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第1部

フェーズ7.9-3

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 明日はいよいよ入籍して、夫婦になる。
 昨日は実家に戻り、家族と一緒に過ごした。父も赴任先から帰ってきていた。特別なことをしたわけではない。家で両親と妹と食事をして、他愛もない会話をして、リビングでお茶しながらテレビを見てと、いつもと変わらない過ごし方だった。そのいつも通りの一日も、これで最後と思うと感慨深かった。もう会えないわけではないし、近くだからいつでも帰れるのだけど。
 実家に一泊して、今日の午後に仕事終わりの涼に迎えにきてもらった。両親に今まで育ててもらった感謝の気持ちは、直接伝えるのが照れくさかったため、事前に手紙を書いておいた。その手紙を家を出るときに両親に手渡してきた。
 今まで家族と暮らした家を出て、明日から名字が変わる私にとっては、今日は特別な日だ。涼は、いつものように土曜出勤だったし、いつものベッドで眠るし、今日も明日以降も同じ名字だ。でも明日からは法的に私という家族が増える。そして、お互いに独身最後の日だね。
「独身最後の夜に私と一緒でいいの?」
 ベッドに入って訊ねると、涼は笑った。
「他に誰と過ごすんだよ」
「男の人だけで秘密のパーティーを楽しむんじゃないの?」
 お酒を飲んだりゲームしたり、ちょっとエッチなこともして、一晩中盛大に騒いで独身の日々にお別れをするのでは。
「最後に羽目を外したい男がするんだろ。俺には関係ないよ」
 パーティーで騒ぐタイプではないもんね。
「彩だって。最近は女同士でもするらしいじゃないか」
「私はこういう日こそ涼と一緒にいたい」
「俺もそういうことだ」
 二人で微笑み合った。明日には結婚してしまう。本当に私でいいのかと訊こうと思っていたけど、やめた。きっと意味がない。
「涼は仕事中はいつもピンと糸を張らせてるだろうから、その糸をゆるゆるにできるような家にしたいよ」
「彩といるだけでゆるゆるだよ。下半身はすぐ硬くなるけど」
「もう!」
 せっかくしみじみしてるのにすぐふざける。でも今日は入籍前夜だからちゃんと伝えたい。
「仕事のことは、私は専門的なことはわからないからアドバイスはしてあげられないと思うけど、嫌なことやつらいことがあったときは抱きしめてあげる。元気になって退院していく患者さんばかりじゃないよね。どうしようもないこともあるはずだから。今は私のほうが涼に頼ってばかりだけど、いつかは私も涼の支えになりたい」
 向かい合っていた涼が、私を抱きしめた。
「お前がいてくれるだけで安らぐし癒されるよ、本当に」
 私も涼の背中に腕を回す。
 涼がしっかり休めて安らげる家にしよう。そうなるように努力しよう。結婚式はまだ先だけど、神様、私はこの人を一生愛し、守ることを誓います。
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