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第1部
フェーズ3-12
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翌朝には平熱まで下がっていた。頭痛や咳も治まったが、だるさはまだ残っている。発熱が続いたせいで体が疲れている感じだ。
「主治医の先生に従って今日も休みなさい。昨日の帰り際に『明日も無理はさせないように』っておっしゃってたから。またぶり返したら大変だもの。先生にも迷惑かけてしまうし」
ダイニングテーブルで朝食を取る私に母が言った。食欲も少しずつ戻ってきた。
「うん」
本当に迷惑をかけてしまった。今朝はちゃんと起きられたかな。風邪はうつってないだろうか。
「ありがとう、涼に晩ご飯の用意してくれて。朝ご飯も渡してくれたんでしょ?」
「帰りにコンビニに寄ってたら、さらに遅くなっちゃうからね。少しでも早く帰って休んでもらったほうがいいと思って」
同感だ。
お粥を食べ進めながらふと顔を上げると、母が目の前で頬杖を突きながら私に意味深な笑みを向けていた。不気味だ。
「何?」
「卒業まで待つなんて言ってないで、もう入籍したら?」
「何、急に」
「お母さん、てっきり彩のほうが先生にゾッコンでグイグイいったんだとばかり思ってたけど、そうでもないみたいねえ」
「どういう意味?」
ゾッコンだし、好きで好きでたまらないんですが? 病み上がりで頭が働かないせいもあって、真意が掴み切れない。しかし母は私の問いには答えず、謎めいた微笑みを残して立ち上がった。なんだったんだろう。
私は携帯電話を手にした。涼に熱が下がった報告とお礼を伝えておこう。
迷惑をかけてしまったお詫びに、今日はまた花を買ってきた。リビングに涼の姿はなく、まだ寝ているようだった。心配でまず寝室を覗いた。濡れタオルで額を冷やしていたり、咳き込んでいる様子はない。ひとまず安心した。
花を生けてから、寝室に入ってベッドに乗っかった。まだ眠っている涼の頬にキスをする。起きないからもう一度、さらにもう一度したところで、彼が目を覚ました。寝ぼけ眼で私に訊ねる。
「元気になった?」
「主治医の見立てがいいから。看病もしてくれてありがとう。涼は風邪引かなかった?」
「ああ」
よかった。それが一番心配だったの。
「お礼はチューでいいよ」
今いっぱいしたんだけど? 今度は唇にキスをした。抱き寄せられて、私が涼に半分乗っかる形で体が密着する。
「先週の日曜日は何してたの? 私がいないほうがゆっくりできたりして」
貴重な休みをいつも私が独占してしまっている。久々に一人で過ごして羽が伸ばせたかな。
「いや。彩が電話でかわいいこと言ったせいで下半身が大変なことになったから、自分で治めてた」
な……んですって!? 私は絶句した。やっぱり寝起きの涼は変なことを口走る。
「もう一回言って、『大好き』って。今度は顔見て」
「面と向かっては、恥ずかしいよ」
しかもこんな至近距離でなんて。あのときは電話だったし、会えないのが寂しくてせつなくて、想いが溢れたから言えたの。
「涼だって言ってくれたことないじゃない?」
私にだけ言わせるのはずるい。プロポーズしてくれて指輪もくれたけれど、まだ一度も「好き」や「愛してる」と言われたことはない。順番が逆じゃない?
「俺は『大好き』とは少し違うかな」
そう、なんだ。ショックで言葉を失っていると、
「もうLOVEだから」
と続けた。らぶ……愛? うれしくて思わず顔が緩んでしまう。
「じゃあ、言って?」
「そのうちな」
「そのうちって――」
いつなのか訊こうとしたら、抱き枕にされた。
「もう少し寝かせて。このまま一緒に」
昨夜また遅かったのかな。もう少し寝かせてあげよう。
それよりもさっき、「治めた」と言った。本当なのか、それとも冗談なのか。涼もやっぱりするんだ、そういうこと。男の人はみんな当たり前にするんだよね。涼はもしかして私のことを思いながら? それなら早く楽にさせてあげたい……って、何を考えてるの私?
