話したから?」
「そういうわけじゃない。予定より早いけど、俺がそうしたくなったんだ。彩は? まだいい?」
私も少し早まってもいいかなとちょうど考えていたタイミングだったから驚いた。きっかけは違えど、涼も私も同じタイミングで同じことを考えていたらしい。心が通じ合っているようでそれがまたうれしい。少し考えてから私は答えた。
「私もそうしたい」
涼が微笑んだ。二人でもとても幸せだけど、家族が増えたらきっともっと幸せだよね。
従姉たちの前で「私はまだ」と言ったのに、数カ月後には報告することになるかもしれないな。そして花を、ぎりぎり高校生のうちに叔母さんにしてしまうかもしれない。
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