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友達がいない理由。

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 俺は、放課後、家に帰ってもさしてやることもなく暇なので、中学校の涼しい陰所である、非常階段最上段の取っ手に腕をおき、広い広いグラウンドを見下げながら突っ伏しっていた。
 グラウンドには「ファイオー! ファイオー!」と、野球部が走っており、その隣には同じように走っている陸上部たちがいた。
 グラウンドの奥にはテニスコートがあってテニス部が忙しげにラケットを振るう。
 
 弾ける汗、煌びやく笑顔、仲の良い友達。青い青い青春。随分と頑張るこって。
 
 今は7月上旬と猛暑日となっていて、上には青空、その中には入道雲が堂々たる姿で鎮座している。耳騒がしに鳴りやまぬセミのラブコール。
 まるでうだつようなその暑さに、俺はせいせいとしていた。
 
「ふぅー、あっちぃ」

 自然と愚痴ってしまうほどだ。

 俺は学校でもまぁまぁ涼しい所を探してここに行きついた。
 が、しかし、ここは陰があるだけで根本的温度はさしてかわらない。
 仕方なく、俺はまた違う、より良い涼しい所を探すために、地面においてあった学校用の手提げバッグを持ち上げ、この、楠れた非常階段をゆっくり、そして、段々と早く駆け下るのだった、
 
 次に来た場所は市民図書館だった。
 やはりここは涼しい。俺はそんな涼しさを体感しながら、一人本を読んでいた。
 まわりには俺と同じように本を読んでいるもの、単数で勉強をしているもの、多数で勉強している者たちで入り浸っている。中には、友達と少し小さな声で話している者たちもいた。

(ゲッ! あいつらもいるじゃん。)

 そう面食らって見つけてしまった者たちがいた。それは俺と同じ中学の、言わば学校の同級生たちだ。
 構成人数は七人程で、その内三人は男子、残りの四人は女子だった。
 よくみれば、他校の奴等もいる。
 和気あいあいと、されど勉強に集中するその姿はさながら青春。
 眩しいし、その姿に俺はどうしようと困惑する。
 なぜこうまで俺があいつらにこんなにも会いたくないのかには理由がある。
 簡潔に言えば、僕はあまりあの団体に好まれていないからだ。
 いや、嫌われている、と言った方があっているだろうか。
 いやしかし、俺が嫌われているのには、俺に非はない。......と思う。
 そりゃあ、あの出来事は、側面だけをみれば僕はただの変態クソやろうにしか見えないだろうけど、もっと奥をみれば僕はそこまで悪いことはしていないのだ。いや、良いことをしようとした。善を行ったと、俺は自負できるね。
 全くため息が止まらない。そう、ひとしきりに残念に思いながらも目をつむり俺はその事について、少し思い出してみた。



 その日は桜が咲き乱れている、初々しい春の月の日だった。
 詳しく言うなら4月23日。
 俺が通うことになっているS中の入学式だ。
 まだ、世間をあまり知らない十三才、十二才の小学生たちが、期待と不安に胸を馳せ、中学校と言う一歩大人に近づくための場に入学する。
 そんなのと同時に、中学三年の俺はこのS中に転入してきた。
 ちょっとした家庭の事情だ。
 
 そして、今は転入初日と一番緊張する場面に俺はいた。
 すなわち、教室のドア前である。
 全く、心臓がばくばくとせわしない。しかし、まぁ、ここは落ち着いて、無難にいこう。俺はそんな決意をするのだった。
 
 待っていると、がらがらとドアが開く。どうやら先生が開けたみたいだ。全くビックリさせるな先生。

「さ、入ってきて、軽い自己紹介するから」

 先生はたぶん四十代の男性だ。
 見た目がそうと、ものがたっている。
 
「はい。わかりました」

 俺は静かにそう言って、教室に入っていく先生に続きながら、教室に入室した。
 最初に入った時に、周りから視線が寄せられる。
 それだけで緊張するのだが、俺はそれを我慢し教卓前まできた。

 すると先生は後ろでボソリ。

「ほら、自己紹介して」

「あ、はい。分かりました」

 俺は先生の言葉に小さく頷き、前を見直した。もちろん自己紹介をするためだ。
 するとやはり視線が集まる。まるで品定めするかのようなその視線に嫌気がさしながらも僕は口を開いた。

