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閑話 ガールズ?トーク
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閑話 ガールズ?トーク
十一月のある土曜日の昼下がり。ふるさと会館には年明け一月に予定されている『歩いてお餅を食べよう会』(仮)の計画書作成のため、本上文化体育部長(推定五十代)・浅井婦人会会長(三十代)・堀北総務広報部長(二十代)、以上三人の町会女性幹部が集まった。
「浅井さんも堀北さんもごめんねぇ。私たちの仕事に巻き込んじゃって」
「いいえ。どちらにしろ餅つき大会の打合せはする予定でしたし…」
「そうですよぉ」
「最初は文化体育部だけで計画書作ってたんだけど、やっぱり細かいところは想定できなくてね。その点、浅井さんと堀北さんなら夏のお祭りの実績があるからさ、協力してもらおうよってことになってね」
「お任せ下さぁい。私はともかく、浅井先生がいればバッチリですよぉ」
「ふふふ、頼りにしちゃうわぁ」
「基本的には例年の餅つき大会の流れをベースにして、歩こう会の流れをそれに合わせる感じでいいんですよね?」
「そうなのよ。でもそれだけだとイベントとしての盛り上がりに欠けちゃうでしょ?そこでね……」
「ふぅー。ちょっと休憩しようか。いいもの買ってあるのよ、はい」
「あっ、ミレーさんのワッフルだぁ!お茶入れてきますねぇ。あ、アタシ抹茶のやつが好きなんですぅ、取っといて下さいよぉ」
「堀北さん、こんなにたくさんあるのよ。大丈夫だって。本上さん、すいませんホントに…」
「いいのよ、ふふふ」
「んぐっ、おいしいですねぇ」
「…へぇ堀北さん、ちゃんと食べてから話すようになったわね」
「パパ、じゃない主人に注意されたんですよぉ、舞ちゃんがマネするからって」
「ふふふ、でも堀北さんは浅井さんだけじゃなくて、あの南田さんたちからも可愛がられているわよねぇ」
「えー?浅井先生はともかく、東海林さんと小西さんからはからかわれてるだけですよぉ」
「ふふふ、そんなことないわよ」
「本上さんはあの人たちのこと、よくご存知なんですか?」
「あの人たちって、会長と小西さんと東海林さんでしょ?ご存知っていっても半分は私の母や兄から聞いた話なんだけどね。私も亭主に先立たれてから実家に戻ってくるまでは都内にいたからね」
「あ、なんかすいません」
「ふふふ、いいのよ。もうずいぶん昔のことだし。ええとね、ここが四菱団地って呼ばれていた頃から住んでいる人達は、だいたいあの三人のことは知ってるわよ。いい意味でも悪い意味でも」
「いいことなんか、あの三人にあるんですかぁ?」
「ふふふ、私たちがかよってた小学校は北小でね、当時はほとんどがあの辺の農家の子供ばかりでね、四菱の子供たちは転校生とか東京者とか言われてけっこうイジメられたりしてたのよ」
「えっ、いつ頃の話ですか?」
「昭和四十年頃ね」
「あ、アタシの母が四十年生まれですぅ」
「………」
「………。まぁいいわ。それでね、兄の話によるとあの三人が転校して来てから、そのイジメがパタってなくなったんだって。ほら、小西さんはあの体でしょ。昔から背が高くて力もあってね、ケンカも強かったんですって」
「ああ、なるほど」
「それにね南田町会長は今はああだけど、子供の頃は可愛らしくてね、髪も長くして着ていた服も都会のセンスというか、まぁ女の子にすごい人気があったのよ」
「ははは、うっそだぁー!」
「いやいや、私も覚えているけど高校の頃まではホントに格好良かったのよ。女の子にも優しくてね」
「………」
「………」
