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黒ウサギは案内人
しおりを挟む友達と他愛のない事を話したり、テストが近いと嘆くような、普通の高校生活。
意味もなく、ただただ楽しかった。
同類な友達がたくさんいて、いつもが普通に楽しかった。
高校が始まる前はいつも不安が俺の中を渦巻いていて、そのせいで期待はいつも薄まっていた。
友達はできるか? 勉強にはついていけるか?
そんな不安がいつも俺に問いかけていた。だが、高校は難なく友達も出来、勉強もそこそこ着いていけていた。
安心していた。
同趣味の友達が沢山....とまではいかないだろうが五六人のメンバーの面子。
いつも話すのは部活の事や、アニメの事や漫画の事、小説の事などや、愚痴なんか、そうゆうのを友達と出来てとても楽しい。
今もその楽しいが続いている。
筈だった。
一体、いつからこの歯車が可笑しくなったんだろうか。
あ、そうそう、多分2年に進級したときだ。
クラス替えで生徒たちが黄色い声を上げる時期。不満の声がたまーに聞こえる時期。
そんな時期の頃合いからだ。
俺は進級するとき不安だった。
一年で仲良くなれたやつが同じクラスになってくれるかなと言う、普通の不安。
だが、それはすぐに払拭された。いつものメンバーの四人(俺含め)が俺の居るクラスに集まったのである。
他の二人は残念だが別のクラスだった。
更に加え、二人も別々のクラスだった。だが、大丈夫だろう。クラスが違うと言っても、同じ学校なんだ。
永遠の別れではまだないので、悲しむことは全然なかった。
只、あー残念だなー程度だった。
そして、うちのクラスはレベルが高いの(容姿やら頭のよさやらの総合の高さが高い奴等)が結構集まっていた。
その内に自分が入ることなんてのは生涯到底ありあえないだろうな。
そんな事を思いながらも一応楽しく生きていた。
そして、俺の人生の歯車が狂いだしたのは多分、いや、こいつらレベルの高いやつらがほぼの原因だ。
と言うのも簡潔に言うと俺は虐められている。
何で俺が虐めの対象に選ばれたのかは到底分からなく、予想だが暇だったからだと思う。
それと、多分あっちは遊び感覚なんだと思う。
だって笑ってんだもん。当たり前だろうけど笑ってるんだよ。
罵り、罵倒し、暴力し、回りから俺を疎遠させる。
そんな反倫理的行為をしながらもあいつらは笑っているんだ。
こっちの気も気にせず、げらげら、げらげらといつも笑っている。
まるで人の痛みを分かっていないんだ。
もし分かってやっているんだったら、あいつらはまともな神経はしていない。
良心と言う物があいつらには全くないんだ。
いや、良心はあるんだと思う。だけど、俺にはないんだ。
良心を痛めないでいいやつ。それが俺なんだ。
他者を傷つけ、自己を満足される。そんなのがあっていいはずがない。
が、それは、何処にでもある。まるで見えてはいないが、多分あらゆる場所でそれは行われている。
正しきは、正義。正しきなきは、悪。
正義とは、人として正しい行いの事を言う。
悪とは、人として正しくない事を言う。
つまりはあいつらは悪になる。
が、俺は正義とは限らない。
悪は嫌だ。俺は正義でありたい。って、こう思ってるだけでは只の自己満足でしかないのだけれど、悪には絶対なりたくない。
人を支えれる人になりたい。
それは、簡単な用で難しく、出来るようで中々出来るものではなかった。
だから、只こうして、のうのうと逃げて引きこもっている。
俺は臆病者だ。虐められるのが怖いから逃げている。戦おうとしない。只の逃亡者だ。
今日も家にいるだけの生活。
駄目だとは分かっているのに体が動かない。いや、動こうととしない。俺は灰人だ。
まごうことなきヒキニート街道まっしぐらだ。
家族に迷惑をかけぱなっしだ。
これでは駄目なんだ。そうだ、一歩を踏み締めなければ。
俺はそう決意し、部屋を出た。本当に小さい一歩だけれどこれで少しは何かが変わるかも知れない。
俺は一階の家族がいるところへと降りていった。
一階のリビングには母が居た。
俺は大抵部屋に引きこもっていたので、母が少し驚いていた。
「ど、どうしたの?」
母が心配そうに俺に話しかけてきた。
「母さん。俺、明日から学校行くよ」
「え、でも.......」
母さんは大体の事情が分かっていたので少々考えて居たのかも知れない。
「大丈夫だよ。どうにか皆に合わせていくからさ。何とかなるよ」
そう言う俺を母が心配そうに見つめた。
俺は続ける。
「それに、何とか一歩を踏み出さないとさ、駄目だってのは分かってるんだよ。父さんにも心配かけたくないし、勿論母さんにも」
「あんた..........................今は皆修学旅行に行ってるから学校行っても上級生しか居ないよ?」
「え? まじ?」
俺の人生で分岐点になるような決意の一歩は俺のすっとんきょうな声と共に呆気なく滑り落ちてしまった。
唐突にいって俺は養子だ。
小3の時に親が事故で他界し、親戚の家を行ったり来たりしていた。
これでは駄目だろうと懸念された藍染(あいぞめ)さんのお宅の人たちが俺を正式に引き取るといってくれた。
