リョーマ的Y2K子供文化史考

一刀星リョーマ

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第3部 アニメ・特撮総合史

アドバンスな世代たち~アニポケのタイトル変更から読み解く世代交代~

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前回まで長らく特撮の話題でつないできたが、この章は「アニメ・特撮総合史」。つまりそろそろアニメの話題にも入らねばならない。というわけで今回からアニメの話題に入っていこう。
21世紀に入って以降、長期作品において登場人物やタイトルの変更と言った世代交代がより目立つようになってきた。1年ごとに主人公を変える作品もあれば、数年おきに舞台や一部のキャラを入れ替える作品も増えてきた。
今回からは後者にあたる「ポケモン」を分析していこう。

ポケモンのアニメ(以下アニポケ)が最初にタイトル変更を行ったのは2002年11月21日放送開始の「アドバンスジェネレーション」(以下AG)から。ゲーム「ルビー・サファイア」の発売と同時にタイトル変更を行い、同時に一部レギュラーの入れ替えを行ったのだ。
無印シリーズでもオレンジ諸島編ではタケシの一時的なフェードアウトとケンジの加入、金銀編ではゲームにあわせて舞台をジョウト地方に移すといったリニューアルを行ったが、いずれも「○○編」の名称はソフト化の際にカントー編と区別するためにつけられたものであり、放送時のタイトルは変わらずであった。
しかしこの時点でアニポケも放送開始からすでに5年半以上経過しており、長期作品の部類に入ってきた。作品の将来のためのマンネリ打破や、原作のハードもゲームボーイアドバンスに移行した時代の変化、新しい気持ちで視聴者に作品を楽しんでもらうというためにもタイトルを変えたのだろう。

タイトルを変えるというのは常に賛否両論があるが、タイトルを変えると前述したように視聴者は新鮮な気持ちで楽しめるというメリットがある。
現に作風や基本フォーマットを変えずに2度タイトルを変更している「でんぢゃらすじーさん」も、「絶体絶命でんぢゃらすじーさん」から「でんぢゃらすじーさん邪」に最初のタイトル変更を行った時は「すでに15~16巻ほど巻数を重ねているなかで、中途半端な巻からだと子供が買いにくいのでは」「子供の目線から考えればやっぱり1巻から読みたいよね」と考えて変更に踏み切ったのだ。
実際僕もアニポケはAGの途中からリアタイで観始めたものだから、後番組のダイヤモンドパールが始まった時は「前回は途中参加だったから今回は最初から観れる」と嬉しかったものだ。
タイトルを変えるというのはそのタイトルを愛してくれているファンの存在という重い十字架を背負う覚悟が必要であるが、「途中入場は気が引ける」と遠慮がちだった新たなファンを呼び込み、既存のファンにもまっさらな気持ちで楽しんでもらえるという大きなメリットがあるのだ。

AG編ではサトシ・タケシに加えて新たな仲間としてハルカとマサトが加わった。
カスミに代わるヒロインポジションのハルカはルビー・サファイアの女主人公と同じデザインで、アニポケではじめてゲーム版の主人公がレギュラーに加わり、以降もゲーム版主人公はヒロインとして度々起用されていくこととなる。
一方ハルカの弟のマサトはポケモントレーナーとなれる年齢(10歳)にまだ満たない7歳であり、こちらもサトシの仲間の親族が旅に加わるのも、ポケモントレーナーになれない年齢の子供が仲間になるのもこれが初。
そしてサトシ以外の旅のメンバーで唯一の続投であるタケシは無印の最終回のひとつ前の回でいったんサトシと別れるものの、AG編4話でサトシたちと合流。4人でホウエン地方とバトルフロンティアを旅することとなった。

メンバーの入れ替えは人間だけではない。その手持ちポケモンも入れ替えが行われた。
サトシはピカチュウのみを連れ、他のポケモンたちはオーキド研究所に預けてホウエン地方にわたり、タケシも無印からの続投の手持ちはフォレトスのみ。以降「新シリーズで新たな地方にわたる際はサトシはピカチュウ以外の手持ちを研究所に預けていく」というお約束ができあがる(DPでは例外的にエイパムもついてきたけど)。
そしてサトシたちに立ちはだかるおなじみロケット団。彼らの戦闘で使う手持ちは冒頭では変わらずアーボックとマタドガスの長年の名コンビであったが、第6話でポケモンハンターから野生のアーボとドガースたちの群れを守るためにロケット団と涙の別れ。自分はまだこの時はリアタイ試聴はしてなかったのでビデオで初見だったが「前シリーズの最終回でもない、新シリーズの1話でもない中途半端なタイミングで別れるんだな」「新シリーズでもこの2匹は続投だって喜んでたヤツは相当ショックうけたんちゃうか?」なんて子供心に思ったものだ(もちろん、このようなタイミングでの降板劇はいろいろ事情があったのだろうが)。
その後ムサシはハブネークとケムッソからマユルドを経て進化したドクケイルを手持ちとし、コジロウはサボネアとチリーンを入手したのち、衰弱したチリーンがコジロウの別荘にわたるのと入れ替えにマネネが加入した。
ドクケイルは当初進化系のマユルドをムサシがカラサリスと勘違いし、アゲハントに進化するものと思い込んでいたのでコジロウとニャースがバレないように必死にごまかし、ドクケイルに進化した瞬間にニャースがアゲハントのコスプレで「ニャー、アゲハントニャー。」とめっちゃへたなごまかし方したのが印象的。だが必死に隠していたドクケイルがバレた後はコジロウ達の予想とは裏腹に逆にお気に入りとなるのが印象的。
コジロウのサボネアもかつてのウツボットを踏襲し、登場時に勝手にコジロウに張り付くのがお約束と化し、白熱の戦闘シーンに癒しと笑いを届けてくれた。

