ドクターダーリン【完結】

桃華れい

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第2部

フェーズ7.9-28

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 父の単身赴任が今年の九月で終了することになった。私が中学を卒業する前からだから、まる四年だ。その間に私たち姉妹の高校受験があり、私の病気と入院・手術があり、そして婚約・結婚と、いろいろなことがあった。母も大変だったはずだ。今日はお祝いと労いを兼ねて、実家の庭でバーベキューをしている。
 私と花と母が焼き担当だ。ガーデンテーブルでは涼と父が缶ビールを片手に談笑している。涼のほうから労いの言葉でもかけているのかもしれない。
 お肉と野菜、それにおにぎりも焼けてきた。涼と父と自分の分を紙皿に盛って席に戻る。
「お待たせ」
 料理をテーブルに置き、涼の隣に座った。涼が飲んでいるのはノンアルコールビールだ。涼が飲まないのに自分だけ飲むのは気が引けると妙に遠慮していた父だったが、今日の主役なのだからとみんなに勧められて、通常のアルコール入りの缶ビールを開けた。
「これ、彩が握った?」
「うん。よくわかったね?」
 食材の準備は母と妹と私の三人で手分けして行った。おにぎりを握ったのは私で正解だ。
「わかったというより、願望」
 たまにこういうかわいいことを言ってくれる。明日の朝食はおにぎり定食にしようかな。
「あとでマシュマロも焼くけど食べてみる?」
「いらない」
 甘いものが苦手な涼に一応訊いてみたものの、返事は予想通りだった。でもおかしいのよね。
「私が作ったお菓子は食べてくれるのに」
 気まぐれでときどき作るクッキーやケーキ、バレンタインのチョコも、涼は嫌な顔ひとつせずに食べてくれる。むしろ欲しがる。
「彩が甘さを加減して作ったのと、砂糖の塊を焼いただけのを一緒にするな」
「ああ、そういうこと」
 ふと父に目をやると、私たちのやり取りを呆れたように見ていた。まるで「親の前でいちゃつくな」とでも言っているかのようだ。別にいちゃついているつもりはない。
 グリルの火が強すぎると花に呼ばれて、父が席を外した。テーブルに涼と二人きりになった。
 実家で涼も交えてみんなで食事をするのも、バーベキューをするのも久しぶりで楽しい。家族が歓迎してくれるから、涼もくつろげているみたいだ。
「戸建てとマンション、どっちがいい?」
 ふいに涼が言った。その視線は、わいわいと楽しそうにバーベキューグリルを囲んでいる両親と花に向けられている。
「どうしたの急に」
「庭でこうしてバーベキューするのもいいなと」
「そうだね」
 幸せな家族計画かな。涼の頭の中には今どんな光景が広がっているんだろう。
「俺の帰りが遅かったり当直や泊まりだったりで、彩は独りで夜過ごすことも多いんだから、セキュリティを考えたらマンションのほうがいいか」
「それぞれに利点があるね」
 私は思い出のつまった今のマンションが好きだ。二人でなら問題ない広さだけど、家族が増えたら手狭になってしまうだろう。いずれは引っ越さなければならない。寂しいな。
「ゆっくり考えよう。時間はある」
 私は微笑んで頷いた。
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