「でもって、ひどかったのがショウちゃんよ。子供の頃からいたずら好きでね、いじめっ子の下駄箱の中に飼育小屋のウサギのフン入れたり、その子の紅白帽子の白い方をね、マジックで全部赤く塗ったり、リコーダーの中に油粘土詰めちゃったりするのよ。みんなショウちゃんの仕返しが怖かったらしいわ」
「たち悪いですねぇ」
「それもね、絶対見つからないように上手くやるんだって。悪知恵が働くのよ」
「あぁ、なんか分かります」
「悪い事してさ、近所のおじさんに怒られたりとかするじゃない?そうすると登下校のたびにその家の呼び鈴ピンポン鳴らして逃げたり、郵便受けに犬のフン入れたり、ブロック塀にオシッコかけたり」
「今やったら犯罪ですよねぇ」
「昔でも犯罪じゃないかなぁ。それでね、あるとき学校の桜の木の毛虫をショウちゃんが割り箸で一生懸命につまんでね、ビニール袋に入れてたんだって。うちの兄が何してるのか聞いたら『害虫駆除』って言ったらしいのよ。その日兄が下校途中でショウちゃんが怒られたおじさんちの植木にね、今度はショウちゃん、つかまえた毛虫を割り箸で一匹ずつ放してるんだって。何してるのって聞いたら『放生会』って言ったらしいのよ。兄も子供だったから放生会って言われたってなんだか分からないじゃない。家に帰ってから母に聞いたり、辞書で調べてやっと分かったんだってさ」
「…そのまんまですね」
「あれはいつだったかなぁ。昔ひまわり幼稚園でさ、お猿さん飼ってたことがあるのよ。カニクイ猿。その猿が逃げ出してね」
「大変じゃないですか。今ならテレビのニュースものですね」
「そのときも大変だったらしいわ。怪我人が一人出たんだけど、その怪我人がショウちゃんなのよ。面白そうだからってショウちゃん自分で猿の檻のカギを外したらしいんだけど、日ごろからショウちゃんがその猿をからかってたらしくてね。さすが猿よね。しっかり覚えててさ、逃げ出したとたんショウちゃんに襲いかかって噛みついて。それから逃走したんだって」
「…フフフフ」
「はは、ははは」
「救急車やパトカーとかも来てね、ショウちゃん『僕が四菱団地で初めて救急車に乗った小学生』とか言ってしばらく自慢してたんですってさ。でも『猿に噛まれた小学生』って呼ばれていたらしいけどね」
「…馬鹿ですねぇ」
「そう、馬鹿なのよ。それでね、あの三人が集まると余計にイタズラがひどくなってね、昔この会館の北側にたっかーい給水塔があってね、三人で上ったのはいいんだけど最後に上った南田会長が怖くなって降りられなくなっちゃってさ、当然先に上った二人も降りられなくなって大人が消防車呼んで三人を降ろしてもらったりね。兄が言ってたわよ『俺、はしご車で人が救助されるの見たのはあの時だけ』ですって」
「どうしようもないですねぇ」
「夏休みにはさ、三人で学校のひょうたん池で金魚花火やってね、用務員さんが、あ、今は校務員さんって言うんだっけ?校務員さんが大切にしてた錦鯉が全滅」
「…ヒドイですねぇ」
「でも先にね、その校務員さんがイタズラした小西さんの頭を竹ぼうきの柄で叩いてケガさせたのが原因だったらしいんだけどさ」
「…それに巻き込まれた鯉が可哀そうですね」
「そうよねぇ。それから当時は今みたいな遊具のある公園なんかなくてね、みんなひまわり幼稚園で遊んでいたんだけど、あの三人のイタズラがひどくてね。幼稚園の正門に『東海林正志、小西雅彦、南田博士の三名の立ち入りを禁止します。園長』って書いた警告文が数年間貼ってあったわ」
「………」
「でもあの三人はそんなの無視して幼稚園で遊びまくって、よく園長先生たちに追っかけ回されてたらしいわ。かわいそうにショウちゃんの妹さんは入園させてもらえなくてね、野田市のうめさと幼稚園にかよってたしね。結局ますますショウちゃんたちのイタズラも悪質になって、お猿さんの脱走事件にもつながるんだけどね」
「……なんというか、札付きの悪童ってやつですねぇ…」
