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記録ノ112 最後の運動会~合戦、演武、そして終結へ~
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運動会午前の部もいよいよクライマックス。
午前のフィナーレを飾るよさこいの前に、もう一つの花形競技、5・6年生による騎馬戦がある。5年生の部と6年生の部で分けて行われる。
僕は去年は騎馬役であった。ガンガン攻め入るようなタイプの人間じゃないから騎手なんて向いてないと思ったからだ。
しかしどういう風の吹き回しか、今年は騎手役に立候補した。自分でも決め手はよく覚えてないが、「1回は騎手をやらないと後悔しそう、せっかくだからやってみたい」という思いが多少なりともあったのは確かだ。
僕の学校の騎馬戦は全員が入り混じった状態で戦い、多く勝ち残っている組が勝ちとなる「乱戦」、1対1で戦い、戦いのたびにメンバーを交代し、多く勝ち星を挙げた組の勝ちとなる「1対1」、1対1で戦い、勝った組のメンバーは引き続き残り、負けた組は次のメンバーに交代し、先にメンバーが全滅した組の負けとなる「勝ち残り」の3種目に分かれている。
まずは乱戦。僕の作戦は「いきなり攻め入らず、何とか相手とどっこいどっこいの状態をキープして、相手が油断したスキをついて帽子を奪い取る」というもの。今考えるとリスクも大きい。相手も同じことを考えてるかもしれないから。
正直、自分は勝つ自信がなかった。騎手に立候補したのは前述の文章で見て取れるように記念受験のような意味合いも持っていた。「もちろんせっかくなら勝ちたいが、負けてもしょうがないやって思おう」というのが本番前の心情であった。
そして乱戦開始。開始して10秒ちょい立ったあたりで相手の組の子と勝負。「いきなり攻め入るとスキを突かれやすい。どっこいどっこいの根競べ状態をしばらく保って相手の油断に付け込もう」
それを心がけ、対決が始まるとお互い一歩も譲らずの狙い通りのどっこいどっこい状態がしばらく続く。
そして対決開始から10数秒後…
「そろそろ相手もスタミナが落ちてきたころだろう…今こそ攻めるとき!」
心の中でそう叫んだ僕の腕が、相手の帽子へと一直線に伸びていく。そして…
「やった…やったぞ!」
見事に僕は相手の帽子を奪い取った。自分でも「まさか…」と思ってしばらく信じられなかった。
その後、僕たち白組はこの乱戦種目を制し、幸先よくスタートダッシュをきった。
その後、白組は見事に騎馬戦を勝ち越して組の総合優勝に大きく望みをつないだ。勝利に浮かれてたからか、残り2つの種目の結果はしっかりは覚えていない。というか10年以上たってるからしっかり覚えてないのが正直なところだが。だが勝ち越したこと、僕が相手の帽子を奪い取れたのはのは確かな記憶だ。
そして午前のフィナーレを飾る全校参加のよさこいソーラン。
2年生のころからずっと踊ってきたわけだが、これが最後の演武だ。
以前お話しした通り、5・6年生の振り付けには難しい部分も含まれる。そして6年生はフィナーレで「すごいこと」を行う。演武の花となるためしっかり誇りをもってやり遂げよう。
しかし僕は5年間どうしても気がかりだったことがある。演武に使われるソーラン節の曲は3番まであるのだが、僕の学校では1番の歌詞が終わった直後に曲が止まり、先生の太鼓の音に合わせて生徒は移動しフォーメーションチェンジ。その後また1番から曲がかかり、その後は曲の最後までぶっ通しという形式であった。
「なんで1番2回もやる必要あるん?曲止めて移動終わったら2番からでいいやん!?」…長年の疑問であった。
競技の尺の問題とかいろいろあるのだろうが。
疑問を残しつつも、僕は全校の中心のひとりとして何とか間違いなくやり遂げることができた。
そしてフィナーレ。6年生の代表各組数名が組体操の要領でタワーを作り、各組1名がその上に立って決めポーズ。これが前述の「すごいこと」だ。
前年の6年生から取り入れられたのだが、去年その演武を観たときに「えっ!?うちの学校でこんなことやっちゃうの!?6年生スゲー!」と圧倒された。上に乗りたいとは思わなかったが。
他の6年生たちはその周りを囲むよう円になってポーズを決めて演武を締める。
僕は園になる係のひとり。メインであるタワー組をしっかり引き立てるのが我々の仕事だ。その使命を胸にしっかりポーズを決めて演武を締めることができた。下級生たちが去年の自分のように「6年生スゲー!」と思ってくれたら幸いだ。
