リョーマ的Y2K子供文化史考

一刀星リョーマ

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第3部 アニメ・特撮総合史

侮れない短編の魅力~劇場版ポケモン短編4作を分析する~

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劇場版ポケモンのいくつかの作品には同時上映の短編作品があった。
1998年の第1作「ミュウツーの逆襲」の同時上映として製作された「ピカチュウのなつやすみ」に端を発し、2003年の「七夜の願い星ジラーチ」の同時上映作「おどるポケモンひみつ基地」を最後にいったん中断するも、2012年「キュレムVS聖剣士ケルディオ」の同時上映作「メロエッタのキラキラリサイタル」で再開して2015年の「光輪の超魔人フーパ」の同時上映作「ピカチュウとポケモンおんがくたい」まで続いた。
これら短編作品の特徴として「トレーナーとポケモンの物語」である本編に対して「基本ポケモンのみで進行する物語」であること、「トレーナーは出たとしてもほとんどストーリーに絡まず、基本シルエットや後ろ姿などのみで顔は絶対に映らない(おどるポケモンひみつ基地で似顔絵が登場したサカキは例外)」「作品ごとに異なる女性芸能人によるナレーションが入る」といった特徴がある。
大迫力のバトルと感動ストーリーを売りにした長編に対して、短編ストーリーはポケモンたちのしぐさに笑えてほっこりする系のストーリー。長編は途中でリタイアしてしまうような小さな子供でも最後まで楽しめるような作品に仕上がっている。一方長編目当てのファン(特に高年齢層)にとっては幼稚に思っている人も多いかもしれない。
そんなこともあって長編に比べてスポットライトが当たる機会が少ない短編だが、決してただのオマケじゃない。侮れないストーリー性やメッセージ、そして子供たちを楽しませる要素はたっぷりなのだ。
今回はそんな短編の中から2000年~いったん中断となる2003年までの作品を分析し、侮れない同時上映作の魅力を紐解いていこう。

まずは2000年の「ピチューとピカチュウ」。後にスピンオフアニメも作られるほどの人気キャラとなる「ピチュー兄弟」のデビュー作でもある。
舞台となるのは「ミレニアムタウン」という洋風の都会。そこでピカチュウはピチュー兄弟と出会い、街中を一緒に探検していく…というストーリー。
この映画では「人間にとっては単なる街中も、それより小さなポケモンたちにはアスレチック」として描いているのが印象的。他のポケモンを足場にして隣のビルに渡ったり、通気口を通り抜けたり、川に落ちて遊覧船にひかれそうになったり…ピカチュウたちは体が小さくて身体能力もある分人間では行けないところも行けるがそれゆえに危険もいっぱい。子供たちの目線からしても「自分より小さなピカチュウたちが街中でスリル満点の冒険をする」ことを描くことによって街中だっていろんな秘密がいっぱいだとかポケモンたちからはこんな風に街が見えてるんだとポケモンの気分になりながら物語に入り込むことができる。
そしてこの作品には前々作のライチュウたち以来のライバル的キャラであるデルビルが登場。ひょんなことからピカチュウたちはただでさえ気性の荒いデルビルを怒らせてしまったために追いかけまわされる羽目になる。
だがピカチュウたちは崩れた秘密基地のタイヤからデルビルを助けたことで仲直り。その後は倒壊しかけた基地を立て直すのにも力を貸してくれた。「怖そうと思ってたヤツが本当はいいヤツ」的な展開は「人を見かけで判断してはいけない」という大事なメッセージを子供たちに教えてくれる。短編シリーズには助け合いとか協力といった道徳的な要素が強く入っているが、まさにこのデルビルの展開もそのひとつ。長編とはまた違ったメッセージ性も短編の魅力だ。
…と、侮れない魅力盛りだくさんの本作だが残念ながらCSでの再放送や無料・有料を含めた配信は短編の中で唯一行われてない。内容の問題ではない。ナレーションの人の問題だ。
内容が問題視されたわけじゃない。単にナレーションの人の不祥事で封印されたという悲しき作品である。作品に罪はないのに。その人のほとぼりがさめた2024年現在でもいまだに放送・配信は行われていない。各地のレンタル店に残るDVDは回収等されてないのでそれが現在正規の方法で視聴できる唯一の手段だ。
一応ナレーションの人の一件があった3年後に発売したポケモン映画15周年記念本「サトシとピカチュウの冒険ログ」には本作もきちんと記述されているので完全な封印でもないのだが、やはり映像で観る機会が少ないのが悲しい。再びミレニアムタウンのピチュー兄弟とピカチュウの冒険を映像で多くの人たちが楽しめる日は来るのだろうか…