「○○○のT中から来ました。木洩日 京(こもれび きょう)です。随分とした田舎から来たので、少し話が会わないところもあると思いますが、どうぞよろしくお願いします」

 そして、俺は腰を曲げた。
 とたんに一部から拍手がして、段々とそれは広がり、クラスじゅうが拍手で包まれた。ま、小さい拍手なんだけど。
 そして、俺はそんな中、腰をあげた。
  
 腰をあげると先生が、

「それじゃ木洩日、一番後ろの窓側の席に座れ」
 
 と言ってきた。

 そして、先生は「あそこだ」と指差しながら、そのしゃがれた声で僕に指示する。
 俺は静かに「はい」と言って、即刻、その席へと向かった。

 座ると、案外クラスが見渡せる席だと言うことに気づき、感心しながら周りを見渡していたら、隣の席の人と目があった。
 何故か気まずくなってしまうあれだ。そむけばいいんだろうけど、何故かそむけない、あの不思議な感覚だ。そして気まずい。

 そんな目があった子は、可愛らしい女子だった。少しウェーブがかかったヘアスタイルは彼女の可愛らしさをさらに強調させる。そして、その奥深い瞳はキラキラと輝いているようだった。加え、柔和なその表情はまさにお姫様だった。
 
 そんな彼女は、口を開く。

「よろしく。私は西城 茜(さいじょう あかね)。一応クラス委員で、この班の班長だから、困ったことがあればなんでも聞いてねッ!」
 
 茜さんは、静かにこしょこしょ話をするように俺に言ってきた。

 そんな柔らかい表情を浮かべる彼女の名前は茜だと分かったのでこれからは茜さん......ではなく、西城さんと呼ぼう。そんな心の中で彼女の名前の呼び方に決まりをつくっていた俺はさっそくその名前を使わせてもらうことにした。

「よろしく。西城さん」

 できる限り俺は簡潔に言った。
 そして、それ以外にもなにか話すための題材があればよかったのだが、僕のコミュ力ではあいにくこれが限界だった。
 しかし西城さんはにんまりと微笑み、「うん」と満足げに答えてくれた。
 いい人そうだ。と、僕は案外自分のちょろさに呆れた。しかし、童貞やろうには女性に優しく接しられると勘違いしてしまいそうになるのだ。
 そこは感受してほしい。
 
 それからは授業やら昼休みやらが普通に進み、今は放課後を迎えていた。
 友好関係はそこまで作れてはいない。挨拶程度に昼休みとかの間に少しだけ話したのが、それが今日一のコミュニケーションのとり場だった。

 でも、まぁ、転入初日は無難に頑張った方だ。
  
 そして、今日は結構緊張していた。 

 なぜ、緊張していたのかと聞かれると、そりゃあ知らない人たちが沢山いる環境に放り込まれるのだ。緊張ぐらいはする。

 しかし、これだけが理由ではなかった。
 僕は先程言ったように、田舎者だ。
 それが、もうほんとにドがつくほど。
 周りに若いもんなんかは数人しかおらず、おじいちゃんおばあちゃんがのどかに暮らす「のほほん地」。それが、僕が今まで住んでいた環境だった。
 何が言いたいのかと言うと、同世代のやつが少なかったのだ。
 少ないなんて言葉じゃ足りないかもしれない。だって俺含め二人しかいなかったから。しかも、追い打ちをかけるように、その彼女は中学一年生になると共に、異郷の地へと引っ越してしまったのである。
 それから中学三年になるまで、若い世代は僕、一人だった。
 
 これが今日緊張した原因である。

 久しぶりの同世代なのだ。緊張しておののくのは仕方がないと思う。
 そんな言い訳じみた事を考えながら、僕は誰にも話し掛けられずもせずにこの教室を一人出た。

 外に出てみると太陽が暖かく、しかし気温はちょうどいいと言ったような快適な状態となっている。
 快晴な空は見ていて気持ちいい。

 そんな青空の下、俺は颯爽に帰宅するため自転車をこいでいた。
 まっすぐ家に帰ろうと最初は思っていた。しかし、ここは分からない道ばかりで、しかも始めて来た地なのだ。
 さらに俺は方向音痴と言うマイナススキルも持っている。
 これはもう必然的と言っていいほどまでに俺は簡単に迷子になってしまった。