確か、それが小5の時だ。
そして、それからずっとこの地元住民である。
今では普通に母さんや父さんと言えるような仲になってきていた。
当初はぎくしゃくしていたが、段々とそれも打ち解け、今では普通の家族の用な形が成り立っている。
だからだろうか、甘えては駄目なんだろうけど甘えてしまっている。
これでは駄目だと思った俺だが、あえなくその一歩は明らかに滑ってしまった。
だが、まぁ良い。修学旅行が終われば行けば良いんだ。
それにもう、修学旅行には一回いったし。
うちの学校の修学旅行制度は少し不思議だ。
1年と2年合同で修学旅行をする。だから、三年もの間に二回修学旅行があるってことだ。
何でこんな制度になったのかは、高校側が学校生活を楽しんで欲しいと言ったご要望でこんな制度になった。親側からは少々非難の声もあったが、学生側には絶大な評価を誇り、今では学校行事の一連となっている。
そんな時に悲報が流れた。
どうやら修学旅行に行った生徒全員が行方不明になったとの事。
その報告を受け、母は泣いていた。
実は俺は一人っ子ではない。
一つ年下の妹が居る。これがまぁ大層なウザイ奴だった。
口が開けばたちまちキモいやウザイの言葉が
飛び交ってくる。
だが、その報告は余りの物で、喜びの感情なんて全然なく、ただあるのは虚空の虚しさ。居なくなったと言う悲しみ。
丸2日、母が泣き止む事は無かった。父はそれを励ます日々。多分父も泣きたかっただろうが母の支え柱とならなければならいない。泣けるに泣けない状況というやつだ。
この事件は世に大々的に報道された。
それもそうだろう。うちの学校1、2年全てを合わせると合計456人居る。
その全ての人たちが(勿論教師含め)忽然と消えたのだ。
今でも警察官などたちが、大規模の捜索が行われている。
しかし、警察側は全くの手がかかりも掴めてはいないと報告している。
修学旅行場所は沖縄だった。
平均気温が高く、台風が多い沖縄。
海が綺麗で、サンゴ礁やサトウキビが有名な沖縄。
そんな自然麗しい場所でおよそ450人もの人たちが一気に消え去った。
学校の人たちが消え去って二日後、俺は母に言った。
沖縄に行って良いかな?
それを言った瞬間、一気に空気がはりつめた。
実の娘が行方不明になった場所に行きたいと言ったのだ。そうなっても可笑しくはない。
だけどこれは他人事ではないんだ。
俺は何かを確かめなければならない。そんな衝動に駆けられてしまっていた。生徒を見つけたいとかでは無いのだけれど、やはり何かが体を動かしていた。
母はすぐには了承してはくれなかったが、父が良いと言ったので、それが決め手となり、俺は沖縄へ行く事となった。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
沖縄につくと、照る照るしい太陽が頭上に出ていた。
思った以上に暑く、汗が吹き出てくる。
俺は半袖半ズボンといった、ラフな格好になっていた。
すぐにホテルのチェックインを済ませ、俺は学生たちが消えてしまったと言う、やんばるの森へと行くことにしていた。
だが、やはり思った通り入れない。警察が未だに捜査しているため進入禁止になっていた。
さて、どうしたものか。
そんな時だった。
一匹の真っ黒なウサギが俺の目の前に来た。
「珍しい色だな・・・」
そこまで黒いウサギとは珍しくも何でも無いのだが、白いウサギしか見たことが無かったので比喩でそういった。
すると、ウサギはいきなり二本足で立った。
「おぉ、ウサギが立った」
何て言うか、その、何だろうか、綺麗すぎる。背筋をピンと伸ばすその姿はまるでウサギじゃないみたいだった。
すると、黒ウサギは右前足で俺を手招きをした。
「いッ・・・!?」
現実離れした光景に、俺は驚嘆した。
それと同時にウサギは俺に背を向け走り出した。
「何だったんだ?」
俺は後を追うこともなく、ただじっと見つめていた。が、黒ウサギは俺が来てないことに気づいたのか、振り返り、俺に手招きをまたする。
「ついてこいってことか?」
俺は進入禁止も気にする事なく黒ウサギの後についていった。
ついていった先には────── 巨大な湖があった。水の色は透けるようなエメラルドグリーン。
心なしか少し光っているように見えた。
吸い込まれるように見ていると、いきなり黒ウサギが俺の背中にドロップキックをかます。
「うぇっ!!??」
結構な力の強さに、変なうめき声を出してしまった。
俺は何も抗う事は出来ずに水に落ちてしまう。
陸に戻ろうと、身をよじったが、何でだろう?体が重たい。まるで自分が鉄になったように沈む。
ヤバイ、息が・・・・・
意識も段々と遠退いていく────────
目が覚めると、白銀の世界だった。
率直に言おう。雪だ。雪一面広がっている。
すぐ近くには湖、そして、雪山が連なっている。
そんな日本離れな光景が視界一面に広がっていた。
「こ、こ、ここは?」
辺りを見渡しながら俺は言った。
あれ、可笑しいな。俺はさっきまでの密林といって良いほどのジャングルにいた筈だ。
一体何をどうすればこうなったんだ?
