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おこぼれ話32 アンダー・ザ・コーラルシー~サンゴの海に届いた手紙~
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小学校生活6年間、国語の授業で様々な文章や物語に触れてきたが、その中でも印象深い文章のひとつが2年生の時にやった「サンゴの海の生き物たち」という説明文系の文章だ。
その名の通りサンゴの海に生息する特徴的な生態を持つ生き物たちについて紹介した文章で、写真を交えてユニークな生態をこの年代の子供たちにわかりやすく紹介している。
生き物好きの僕にとってはたまらない文章であった。
この文ではホンソメワケベラとカクレクマノミについて紹介されている。
前者のパートでは小さな体で他の大きな魚の口の中に潜り込み、寄生虫などを食べて掃除するという生体が紹介された。
ホンソメワケベラという魚の存在はこの文章で初めて知ったし、他の魚を掃除するという生体がカッコイイと思ったものだ。最初は大きな魚の口に入っていくホンソメワケベラの写真を見て「逆に大きな魚に食われたりしないのだろうか…」と少し心配をしたが、読み進めていくうちに徐々にホンソメワケベラと大きな魚がお互いを信頼しているからこその光景と理解していき、だんだんほほえましく見えてきた。ホンソメワケベラは海の小さなヒーローとして僕の幼い眼にうつっていた。
カクレクマノミのパートでは天敵から身を守るためにイソギンチャクに身を隠すという習性が紹介された。
カクレクマノミといえば自分の中では「ファインディングニモ」のイメージが強い。僕も映画を観ていて(というか人生で初めて劇場で観た映画)ゲーム版もプレイしていたのでカクレクマノミとイソギンチャクの関係性はよく知っていた。僕もカクレクマノミは大好きな魚だ。
文章中のカクレクマノミの写真を見て、クラス中口をそろえて「ニモだ!」と口々に言っていた光景を思い出す。子供たちの感覚からしたら「カクレクマノミ」という生物名よりも「ニモ」という架空のキャラクター名が真っ先に浮かんできたのだろう。僕もその一人だった。水族館でカクレクマノミを観るたびに「ニモ」と呼んでいたものだ。
本来の生物名と肩を並べるほどの代名詞へと成長する…それほど「ニモ」という存在は大きかったのだ。
授業内では文章中の海の生き物になりきってお礼の手紙を書くということも行った。大きな魚からホンソメワケベラへの手紙か、カクレクマノミからイソギンチャクへの手紙かのどちらかを選んで書いてクラスの前で発表するというものだ。
僕は断然カクレクマノミ派であったが、大きな魚のほうが書きやすそうだったので前者を選んだ。
僕が書いたのは大きな魚の立場からホンソメワケベラに「いつも僕の口の中を掃除してくれてありがとう。これからもよろしく」的な無難なものであった。というか大きな魚を選んだ他のみんなもだいたいこんな感じだったのでかぶり気味であった。
しかしある女子の描いた手紙に僕は度肝を抜かれた。
「いつも掃除してくれてありがとう。お礼に僕が君の口の中を掃除してあげたいけど僕の体は大きいから君の口の中には入れないんだ。ごめんね。」
…なんと単にお礼を言うだけではなく、「お礼にホンソメワケベラの口の中を掃除してあげたい」というオマケの文までついていたのだ。そのような着眼点には「まいった!その発想はなかった!」の一言であった。
もちろんクラス中が拍手喝采。先生も「”お礼に掃除してあげたい”と言ったのがよかった。」と彼女を称賛していた。
…あれから15年以上…僕は様々な物語に触れ、僕自身も今このネット上でこうしていろんな物語を書いているが、あの時の彼女の着眼点はどんな物語にも負けないものだったと思う。
様々な者の立場に立った広い視野。それは創作の世界で生きていくうえで大切なスキルと言えよう。
その名の通りサンゴの海に生息する特徴的な生態を持つ生き物たちについて紹介した文章で、写真を交えてユニークな生態をこの年代の子供たちにわかりやすく紹介している。
生き物好きの僕にとってはたまらない文章であった。
この文ではホンソメワケベラとカクレクマノミについて紹介されている。
前者のパートでは小さな体で他の大きな魚の口の中に潜り込み、寄生虫などを食べて掃除するという生体が紹介された。
ホンソメワケベラという魚の存在はこの文章で初めて知ったし、他の魚を掃除するという生体がカッコイイと思ったものだ。最初は大きな魚の口に入っていくホンソメワケベラの写真を見て「逆に大きな魚に食われたりしないのだろうか…」と少し心配をしたが、読み進めていくうちに徐々にホンソメワケベラと大きな魚がお互いを信頼しているからこその光景と理解していき、だんだんほほえましく見えてきた。ホンソメワケベラは海の小さなヒーローとして僕の幼い眼にうつっていた。
カクレクマノミのパートでは天敵から身を守るためにイソギンチャクに身を隠すという習性が紹介された。
カクレクマノミといえば自分の中では「ファインディングニモ」のイメージが強い。僕も映画を観ていて(というか人生で初めて劇場で観た映画)ゲーム版もプレイしていたのでカクレクマノミとイソギンチャクの関係性はよく知っていた。僕もカクレクマノミは大好きな魚だ。
文章中のカクレクマノミの写真を見て、クラス中口をそろえて「ニモだ!」と口々に言っていた光景を思い出す。子供たちの感覚からしたら「カクレクマノミ」という生物名よりも「ニモ」という架空のキャラクター名が真っ先に浮かんできたのだろう。僕もその一人だった。水族館でカクレクマノミを観るたびに「ニモ」と呼んでいたものだ。
本来の生物名と肩を並べるほどの代名詞へと成長する…それほど「ニモ」という存在は大きかったのだ。
授業内では文章中の海の生き物になりきってお礼の手紙を書くということも行った。大きな魚からホンソメワケベラへの手紙か、カクレクマノミからイソギンチャクへの手紙かのどちらかを選んで書いてクラスの前で発表するというものだ。
僕は断然カクレクマノミ派であったが、大きな魚のほうが書きやすそうだったので前者を選んだ。
僕が書いたのは大きな魚の立場からホンソメワケベラに「いつも僕の口の中を掃除してくれてありがとう。これからもよろしく」的な無難なものであった。というか大きな魚を選んだ他のみんなもだいたいこんな感じだったのでかぶり気味であった。
しかしある女子の描いた手紙に僕は度肝を抜かれた。
「いつも掃除してくれてありがとう。お礼に僕が君の口の中を掃除してあげたいけど僕の体は大きいから君の口の中には入れないんだ。ごめんね。」
…なんと単にお礼を言うだけではなく、「お礼にホンソメワケベラの口の中を掃除してあげたい」というオマケの文までついていたのだ。そのような着眼点には「まいった!その発想はなかった!」の一言であった。
もちろんクラス中が拍手喝采。先生も「”お礼に掃除してあげたい”と言ったのがよかった。」と彼女を称賛していた。
…あれから15年以上…僕は様々な物語に触れ、僕自身も今このネット上でこうしていろんな物語を書いているが、あの時の彼女の着眼点はどんな物語にも負けないものだったと思う。
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