上 下
16 / 136
第1部

(回想)フェーズ0-3

しおりを挟む
 恋の「好き」ではない。背が高くて白衣が似合うかっこいい先生に優しくされて、舞い上がってるだけだ。アイドルに抱く憧れと同じようなものなんだ。
 アイドルのはずなのに、舞い上がってるだけのはずなのに、どうしてもあの人の姿を探してしまう。今ごろはどこにいるのだろうと気になって仕方がない。外来の日なら、ひと段落した昼休みに病棟に顔を出してくれるかもと期待して、廊下やロビーを歩いてみたりする。術後はなるべく歩くようにと言われているから、別に不審な行動ではない。違う先生の姿を見かけてはがっかりした。
 同じ病院の中にいるのはわかっているのに、なかなか会えない。一日が長い。病棟にはいつきてくれるんだろう。回診の時間が待ち遠しかった。
 私の病室は二人部屋で、同室は三十歳くらいの胸がたわわな人妻だ。同じく三十歳くらいの旦那さんが、毎日朝晩の二回、面会にやってきている。
 手術をしてから三日が経った。今、先生は回診中で隣の巨乳人妻の診察をしている。服を脱がせて手術の傷痕を診ているのだろう。
「先生ってこういうとき興奮しないの?」
「勤務中ですから」
「えー、残念」
 ときどき、誘惑するかのような人妻の色っぽい声がカーテン越しに聞こえてきた。先生はというと特に動じている様子はない。医者として診察に徹しているからか、それとも私がこうして聞き耳を立てていることに気づいているからか。先生はかっこいいから、誘惑されるなんてしょっちゅうだろう。慣れてるのかもしれない。
 人妻の診察が終わった。次は私の番だ。あの巨乳のあとだなんて、これはなんの罰なの。
「どうせ私は胸が小さいです」
 カーテンから顔を覗かせた先生に、私は不機嫌に言った。
「君はまだ十七歳なんだからこれからだろ」
 やっぱり子ども扱いされてる。
「心配しなくても、そこは見ないから」
 成長しきっていない子どもの胸なんて、見たくもないし見てもなんとも思わないですよね。
「何か怒ってる?」
「別に……」
「診せて」
 特に気にも留めていない素振りで先生が言い、私は横になってパジャマのボタンを外した。

 手術が終わってからはぐっすり眠れるようになった。一度眠ったら朝まで目が覚めない。もともと私はそうなのだ。
 ところが、この日の夜は違った。消灯時間をとっくに過ぎ、寝静まった頃のことだった。その声は眠っている私の耳の奥に届き、私を目覚めさせた。意識がはっきりしてくるにつれて私は耳を疑った。聞こえているのは、隣のベッドからのいかがわしい声、二人の人間の息遣い。そういう経験のない私でも、さすがに何をしているか想像がつく。
 相手は旦那さんだろうか。この病室に入るには必ずナースステーションの前を通る必要がある。深夜の面会者を夜勤の看護師さんたちは把握しているのか。考えを巡らせているときだった。
「先生……」
 甘える声で確かにそう聞こえた。私の心臓は大きく脈打った。
 ここは病院だ。「先生」はたくさんいる。でも私にはそれが神河先生だとわかった。だって昼間、先生が彼女に誘われてたのを知っているから。信じられない。信じたくない。回診のときは冷静に断っていたのに、やっぱり巨乳人妻の誘惑には勝てないの?
 私は両手で耳を塞いだ。それでもその声は聞こえてくる。嫌、こんなの嫌だ。先生――。
「彩?」
 呼ばれてはっとすると、先生が私の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫か? うなされてたぞ」
 どうして目の前にいるの? だって今、隣の人と……。夢だったのだろうか。
「傷が痛む?」
 先生はいつもと同じく白衣を羽織っている。白衣もその下に着ているシャツも乱れているなんてことはない。絶望と安堵の狭間で私はすっかり混乱してしまった。
「夢……?」
「なんだ、怖い夢でも見た?」
 先生が微笑む。本当に夢だったみたいだ。先生の声に安心し、ほっとしたところで私は再び眠りについた。
 どこからがどこまでが夢だったのかわからない。深夜に目が覚めて先生と会話をしたのは現実? 自信がない。
 翌朝、ベッドから出たところで隣の人妻に声をかけられた。
「昨夜はごめんなさいね。手術の痕が痛むから先生を呼んでもらったの。そしたら伊吹さんも隣でうなされてるようだったから、先生に声をかけてもらったんだけど、大丈夫だった?」
 現実だったらしい。
「は、はい。大丈夫です。ご心配かけてすみません」
 いかがわしいと思った声は彼女のうなり声だったのか。それであんな夢を見てしまったんだ。ひどい内容だった。夢でよかった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

白衣の下 先生無茶振りはやめて‼️

アーキテクト
恋愛
弟の主治医と女子大生の恋模様

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

4人の王子に囲まれて

*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。 4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって…… 4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー! 鈴木結衣(Yui Suzuki) 高1 156cm 39kg シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。 母の再婚によって4人の義兄ができる。 矢神 琉生(Ryusei yagami) 26歳 178cm 結衣の義兄の長男。 面倒見がよく優しい。 近くのクリニックの先生をしている。 矢神 秀(Shu yagami) 24歳 172cm 結衣の義兄の次男。 優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。 結衣と大雅が通うS高の数学教師。 矢神 瑛斗(Eito yagami) 22歳 177cm 結衣の義兄の三男。 優しいけどちょっぴりSな一面も!? 今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。 矢神 大雅(Taiga yagami) 高3 182cm 結衣の義兄の四男。 学校からも目をつけられているヤンキー。 結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。 *注 医療の知識等はございません。    ご了承くださいませ。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

好きだった幼馴染に出会ったらイケメンドクターだった!?

すず。
恋愛
体調を崩してしまった私 社会人 26歳 佐藤鈴音(すずね) 診察室にいた医師は2つ年上の 幼馴染だった!? 診察室に居た医師(鈴音と幼馴染) 内科医 28歳 桐生慶太(けいた) ※お話に出てくるものは全て空想です 現実世界とは何も関係ないです ※治療法、病気知識ほぼなく書かせて頂きます

処理中です...