「でもね、三人とも小学校ではお勉強はそこそこ出来るし、スポーツも得意でね。クラスも当時は一組しかなかったもんだから、四年生からは一学期の学級委員は小西さん、二学期は南田さん、三学期はショウちゃんって決まってたんですって」
「ホントですかぁ?」
「ホントらしいわよ。そのうえ南田さんは五年生で児童会の会長選挙で六年生をおさえて当選したそうよ」
「スゴイじゃないですか」
「六年生の女子に可愛がられてたし、選挙の応援演説で小西さんが『ハカセに投票しない奴は覚悟しとけ』って脅したり、ショウちゃんが『校長先生のモノマネをします』ってやりだしたりして大ウケだったんだって。もちろん二人とも先生に演壇から引きづり降ろされて大目玉だったらしいけどね」
「児童会の選挙なんてあったんですねぇ。アタシの頃や最近は選挙ないですよ」
「あれ?そうなの?…まあいいや。そんな感じであの三人は相当目立った子供だったのよ」
「…きっとそのまんま、おじさんになっちゃったんですねぇ」
「ふふふ、そうかもね。でもさすがに中学、高校では大人しくしてたみたいね。さすがにそこから先の事は私もよく知らないのよ。ただ母から聞いた話によると、ずっとこの町会に住んでいるのは南田会長だけみたい。ご両親が亡くなった後、勤めていた会社を辞めてお米屋さん継いだらしいわ。小西さんはお父さんが亡くなってから実家に戻ったらしくて、それまでは道路公団にお勤めで日本全国あちこち行ってたそうよ。ああ、うちの母と小西さんとショウちゃんのお母さんたちは昔からの知り合いでね、たまに情報入ってくるのよ」
「ああ、東海林さんがよく『ハイビスカス婆』って呼んでるお婆ちゃんたちですよねぇ。たまにこの会館でフラダンスやってますねぇ」
「フフフ堀北さん、悪いわよ」
「ふふふふ、うちの母もその中の一人なんだけど……」
「…すいません」
「す、すいませぇん…」
「ふふ、いいわよ。だからショウちゃんが御実家に戻ってきて、あの三人が揃ってね、私と同じ年に町会役員やるって聞いたときはホントにびっくりしたわ。兄に電話でそのこと話したら大ウケだったわよ」
「そういえばあの三人って、うちの舞ちゃんや浅井さんところの有希ちゃんのこと可愛がってくれますけどぉ、お子さんはいないんですかぁ?」
「南田会長のところは娘さんが二人いて、二人ともとっくにお嫁さんに行っちゃったらしいわ。小西さんは謎ね。離婚歴はあるらしいけどお子さんはいないそうよ。ショウちゃんとこは娘さんが一人いたんだけどね、小学校に入ってすぐ交通事故で…。信号無視の車にはねられて」
「………」
「……本当に?」
「うん。もう二十年くらい前なんだけどね、めったに婦人会の仕事を休まなかったショウちゃんのお母さんが『しばらく休ませてくれ』っていうんで、うちの母がどうしたのって聞いたらね、『正志のところの孫娘が死んだ』って涙を流したんだって。『後にも先にも東海林さんの奥さんが泣いたの見たのはあの時だけ。おととし旦那さんが亡くなった時なんかゲラゲラ笑ってたのに』ってうちの母が言ってたわ」
「…そうだったんですか」
「………」
「有希ちゃんや舞ちゃん見て、自分の娘さんのこと思い出しているのかもね…。ショウちゃん、男の子には冷たいからね。ほら、お祭りの時もさ、小学生の男の子集めて『男の子は太鼓を叩かないと綿菓子あげません』ってやってたじゃない?男の子が男女差別だって抗議したら『女の子はキレイな浴衣を着て踊るのだ。汚い君たちはせめて太鼓を叩くのだ。差別は当然ではないか』とかやってたもの、ふふふふ」
「…そうでしたね、男の子たちも妙に納得してましたね、フフフ」
「ふぇ、えーん」
「ちょ、ちょっと堀北さん、なに泣いてるのよ?もう二十年も前のお話よ」
「だって、舞ちゃんがもし死んじゃったらって思うと……。ふえーん」
「ほら、泣かないの。……困ったわねぇ」