と、というか、さ、寒い。凍えて死にそうだ。さっきも寒すぎて歯をカチカチさせながら喋っていたからかみかみになってたし。
更に俺の今の格好は半袖に半ズボン。そして、サンダルと言ったような、雪には似合わない格好だ。
凍死する。その一言が俺の脳内を過った。
そんな矢先、目の前に2足歩行の小恐竜の五六ぴきの大群が俺に向かいながら走ってきた。
え? 待って。 ここ本当に地球だよね?
だが、困惑する俺を無視するように小恐竜達は俺に向かってくる。
俺はようやくそこで危機が迫っていると理解する。
「う、うわぁぁぁぁぁぁあぁああぁあああぁあ!!!」
俺は叫びながら走り始めた。
ヤバいぃぃいい!!
てか、後ろの小恐竜はまだついてきてるのか?
俺は少し気になり走りながら後ろを伺った。
はっや! やば、あいつらはっや!
すごい勢いで小恐竜は走っている。まるで猛突の域だ。
ヤバイ肺がやばい。数ヶ月引きこもっていた俺には少し、いや、かなり負担が大きい。
あ、これはダメだわ───────
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ、に、逃げ切ったぁぁああ!!」
感嘆とよく肺がもったと言う感慨に浸ってしまう。
途中本当に追い付かれると思った。脇腹は痛くなるわ、足が吊りそうになるわ、呼吸困難になりそうになったが──────俺は逃げ切った。
まぁ、物陰に途中で隠れて逃げ過ごしただけで、そこまで走ってはないんだけど。
いや、しかし小恐竜に追いかけられたお陰で体が火照り、ちょうど良い体温になったかも知れない。
よし、ここで一回落ち着いて考えよう。
まずは多分─────ここは地球ではない。
先程も見たように小恐竜や、小恐竜から逃げている時に見た俺と同じ身長ぐらいの蚊みたい奴が証拠だろう。
さて、これからどうする?
元の場所に帰る方法も分からないし、かといってここにずっと留まっていれば凍死するか、さっきみたいな異生物みたいな奴等に噛み殺されるのが落ちだろう。
並ばどうするか。
考え付くのは、生きるために必要な安心できる寝床、それと食料が必須だ。
こんなTHE雪景色みたいな所に食料があるかは分からないが動かないよりかはましだろう。
さぁ、これからの設計図は作り終えた。後は実行するのみだ。
俺は立ち上がり、まず寝床になるような安全な場所を目的に探し始めた。
少し歩いてみたが、絶望しそうだ。歩いても雪、歩いたら氷、歩きに歩いたら氷雪地帯。
だ、駄目だ。
完ッ全に詰んだかも知れない。
心なしか、いや、絶対に体温が下がっている。
そんな時に歩いていると、先程、御世話になった小恐竜がいた。
俺は一瞬で物陰に隠れる。
そして、様子を伺うと何やら小恐竜達は何かを取り囲んでいた。
俺は何を取り囲んでいたいたのかを、遠目も見据えた。
そこには一匹の翼が生えた青白いドラゴンの様な幼竜が小恐竜になじられていた。
幼竜は所々に血が出ており、キーキーとこんなにも遠いのに悲痛な悲鳴が聞こえた。
た、助けないと。
俺はそう思い物陰から出ようとする。だが、ある疑問が俺を梱包する。
え? 助ける? 俺があそこに行ってどうにかなるのか? いや、なるはずもない。
じゃあ、この場から立ち去るか? また、いつもの様に逃げるか? また、いつもの様に困難に背を向けるか? 駄目だ。駄目だ。駄目だ!