「主治医の先生に従って今日も休みなさい。昨日の帰り際に『明日も無理はさせないように』っておっしゃってたから。またぶり返したら大変だもの。先生にも迷惑かけてしまうし」
ダイニングテーブルで朝食を取る私に母が言った。食欲も少しずつ戻ってきた。
「うん」
本当に迷惑をかけてしまった。今朝はちゃんと起きられたかな。風邪はうつってないだろうか。
「ありがとう、涼に晩ご飯の用意してくれて。朝ご飯も渡してくれたんでしょ?」
「帰りにコンビニに寄ってたら、さらに遅くなっちゃうからね。少しでも早く帰って休んでもらったほうがいいと思って」
同感だ。
お粥を食べ進めながらふと顔を上げると、母が目の前で頬杖を突きながら私に意味深な笑みを向けていた。不気味だ。
「何?」
「卒業まで待つなんて言ってないで、もう入籍したら?」
「何、急に」
「お母さん、てっきり彩のほうが先生にゾッコンでグイグイいったんだとばかり思ってたけど、そうでもないみたいねえ」
「どういう意味?」
ゾッコンだし、好きで好きでたまらないんですが? 病み上がりで頭が働かないせいもあって、真意が掴み切れない。しかし母は私の問いには答えず、謎めいた微笑みを残して立ち上がった。なんだったんだろう。
私は携帯電話を手にした。涼に熱が下がった報告とお礼を伝えておこう。
迷惑をかけてしまったお詫びに、今日はまた花を買ってきた。リビングに涼の姿はなく、まだ寝ているようだった。心配でまず寝室を覗いた。濡れタオルで額を冷やしていたり、咳き込んでいる様子はない。ひとまず安心した。
花を生けてから、寝室に入ってベッドに乗っかった。まだ眠っている涼の頬にキスをする。起きないからもう一度、さらにもう一度したところで、彼が目を覚ました。寝ぼけ眼で私に訊ねる。
「元気になった?」
「主治医の見立てがいいから。看病もしてくれてありがとう。涼は風邪引かなかった?」
「ああ」
よかった。それが一番心配だったの。
「お礼はチューでいいよ」
今いっぱいしたんだけど? 今度は唇にキスをした。抱き寄せられて、私が涼に半分乗っかる形で体が密着する。
「先週の日曜日は何してたの? 私がいないほうがゆっくりできたりして」
貴重な休みをいつも私が独占してしまっている。久々に一人で過ごして羽が伸ばせたかな。
「いや。彩が電話でかわいいこと言ったせいで下半身が大変なことになったから、自分で治めてた」
な……んですって!? 私は絶句した。やっぱり寝起きの涼は変なことを口走る。
「もう一回言って、『大好き』って。今度は顔見て」
「面と向かっては、恥ずかしいよ」
しかもこんな至近距離でなんて。あのときは電話だったし、会えないのが寂しくてせつなくて、想いが溢れたから言えたの。
「涼だって言ってくれたことないじゃない?」
私にだけ言わせるのはずるい。プロポーズしてくれて指輪もくれたけれど、まだ一度も「好き」や「愛してる」と言われたことはない。順番が逆じゃない?
「俺は『大好き』とは少し違うかな」
そう、なんだ。ショックで言葉を失っていると、
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と続けた。らぶ……愛? うれしくて思わず顔が緩んでしまう。
「じゃあ、言って?」
「そのうちな」
「そのうちって――」
いつなのか訊こうとしたら、抱き枕にされた。
「もう少し寝かせて。このまま一緒に」
昨夜また遅かったのかな。もう少し寝かせてあげよう。
それよりもさっき、「治めた」と言った。本当なのか、それとも冗談なのか。涼もやっぱりするんだ、そういうこと。男の人はみんな当たり前にするんだよね。涼はもしかして私のことを思いながら? それなら早く楽にさせてあげたい……って、何を考えてるの私?
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