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第3部 アニメ・特撮総合史
平成仮面ライダーとイケメンヒーローブーム
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今回からはアニメと特撮全体の歴史と分析に入る。
この章の最初に取り上げるのは「平成仮面ライダー」をはじめとする特撮に端を発する「イケメンヒーローブーム」。ヒーローにイケメンを取り入れるというこの時代を語るうえで欠かせない大きなパラダイムシフトである。
まずは平成ライダーの始まりから。
「仮面ライダーBLACK RX」の終了から約11年。2000年1月30日にライダーは再び永い眠り(といってもこの間劇場版とかVシネマとかあったけど)から目覚め、平成の、そして間もなく21世紀を迎えようとするお茶の間に帰ってきた。その名は「仮面ライダークウガ」。
クウガは「改造人間設定のオミット」や「リアル路線の徹底」などそれまでのライダーの常識を覆す要素を次々導入し、これらは現在の令和ライダーまで続くライダーの新たな基本フォーマットとなっていった。
前者は当時すでに臓器移植等の医療技術・医療器械技術が進歩し、機械の力ですくわれる命がたくさんある時代に改造手術を悪と書くことに抵抗を感じたスタッフの判断による変更であり、以降ライダーは「改造人間」から「ベルトで強化変身する人間」へと変わっていった。
後者は「ライダーがスマートに”変身”をコールする」「ライダーが変身中に攻撃される」といった要素のことである。長年にわたる昭和ライダーのツッコミどころともいわれる「ライダーはなぜ変身中に攻撃されないのか?」という疑問に対するアンサーともいえよう(そもそも初代ライダーは高速で変身してる設定だったらしいが)。クウガは昭和ライダーのように「変!身!」なんて誇張せずに「変身!」とスマートに言いながら変身するし、変身中だって攻撃されることがある。クウガが描いた平成の、21世紀の新たなヒーロー像。これが今となってはライダーのスタンダードとなったわけだ。
現代(放送当時)の子供たちの目線から考えても、「変!身!」なんて誇張した言い方は幼稚に思うかもしれないし、変身中に攻撃を受けるヒーローは弱弱しく見えるどころか逆に物語にスリルを生んでいる。
さらにクウガの協力者に警察がいるという「ヒーローと公権力の連携」という路線を打ち出した。
…といってもヒーローと警察の関わりはクウガに始まったことではない。古くは「ロボット刑事」や「電人ザボーガー」のように警視庁に所属するヒーローや刑事のヒーローが描かれ、平成以降においてもメタルヒーローシリーズのレスキューポリス3部作で警察を主人公にしてきた。
「警察・刑事」という「実在するヒーロー」と特撮ヒーローにはこのように古くから関わりがあるわけだが、クウガでは「ヒーローの変身者の表の顔」としての警察ではなく「ヒーローの協力者としての警察」を登場させた。
警視庁に未確認生命体(グロンギ)事件を担当する部署を設け、警察という実在の組織がグロンギに関する事件を追い、それらに立ち向かうクウガに協力する…この設定が物語のリアリティーを増加させており、以降のライダーにおける深いドラマ性の確立につながったのは間違いないだろう。
こういったドラマ性は高年齢層をもつかみ、子供たちだけでなく30代の男女(もちろんこの中には子供たちと一緒に観てた親御さんもいらっしゃると思うが)や男子高校生の視聴者が占める割合も多かったことがそれを証明している。当時の時点で昭和第1期ライダー(初代~ストロンガー)を観た世代は親となっており、当時の高校生だってBLACK2部作をリアタイで観て育った世代である。こういった「ライダーで育った世代」の呼び戻しにも見事に成功したわけだ。
…さて、ここからもうひとつの本題へ入っていこう。
