上 下
4 / 8

公園にて(時雨目線)

しおりを挟む


 この世界はどうしようもないくらい綺麗で、けれど、意味もないくらい屑みたいな人間が住み着いている。
 そう、意識し出したのはいつからだろうか。飲み物を奢ってくれると言って、自販機に向かっている友達の後ろ姿をただじんわりと見つめなが
   ・
ら、私は考えていた。
 
 自分を偽り、また、世界を虚無しながら私は、最果てのない空ろな虚空を見つめ、ただ生きている。
 活力ない瞳で写し出す世界はいやに空っぽでこの先には何もないような脱力感に日々襲われる。
 
 そう言えば、ここら辺に自動販売機あったかな。いや、なかった気がする。その思考が合致したように、飲み物を買おうとした彼はここらに存在しない自販機をキョロキョロと探し出す。しかし結局なかったのか、彼はこの公園から出て、自販機を探しに行った。
 
 空を見る。

 此方に伸びる消え入るそうな弱い日の光は、闇に飲まれようとしていた。実際、ここらはもう暗くなり始めている。

 前を見る。

 すると、いつ来たのかは知らないが、柄の悪そうな奴等がたむろっていた。ま、見なけりゃ絡まれる事もないだろう。
 
 私は、いつ戻ってくるかも分からない友を待ちながら、ベンチに座っていた。
 



 しばらくして。
 
「ちょっと、まって! ブランチ!」
 
 遠くからそんな声が聞こえた。
 しかし、私はそんな声より気にしないといけないことがある。それは目の前にいる、尻尾をフリフリしながら私をキラキラした目で見ている犬だろう。
 犬種は多分シェパードだ。なかなか大きいところを見ると、年はそれなりに取っていそうだ。頭を撫でてあげると、それだけでシェパードは嬉しそうに降る尻尾の早さを早めた。

「すみません! うちのブランチ、なにかしませんでした?」

 声かけに前を見ると、そこには可憐な少女が居た。双方にはえている、髪止めされたツインテールを揺らしながら、ウエストはくびれ、しかし出るところは出ている胸を見ているといかんせんイラッとした。しかし、まるでゆさちーみたいな人だな。......ん? と言うか、前に居る人ゆさちーじゃ?

「...ゆさちー?」

 ヤバイ、勝手に声が出てしまった。
 でも、いたしかたないだろう。アイドルが確かに来ることは噂に聞いていたが、まさか有名人が目の前にいるだなんて。驚いて、呆気にとられ、名前を呟いてしまうのは仕方のない事だ。

「はは、わかっちゃいましたか?」

 ばつが悪そうに微笑み、頬をかく彼女はやはりテレビで見ているゆさちーだった。
 まさか孜が本当の事をいっているとは思わなかった。
 どうしよう。サインを貰ったほうがいいのかな?

「ん? おい、あれってゆさちーじゃね?」

 と、少し考えていたら、向こうに居た柄が悪そうな集団の中にいる金髪が、言ってきた気がした。

「おお、まじじゃん」

「どうするよ?」

「らちっちゃう?」 

「人目も少ないしな」

 って、おいおいおい。らちっちゃうって完全なる犯罪でしょ。目の前にいるゆさちーは表情が恐怖のせいか凍りついちゃってるよ。
 ここって平和な日本じゃなかったっけ?
 私はすかさずこの脅威を対処するために、ゆさちーの手をとった。

「えっ?」

 間抜けな声が響く。

「逃げるよ!!」

 脱兎の如くとは上手くいかないものだな。
 逃げるに至らず、すぐに囲まれてしまった。

「クッ、お前ら犯罪だぞ!?」

「おいおーい。白馬の王子さま気取りですかぁ? このやろうぅ?痛い目見たくなけりゃ女おいてどっかにいったいった」

 最初にゆさちーを見つけた金髪がヘドのような声を吐き出すと、私の手を握っている彼女の手の力が少しばかり強くなった。
 よほど、怖いのだろう。
 守ってあげなきゃ。そんな保護欲に掻き立てられる。

「あ、あの。私のことは、いいから。逃げてくだざい」

 ゆさちーは、私に安心をあたようとしているのか、あからさまに露骨な無理をしている笑顔を私に向けた。
 そんな顔して、見捨てれるはずないじゃん。

「バカ言わない。本当は怖いんでしょ。僕が囮になるから、君は逃げて」

「で、でも」

 どうしよう。と、彼女はよけいに心配そうな表情で私を見た。
 
「すぐに、逃げてね」

 私は彼女の手を振りほどくと、一層に声を荒げる。

「ほら、早くにげろ!!」

 その拍子にぎょっとなる犯罪集団。私はその中へと一心不乱に暴れながら入っていった。
 時には殴り、時には蹴って。
 しかし、すぐにこうそくされて暴力を仕返しされた。
 
「うぐっ!」

 無慈悲な蹴りが、私にみぞうつ。

「この! この!」

 どうやら彼女は逃げたみたいだった。姿はもうない。よかった。なんとか、なったみたいだ。
 それより、ヤバイな。さすがはらちろうとするほどの暴力集団。いっこうに蹂躙が終わらない。