俺はつまらない疑問の梱包を振りほどき無理矢理解いた。
今が動く時だ!
「うおぉおおおおおお!!!!!!」
俺は威嚇の為に喉を轟かせて叫ぶ。
小恐竜達は俺に気づいたのか、こちらへと向いた。
よし! 気は引けた! 後はギリギリまで近づいて標的をあの幼竜から俺に変える!
小恐竜との距離が3メートル位になった頃だろうかいきなり小恐竜達が俺に向かって走ってきた。
よし! つれた!
後は逃げるだけだ!
だが、ダメだった。釣れたのは二匹だけ、後の三匹は幼竜に専念していた。
くッ! これじゃあ駄目だ!!
俺はリターンし、真っ直ぐに小恐竜に向かって走る。
いきなり振り返ったので、小恐竜達は対応出来なく、ギリッギリのラインをせめて、すり抜けるように抜けていった。
そして、俺は幼竜をなじっている小恐竜一体に、思いっきり体当たりした。
少し身がたじろいだがすぐに体勢を建て直し、幼竜を抱き抱えた。
そして、走る。ただひたすら走った。だが、重い。予想外におッもい! 俺に力がないだけなんだろうけど!!
多分、抱えているのが原因だろう。俺は下にあった大きな石に気づかず、それに躓き盛大にこけてしまう。
「ウッ!」
俺はこけるときに幼竜を庇うようにしてこけたので背中に痛みが走り呻きをあげた。
だが、小恐竜達はそんな俺を待ってはくれない。
すぐに追い付き、もう目の前に来ていた。
俺は幼竜をそっと後ろに寝かせて、庇うように立つ。
もう、戦わなければ、助ける事も助かる事も出来ないだろう。
思考が混沌とする中、俺は走り出した。逃げるためではない。
戦う為に走り始めた。
「こいよぉ!! おらぁぁぁああぁぁあああ!!!」
俺はまず叫びながら、一番前に居た奴を全身全霊を込めて右腕で殴る。
殴られた小恐竜は痛みでたじろいでいた。
一つ言いたい事がある。
痛ってぇぇええ!!??
初めて何かを全力で殴ったが、拳が死ぬほど痛い!
だが、痛みに嘆いてる暇もない。
すかさず俺はすぐ隣の小恐竜に殴りかかる。が、小恐竜は難なくひょいッとそれを避けてしまった。
俺は結構本気でいっていた訳だし、下は雪と言った訳で一気に転けてしまった。
無様に転けた俺に、一匹の小恐竜が上に股がってきた。
クソっ! マウンドとられた!
どうにか、抜け出そうとした時だった。
左肩を唐突に咬まれた。
みきみきと骨がなる。
ぐしゃりと肉が裂ける。
ブチりと筋が切れる様な音が聞こえた。
「うぁわぁあぁあぁあぁあああ!!」
痛い、痛い、痛い、痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!
俺は必死にマウンドを解こうとするが、上に股がっている小恐竜がそれを阻止する。
そして、次は太ももに痛みが走った。何事かと目を動かして見てみるともう一匹の小恐竜が俺の太ももを咬んでいた。
そんな時、不意に見えたのは大空を滞空する一匹の蒼白い翼竜。
その翼竜はここに降り立ってきた。
凄い風圧が俺に降りかかる。
「ギュヤァァアアァアアアアアアアアアアアア!!!!!」
翼竜は広大な翼を広げたまま、轟音を響かせ、威圧を放出してきた。
その威圧と轟きで小恐竜達がそそくさと逃げていく。
俺は恐怖に支配された。
翼竜の威圧はそれほどまで殺気を帯びていたからだ。
や、ヤバイ。震えが止まらない。
恐い。その一言が俺の中を滞り続ける。
逃げないと。だが、太ももと左肩の怪我が思った以上に大きく立つことを体が許してくれない。
しかし、翼竜はそんな俺を無視して、幼竜を器用に口でくわえながら背中に乗せた。
そして、翼竜は口を開いた。
「おい、そこの者よ。娘を守っていてくれたようだな。おかげで娘は無事とは言えないが、最悪の事態は免れた。礼を言うぞ。 そうだな、その怪我ではいずれ死ぬまい。どうだ? わが住みかに来るか?」
俺は今驚愕している。
目の前に居る怪物の様に恐ろしい翼竜が言葉を喋ったのだ。絶対ビックリするだろ...!