クウガの主演であるオダギリジョーさんは本作をきっかけにブレイクし、子供たちだけでなく母親層やそれまで特撮とは無縁と思われた若い女性層のハートもばっちりつかんだ。これをきっかけに「番組に魅力的なキャスティングを用意することにより、本来想定外の層の顧客もつかんでしまう」という「オダギリ効果」なる言葉が生まれ、クウガの成功をきっかけに特撮においてイケメン俳優のキャスティングが重視されるようになり翌年以降にかけて「イケメンヒーローブーム」なる一大ムーブメントへと発展していき、そのレガシーとして現在に至るまでライダーや戦隊といった特撮作品は「若手俳優の登竜門」として注目され続けている。
実際特撮においてはクウガ以前の90年代後半ごろからイケメン俳優のキャスティングに力を入れてきた。
例えば「ウルトラマンティガ」では当時V6の長野博さんを主演においたことで女児・女性層の人気を獲得し、放送期間中の1997年度バンダイこどもアンケートにおいてウルトラマンが女児総合トップ10入りを果たしている。「オダギリ効果」以前にすでに「特撮にイケメンを配置することによって女性層の獲得につながる」という説が立証していたのだ(もっとも、バンダイ側はアンケートの結果に対して長野さん効果に加えて防衛チームGUTSの隊長が女性であったことも大きな影響になっていると分析しているが)。
子供たちにとっても、他の番組は観てくれないお母さんがクウガは一緒に観てくれるし、そっから一緒にハマってくれて、やがてクウガのグッズを買ってもらえることにつながる…東映はもちろん、子供たちやバンダイはじめ関連商品のライセンシーにとっても「オダギリ様様」だったのは間違いない。
イケメンをヒーロー役に起用することにより、親子で一緒に番組を楽しんでもらえるきっかけづくりとなり、それイコール番組が親御層に受け入れられるのにつながる。
かつてヒーローものと言えば「暴力的だ」とか「殺し合いだ」といった理由で快く思わない親も少なくなかった。もちろんクウガがそれらを完全に払拭できたわけではないが、間違いなく親御層、特に母親層にとって良く受け入れられるきっかけになったのは想像に難くないだろう。
…次回は翌年以降の特撮作品からさらにイケメンヒーローブームを紐解いていこう。
この章の最初に取り上げるのは「平成仮面ライダー」をはじめとする特撮に端を発する「イケメンヒーローブーム」。ヒーローにイケメンを取り入れるというこの時代を語るうえで欠かせない大きなパラダイムシフトである。
まずは平成ライダーの始まりから。
「仮面ライダーBLACK RX」の終了から約11年。2000年1月30日にライダーは再び永い眠り(といってもこの間劇場版とかVシネマとかあったけど)から目覚め、平成の、そして間もなく21世紀を迎えようとするお茶の間に帰ってきた。その名は「仮面ライダークウガ」。
クウガは「改造人間設定のオミット」や「リアル路線の徹底」などそれまでのライダーの常識を覆す要素を次々導入し、これらは現在の令和ライダーまで続くライダーの新たな基本フォーマットとなっていった。
前者は当時すでに臓器移植等の医療技術・医療器械技術が進歩し、機械の力ですくわれる命がたくさんある時代に改造手術を悪と書くことに抵抗を感じたスタッフの判断による変更であり、以降ライダーは「改造人間」から「ベルトで強化変身する人間」へと変わっていった。
後者は「ライダーがスマートに”変身”をコールする」「ライダーが変身中に攻撃される」といった要素のことである。長年にわたる昭和ライダーのツッコミどころともいわれる「ライダーはなぜ変身中に攻撃されないのか?」という疑問に対するアンサーともいえよう(そもそも初代ライダーは高速で変身してる設定だったらしいが)。クウガは昭和ライダーのように「変!身!」なんて誇張せずに「変身!」とスマートに言いながら変身するし、変身中だって攻撃されることがある。クウガが描いた平成の、21世紀の新たなヒーロー像。これが今となってはライダーのスタンダードとなったわけだ。
現代(放送当時)の子供たちの目線から考えても、「変!身!」なんて誇張した言い方は幼稚に思うかもしれないし、変身中に攻撃を受けるヒーローは弱弱しく見えるどころか逆に物語にスリルを生んでいる。