「ど、どうしましょう?とりあえず二人で計画書作成、再開しましょうか?」
「そ、そうね、そうしましょ…」
十一月のある土曜日の昼下がり。ふるさと会館には年明け一月に予定されている『歩いてお餅を食べよう会』(仮)の計画書作成のため、本上文化体育部長(推定五十代)・浅井婦人会会長(三十代)・堀北総務広報部長(二十代)、以上三人の町会女性幹部が集まった。
「浅井さんも堀北さんもごめんねぇ。私たちの仕事に巻き込んじゃって」
「いいえ。どちらにしろ餅つき大会の打合せはする予定でしたし…」
「そうですよぉ」
「最初は文化体育部だけで計画書作ってたんだけど、やっぱり細かいところは想定できなくてね。その点、浅井さんと堀北さんなら夏のお祭りの実績があるからさ、協力してもらおうよってことになってね」
「お任せ下さぁい。私はともかく、浅井先生がいればバッチリですよぉ」
「ふふふ、頼りにしちゃうわぁ」
「基本的には例年の餅つき大会の流れをベースにして、歩こう会の流れをそれに合わせる感じでいいんですよね?」
「そうなのよ。でもそれだけだとイベントとしての盛り上がりに欠けちゃうでしょ?そこでね……」
「ふぅー。ちょっと休憩しようか。いいもの買ってあるのよ、はい」
「あっ、ミレーさんのワッフルだぁ!お茶入れてきますねぇ。あ、アタシ抹茶のやつが好きなんですぅ、取っといて下さいよぉ」
「堀北さん、こんなにたくさんあるのよ。大丈夫だって。本上さん、すいませんホントに…」
「いいのよ、ふふふ」
「んぐっ、おいしいですねぇ」
「…へぇ堀北さん、ちゃんと食べてから話すようになったわね」
「パパ、じゃない主人に注意されたんですよぉ、舞ちゃんがマネするからって」
「ふふふ、でも堀北さんは浅井さんだけじゃなくて、あの南田さんたちからも可愛がられているわよねぇ」
「えー?浅井先生はともかく、東海林さんと小西さんからはからかわれてるだけですよぉ」
「ふふふ、そんなことないわよ」
「本上さんはあの人たちのこと、よくご存知なんですか?」
「あの人たちって、会長と小西さんと東海林さんでしょ?ご存知っていっても半分は私の母や兄から聞いた話なんだけどね。私も亭主に先立たれてから実家に戻ってくるまでは都内にいたからね」
「あ、なんかすいません」
「ふふふ、いいのよ。もうずいぶん昔のことだし。ええとね、ここが四菱団地って呼ばれていた頃から住んでいる人達は、だいたいあの三人のことは知ってるわよ。いい意味でも悪い意味でも」
「いいことなんか、あの三人にあるんですかぁ?」
「ふふふ、私たちがかよってた小学校は北小でね、当時はほとんどがあの辺の農家の子供ばかりでね、四菱の子供たちは転校生とか東京者とか言われてけっこうイジメられたりしてたのよ」
「えっ、いつ頃の話ですか?」
「昭和四十年頃ね」
「あ、アタシの母が四十年生まれですぅ」
「………」
「………。まぁいいわ。それでね、兄の話によるとあの三人が転校して来てから、そのイジメがパタってなくなったんだって。ほら、小西さんはあの体でしょ。昔から背が高くて力もあってね、ケンカも強かったんですって」
「ああ、なるほど」
「それにね南田町会長は今はああだけど、子供の頃は可愛らしくてね、髪も長くして着ていた服も都会のセンスというか、まぁ女の子にすごい人気があったのよ」
「ははは、うっそだぁー!」
「いやいや、私も覚えているけど高校の頃まではホントに格好良かったのよ。女の子にも優しくてね」
「………」
「………」
「でもって、ひどかったのがショウちゃんよ。子供の頃からいたずら好きでね、いじめっ子の下駄箱の中に飼育小屋のウサギのフン入れたり、その子の紅白帽子の白い方をね、マジックで全部赤く塗ったり、リコーダーの中に油粘土詰めちゃったりするのよ。みんなショウちゃんの仕返しが怖かったらしいわ」