2001年公開の「ピカチュウのドキドキかくれんぼ」。タイトル通りポケモンたちのかくれんぼがテーマだ。
この映画では翌年のルビー・サファイアに1年以上先駆けてホエルコ・ルリリ・カクレオンとホウエン地方のポケモンが3体も先行登場している。
なんたってこの作品の最大の魅力は「ポケモンたちの隠れ姿」。フシギダネは土の中に隠れて植物に擬態し、ルリリは噴水にたまった水の中に隠れ、キマワリはひまわり畑に隠れて擬態、ヒノアラシは暖炉の火に擬態、そしてカクレオンはそのまま透明化…などそれぞれのポケモンの生態を生かした隠れ方を披露し、子供たちの想像力と好奇心をかきたてる。このポケモンはどうやって隠れるのか?を予想しながら観るだけで楽しい。短編シリーズでは人間がほとんど出てこない分、ポケモンの生態を本編以上にフィーチャーしているが、この作品では特にそれを生かしている。
短編といえば後半で何らかのトラブルがポケモンたちを襲い、みんなで協力して解決するというのが毎回のお約束であるがこの作品で後半脅威として襲いかかるのは暴走した芝刈り機。これまでの作品だと嵐が襲ってきたり、リザードンの首が挟まって抜けなくなったり、前述のピチューとピカチュウの秘密基地が倒壊しかけたりという人災(ポケ災?)的なものや自然災害が脅威であったが、今回は初めて機械によるトラブル(といっても元はヨーギラスが芝刈り機に石ぶつけたのが原因なのでこれもポケ災なのかもしれないが)。人間の目線では特別大きくもない芝刈り機もポケモンたちにとっては十分巨大。この芝刈り機はポケモンの目線に合わせるように車並みに大きく描かれており、観客もピカチュウたちと同じスリルを味わえる演出として効果的に生かされている。
一旦海に沈めて一件落着…と思いきや海から芝刈り機が出てくるシーンもパニック映画さながら。
最後はポケモンたち皆で協力して芝刈り機を小屋に追い込んで半壊状態にして暴走を食い止めた。
さっきまでポケモンたちに脅威となっていた芝刈り機が狭い小屋で暴れまくってボロボロになったシーンはコミカルでもありどこかシュールにも感じる。あの手この手で芝刈り機を食い止めようとするポケモンたちの作戦と攻防はトムとジェリーにも通じる部分がある。アメリカンアニメにも通じるグローバルにも受けるであろう演出だ。