さらにクウガの協力者に警察がいるという「ヒーローと公権力の連携」という路線を打ち出した。
…といってもヒーローと警察の関わりはクウガに始まったことではない。古くは「ロボット刑事」や「電人ザボーガー」のように警視庁に所属するヒーローや刑事のヒーローが描かれ、平成以降においてもメタルヒーローシリーズのレスキューポリス3部作で警察を主人公にしてきた。
「警察・刑事」という「実在するヒーロー」と特撮ヒーローにはこのように古くから関わりがあるわけだが、クウガでは「ヒーローの変身者の表の顔」としての警察ではなく「ヒーローの協力者としての警察」を登場させた。
警視庁に未確認生命体(グロンギ)事件を担当する部署を設け、警察という実在の組織がグロンギに関する事件を追い、それらに立ち向かうクウガに協力する…この設定が物語のリアリティーを増加させており、以降のライダーにおける深いドラマ性の確立につながったのは間違いないだろう。
こういったドラマ性は高年齢層をもつかみ、子供たちだけでなく30代の男女(もちろんこの中には子供たちと一緒に観てた親御さんもいらっしゃると思うが)や男子高校生の視聴者が占める割合も多かったことがそれを証明している。当時の時点で昭和第1期ライダー(初代~ストロンガー)を観た世代は親となっており、当時の高校生だってBLACK2部作をリアタイで観て育った世代である。こういった「ライダーで育った世代」の呼び戻しにも見事に成功したわけだ。
…さて、ここからもうひとつの本題へ入っていこう。
クウガの主演であるオダギリジョーさんは本作をきっかけにブレイクし、子供たちだけでなく母親層やそれまで特撮とは無縁と思われた若い女性層のハートもばっちりつかんだ。これをきっかけに「番組に魅力的なキャスティングを用意することにより、本来想定外の層の顧客もつかんでしまう」という「オダギリ効果」なる言葉が生まれ、クウガの成功をきっかけに特撮においてイケメン俳優のキャスティングが重視されるようになり翌年以降にかけて「イケメンヒーローブーム」なる一大ムーブメントへと発展していき、そのレガシーとして現在に至るまでライダーや戦隊といった特撮作品は「若手俳優の登竜門」として注目され続けている。
実際特撮においてはクウガ以前の90年代後半ごろからイケメン俳優のキャスティングに力を入れてきた。
例えば「ウルトラマンティガ」では当時V6の長野博さんを主演においたことで女児・女性層の人気を獲得し、放送期間中の1997年度バンダイこどもアンケートにおいてウルトラマンが女児総合トップ10入りを果たしている。「オダギリ効果」以前にすでに「特撮にイケメンを配置することによって女性層の獲得につながる」という説が立証していたのだ(もっとも、バンダイ側はアンケートの結果に対して長野さん効果に加えて防衛チームGUTSの隊長が女性であったことも大きな影響になっていると分析しているが)。
子供たちにとっても、他の番組は観てくれないお母さんがクウガは一緒に観てくれるし、そっから一緒にハマってくれて、やがてクウガのグッズを買ってもらえることにつながる…東映はもちろん、子供たちやバンダイはじめ関連商品のライセンシーにとっても「オダギリ様様」だったのは間違いない。
イケメンをヒーロー役に起用することにより、親子で一緒に番組を楽しんでもらえるきっかけづくりとなり、それイコール番組が親御層に受け入れられるのにつながる。
かつてヒーローものと言えば「暴力的だ」とか「殺し合いだ」といった理由で快く思わない親も少なくなかった。もちろんクウガがそれらを完全に払拭できたわけではないが、間違いなく親御層、特に母親層にとって良く受け入れられるきっかけになったのは想像に難くないだろう。
…次回は翌年以降の特撮作品からさらにイケメンヒーローブームを紐解いていこう。
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