 ふぅ、さてと困った。どうしようか。来た道を戻ってもう一度学校に戻り、先生に道を教えてもらうか? 否、俺は引き返すことはせずにこのまま進むことにした。
 何て事はない。ただの気まぐれだ。

 たんに知らない道を行ってみたい。そんな衝動に駆けられただけだ。
 
 俺は気が向くまま、赴くまま、知らない道を滑走するように自転車をこいだ。
 
 


 ふいに自転車をこぎやめ、ついた場所は階段だった。この階段はたぶん上っていけば寺か神社がある階段。俺は少し行きたくなり、荷物が入ったままの自転車を止めて、足早にその階段を上ってみる。

 最上段にくると、やはり神社だった。

 小規模な神社だった。本堂は赤が中心で所々古くなっているところがあり、そこは何故か歴史と言うか時の流れを感じさせる。

 そんな感慨に浸る俺は、自然にその本堂に近づいていった。
 そんな時だ。俺が生まれて始めて変態にあったのは。

 その変態は、本堂近くにある大きい木に隠れており、いきなりとして羽織っているレインコートを両手で大きく広げながら上半身裸、下半身裸、を俺に見せつけてきた。

「!?!?」

 いきなり出てきた変態に俺は驚愕した。

「俺をみろぉぉおおおお!!!」

 変態は喉から叫ぶ。きもっ!!
 
 そいつの顔にはサングラスとマスク、帽子をしており容姿は確認できない。しかし、その露見している体つきからは、中年男性だなと推測できた。

「てっ!? えぇ? 女じゃねぇし!?」

 変態は俺が男だと、最初気づかなかったようだ。
 俺は見た目、細いとは思うが、外見女にはそこまで見えないし、多分なにか違う理由で間違えたのだろう。と考えた。
 しかし、変態は構わずこちらに走ってきていた。
 
 俺はそんな変態から逃げようかと思ったが、やはりと思って大きくふみとどまる。

 こんな変態をみすみす見逃してはご近所が危なくなるんじゃないのか? 俺はそういう正義感というか、危機感が働き、戦うというか捕まえようと思った。

 これでも一応武道はたしなんでいたのだ。

 俺はその経験をいかし、地面を蹴った。蹴った先に向かうのは変態のふところ。

「!?」

 変態は俺がこんな行動をとるのかと予期しなかったのだろう。身が引けていた。そのお陰で簡単に腕と肩を掴むことができ、力一杯一本ぜおいを俺は冷静にかます。

 ドタァン!と、地煙をたたせながら変態は「うぇ!」と呻き声をあげた。
 そして、すかさず地面に落ちた変態の溝であろうところに、せいけんづきを突きはなった。
 静まる空間。反応がなくなる変態。
 
「.......死んだか?」

 俺はそんな様子の変態をうかがった。やはり、反応がない。気絶したか、死んだかのどっちかだ。と、俺はここで気を緩めてしまった。

 それが俺のミステイクであり、最大の隙だった。
 
「うぁあァアア!!!」

 俺はいきなりの衝撃に身が泣き叫ぶ。全身に力が不愉快に入り、目を見開いた。
 一体なんだ!? 俺はその原因の切っ先を見て思った。

 スタンガンは...なしでしょ。

 先程の男がスタンがんを隠し持っていたのだ。俺はそれの餌食となり、そして、力が入らなくなった俺は地面になんの抵抗もなしに崩れ落ちた。
 その時、地面に顔面があたっても痛覚は感じられず、ただただ朦朧とする意識の中、もうちょい徹底的にぶちのめせば良かったなと後悔しながら意識が遠のいていき、終いには俺の視界は暗いくらい闇のそこへと落ちてしまっていた。

 クソッ..................
 
 暗くなる意識のなか、俺は最後にそう呟いた。



 
 
 
 うっすらと瞼を開けると、まだスタンガンのダメージの余韻が残っており、少し身がうずいた。
 ゆらゆらと揺れる意識の中、俺はハッとして身を起こす。

 あの変態は!? つか、俺無事だったのか!?

