リョーマ伝～小学生編～

おこぼれ話240 すずりのウラオモテ

小3から習字の授業が始まったが、その開始当初、僕のクラスでは墨を入れるすずりを表で使うかひっくり返して裏で使うかで分かれていた。
裏側には弧を描いた溝がついており、それが筆の余分な墨をはらうときにやりやすいとの声が多く挙がっていたため、僕は裏で使う派だった。
だが本来このような使い方は公式の使い方ではない。裏側についている滑り止めがそれを物語っている。それでもクラスの結構な割合、少なくとも3分の1以上の人がひっくり返して使っていたし、先生もそれだけ本来とは違う使い方をしてる人がいても一切文句を言うことはなかった。
だがこの「ひっくり返して使うブーム」が終焉を迎えるときがやってくる。

習字の授業が始まって2～3カ月ほどたったある日の授業。その日も僕はいつものようにすずりをひっくり返して使おうとしていた。
しかし僕が墨を注ごうとした瞬間、隣の席のエノウエさんが必死に呼び止めた。
「リョーマ、それ間違ってるよ！」
…すずりをひっくり返して使うのが間違ってると僕を止めるのだ。他の人はすずりをひっくり返していても隣の人から一切文句を言われないし実際今まで僕も言われてこなかった。それどころか先生にだって文句を言われてないのになぜ彼女だけ怒る？それが僕の第一印象だった。
だから僕は反論した。「こっちのほうがやりやすいし、他の人だって使っているし…」
しかし彼女も例の滑り止めを指さし反論する。「ほれ、滑り止め！！裏返してたらつーって床に落っこちちゃう！」
本来裏返して使うのは推奨されてないのだから彼女の言ってることは正しい。だが僕は「他の人は隣の人から文句を言われないのし自分も今までは一切言われてこなかったのになぜ彼女にだけこんなにガミガミ言われなきゃアカンのだ…」と納得がいかなかった。結局「この先もまたひっくり返してもガミガミ言ってくるだろうから」と以降僕は普通にすずりを使うようになった。

それから何日か後の習字の授業。エノウエさんは他の席のすずりを裏返して使ってる人にも注意をしてきた。
彼女の効果かは不明だが、以降クラスですずりをひっくり返して使う人は消えていった。