リョーマ伝~小学生編~

一刀星リョーマ

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記録ノ69 スプリングリベンジャーズ~5度目の正直~

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僕の通っていた小学校において運動会は毎年6月上旬ごろに行われる。
北海道は春に運動会をやる学校が多い。
絵に描いたような運動音痴な僕は、いつも運動会で実力を発揮できないばかり。
「周りは運動得意なやつばっかだから仕方ねーわ」と自分の中でもあきらめ気味。
しかしそんな僕でも闘志を燃やす競技があった。「短距離走」である。

短距離走は5人で勝負するのだが僕はここまで4年連続5人中4位。ある意味奇跡だ。
3年生の時はスタート位置が一番ゴールに近く、ゴール直前まで1位を独走していたが、直前になって油断してしまったため一気に追い抜かされ4位となったという悲劇も経験しているがあとは全然歯が立たず、ぶっちぎりの4位といったところだった。
小学校の運動会で走れるのはあっという間にあと2年。その間に何とか1位を取りたい!そうじゃなくてもせめて2位か3位になりたい!そう思位置付けた僕は母にあるものをねだる。
それは「バネの靴」だ。

正式な商品名はわからないが「バネの力」というキャッチコピーで靴メーカー大手のムーンスターが販売していた靴で、バネが靴のソールに装備されておりその力で速く走れるというもの。
当時「♪バネ!バネ!誰よりも早く!」というCMが放送されており、クレヨンしんちゃんなどのアニメ内でよく放送されていた。
そして我がクラス内でのシェアはナンバーワン。バネの力のクラス所有率はそれまでダントツナンバーワンだった瞬足を大きく超えた。
そして短距離のタイム上位の男子たちのほとんどがこのバネの力を履いていた。彼らの足の速さはバネの力にあると僕は勝手に思い込んでいた。彼らはもともと足が速いうえにそのほとんどが普段からスポーツをやっている連中なのに。

僕は「バネの力を履けば自分も足が速くなれる、アイツらと対等に戦える」と思い込み、母に毎日のようにねだった。己の努力でなく道具の力で速くなろうなんぞこの少年はどこまでクズなのだろうか。
母からは「くつを変えたからって急激に足が速くなるわけじゃない」とかたくなに断られたが、それでも僕はバネの力を買ってもらうことをあきらめなかった。毎日毎日粘り強くねだり続けた。
そんだけしつこくねだる根性があるなら粘り強く走る練習しろよ…

そして粘り強い交渉の結果、運動会の2週間ほど前についに母からバネの力を買ってもらえることに。
やっとの思いで手に入れたバネの力。外で履く前に家の中で試し履きし、さっそく走ってみた結果、僕は驚いた。
急に自分が風邪になったような気がした。足にも今までにない感覚が走る。
「これがバネの力…ついに手に入れたぞ!オレは速くなったんだ…!」

迎えた運動会本番、運命の短距離走。
「去年までのオレはもうこのグラウンドにはいない。今のオレにはこのバネの力がある…!」
スタートの直前、心の中でつぶやいた。
「位置についてよーい…ドン!」
ついに運命の号砲が鳴った。僕は必死にコーナーを駆け上がる。自分とバネの力を信じて…
3人の相手を突き放し、気づけば2位。トップの背中めがけて一気にゴールまで駆け抜ける…
「ゴール!シュウジくん1位!リョーマくん2位!」

惜しくも1位はとれなかった。しかし初めて2位になれた。去年までの自分を超えられた。それで十分だ。スポーツは常に過去の自分との戦いなのだから。
終わった直後、僕は心の中で叫んだ
「バネの力ありがとう!」

運動会が終わった後も、僕はこの2位をバネの力のおかげだと信じていた。
母からは「単に相手に恵まれただけ、リョーマが頑張ったのももちろんあるけど」と靴の力で極端に変わることはないとかたくななのは変わらなかった。実際1位だったシュウジくんも今回が初の1位と言っていた。なお彼は野球をやっている。

今思えばあの時自分は「バネの力で速くなれる」と催眠術にかかったような状態になって自分に自信がついた結果、キャパ以上の力を発揮できたのだと思う。
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