 辺りを見回し、自身を見直した。

 辺りは先程の景色。しかし、俺はいつのまにか本堂の石段に立て掛けられていた。 

 そして、自身にはめだった外傷はなく、俺は安心した。

 時間もそこまでたっていないのか、太陽はまだ悠然とでていた。
 
 なにも代わり映えはない。そう、この服装と何とも言い換えられないこの嫌な爽快感だけを残して。

「えぇ!?」

 俺は驚嘆し困惑する。
 俺は何故かいま、先程の変態が着用していたレインコートだけを羽織っている変態と同じ状態となっていたのだ。パンツも脱がされてらぁ。瞬時に理解した。あの変態がしたのだと。

「うぅ、あの変態がぁ、くッそっ!」

 今の状況に俺は悪態をつくしかない。

 もちろんまわりには俺の服らしきものはなく、絶望的な状況。
 
「これじゃあ俺変態じゃん!?」

 天に叫ぶ。しかし、風が吹くだけ。答えはなにも見つからなかった。
 くそっ! 仕方ない。今、この状態で俺は帰るしかない。誰にも見られずに、誰にも気がかりにされずにだ。
 俺はそう決意して、レインコートの前のチャックを閉めた。
 よしっ! これなら何とかレインコートを羽織っているようにしか見えない。まさか下が全裸だと言うことはばれないだろう!
 
 そして、俺は走りながら階段を降りた。降りたらすぐに自転車にまたがって、急ぎ帰るつもりだっのだが、目の先には自転車がなかった。

「は!? て、え? まさか、あいつ自転車も盗んだのか? ふ、ふざけんなよ......」

 俺はもう、マグマのような熱く激しい怒りしか出てこない。
 あの変態は何故俺にこのような、陰険な嫌がらせをするのか。
 なんだか殺したくなってきた。

「てゆうか、あの自転車のなかにバックがはいってんのに....」

 俺はもう、ひとしきりにガーンとするしかなかった。

「あれ? 木洩日くん?」

 俺はその優しい声に、背筋が凍った。振り向くとそこには今日始めに自己紹介をしてくれた、同クラの委員長であり俺の班長でもある茜が、にっこりしながら立っていた。

「ッッッッ!」

 開いた口がふっさがらなぃ!
 驚愕しながら俺は絶望のふちに立たされる。

「どうしたの? そんなレインコート着ちゃって」

 ビクッ!! と俺の体が反応する。

「い、いや、今日って少し肌寒いから」

 咄嗟にでた言い訳を俺は口にした。

「? そうかな? 今日はポカポカしてるけどな?」

 ビクっ!

「い、いやぁ、俺って結構冷え性だから」

 く、苦しい言い訳しか出来ねぇ。冷や汗が止まんないぃ。

「ふーん。そんなんだ。で、木洩日くんはどうしたの? 今からどこかいくの?」

「い、いや。そこらをただ散歩していただけだよ」

「へー、そうなんだ。木洩日君って暇人なの?」

「あ、あぁ、結構暇人かも」

  帰らせてぇ。お願いだから帰らせてぇ。

「へぇ、じゃあさ、私これから友達と待ち合わせてるとこまでいくんだ。そこまで一緒にいかない?」

 この誘いを、通常の俺が受けとっていたらまず大喜びしていただろう。だが。だがだ。今は通常とは言いがたい最悪の状態で誘われている。
 これを地獄といってなんといおうか。

「い、いや、これかれ帰ろうと思って...」

「えぇ、すぐそこだよ?」

「い、いや。そういや俺、転入書類を学校に渡さないと行けないんだった。ちょっと、学校に持っていくからごめん」

 咄嗟の咄嗟の咄嗟に思いついた言い訳だ。
 頼むぅ、乗りきってくれぇえ!

「なに言ってんの、荷物なんて持ってないじゃん。笑かすなぁ、もう!」

 そう言って、西城さんケラケラしながら、僕を叩いてきた。そのひょうしにだ。何故かチャックがベロっと剥がれたのだ。
 俺の体が暴露されていく中で、何故か冷静な思考で、多分、これは先程の露出狂があみだした露出による露出のための露出させやすい装置なんだろう。と勝手に推測してた。
 俺ははだけた。何もかも。

「へっ!? ちょ、ふぇ!?  ひゃ きゃ、キャァァアアあアアァァァァ!!!」

 西城さんは顔を真っ赤にさせながら、俺に背を向けて走り出した。 
 ほぇ!? やばいよそりゃあ!!