「たち悪いですねぇ」
「それもね、絶対見つからないように上手くやるんだって。悪知恵が働くのよ」
「あぁ、なんか分かります」
「悪い事してさ、近所のおじさんに怒られたりとかするじゃない?そうすると登下校のたびにその家の呼び鈴ピンポン鳴らして逃げたり、郵便受けに犬のフン入れたり、ブロック塀にオシッコかけたり」
「今やったら犯罪ですよねぇ」
「昔でも犯罪じゃないかなぁ。それでね、あるとき学校の桜の木の毛虫をショウちゃんが割り箸で一生懸命につまんでね、ビニール袋に入れてたんだって。うちの兄が何してるのか聞いたら『害虫駆除』って言ったらしいのよ。その日兄が下校途中でショウちゃんが怒られたおじさんちの植木にね、今度はショウちゃん、つかまえた毛虫を割り箸で一匹ずつ放してるんだって。何してるのって聞いたら『放生会』って言ったらしいのよ。兄も子供だったから放生会って言われたってなんだか分からないじゃない。家に帰ってから母に聞いたり、辞書で調べてやっと分かったんだってさ」
「…そのまんまですね」
「あれはいつだったかなぁ。昔ひまわり幼稚園でさ、お猿さん飼ってたことがあるのよ。カニクイ猿。その猿が逃げ出してね」
「大変じゃないですか。今ならテレビのニュースものですね」
「そのときも大変だったらしいわ。怪我人が一人出たんだけど、その怪我人がショウちゃんなのよ。面白そうだからってショウちゃん自分で猿の檻のカギを外したらしいんだけど、日ごろからショウちゃんがその猿をからかってたらしくてね。さすが猿よね。しっかり覚えててさ、逃げ出したとたんショウちゃんに襲いかかって噛みついて。それから逃走したんだって」
「…フフフフ」
「はは、ははは」
「救急車やパトカーとかも来てね、ショウちゃん『僕が四菱団地で初めて救急車に乗った小学生』とか言ってしばらく自慢してたんですってさ。でも『猿に噛まれた小学生』って呼ばれていたらしいけどね」
「…馬鹿ですねぇ」
「そう、馬鹿なのよ。それでね、あの三人が集まると余計にイタズラがひどくなってね、昔この会館の北側にたっかーい給水塔があってね、三人で上ったのはいいんだけど最後に上った南田会長が怖くなって降りられなくなっちゃってさ、当然先に上った二人も降りられなくなって大人が消防車呼んで三人を降ろしてもらったりね。兄が言ってたわよ『俺、はしご車で人が救助されるの見たのはあの時だけ』ですって」
「どうしようもないですねぇ」
「夏休みにはさ、三人で学校のひょうたん池で金魚花火やってね、用務員さんが、あ、今は校務員さんって言うんだっけ?校務員さんが大切にしてた錦鯉が全滅」
「…ヒドイですねぇ」
「でも先にね、その校務員さんがイタズラした小西さんの頭を竹ぼうきの柄で叩いてケガさせたのが原因だったらしいんだけどさ」
「…それに巻き込まれた鯉が可哀そうですね」
「そうよねぇ。それから当時は今みたいな遊具のある公園なんかなくてね、みんなひまわり幼稚園で遊んでいたんだけど、あの三人のイタズラがひどくてね。幼稚園の正門に『東海林正志、小西雅彦、南田博士の三名の立ち入りを禁止します。園長』って書いた警告文が数年間貼ってあったわ」
「………」
「でもあの三人はそんなの無視して幼稚園で遊びまくって、よく園長先生たちに追っかけ回されてたらしいわ。かわいそうにショウちゃんの妹さんは入園させてもらえなくてね、野田市のうめさと幼稚園にかよってたしね。結局ますますショウちゃんたちのイタズラも悪質になって、お猿さんの脱走事件にもつながるんだけどね」
「……なんというか、札付きの悪童ってやつですねぇ…」
「でもね、三人とも小学校ではお勉強はそこそこ出来るし、スポーツも得意でね。クラスも当時は一組しかなかったもんだから、四年生からは一学期の学級委員は小西さん、二学期は南田さん、三学期はショウちゃんって決まってたんですって」