2002年公開の「ピカピカ星空キャンプ」。ピチュー兄弟2度目の登場となった作品(ちなみに前作にも本人たちの直接の登場はないがある形で登場している)。
ピカチュウたちがトラブルで乗っていた汽車から飛ばされてしまったピチュー兄弟を駅まで送り届けるため大自然の中を冒険しながら駅を目指す話だ。自然とのふれあいやキャンプファイヤーのシーンがあるなどタイトル通りキャンプの要素もある。
前作に続いてホウエン地方のポケモンが先行登場。ソーナノ・ヨマワル・バルビートの3体。
とくにソーナノはピカチュウたちと同行し、物語の中ではピカチュウ、ピチュー兄弟に次ぐメインを務めている。
更に進化系ゆえにソーナンスと謎の意気投合をするシーンも。「ソーナノ?」「ソーナンス!」と掛け合いをする姿は何を言ってるかはわからないがとにかくほほえましい。このシーンは水車小屋の装置が動き出してパニックになっているシーンであったが、その中でもほっと一息なシーンであった(といってもパニックになるシーンもシリアスでなくコミカルに描かれているが)。
他の2体もバルビートは上記の水車小屋に案内してくれピカチュウたちとともに一夜を過ごし、ヨマワルはソーナノの友達として登場し、弟ピチューを驚かせるものの、その弟ピチューの願いで兄ピチューも驚かせるなどどこか憎めないイタズラ者という恐ろしいゴーストタイプのイメージをかわいらしくした立ち回りであった。
終盤はピチュー兄弟を汽車に載せるために大奮闘。大量のソーナノたちが協力してトロッコを動かすシーンはなかなか壮大。ヒノアラシはかえんほうしゃでトロッコを加速させ、ゴマゾウは自慢の鼻でピチューを放り投げ、ワニノコがそれをみずでっぽうで汽車までとばす…新ポケモンという冠付きのメインゲストのソーナノにばかりいいカッコさせずに既存のポケモンにもスポットライトを当てる。ポケットモンスターというブランドがいかにキャラ1体1体を大事にしてるかが見て取れる。

最後に2003年公開の「おどるポケモンひみつ基地」。これまでの短編シリーズではチョイ役であったロケット団のニャースを初めてメイン級に置き、当時のロケット団の手持ちも全員集合。ニャースとソーナンス以外のロケット団の手持ちが登場するのはピカチュウのなつやすみ以来となる。
タイトル通りムサシたちが完成させたロケット団の秘密基地を舞台にピカチュウたちを交えて描く大騒動がテーマとなっており、これまでのシリーズ以上にドタバタ劇の色合いが強い。
今までの作品が「ポケモンたちのしぐさやかわいらしさとそこから生まれる笑いと友情を楽しむほのぼの系」だとしたら本作は「ポケモンたちのドタバタっぷりから生まれる爆発的な笑いを楽しむバカ笑い系」といったところだろう(かえってわかりにくかった?)。
「おどる」というタイトルだけにあってダンスが作品の大きなテーマとなっており、ニャースの発明した「モンスターダンシングボール」(以下MDB)がキーアイテムとなっている。これはボールという名前だがステッキ状のアイテムで、ここから流れる音楽を聴くとどんなポケモンたちでも踊りだしてしまうのだ。
本作は何らかの拍子でMDBが起動してポケモンたちが踊りだしてしまうと言った展開が天丼的に繰り返される。こういった「同じことが何回も繰り返される」という天丼的ギャグは子供たちは大好物だろう。展開はわかってるんだけど笑っちゃう的な。
MBDから流れる曲は当時のアニメEDでもあった「ポルカ・オ・ドルカ」。タイトル通りポルカ調の曲だが、MBDではワルツ調やハワイアン調などのアレンジが用意され、曲調にあわせてポケモンたちのダンスも変わる。ポケモンたちが楽し気に踊り狂うさまはインド映画顔負け。ダンスを観ているだけでも楽しい。
ドゴームは大声出しながらおどる一方でクールなキモリは途中まで踊るのをこらえるなど各ポケモンらしさもダンスシーンには出ている。
そしてこの映画のもうひとつの特徴は「山田花子さんによるナレーション」。関西弁を母語とする人物を起用した故にナレーションも関西弁というシリーズでも異色の雰囲気となっているが、関西弁のナレーションが本作のドタバタ感にマッチしており、より一層作品を楽しいものにしている。

…以上、ポケモン映画短編4作を分析してみた。
長編だけがポケモン映画ではない。短編にも決して侮れない魅力がつまっていることをお分かりいただければ幸いだ。
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