上 下
40 / 136
第1部

フェーズ3-12

しおりを挟む
 翌朝には平熱まで下がっていた。頭痛や咳も治まったが、だるさはまだ残っている。発熱が続いたせいで体が疲れている感じだ。
「主治医の先生に従って今日も休みなさい。昨日の帰り際に『明日も無理はさせないように』っておっしゃってたから。またぶり返したら大変だもの。先生にも迷惑かけてしまうし」
 ダイニングテーブルで朝食を取る私に母が言った。食欲も少しずつ戻ってきた。
「うん」
 本当に迷惑をかけてしまった。今朝はちゃんと起きられたかな。風邪はうつってないだろうか。
「ありがとう、涼に晩ご飯の用意してくれて。朝ご飯も渡してくれたんでしょ?」
「帰りにコンビニに寄ってたら、さらに遅くなっちゃうからね。少しでも早く帰って休んでもらったほうがいいと思って」
 同感だ。
 お粥を食べ進めながらふと顔を上げると、母が目の前で頬杖を突きながら私に意味深な笑みを向けていた。不気味だ。
「何?」
「卒業まで待つなんて言ってないで、もう入籍したら?」
「何、急に」
「お母さん、てっきり彩のほうが先生にゾッコンでグイグイいったんだとばかり思ってたけど、そうでもないみたいねえ」
「どういう意味?」
 ゾッコンだし、好きで好きでたまらないんですが? 病み上がりで頭が働かないせいもあって、真意が掴み切れない。しかし母は私の問いには答えず、謎めいた微笑みを残して立ち上がった。なんだったんだろう。
 私は携帯電話を手にした。涼に熱が下がった報告とお礼を伝えておこう。


 迷惑をかけてしまったお詫びに、今日はまた花を買ってきた。リビングに涼の姿はなく、まだ寝ているようだった。心配でまず寝室を覗いた。濡れタオルで額を冷やしていたり、咳き込んでいる様子はない。ひとまず安心した。
 花を生けてから、寝室に入ってベッドに乗っかった。まだ眠っている涼の頬にキスをする。起きないからもう一度、さらにもう一度したところで、彼が目を覚ました。寝ぼけ眼で私に訊ねる。
「元気になった?」
「主治医の見立てがいいから。看病もしてくれてありがとう。涼は風邪引かなかった?」
「ああ」
 よかった。それが一番心配だったの。
「お礼はチューでいいよ」
 今いっぱいしたんだけど? 今度は唇にキスをした。抱き寄せられて、私が涼に半分乗っかる形で体が密着する。
「先週の日曜日は何してたの? 私がいないほうがゆっくりできたりして」
 貴重な休みをいつも私が独占してしまっている。久々に一人で過ごして羽が伸ばせたかな。
「いや。彩が電話でかわいいこと言ったせいで下半身が大変なことになったから、自分で治めてた」
 な……んですって!? 私は絶句した。やっぱり寝起きの涼は変なことを口走る。
「もう一回言って、『大好き』って。今度は顔見て」
「面と向かっては、恥ずかしいよ」
 しかもこんな至近距離でなんて。あのときは電話だったし、会えないのが寂しくてせつなくて、想いが溢れたから言えたの。
「涼だって言ってくれたことないじゃない?」
 私にだけ言わせるのはずるい。プロポーズしてくれて指輪もくれたけれど、まだ一度も「好き」や「愛してる」と言われたことはない。順番が逆じゃない?
「俺は『大好き』とは少し違うかな」
 そう、なんだ。ショックで言葉を失っていると、
「もうLOVEだから」
 と続けた。らぶ……愛? うれしくて思わず顔が緩んでしまう。
「じゃあ、言って?」
「そのうちな」
「そのうちって――」
 いつなのか訊こうとしたら、抱き枕にされた。
「もう少し寝かせて。このまま一緒に」
 昨夜また遅かったのかな。もう少し寝かせてあげよう。
 それよりもさっき、「」と言った。本当なのか、それとも冗談なのか。涼もやっぱりするんだ、そういうこと。男の人はみんな当たり前にするんだよね。涼はもしかして私のことを思いながら? それなら早く楽にさせてあげたい……って、何を考えてるの私?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

【続】18禁の乙女ゲームから現実へ~常に義兄弟にエッチな事されてる私。

KUMA
恋愛
※続けて書こうと思ったのですが、ゲームと分けた方が面白いと思って続編です。※ 前回までの話 18禁の乙女エロゲームの悪役令嬢のローズマリアは知らないうち新しいルート義兄弟からの監禁調教ルートへ突入途中王子の監禁調教もあったが義兄弟の頭脳勝ちで…ローズマリアは快楽淫乱ENDにと思った。 だが事故に遭ってずっと眠っていて、それは転生ではなく夢世界だった。 ある意味良かったのか悪かったのか分からないが… 万李唖は本当の自分の体に、戻れたがローズマリアの淫乱な体の感覚が忘れられずにBLゲーム最中1人でエッチな事を… それが元で同居中の義兄弟からエッチな事をされついに…… 新婚旅行中の姉夫婦は後1週間も帰って来ない… おまけに学校は夏休みで…ほぼ毎日攻められ万李唖は現実でも義兄弟から……

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

処理中です...