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第6話 メモリーオブフィルム~映画館のある客のドラマ~
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今回の舞台は小樽館4階、映画館「ターボシネマ札樽」。
今回はそこに訪れた一人の老人にスポットを当てよう。
「本日はどの作品をご覧になられますか?」
「9:00からの”荒鷲銀三郎”のチケットを…」
この老人、「須田タダヨシ」。御年90歳。
「お席はどちらにいたしますか?」
「E-11でお願いします。
…もう70年ぶりぐらいかねえこの映画…公開以来ずっと観てないもんで…」
彼が観に来た映画「荒鷲銀三郎」は70年前に公開されたモノクロの時代劇映画だ。
当時としては斬新なセリフ回しやカメラワークは後の時代劇のみならず多方面に影響を与えた戦後時代劇を代表する名作と言われながらも、長らく権利関係の問題で再上映は行われておらず、ソフト化や放送、さらには配信すら行われていない幻の名作であった。
しかし今年、公開70周年を記念してリバイバル上映が行われる運びとなったのだ。
「思い出深い作品なんですか?」
「ええ…じつは私、この映画に出てたんですよ。」
「ええっ!?おじいさん俳優やられてたんですか!?」
「ちょっとだけの間さ…もともと私は京都に住んでたんだが大学受験に失敗してフラフラしていた時期にこの映画の出演者募集のポスターを見かけてね。それを見てオーディションに参加して合格。そしてこの映画に晴れて出演といったところだ。端役、それも斬られ役だけどね…
これがきっかけで事務所に所属となったんだが所詮は才能の世界…以降も端役ばっかりで時代劇・現代劇問わず出たがセリフが2本あればいいほう…主役やメイン級のオーディションはほとんど受けさせてもらえなかった…
気づけば年下の後輩たちに追い抜かされ…やがて自分はこの世界にいるべきではないと思い、6年で引退したんだ…
それ以降、自分の出た作品を観返したことはほとんどなかったんだが…人生最後の思い出に観ていこうかと思ってね…」
「最後の思い出…あんまりこんなこと聞くのはよろしくないと思いますがおじいさんは…」
「いいんです、気にしなくて…先が長くないのは私が一番わかってますから…”エンドロールのない映画はない、それは人生だって同じ。”…これは私の師匠…この映画の監督の方がよく口にしていた言葉です。
私も6年前に妻に先立たれこのことを痛感しました。
パッとしないことの多かった私の人生…最後は少しでもかがやせるためにエンドロールにこの映画を刻もう!
そう思って今日劇場に来ました。話が長くなってすまないね姉ちゃん…」
「いえいえ…いろいろ勉強になりました!ごゆっくりお楽しみください!」
そして老人はゆっくりとした足つきでスクリーンへと向かっていった。
それから1ヵ月後…受付の彼女の前に1人の男が訪ねてきた。
「私、1ヵ月前にこちらで荒鷲銀三郎を鑑賞された須田タダヨシの主治医だったものですが…」
「(須田タダヨシ…もしかしてあのおじいさん?)…あの…おじいさん…須田さんは…」
「実は5日前にお亡くなりになられまして…お子さんやお孫さんに見守られながら健やかな表情でした。
実は亡くなる3日前に須田さんから受付の姉ちゃんに渡してほしいと手紙を預かっておりまして…」
彼女は須田が書き遺した手紙を受け取り、開いた。
「素敵な時間をありがとうございました。
あの映画に出てた頃、そして役者をやってた頃はつらいことが多かったが人生で一番輝いてた時期だった…
それを思い出させてくれたことに感謝です。最後に素晴らしい思い出になりました。
あなたの人生はまだまだ長い。年をとり、やがて人生の終わりを迎えるとなった時に素晴らしい人生だったと思えるような素敵な”人生という映画”を完成させてください。
素敵な人生にできるのは監督であるあなただけなのですから