昼食を済ませた後は午後の部…といっても6年生の出る競技はリレーだけだ。
オマケに僕はリレーの選手じゃない。6年間ずっとあこがれだったがご存じの通り僕は足が遅い。6年中5年短距離走5人中4位の前代未聞の記録を打ち立てたことでおなじみの男だ。補欠にすら引っかかってない。
だいたい男子でリレー代表になるヤツはだいたい毎年同じメンツ。オマケにほぼ全員が何らかのスポーツやってるヤツだ。そんな奴らにスポーツをやってない足遅小蔵が勝てるわけないだろう。
まあリレー代表は決まってから毎日他の人より早く登校して朝練に行かなきゃなんないからなったらなったで大変だったかもしれないが。
毎年、僕は自分の出ないリレーをつまんない目で見るのが恒例だった。もちろん最後の年もしかり。
頑張って走るリレー代表には今となっては申し訳ないが…
リレーが終わればいよいよ閉会式、そして結果発表。
グラウンドにかけられた得点票の数字は、閉会式直前に外され、発表まで最終スコアがわからないようになる。
結果発表では十の位→一の位→百の位の順に数字が付け直されて発表される。
先に発表された赤組の得点は400点。そして次は白組の結果発表だ。
先に発表された十と一の位の合計は「71」つまり百の位が「4」以上であれば白組の勝利だ。
「それでは最終結果発表です!白組の百の位は…ドドドドドドドド…」
ドラムロールの音が緊張感をより引き立てる、あとやたら長い。どこまでじらす気だよと友達も口にしていた。
さあ百の位は4以上か、それ以下か…
「百の位は”4”!白組、471点!今年度の運動会は白組の優勝です!」
勝った…最後の運動会で僕の白組は見事な白星に終わり、有終の美を飾った。
思えば6年間、個人成績では短距離走で苦戦したり、低学年の時の玉入れでろくに入らなかったり(しまいにはそっぽ向いて投げていた。どうせ入らないだろうと思ったが)、いろんな苦い思い出もあるけど、振り返ればそれも含めていい思い出だ。
閉会式終了後、僕は勝利の喜びで胸いっぱいの気持ちとうっすらとしたさみしさの中、後片付けに臨んでいた。
「このグラウンドには来年、オレはいない…だが、小学校生活はまだまだ残っている。残りも最高の思い出を作ろうじゃないか…」
午前のフィナーレを飾るよさこいの前に、もう一つの花形競技、5・6年生による騎馬戦がある。5年生の部と6年生の部で分けて行われる。
僕は去年は騎馬役であった。ガンガン攻め入るようなタイプの人間じゃないから騎手なんて向いてないと思ったからだ。
しかしどういう風の吹き回しか、今年は騎手役に立候補した。自分でも決め手はよく覚えてないが、「1回は騎手をやらないと後悔しそう、せっかくだからやってみたい」という思いが多少なりともあったのは確かだ。
僕の学校の騎馬戦は全員が入り混じった状態で戦い、多く勝ち残っている組が勝ちとなる「乱戦」、1対1で戦い、戦いのたびにメンバーを交代し、多く勝ち星を挙げた組の勝ちとなる「1対1」、1対1で戦い、勝った組のメンバーは引き続き残り、負けた組は次のメンバーに交代し、先にメンバーが全滅した組の負けとなる「勝ち残り」の3種目に分かれている。
まずは乱戦。僕の作戦は「いきなり攻め入らず、何とか相手とどっこいどっこいの状態をキープして、相手が油断したスキをついて帽子を奪い取る」というもの。今考えるとリスクも大きい。相手も同じことを考えてるかもしれないから。
正直、自分は勝つ自信がなかった。騎手に立候補したのは前述の文章で見て取れるように記念受験のような意味合いも持っていた。「もちろんせっかくなら勝ちたいが、負けてもしょうがないやって思おう」というのが本番前の心情であった。
そして乱戦開始。開始して10秒ちょい立ったあたりで相手の組の子と勝負。「いきなり攻め入るとスキを突かれやすい。どっこいどっこいの根競べ状態をしばらく保って相手の油断に付け込もう」
それを心がけ、対決が始まるとお互い一歩も譲らずの狙い通りのどっこいどっこい状態がしばらく続く。
そして対決開始から10数秒後…
「そろそろ相手もスタミナが落ちてきたころだろう…今こそ攻めるとき!」
心の中でそう叫んだ僕の腕が、相手の帽子へと一直線に伸びていく。そして…
「やった…やったぞ!」
見事に僕は相手の帽子を奪い取った。自分でも「まさか…」と思ってしばらく信じられなかった。