「何もそんなに驚く事はないだろう?」
翼竜はおののく俺を見て言った。
そして、続ける。
「まぁいい。どうだ? 恩を返せぬ程、私は落ちぶれてはいない。 恩を返させてはくれぬか?」
頭の中は混乱しているが、俺は生きたい。だから翼竜の言葉に甘えさせてもらおう。
「連れてって・・くれ」
俺は途切れるような声で言った。
「うむ。了承した」
そう竜が言うと俺をさっきの幼竜の様に、器用にくわえ、背中に乗せた。
「では、行くぞっ・・・!!」
翼竜はその言葉どおり、翼をでかでかと広げ、俺と幼竜を抱えながら空彼方に飛んでいった──────
五体満足ではない俺が来たのは宮殿だった。
しかもかなりの宮殿だ。
ドラゴン何て簡単に入ってしまえそうな宮殿。
てゆうか、そのドラゴンはもう入ってるんだけど。
そして、今俺は宮殿内にある個室の豪華なベッドに横たわっていた。
はっきり言って何もする事がない。と言うよりも体が痛くて動くことが出来ない。
まぁ、今日は安静にし、寝るとするか────────
三日三晩、俺は安静にしといた。
その結果俺は改善をしゃくしゃくととりおこなわれ、体は健全...とは言いにくいがまぁまぁ動く様になった。
これも全てあのドラゴンのお陰だ。感謝をしている。
だが、一つ疑問な事がある。
それは、俺のところへご飯を律儀に三食持ってきてくれた人だ。
その人は男と言われれば男に見えるし、女と言われれば女に見える、そんなやさ男の様な、男勝りの様な人。しかし、それが男でも女でも美しい事に変わりはなかった。
何度か、誰なのかと訪ねようと思ったが、その人は何とも無愛想なので、何かと話しにくかった。
だから、話すことはしなかった。とは、言ったもの、ただ自分のコミュ力の低さが話せない主な原因何だけど。
まぁ、この事は後でドラゴンにでも聞いてみるか。
と言うことで夜もふけた頃、やはり何もすることは無いので俺はドラゴンの前へと来ていた。大きな居間、だろうか。柱が幾つも連なっている特徴的な部屋の真ん中でドラゴンは居座っていた。
「助けてくれてありがとう」
俺は、誠意を込めて言った。命を助けて貰ったと言ってもいいんだ。お礼ぐらいはしなくては。
「・・・・なんだ。そんなことを言いにここまで来たのか?」
が、ドラゴンは、まるで関心がないように答えた。
「いや、ここまでして貰ったんだ。お礼ぐらいはさせてくれよ」
方をすくめながら俺は言った。
「・・・・フー、まぁ、いい。それでどうするんだ?」
「? なんのことだ?」
俺は小首を傾げながら聞いた。
「これからの事だ」
ドラゴンは無粋に言った。そして、続ける。
「行く宛も無かろうて。しかも貴様は弱い。どうせ、この前みたいにの垂れ死ぬ様な状況になるのが落ちだ」
俺は何か、府に落ちたような感慨にひたった。
「そう言うことか。 う~ん」
俺はしばしば考えた後
「まぁ、ここが何処かも分からないし、どうせ出たって行く場所も勿論ない。しかも、こんな世界で生きていけるような力もないしな。お前の言った通り万策尽きた様な有り様だ」
両腕を少し広げながらやれやれと言ったような感じで言った。すると、ドラゴンはおもむろに立ち上がった。
それだけで風圧がすごい。
「...ふむ。そこでどうだ? 私が貴様を強くしてやる。 この世界でも生き抜く力を伝授してやる。どうだ? 受ける気はあるか?」
俺はあまりにも予想が外れたドラゴンの言葉に驚く。しかし、期待はずれではない。嬉しいことこの上ない条件だ。
「それは、とてもありがたい」
ありがたいが
「けど、どうしてそこまでしてくれるんだ?」
「いや、なに、折角助けた命なのだ。の垂れ死なれても気分が悪い」
俺はそれを聞くとと納得した。そして、心の中で了承する。もう、俺の生きる道は、生きれる道はこれしか無さそうだ。
「それじゃあ、これからお願いします」
俺は腰を深々と曲げながら言った。
「ふむ。明日から、始める」
用件が終わったのか、ゆっくりと腰を下ろしながらドラゴンは言った。
そして、俺はそれと同時に口をひらく。
「ああ、分かったよ。 ぁあっ! 聞きたいことがあったんだ!」
ふと、思いだし、俺は声を少しあげた。
すると、ドラゴンはなんだ?と言いたげな表情で俺を見た。
「ん?」
興味無さげにドラゴンは呟いた。俺はそれを聞き、
「ほら、俺がベッドに寝たっきりな状態になった時に人が食事を持ってきてくれたじゃないか。
