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記録ノ6 熱き早退への片道切符~お泊り会の悲劇、あるいは歓喜~

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僕の通っていた幼稚園では毎年7月にお泊り会がある。
いつもより遅めの昼頃に通園し、ホールでアニメのDVDをスクリーンで観たり、夕食を食べた後は園の外でキャンプファイヤーをしたり、打ち上げ花火を観たりする。
お泊り会といっても泊まるのは年長だけで、それ以外の園児は花火を見終わった後、親に迎えに来てもらい帰宅する。

僕は先生やクラスメイトがいるとはいえ、親元を離れて一人で一夜を過ごすことに不安があった。
この年頃の子ならば不安になる子も多いであろうから仕方ない。
僕は年少の時に年長だけ泊まるというシステムを知ってから、『年長になっても絶対泊まらない、親に迎えに来てもらう』という意思を固めていた。

しかしお泊り会を1ヵ月後に控えたある日、先生からこう聞かれた。
「ねぇ、リョーマくんは泊まらないの?」
僕はもちろん「絶対泊まらない!」と強く意思表示した。しかし先生からの返答は…
「え~?いいじゃん~泊まってよ~」
出ました。先生の得意技、念押し。リョーマの幼稚園時代の弱点といっても過言ではない。
僕が強く意思を固めても、先生の念押しの前では無力だ。
これまた”自分が折れなきゃ終わらない”的なムードを突き付けられてしまった僕は仕方なく
「わかった。泊まるよ」と返した。

そしてお泊り会当日、事件が起きる。
幼稚園に着いて、昼ぐらいまでは普通に元気だった。しかし夕方になると突然熱が出てしまう。
僕は職員室(保健室としての役割も兼ねている)のベットで横たわっていた。
食欲はあり、夕食は普通に食べれた。しかし熱は一向に下がらない。
結局、先生は僕の両親に連絡し、僕は泊まらず早退することとなった。
僕は先生から「お父さんお母さんが迎えに来てくれる」という知らせを受け取った瞬間「よっしゃ!」と思わず心の中で叫んだ。

そして特別に花火を見せてもらい、就寝準備中のクラスメイトに早退の挨拶をした後、僕は両親とともに帰っていった。

母曰く、家に着いた直後に熱は下がったのこと。要するにこの熱は俗に言う知恵熱だったのだろう。

当時の連絡帳には先生からのこんなメッセージが記されていた。
「おとまりかいではせっかくちょっととまってくれるといったのにねつがでちゃってざんねんでした。」
この文を読んだ僕は「泊まるに”ちょっと”もクソもないだろ。でも今回はオレの勝ちだ!」となぜか心の中で叫んでしまったのであった。
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