その後、僕たち白組はこの乱戦種目を制し、幸先よくスタートダッシュをきった。
その後、白組は見事に騎馬戦を勝ち越して組の総合優勝に大きく望みをつないだ。勝利に浮かれてたからか、残り2つの種目の結果はしっかりは覚えていない。というか10年以上たってるからしっかり覚えてないのが正直なところだが。だが勝ち越したこと、僕が相手の帽子を奪い取れたのはのは確かな記憶だ。
そして午前のフィナーレを飾る全校参加のよさこいソーラン。
2年生のころからずっと踊ってきたわけだが、これが最後の演武だ。
以前お話しした通り、5・6年生の振り付けには難しい部分も含まれる。そして6年生はフィナーレで「すごいこと」を行う。演武の花となるためしっかり誇りをもってやり遂げよう。
しかし僕は5年間どうしても気がかりだったことがある。演武に使われるソーラン節の曲は3番まであるのだが、僕の学校では1番の歌詞が終わった直後に曲が止まり、先生の太鼓の音に合わせて生徒は移動しフォーメーションチェンジ。その後また1番から曲がかかり、その後は曲の最後までぶっ通しという形式であった。
「なんで1番2回もやる必要あるん?曲止めて移動終わったら2番からでいいやん!?」…長年の疑問であった。
競技の尺の問題とかいろいろあるのだろうが。
疑問を残しつつも、僕は全校の中心のひとりとして何とか間違いなくやり遂げることができた。
そしてフィナーレ。6年生の代表各組数名が組体操の要領でタワーを作り、各組1名がその上に立って決めポーズ。これが前述の「すごいこと」だ。
前年の6年生から取り入れられたのだが、去年その演武を観たときに「えっ!?うちの学校でこんなことやっちゃうの!?6年生スゲー!」と圧倒された。上に乗りたいとは思わなかったが。
他の6年生たちはその周りを囲むよう円になってポーズを決めて演武を締める。
僕は園になる係のひとり。メインであるタワー組をしっかり引き立てるのが我々の仕事だ。その使命を胸にしっかりポーズを決めて演武を締めることができた。下級生たちが去年の自分のように「6年生スゲー!」と思ってくれたら幸いだ。
昼食を済ませた後は午後の部…といっても6年生の出る競技はリレーだけだ。
オマケに僕はリレーの選手じゃない。6年間ずっとあこがれだったがご存じの通り僕は足が遅い。6年中5年短距離走5人中4位の前代未聞の記録を打ち立てたことでおなじみの男だ。補欠にすら引っかかってない。
だいたい男子でリレー代表になるヤツはだいたい毎年同じメンツ。オマケにほぼ全員が何らかのスポーツやってるヤツだ。そんな奴らにスポーツをやってない足遅小蔵が勝てるわけないだろう。
まあリレー代表は決まってから毎日他の人より早く登校して朝練に行かなきゃなんないからなったらなったで大変だったかもしれないが。
毎年、僕は自分の出ないリレーをつまんない目で見るのが恒例だった。もちろん最後の年もしかり。
頑張って走るリレー代表には今となっては申し訳ないが…
リレーが終わればいよいよ閉会式、そして結果発表。
グラウンドにかけられた得点票の数字は、閉会式直前に外され、発表まで最終スコアがわからないようになる。
結果発表では十の位→一の位→百の位の順に数字が付け直されて発表される。
先に発表された赤組の得点は400点。そして次は白組の結果発表だ。
先に発表された十と一の位の合計は「71」つまり百の位が「4」以上であれば白組の勝利だ。
「それでは最終結果発表です!白組の百の位は…ドドドドドドドド…」
ドラムロールの音が緊張感をより引き立てる、あとやたら長い。どこまでじらす気だよと友達も口にしていた。
さあ百の位は4以上か、それ以下か…
「百の位は”4”!白組、471点!今年度の運動会は白組の優勝です!」
勝った…最後の運動会で僕の白組は見事な白星に終わり、有終の美を飾った。
思えば6年間、個人成績では短距離走で苦戦したり、低学年の時の玉入れでろくに入らなかったり(しまいにはそっぽ向いて投げていた。どうせ入らないだろうと思ったが)、いろんな苦い思い出もあるけど、振り返ればそれも含めていい思い出だ。
閉会式終了後、僕は勝利の喜びで胸いっぱいの気持ちとうっすらとしたさみしさの中、後片付けに臨んでいた。
「このグラウンドには来年、オレはいない…だが、小学校生活はまだまだ残っている。残りも最高の思い出を作ろうじゃないか…」
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