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第1部
フェーズ1-5
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学校の正門を出たところで正木さんが待っていた。高校と大学は隣り合ってはいるものの、正門はだいぶ離れている。大学側の門から出て、わざわざこちらに回ってきたんだ。
前に会ったのは先週の日曜日だから十日ぶりくらいだ。正木さんは印象ががらりと変わっていた。トレードマークだったドレッドヘアをやめて、こざっぱりとした短髪になっている。別人みたい。
「髪、どうしたんですか?」
「あの髪型のせいで怖がらせてたかもって思って」
そんなことは、少しある。それにしても見事な変貌ぶりだ。つけているピアスのデザインも若干控えめになっている。今日が正木さんとの初対面であったなら、だいぶ印象が変わっていただろう。
「制服もいいね」
私の全身を眺めまわしたあとで正木さんが言った。そういえば制服姿で会うのは初めてだ。学園祭と日曜日に本屋で会ったときは私服だった。
「水曜日は講義が早めに終わるからさ、一緒に帰ろ」
「私、バス通学ですよ」
「じゃあ、バス停まで一緒に行こ」
バス停は目と鼻の先だ。なんの意味があるのか。私は眉をひそめた。
「そのくらいいいじゃん。せっかく髪戻したのに、美容院代が無駄になる。それにスゲー時間かかったんだぜ」
「知りませんよ……」
「疑ってるわけじゃないけど、こないだの日曜も一人だったし、帰りもこうやって一人で歩いてるし、彩ちゃんて男の影がないんだよね。学園祭にしたって、愛音ちゃんは瀬谷と一緒に行動するんだから、君も彼氏を連れてきたってよかったのにさ」
正木さんの洞察力にドキリとする。学園祭に涼を連れていくなんて、できるわけがない。放課後は愛音と一緒に帰ることが多い。今日は私は日直だったため、愛音は先に下校した。今ごろは彼氏と放課後デートを楽しんでいるはずだ。
「彼氏、年上って言ってたけど、まさか不倫じゃないよね?」
思いがけない単語が出てきた。
「違います! 忙しい人なので、なかなか会えないだけです」
不倫なんてあらぬ疑いをかけられていることはひとまず置いておき、涼は本当に忙しいから嘘はついていない。なんとかごまかさないと。医者とは言えない。医、医……せめて医大生だったら。
「医……大生なので」
「そうなの? へえ、頭いいんだ」
とっさについた嘘をとりあえず正木さんは信じてくれたようだった。嘘をつくのは苦手だし嫌い。でもこれは必要な嘘だと自分に言い聞かせる。
「そんなに忙しいんじゃ、彩ちゃんも不満なんじゃない? 別れる予定は?」
期待しているのか正木さんはうれしそうだ。
「ありません」
思わず刺々しい口調になった。付き合い始めてからまだ二カ月も経っていない。別れる予定なんてあるはずがない。そもそもそんなこと考えたくもない。
「俺だったら毎日時間作ってあげられるよ。一緒に学校行ったり帰ったり。そういう学生らしい付き合い方に憧れたりしない?」
「しないです」
本当はちょっとうらやましく思う。それでも認めるわけにはいかない。私はきっぱりと否定した。放課後デートも休日ごとのデートも、きっと楽しいし幸せだろう。でも相手が涼でなければ意味はないのだ。
押し問答を繰り広げている間に救いのバスがきた。私は正木さんと別れ、バスに乗り込んだ。私の再三の拒絶がまるで効いていないかのような笑顔で手を振られた。
前に会ったのは先週の日曜日だから十日ぶりくらいだ。正木さんは印象ががらりと変わっていた。トレードマークだったドレッドヘアをやめて、こざっぱりとした短髪になっている。別人みたい。
「髪、どうしたんですか?」
「あの髪型のせいで怖がらせてたかもって思って」
そんなことは、少しある。それにしても見事な変貌ぶりだ。つけているピアスのデザインも若干控えめになっている。今日が正木さんとの初対面であったなら、だいぶ印象が変わっていただろう。
「制服もいいね」
私の全身を眺めまわしたあとで正木さんが言った。そういえば制服姿で会うのは初めてだ。学園祭と日曜日に本屋で会ったときは私服だった。
「水曜日は講義が早めに終わるからさ、一緒に帰ろ」
「私、バス通学ですよ」
「じゃあ、バス停まで一緒に行こ」
バス停は目と鼻の先だ。なんの意味があるのか。私は眉をひそめた。
「そのくらいいいじゃん。せっかく髪戻したのに、美容院代が無駄になる。それにスゲー時間かかったんだぜ」
「知りませんよ……」
「疑ってるわけじゃないけど、こないだの日曜も一人だったし、帰りもこうやって一人で歩いてるし、彩ちゃんて男の影がないんだよね。学園祭にしたって、愛音ちゃんは瀬谷と一緒に行動するんだから、君も彼氏を連れてきたってよかったのにさ」
正木さんの洞察力にドキリとする。学園祭に涼を連れていくなんて、できるわけがない。放課後は愛音と一緒に帰ることが多い。今日は私は日直だったため、愛音は先に下校した。今ごろは彼氏と放課後デートを楽しんでいるはずだ。
「彼氏、年上って言ってたけど、まさか不倫じゃないよね?」
思いがけない単語が出てきた。
「違います! 忙しい人なので、なかなか会えないだけです」
不倫なんてあらぬ疑いをかけられていることはひとまず置いておき、涼は本当に忙しいから嘘はついていない。なんとかごまかさないと。医者とは言えない。医、医……せめて医大生だったら。
「医……大生なので」
「そうなの? へえ、頭いいんだ」
とっさについた嘘をとりあえず正木さんは信じてくれたようだった。嘘をつくのは苦手だし嫌い。でもこれは必要な嘘だと自分に言い聞かせる。
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期待しているのか正木さんはうれしそうだ。
「ありません」
思わず刺々しい口調になった。付き合い始めてからまだ二カ月も経っていない。別れる予定なんてあるはずがない。そもそもそんなこと考えたくもない。
「俺だったら毎日時間作ってあげられるよ。一緒に学校行ったり帰ったり。そういう学生らしい付き合い方に憧れたりしない?」
「しないです」
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押し問答を繰り広げている間に救いのバスがきた。私は正木さんと別れ、バスに乗り込んだ。私の再三の拒絶がまるで効いていないかのような笑顔で手を振られた。
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