あれは誰なんだ?」
俺は小首を傾げるように聞いた。
「なんだ、そんな事か。あれは私だ」
「・・・・・・え?」
俺は少し上ずったよう声で反応した。
「何をそんなに驚く事がある?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。え? てことはどっちがお前の本当の姿なんだ?」
「何を可笑しな事を言う。あれはどちらも真の姿。どちらも私で、私自身だ」
物静かにドラゴンは飄々と言った。
「な、なら。 お前って男なのか?女なのか?」
それを聞くなりドラゴンは鼻で失笑し、その大きな口を悠然と開いた。
「男に決まっているだろう。女に見えたのはそれほど私が美しいと言うことだ」
「へ、へー」
俺は何と言えば良いのか分からぬので、曖昧に答えた。
「ふん、まぁいい。それだけかお前の言いたいことは?」
そっぽを向きながらドラゴンは言うので、何だか可笑しい。しかし、その可笑しさを唇で噛みながら我慢した。
「ああ、それだけだ」
「ならば早く寝ろ。明日から、猛追の域で修行を行う。体を休めておけ」
「ああ、分かったよ」
俺はすぐにまたあの部屋へと戻り、もう、十分なほどに寝たのに、まだ体の体力が戻っていないのか、深い眠りについた。
まどろみな眠りからじわじわ覚めると、何かの異物に体が当たっているのが分かった。
俺は何かと不意に確認した。
すると、そこにはこの前助けた幼竜が俺の隣で布団に覆い被さりながら眠っていた。
なぜここにいるのかと疑問が生まれたが些細な事だ。ただ、眠りやすそうだからここに来たのだろうと勝手に推測した。
だから俺は幼竜が起きないようにそろりとベッドから出た。
ベッドから出ると体はやはり重たい。
俺は気だるい体を伸ばしながらも部屋を出て今日の約束であるドラゴンのもとへと足を進めた。
昨日来た柱が連なる部屋に来てみた。すると、そこにはやはりドラゴンがいる。
俺はすぐにその近くへと来た。
「おはよう。じゃあ、約束通り俺をこの世界で生きれるほどに強くして貰おうか」
俺は、はきしゃきと言った。
「ふん、何をそんなに偉そうに言う。貴様は稽古をつけさせてもらう身だ。もう少し身をわきまえろ」
腹立たしくなったドラゴンが少々力強く言ってきた。そして、ぶっきらぼうに続ける。
「まぁ、良い。どうせ貴様はこの鍛練でしごいてやる」
見た目は何とも寒そうなのに暑いやつだ。
「お手柔らかに頼むよ」
俺はなげやりにそう呟いた。
「では、今から行う。ついてこい」
そう言うとドラゴンはどしどしとその重たい体で歩を進めた。
俺は何も言わずついていく。
ついていった先は外だった。氷雪の大地がごうごうと広がっている。
やはり、寒い。寒くて凍える。
「あ、あのこ、こ。ここここからど、どうするん、だ?」
体が凍えてしまって、ろれつが回らない。腕で肘と肘を押さえながら露骨な日本語を喋った。
「まずは、私の背中に乗って貰おうか」
そう言うとドラゴンは俺の服を荒々しく噛み、ドラゴンの背中に乗せた。
すごい浮遊感だったので怖かった。
「ちょっ、まって」
体勢を崩しながらも俺はバランスを保とうとした。だが、ドラゴンはそれを無視して、一気に飛んだ。
そして、翼を広げ上空へと羽ばたく。その半ば、俺はバランスを完璧に取れなかった訳で、一瞬ドラゴンの背中から少し離れた。
これでは地上にまっ逆さまだ。これではヤバイ!死んでしまう!
俺は必死にドラゴンの尻尾を掴んだ。
何とか掴まったもののドラゴンは今の俺の状況を知らないのか。それとも知っていて嫌がらせでやっているのか、詳細は分からないが止まる気配がない。
「止まってぇエエエぇええええ!!! 落ちるぅぅうううう!! 手が! 手がヤバイって!! お願い! ねぇ、お願いだから離陸してぇええ!!??」
俺は張り裂けるように命を守るための要求をした。
だが、ドラゴンは、空が響くような声で言った。
「これも修行の内、強くなるための訓練だ! 耐え抜いてみせろ!」
ふっ、ふざけないでくれ! これでは強くなる前に死んでしまうぞ!?
くッ、この、キチガイドラゴンめ!!
「この! 分からずやぁあ! 死ぬ! しんじゃうぅぅ! 人殺しぃ~ー! この!人殺しドラゴン!!」
涙目になりながら俺は出せるだけの声をだし、ドラゴンを否定した。
すると、ドラゴンは一層に速く飛ぶ。
あ、これは駄目だ。
万事休す、絶体絶命、逃げる場なし!