ストーリーにおいては前作までは単なる「仲間」という描き方に過ぎなかったヒロインについてより掘り下げられるようになった。サトシだけでなくヒロインであるハルカの物語も「もうひとりの主人公」と言わんばかりに深く描かれている。サトシがこれまでのシリーズ同様にジム戦やポケモンリーグに挑んでいくのに対し、ハルカはルビー・サファイアで導入された「ポケモンコンテスト」に挑んでいき、優勝者に与えられるリボンを集めて「グランドフェスティバル」への出場を目指す。
サトシにジムもコンテストもどっちもやってもらうのは大変だし、ヒロインの魅力をよりアピールしたいという思い、さらにより女児層にも楽しんでもらうためにこの設定にしたのだろう。ポケモンコンテストの内容自体が女性層を狙ったもの(別にゲーム・アニメ共にコンテストに性別の制限はないし、アニメでも男性コーディネイターがちゃんと参加しているが)であり、さらなる女児層の普及を目指したものなのは間違いない。
思えばアニポケは初期から女児層を狙う施策を多々取り入れてきた。ゲームの「赤・緑」の発売時点でスタッフとしても「ポケモンの絵柄は中性的だし、女の子にもアピールしたい」という思いを強く持っており、サトシの相棒をピカチュウにしたのもそれが理由のひとつ。実際他にもかわいい系のピッピやプリンも候補にあがっていた(他にも最初の3匹のどれかを選んでしまうと他のを選んだ子がショックを受けてしまうかもという理由もあった)。

ホウエンのジムバッジをすべて集め、ホウエンリーグが終わった後は「エメラルド」で登場したバトルフロンティアにサトシが挑む。しかしその所在地はゲームと同じホウエン地方ではなくカントー地方。エメラルドと同時期に発売された「ファイアレッド・リーフグリーン」にも合わせた感じだ。
バトルフロンティアはゲームでは施設ごとに異なるルールでバトルを行ったが、アニメでは全施設通常ルールで統一。フロンティアブレーンの前に一般トレーナーとの戦闘が組まれることもなく、単に各施設のリーダーたるフロンティアブレーンと戦って「シンボル」を集めていくという通常のジム戦と変わらない感じになった。
ゲームでのバトルフロンティアのアイデンティティであった施設ごとのルールが再現されていないのは残念だが、トレーナーが技の指示を出せずポケモンが自分で考えて技を使う「バトルパレス」のようにアニメでは再現しにくいルールも存在するので致し方ないだろう。
一方独自の設定もあり、アニメで最後にサトシが挑んだ「バトルピラミッド」は空を飛んで挑戦者を迎え撃つために移動するというゲームにはない設定を持つ。「他のシンボルをすべて集めればバトルピラミッドの場所がわかる」という設定であったが、その正体が空飛ぶピラミッドというのは当時の子供たちを驚かせたものだ。

無印でも金銀発売前にトゲピーが登場したり、終盤にはカクレオンやバシャーモなどのホウエンのポケモンの一部が顔を見せるなど新作ゲームに先行して新たなポケモンを登場させてきたが、AGでも映画で先行登場した前述のマネネやゴンベ、最終回でシゲルの手持ちとして登場したエレキブルなどがDPに先行して登場した。特にゴンベはDPから実に2年も先行しての登場だ。こうした新ポケモンの登場は、新シリーズへの期待を盛り上げ、高揚感に踊らされたまま新シリーズへ視聴者をそのまま引き込むことに一役買ったのは間違いないだろう。

「新たなる大地!新たなる冒険!!」…第1話のこのサブタイトル通り、スタッフにとっても5年半以上使い続けたタイトルを変え、新たな機軸を盛り込むことはまさに冒険であった。だがこの冒険が成功し、その後も「サトシとピカチュウはそのままに、一部の設定とキャラを変えて新シリーズを立ち上げる」という方式が完成し、ポケモンワールドはさらに広がっていったのだ。
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