須田タダヨシ」
「人生という映画…私も空の上のあの人が微笑んでくれるような素敵な人生にしないと!」
今回はそこに訪れた一人の老人にスポットを当てよう。
「本日はどの作品をご覧になられますか?」
「9:00からの”荒鷲銀三郎”のチケットを…」
この老人、「須田タダヨシ」。御年90歳。
「お席はどちらにいたしますか?」
「E-11でお願いします。
…もう70年ぶりぐらいかねえこの映画…公開以来ずっと観てないもんで…」
彼が観に来た映画「荒鷲銀三郎」は70年前に公開されたモノクロの時代劇映画だ。
当時としては斬新なセリフ回しやカメラワークは後の時代劇のみならず多方面に影響を与えた戦後時代劇を代表する名作と言われながらも、長らく権利関係の問題で再上映は行われておらず、ソフト化や放送、さらには配信すら行われていない幻の名作であった。
しかし今年、公開70周年を記念してリバイバル上映が行われる運びとなったのだ。
「思い出深い作品なんですか?」
「ええ…じつは私、この映画に出てたんですよ。」
「ええっ!?おじいさん俳優やられてたんですか!?」
「ちょっとだけの間さ…もともと私は京都に住んでたんだが大学受験に失敗してフラフラしていた時期にこの映画の出演者募集のポスターを見かけてね。それを見てオーディションに参加して合格。そしてこの映画に晴れて出演といったところだ。端役、それも斬られ役だけどね…
これがきっかけで事務所に所属となったんだが所詮は才能の世界…以降も端役ばっかりで時代劇・現代劇問わず出たがセリフが2本あればいいほう…主役やメイン級のオーディションはほとんど受けさせてもらえなかった…
気づけば年下の後輩たちに追い抜かされ…やがて自分はこの世界にいるべきではないと思い、6年で引退したんだ…
それ以降、自分の出た作品を観返したことはほとんどなかったんだが…人生最後の思い出に観ていこうかと思ってね…」
「最後の思い出…あんまりこんなこと聞くのはよろしくないと思いますがおじいさんは…」
「いいんです、気にしなくて…先が長くないのは私が一番わかってますから…”エンドロールのない映画はない、それは人生だって同じ。”…これは私の師匠…この映画の監督の方がよく口にしていた言葉です。
私も6年前に妻に先立たれこのことを痛感しました。
パッとしないことの多かった私の人生…最後は少しでもかがやせるためにエンドロールにこの映画を刻もう!
そう思って今日劇場に来ました。話が長くなってすまないね姉ちゃん…」
「いえいえ…いろいろ勉強になりました!ごゆっくりお楽しみください!」
そして老人はゆっくりとした足つきでスクリーンへと向かっていった。
それから1ヵ月後…受付の彼女の前に1人の男が訪ねてきた。
「私、1ヵ月前にこちらで荒鷲銀三郎を鑑賞された須田タダヨシの主治医だったものですが…」
「(須田タダヨシ…もしかしてあのおじいさん?)…あの…おじいさん…須田さんは…」
「実は5日前にお亡くなりになられまして…お子さんやお孫さんに見守られながら健やかな表情でした。
実は亡くなる3日前に須田さんから受付の姉ちゃんに渡してほしいと手紙を預かっておりまして…」
彼女は須田が書き遺した手紙を受け取り、開いた。
「素敵な時間をありがとうございました。
あの映画に出てた頃、そして役者をやってた頃はつらいことが多かったが人生で一番輝いてた時期だった…
それを思い出させてくれたことに感謝です。最後に素晴らしい思い出になりました。
あなたの人生はまだまだ長い。年をとり、やがて人生の終わりを迎えるとなった時に素晴らしい人生だったと思えるような素敵な”人生という映画”を完成させてください。
素敵な人生にできるのは監督であるあなただけなのですから
須田タダヨシ」
「人生という映画…私も空の上のあの人が微笑んでくれるような素敵な人生にしないと!」
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