「ホントですかぁ?」
「ホントらしいわよ。そのうえ南田さんは五年生で児童会の会長選挙で六年生をおさえて当選したそうよ」
「スゴイじゃないですか」
「六年生の女子に可愛がられてたし、選挙の応援演説で小西さんが『ハカセに投票しない奴は覚悟しとけ』って脅したり、ショウちゃんが『校長先生のモノマネをします』ってやりだしたりして大ウケだったんだって。もちろん二人とも先生に演壇から引きづり降ろされて大目玉だったらしいけどね」
「児童会の選挙なんてあったんですねぇ。アタシの頃や最近は選挙ないですよ」
「あれ?そうなの?…まあいいや。そんな感じであの三人は相当目立った子供だったのよ」
「…きっとそのまんま、おじさんになっちゃったんですねぇ」
「ふふふ、そうかもね。でもさすがに中学、高校では大人しくしてたみたいね。さすがにそこから先の事は私もよく知らないのよ。ただ母から聞いた話によると、ずっとこの町会に住んでいるのは南田会長だけみたい。ご両親が亡くなった後、勤めていた会社を辞めてお米屋さん継いだらしいわ。小西さんはお父さんが亡くなってから実家に戻ったらしくて、それまでは道路公団にお勤めで日本全国あちこち行ってたそうよ。ああ、うちの母と小西さんとショウちゃんのお母さんたちは昔からの知り合いでね、たまに情報入ってくるのよ」
「ああ、東海林さんがよく『ハイビスカス婆』って呼んでるお婆ちゃんたちですよねぇ。たまにこの会館でフラダンスやってますねぇ」
「フフフ堀北さん、悪いわよ」
「ふふふふ、うちの母もその中の一人なんだけど……」
「…すいません」
「す、すいませぇん…」
「ふふ、いいわよ。だからショウちゃんが御実家に戻ってきて、あの三人が揃ってね、私と同じ年に町会役員やるって聞いたときはホントにびっくりしたわ。兄に電話でそのこと話したら大ウケだったわよ」
「そういえばあの三人って、うちの舞ちゃんや浅井さんところの有希ちゃんのこと可愛がってくれますけどぉ、お子さんはいないんですかぁ?」
「南田会長のところは娘さんが二人いて、二人ともとっくにお嫁さんに行っちゃったらしいわ。小西さんは謎ね。離婚歴はあるらしいけどお子さんはいないそうよ。ショウちゃんとこは娘さんが一人いたんだけどね、小学校に入ってすぐ交通事故で…。信号無視の車にはねられて」
「………」
「……本当に?」
「うん。もう二十年くらい前なんだけどね、めったに婦人会の仕事を休まなかったショウちゃんのお母さんが『しばらく休ませてくれ』っていうんで、うちの母がどうしたのって聞いたらね、『正志のところの孫娘が死んだ』って涙を流したんだって。『後にも先にも東海林さんの奥さんが泣いたの見たのはあの時だけ。おととし旦那さんが亡くなった時なんかゲラゲラ笑ってたのに』ってうちの母が言ってたわ」
「…そうだったんですか」
「………」
「有希ちゃんや舞ちゃん見て、自分の娘さんのこと思い出しているのかもね…。ショウちゃん、男の子には冷たいからね。ほら、お祭りの時もさ、小学生の男の子集めて『男の子は太鼓を叩かないと綿菓子あげません』ってやってたじゃない?男の子が男女差別だって抗議したら『女の子はキレイな浴衣を着て踊るのだ。汚い君たちはせめて太鼓を叩くのだ。差別は当然ではないか』とかやってたもの、ふふふふ」
「…そうでしたね、男の子たちも妙に納得してましたね、フフフ」
「ふぇ、えーん」
「ちょ、ちょっと堀北さん、なに泣いてるのよ?もう二十年も前のお話よ」
「だって、舞ちゃんがもし死んじゃったらって思うと……。ふえーん」
「ほら、泣かないの。……困ったわねぇ」
「ど、どうしましょう?とりあえず二人で計画書作成、再開しましょうか?」
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