俺は支離滅裂なドラゴンの尾を気が遠くなるほど掴んでいた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
俺は膝に両手をおきながら絶え間ない息切れを続ける。
今、俺たち二人、正確に言うと一人と一匹が来ていたのは、広大な緑ある平原の様な場所で風が吹けば土と草のすこやかな薫りが香る、そんな所に降り立っていた。
「ふむ、よく耐えたものだ。途中本気で落とそうとしたものの、よくぞ耐えた。まぁ、少しは見直したぞ」
こ、こいつは、よくも、まぁ、こんなぬけぬけとぬかしやがる。
俺は死を途中で覚悟したと言うのに。
「はぁ、はぁ、ほんとに、死ぬかと思ったぁ~」
俺は安堵の声をあげた。
「ふん、情けない奴め。あれだけで恐れるとは、矮小なものよ」
「そらー、空を元々自由自在に飛行していたら、怖いなんて感情はドラゴンのお前には分からないだろ。でも、俺は空を飛んだこともない人間だ。怖いに決まってる」
俺は元来、高い所は苦手だったし、それに、飛行機も乗ったことのない、世間見の狭い人間なのだ。こんな体験は怖いに決まってる。
「まぁ、そうだろうな。だが、これだけで根を上げてたらこれから行う鍛練にはついてこれんよ。言っておくが本番はこれからだぞ?」
「はぁ、はぁ、、分かってるよ」
俺は何も分かってはいないがそう言った
「並ばすぐに息を整えろ。もうすぐ走るぞ」
「え? はしる?」
「ああ、今日はひたすら走るぞ。いや今日と言わず明日も明後日も明明後日も走る。ついでに体力がつくまで走る。貴様には体力と言うものが少すぎるからな」
まぁ、確かにそうだ。中学時代には運動という言葉は俺には皆無だった。
当然、走ると言えば体育のみ。比較的不健康な生活だった。
「さぁ、無駄口をたててないで始めるぞ。では、私についてこい」
そう言うとドラゴンはしゃくしゃくと後ろを見ずに前を向いて歩く。
俺もついていこうと思った時だった。
「ん? なんだこれ?」
不意に見つけてしまったのは、一つのカードみたいな物だった。
それは芝生の底にあり、太陽の光を反射していたので、気づき手に取ってみた。
手に取ってみると、文字が書いてある。
そして、そのカードには顔写真なる物が張られていた。
その顔はまるで、万戦に勝ってきた猛者みたいなごうごうしい顔だった。その顔の隣にはこのカードの名称だろうか。それが書いてある。
「ハンター協会、シルバー?」
俺はそれを独唱した。
これは明らかに人工物だ。もしかしたらこの辺に人がいるかもしれない。
そう思った矢先だった。いきなりドラゴンが速く来い!! と怒鳴ってきたので、俺はすぐにそれをポケットの中に入れドラゴンの後についていった。
ついていった先は広野だった。
「さぁ、私がいいと言うまで走れ」
俺は無言でドラゴンの言葉に頷き、走り始めた─────────
太陽が西に沈もうとしている。夕日がどんよりとしている時間に俺は意識が朦朧となりながら横たわっていた。
いったい、今日で何回呼吸困難になったかはもう数えてはいない。
今日はただ、もう走りたくない。いや立ちたくない。
本当に過酷だった。
走りをすこし止めると、ドラゴンがいきなり俺に向かって雹を投げつけて足の動きを止めさせてくれなかったし、走りが遅いと、ドラコンがやはり雹を投げつけてくるので足の動きは増すばかりだ。
も、もう、無理。
「さぁ、立て。もう帰るぞ」
「あ、あの、立たせて貰えないでしょうか?」
俺はドラゴンに目で訴えながら言った。
「フンッ! 情けない奴め」
そうは言うものの無理なものは無理なのだ。
もう、本当に自分の足で立つのは不可能に等しい。それほど疲労困憊なのだ。
と、弱音の心境を読んでくれたのか、ドラゴンは俺を前の様に背中に乗っけさせてくれた。
「あ、ありがと」
俺は弱々しく礼を言った。
それからすぐにドラゴンはその両椀の翼を広げながら飛んだ。
くたくたな体に身が痛みながらも、それでも落ちない様に俺は背中にわし掴む。
やはり、高い所は苦手だ。下を向けない。向けば体が震え上がってしまう。
だから俺は空を仰いだ。ドラコンの背中にしがみつきながらも俺は下を見ぬ様に空を見もうけた。
それからと言うもの、走った。走りに走った。これまでか! と、言うぐらい走った。まだ、走るの!? と、思うぐらい走った。駆けて駆けて駆けに駆けて駆けまくった。
野を走り、砂を駆け、木や林が有象無象な森を走り、駆けた。
半月....位だろうか。多分それぐらいの期間走った。
さて、それぐらい厳しい環境の中、俺は生き残ったのだ。まぁ、まぁ、体力はついたと思う。
本当に厳しかったけれど、やり抜いた感は半端ではない。
しかし、体力だけではこの世界には到底生き残る事なんて無理なのではないか?