「ちょ、ちょっと、まってぇぇええ!!」

「きャァァァァアア!! 来ないで! 来ないで! 来ないで! 来ないでくださぁいい!」

 俺は逃げる西城さんに誤解を解くため西城さんを追う。しかし、西城さんはもっと走り出した。

「誤解だって! だからまってぇえ!!」

「何が誤解なの!! もう、その時点でアウトだよぉぉお! もう来ないでぇぇええ!!」

「だから、これには色々と深いわけが!」

「意味わかんないよぉぉおおお!!! いやぁァァアア!!」

 く、くそっ! だめだ! なんか空回りしてるような気がする!! しかし、誤解は解かなくては! 俺の沽券にかかわる!!

 俺は必死に逃げる彼女を追いかけ回した。

「だから止まってってぇぇええ!!」

「止まるはずないじゃないですかァァあああ!!」

 だ、だめだ! くそっ! 少し手荒になるが差し押さえるか! そう思った時である。いきなり衝撃が走ったのは。

「バボォラ!?!」

 遠くから来た野球ボールに俺の顔面がヒットしたのである。通常なら避けれるそれは、西城さんを追うことに必死でまるで避けれなかった。
 しかも、これ硬式じゃね? そーとーイッタァ!! 俺はこの時からもうすでに体制を崩して地面へと落ちていく最中だった。その転けるときの俺の視界の世界は何故かスローモーションでおくられていた。
 そして、この硬式ボールは西城さんの友達らしき人が投げたのだと思われる。
 だって、その人に西城さん泣きながら抱きついてるもん。あ、一応女ね。その西城さんとその女の人含め周りには六人ほどの男女が何とか確認できた。

 はぁ、それはいいけど何回だっけ?
 まるで死ぬような痛みをうけるのは。
 
 確か、一回目はじいちゃんと稽古しているときだ。何度か肋骨(ろっこつ)がいって死にかけたことがあったっけ。はハッ、あの時はガチで死ぬかと思ったな。
 二回目は、そう。今日のあの露出狂だ。いきなりスタンガンって正気じゃねえ。
 そして、三回目は今だな。うん。
 脳が震えてる。めっさいてぇ。心もいてぇよ。なんだか段々地面が近くなってきたし。 
 そう感じた刹那、俺は今日二度目の地面とのキスを行った。

「うぇぶ!?!?」

 …………………………つぅ~ー。俺はこけたが意識はもっていかれず、痛覚はビンビンに働いていた。だから痛ったい。痛いよ。なんだか全てがいたい。 
 しかし、俺はダメージを負いすぎた体ながらも無理矢理体を動かし、よろめきながら上体をあげた。
 すると、そこには6人の男女が俺を蔑むような目で見下げ、睨んでいた。orz.....。
 
「あ、あの.....」

 俺はすがるよう言う。しかし、そんな俺を無視して、

「ちょっと、雄作(ゆうさく)。警察に早く電話して」

 先程俺に硬式野球ボールを投げつきてきた女が流暢にそんなおぞましいことをいった。
 そして、雄作と言われた男はバックから携帯を取り出した。
 俺は条件反射にビクっ!とする。

「ちょ、まってッ! 警察はやめて、ガチでやめてお願いだから」

 おどおどとする俺にボール女が、さらに蔑みの目で俺をみさげ、ペッとタンをはいてきた。
 う、うそ~。こわ。

「ふざねんじゃねぇぞ。こちとらうちの茜がこえー思いをお前にさせられたんだぞ? 落とし前はきっちりとってもらわんとなぁ?」

 え、えぇー? 何、この少女。可愛い姿とは裏腹になんかめっちゃこえぇよ? 例えるなら、そうヤクザだ。もう、まんま雰囲気がヤクザだった。

「ちょっと、時雨(しぐれ)、家柄出てるって」

 こそこそとその隣にいたがボール女───もとい時雨さんに耳打ちをした。
 残念なことだとは思うが俺の五感は結構鋭いほうであり、ばっちり聞こえていた。
 
「わ、わかってるわよ」
  
 時雨さんは、顔を赤くして雄作を可愛らしく睨んだ。 
 何を思って顔を赤くしたかは俺には分からないが、多分、絶対他人事なので気になりはしたが、それについては今は聞かなかった。
 て言うか今じゃなくとも聞くことは相手へのプライバシーに入るかもしれないし、失礼になるかもしれないので聞かなかっただろう。
 そして、今はそんな状況では決してない。
 俺は何とかしてこの人たちに誤解を解かなくてはならないんだ。