「くそが! お前のせいでゆさちーに逃げられたじゃねえか!」

 私はやられっぱなしは嫌なので、機嫌のわるい目の前の金髪に鼻で笑ってやった。

「くっ! このぉ!」

「うぐぅ!」

 金髪はかんにさわったのか、私を遠慮なしに思いっきり殴った。
 よろめく私に、私を拘束している後ろのデカイやつもたじろいだ。その瞬間だ。嫌な感触に私は背中に寒気が走る。つまるところ胸を触られたのだ。私は女だ。さらしで胸を抑えてはいるが多少の感触や突起はある。触られるのに嫌悪感があるし、私が女だと気づかれたのではないかという危機感もある。

「ひッ!?」

 危機感は杞憂に終わらず、気づかれて揉まれてしまった。

「はぁ? お前女なの?」
 
 私は顔を即座にそらす。

「きゃはは、こいつ女だぜぇ」

 私を捕まえている男がそう吐きちらす。

「離せっ!」

 怖い。怖いよ。誰か助けてッ!





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ティッシュが足んない ~などとサキュバスの息子のムスコが意味不明な供述をしており~

よん
ファンタジー
岩清水拓海は中学二年生。 父親は若き天才化学者、母親は魔王サタンの娘で魔界のお姫様サキュバス。 そんな両親を持つ拓海の性欲がハンパなかった。 悩めるハーフ・インキュバス、拓海のお小遣いの大半はティッシュで消える。その量、一日約1000枚! そんな中、お小遣いアップを目論む拓海は母をゆするネタを得るため秘密の地下室へと足を運ぶ。 そこはここではない別世界に通じる入口だった。 変態性欲の少女達に案内され、拓海は徐々に自分の置かれた立場を知ることになる。

転生したらついてましたァァァァァ!!!

夢追子
ファンタジー
「女子力なんてくそ喰らえ・・・・・。」 あざと女に恋人を奪われた沢崎直は、交通事故に遭い異世界へと転生を果たす。 だけど、ちょっと待って⁉何か、変なんですけど・・・・・。何かついてるんですけど⁉ 消息不明となっていた辺境伯の三男坊として転生した会社員(♀)二十五歳。モブ女。 イケメンになって人生イージーモードかと思いきや苦難の連続にあっぷあっぷの日々。 そんな中、訪れる運命の出会い。 あれ?女性に食指が動かないって、これって最終的にBL!? 予測不能な異世界転生逆転ファンタジーラブコメディ。 「とりあえずがんばってはみます」

転生チートで英雄になったんですが、スローライフしたいです(切実)

みなかみしょう
ファンタジー
フィル・グランデは世界を救った英雄である。 辺境大陸に発生した魔王を倒すべく、十歳の頃から死闘を重ね、多くの国家と仲間の協力を得て、ついにはそれを打ち倒した。 世界を混沌に叩き落とした魔王の討伐に、人々は歓喜した。 同時に、一人の英雄を失った悲しみもそこにあった。 十年かけて魔王を倒した英雄フィル。 魔王と差し違えた英雄フィル。 一人の若者は、死して伝説の存在となったのである。 ところがどっこい、フィルは生きていた。 彼は『イスト』と名前を変え、見た目を変えて、田舎国家で売れない雑貨屋を営む道を選んでいた。 彼が栄誉と名声を捨てた理由は一つ。 「もうあんまり働きたくない」 実は彼は転生者であり、仕事漬けだった前世をとても悔やんでいた。 次こそはと思って心機一転臨んだ転生先、そこでの戦いの日々にもうんざりだった。 「今度こそ、仕事はそこそこにして、やりたいことをやる。キャンプとか」 強い決意で怠惰な日々を過ごすイストの下に、次々と厄介ごとがふりかかる。 元々の仕事熱心かつお人好しな性格が災いし、彼はそれを断り切れない。 「くそっ! 魔王を倒したのに、なんでこんなに戦ってばかりなんだ!」 これは、一人の男がスローライフを獲得するために奮闘する物語である。

悪役に転生したけどチートスキルで生き残ります!

神無月
ファンタジー
学園物語の乙女ゲーム、その悪役に転生した。 この世界では、あらゆる人が様々な神から加護と、その神にまつわるスキルを授かっていて、俺が転生した悪役貴族も同様に加護を獲得していたが、世の中で疎まれる闇神の加護だった。  しかし、転生後に見た神の加護は闇神ではなく、しかも複数の神から加護を授かっていた。 俺はこの加護を使い、どのルートでも死亡するBADENDを回避したい!

没落令嬢カノンの冒険者生活〜ジョブ『道具師』のスキルで道具を修復・レベルアップ・進化できるようになりました〜

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 事業に失敗した父親の借金の返済期限がやって来た。数十人の金貸し達が屋敷に入って来る。  屋敷に一人残された男爵令嬢の三女カノン・ネロエスト(17歳)は、ペットの大型犬パトラッシュと一緒に追い出された。  長い金髪を切られ、着ていた高価な服もボロ服に変えられた。  そんな行く当てのない彼女に金貸しの男が、たったの2500ギルド渡して、冒険者ギルドを紹介した。  不幸の始まりかと思ったが、教会でジョブ『道具師』を習得した事で、幸福な生活がすぐに始まってしまう。  そんな幸福な日常生活の物語。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

処理中です...