そんな疑問が出てきてしまう。
だから俺はある夜の宮殿で、いつもドラゴンがいる部屋へと行き、聞く。
「走る以外なにかするのか?」
ドラゴンを見上げながら俺は言った。
「当たり前だ。するに決まっている。つー、そうだな、明日だ。明日新しいことをしよう」
「新しい、ことか。 わかった。明日それをしよう。ちなみに、どんなことをするんだ?」
「それは、明日わかる事だ。 今日はもう寝ろ」
「わかったよ」
俺は今、薄い装備に身を包みながら、片手に鉄の簡易な剣をもって、緑色の生物らしきものたち、三体と対峙していた。
「やつらは野生のゴブリン。下級生物だ。倒してみろ」
俺は今にも襲いかかって来そうなゴブリンに目を離さず、じりじりと後ろに後ずさってしまう。
その状況下で俺の後ろにいる美男子─────ならぬドラゴン人版は簡単に倒せ等と抜かしやがる。
「あ、あのさ俺って、こういう状況生まれてきてはじめてなんだわ。だからさ....」
ゴブリンは『グルグルグル』と喉を唸らせながら、前に一歩、二歩と歩み寄る。
「だから、なんだ?」
ドラゴン人版がそれを言った瞬間がまさに合図だった。
ゴブリンは一斉に俺の所へと飛びかかってきる。
「だから戦えないから逃っげまぁぁああす!!!」
俺は叫ぶと同時にゴブリンに背を向けて走り出す。ゴブリンは飛びかかってきたが、それをヒョイヒョイ避けて俺は爆走し出した。
「ふん! 情けないやつめ」
苛つきを見せながら、呆れ混じりにドラゴン人版は嘆息つく。
「ふんっ! バカめ! これは怯えではない。戦略的撤退だ! だから助けてぇぇえ!?!?」
ドラゴン人版の回りを、ぐるぐるゴブリンと鬼ごっこしている時に俺は泣きながら助けを乞う。
しかし、
「それぐらい倒せんで何もできんわっ」
一言で突き放された。どうやらドラゴン人版は俺を助けてくれる気はないらしい。
「くっそ! 一生恨むからなぁぁああ! ドラゴン人版!!」
そう言って、俺は逃げる岐路を変え、その場を逃げることにした。
「私はドラゴン人版などという名ではない!! ハネスだ! 覚えておけ!!」
遠くなる、最初居た場から、そんなことが聞こえてきたような気がした。
しかし、そんなことを今気にすることは出来ない。早く逃げねば俺は追い付かれてバッドエンドだ。
走る、走る、走る、走る。
俺はゴブリンがどこまで来たかが気になり少しだけ振り替えってみる。
するとそこには俺とゴブリンとの凄い距離差があることに、存外驚いた。
「あ、あれ? ゴブリン遅くない?」
俺は進める歩の速さを緩めがなら、終いには止まって、逃げてきた経路をただじっと見つめた。
このスピード差ならいけるか?
いけるかは倒せるか?ということである。
以外にもゴブリンは鈍いものだと分かり、簡単に倒せそうだなと楽観視した。
どんどんと近づいて来るゴブリンに俺は剣を構える。
その距離が五メートルとなったところで俺は地面を思いきり蹴り、走り出した。
まず最初に前に居たゴブリンを、横ぶりに一刀両断をする。
うぉ! この剣結構切れ味良い!
と、感慨に浸る暇はにべもなく、俺はすぐとなりに居たゴブリンを振りかぶった剣で縦に両断した。
吹き出る血渋きに、身を赤く染めながら俺は後ろを確認する事も無く、思いっきり剣を後ろに回した。
案の定、三体目のゴブリンはそれの餌食になる。
倒してみると以外に簡単で、楽観視は間違いではなく、けれど、辺り一面に広がる血の湖は少しなれそうにはなかった。
だが、今の俺かっこ良かったくね? と少し自画自賛に入り浸っていた。
「なんだ。いけるじゃないか」
いきなり現れた人らしき者は、以外だな、とドラゴン人版、改めハネスはそう紡いだ。
「ゴブリン遅くなかったか?」
そう呟いたのは遅かれ早かれこの俺だった。
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