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第1部

フェーズ4-2

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 シャワーを浴びさせてもらい、先月買ってもらったパジャマを着て、一緒のベッドに入った。
「さっき、カフェで澄先生と会ったよ。澄先生、私のこと知ってたんだね」
「ああ、夏祭りのあとしばらくして、思い出したらしい」
 毎日顔を合わせていたわけではないのに、よく憶えてたなあ。澄先生の記憶力に感服する。やっぱり医者は頭の構造が違うのだろうか。
「澄先生にどこまで話したの?」
「どこまでって?」
「その、私と涼が、まだしてないこと知ってたから」
 言いづらくて、ベッドの中で目を伏せた。
「『自分の患者それも女子高生に手を出したのか』って言われたから、『まだ出してません』って答えただけ」
 それだ。
「澄先生に怒られた?」
 確か院長先生にも倫理違反と以前言われたはずだ。
「そんなふうじゃなかったよ。からかわれた感じだな」
 澄先生は優しいものね。滅多に怒ったりしなさそうな印象だ。理想の上司にランクインしそう。あと十年か二十年経ったら、涼もあんな感じになるのかな。

 キスもお触りも禁止だから、本当にただ一緒に寝ただけだった。初めてのお泊まりの日もそうだったし、卒業までしないって決めてるんだから、むしろそれが普通なのだ。
 涼が土曜日も休みなら朝から一日一緒に過ごせるのだけど、術後間もない患者がいるとのことで今日も出勤だ。
 簡単な朝ご飯を済ませて送り出す。身支度を終えて家を出ようとする涼に、玄関で訊ねた。
「今日も泊まっていい?」
「いいけど、一度家に帰ったほうがいいんじゃないか」
「うん、そのつもり」
 このまま二連泊するわけにはいかない。着替えなど一度家に戻って取ってきたいものもある。もちろん、大事な指輪も。
「午前中で帰れると思うから、そのあとで一緒に行こうか」
「うん、ありがとう」
 靴も履き終えた。今にも玄関のドアを開けて出かけてしまいそう。物足りない私は思い切って訊いてみた。
「キスはまだ禁止?」
 涼はくすっと笑って、唇に軽くしてくれた。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
 行ってらっしゃいのキス、できた。思わず小さくガッツポーズをした。新婚さんみたい。うれしくて、私はその場にしゃがみ込んだ。

 午前中で仕事を終えた涼と一緒に一旦自宅へ帰った。母には事前に連絡しておいた。改めて今日も泊まることを伝えると、母はなぜか私ではなく涼に向かって、「どうぞお持ち帰りください」と勧めた。まるで献上された気分だった。そんな上等品ではないけれど。
 持ち物をまとめて家を出て、外で昼ご飯を食べて、スーパーで買い物をして、マンションに戻ってきた。
 キッチンで晩ご飯作りに取りかかる。サラダの具材を切っている私を、涼は目の前のカウンターテーブルで頬杖をつきながらじーっと見ている。
「お母さんと何話してたの?」
 私が部屋でお泊まりの準備をしている間、涼はリビングで母にお茶を出されながら待っていてくれた。
「彩をよろしくって」
「それだけ? なんか笑ってなかった?」
 途中で母の大きな笑い声が聞こえたのを憶えている。
「ああ……、別にたいしたことじゃないよ」
 おもしろい世間話でもしてたのかな。まあいいか。それよりも今は他に気になっていることがある。
「なんでいつもそうやって見てるの」
 私がキッチンで食事を作っているとき、涼は決まってカウンター越しにこうして私を見つめている。リビングのソファでくつろいでくれてていいのに。
「俺のために作ってくれてるのがかわいいから」
 出た。殺し文句は涼の得意技だ。私はその度にドキドキさせられて――。
「痛っ!」
 ほら、動揺して包丁で指を切ってしまった。
「大丈夫か?」
 すぐさま涼が心配して駆け寄ってきてくれた。切ってしまった左手の人差し指を、外科医の目になって診る。
「浅くてよかった」
 出血している私の指を涼が咥えて舐めた。とたんにゾクゾクとした感覚が全身を駆け抜け、思わず声が出そうになった。もちろん、舐められたのが嫌でゾクゾクしたわけではない。むしろ、もっとしてほしくてたまらなくなる。
「手当てするからそこ座って」
 スツールに腰を下ろす。夏祭りで足が鼻緒擦れになってしまったときに買ってくれた、手当てセットを持ってきてくれた。
「こうやって危なっかしいから目が離せない」
 傷口を消毒しながら涼が言った。
「今のは涼が悪い」
「ごめんごめん」
 涼は笑いながら謝った。

 夜はまた一緒に寝ただけだった。例によってまたキスとお触り禁止令が出された。やっぱり私にではなく涼が自分自身に対して出してると思う。
 日曜日の夜、送ってもらって家に帰ってきた。
 階段を上がったところで、自分の部屋から出てきた花と出くわした。
「おかえりー。連泊ぅ? 本当にデキちゃうんじゃない?」
 にやにやしながら茶化してくる。そういえば、婚約の挨拶のときに真っ先にそのことを疑っていたっけ。
「してないから」
 きっぱりと言うと、花が驚いて聞き返してきた。
「マジ!? え、今までも?」
「結婚するまではしないの」
 本当は卒業するまでだからちょっと違う。卒業までと言ってしまうと、卒業後最初に涼と会う日に、してるところを想像されそうで。結婚もそうだけど、そっちは一般的というか当然というか。とにかく、泊まる度にそういう想像をされては困る。
「そんなのありなんだ。お姉ちゃんが高校生だから?」
「うん」
 高校生でなかったら、どうだったんだろうと考えるときがある。私が大人で、初めてでもなかったら、最初に涼のマンションに行った日にしていただろうか。大人の付き合い方は、私にはまだよくわからない。
「お母さんにも伝えといてあげるよ」
「ちょっ……余計なこと言わなくていいから」
 親にそういう話をされるのは、気まずい。
「余計な心配させたくないでしょ? まあ、お母さんも先生のことは信用しきってるから、どっちでも関係ないと思うけどね」
「だったら言わないでっ」
 残念そうに口を尖らせながら、花は階段を降りていった。
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