「あの。お願いします。弁明の余地を与えてはくれないでしょうか」

 俺は今、六人の男女に向かって土下座をしていた。

「は? 死ねば?」

 ぐふっ!
 時雨さんの慈悲なき言葉が俺の心にうち刺さる。まるでさっきの可愛らしさが嘘のようだ。  そして表情を見てみるとなんともまぁ表情が違うことか。今では汚物を見る顔で俺を見ていた。

「顔、あげんな気持ち悪い」

 やはり、剣幕な時雨さん。
 俺のライフポイントはもう0だ!
 
「時雨ちゃん、もうそのくらいでいいよ。ちょ、ちょっと、可愛そうだよ」

 未だに西城さんは時雨さんに抱き付いていた。
 やはり、まだ俺が恐いようだ。
 しかし、なんと優しい子か。そんな人の肩を少しでも持ってくれるんだ。ちょう慈悲深けぇ。
 少し涙が出てきたもしれない。
 しかし、俺はそれをきゅっと我慢し、また、お願いする。

「お願いします! 言い訳をさせてください!」

 俺は頭を地面に当て付けた。

「し、時雨ちゃん」

 そんな様子を西城さんは心配してくれてるようだ。なんて、優しいんだ。(嬉泣)
 そして、俺はチラッと前を伺った。
 時雨は付きよる西城さんに分かったからと優しく言って、めんどくさそうに俺を見た。
 
「分かったわ」

 その瞬間、俺はやった!と心でガッツポーズを作った。しかし、まるでその喜びを突き落とすように時雨は言う。

「でも、言い訳なんて聞かないわ。警察だけは勘弁してやるってだけ。それに私って言い訳する男って大嫌いなんだよね。それに茜を怖がらせたのは絶対私は許さないわ。
 あと、もう、私たちに近寄らないで。露出趣味の奴ってキモいし仲よくしたくない。と言うか同じ場所にもいたくない。でも、あなたとは同じクラスだし仕方ないわ。そこだけは許してあげる。それ以外絶対私たちの近くによらないで。
 次に、もしまた同じことしてたら速攻ポリスにあなたをつき出すわ」

 長々と俺に条件を出していく時雨さん。
 俺はズーンと暗い顔でそれを聞いていた。 
 もちろん地に手をつきながら。

「それじゃあね。変態さんッ!」

 そう言って時雨さんは、西城さんをつれていきながら奥の道へと俺を見ずに淡々と歩いていった。そのつど、西城さんはチラチラと俺に心配そうな眼差しを向けてくれていた。
 そして、それに続き、雄作と言われていた男もついていった。その他の者たちもだ。しかし、ある男が最後まで残っていて俺に面白がるように言ってきた。

「御愁傷様。時雨に嫌われたら多分安定した学校生活は送れないから。頑張ってね~」
 
 パァッと明るい顔で言う名前も知らないイケメン男。いやようにイラッときた。
 殴ってやろうかと思ったが、いかんせん今の状況で、俺は殴りきる根性はない。殴れば即刻時雨さんにぶち殴られるだろう。罵倒とともに。
 したがって、俺はなにもできずにただただ向こうに行く団体をみもうけるしかなかった。

 そして、ポツンと取り残される俺。

 この虚無感と絶望感は簡単に俺を萎えさせる。

 今年始まって以来の最悪な日だった。

 それからと言うもの、時雨さんはギスギスだし、なにかと西城さんにも消極的にせっしられていた。
 しかも、俺が露出癖がある変態だと一時(いっとき)そんな噂がたえなかった。
 それだけではない。時雨さんたちはクラス内でいう、いや学年でいう結構影響力のあるお人がたたちなのだ。そんな人たちから大々的に嫌われる俺は必然的に周りから距離をとられ、友達ができにくい状態となってしまったわけだ───────
   
 
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