4 / 6
初期化しなくちゃって思うのに…
しおりを挟む
家に着いた途端、疲労感に襲われた。
「疲れた……」
「お疲れ様です」
「助けてくれてありがとう。不本意だけど、アンタに抱きしめられたときはちょっと安心したよ。頼もしいところもあるんだねぇ」
JJ109の頭をポンポンと撫でて、シャワーを浴びるべく脱衣所に向かった。
男に触れられたところが気持ち悪い。全部、洗い流したい。
シャワーを浴びて寝る用意を済ませると、JJ109は充電用のイスから立ち上がり、私を寝室へとエスコートした。
「はぁー、あっつ。シャワー浴びすぎたかも。触られたところが気持ち悪くって、長湯しちゃったよ」
ベッドの上に座って取るに足らない雑談をする私に、隣に座るJJ109がゆっくりと目を瞬く。でも急に、なにを考えたのか私の手を取って自分の頬に当てた。
やっぱり、変だ。
「なにも感じません」
「あ、当たり前でしょ」
「とても残念です。感じられたらいいのに」
目の前のコレは機械。だけど、アンドロイドではなく、もっと違うものになろうとしている。前よりずっと人間に近付いている気がした。
もうダメだと思った。
コイツの変化は止められない。
「恋について検索した結果、様々なことが書かれていました。そのなかでもワタシが有用であると判断した説は」
今すぐこの手を振り払わないと。
初期化しないと。
「"相手と触れ合いたいと思う気持ち"だという説です。ワタシはいつも、主様に触れたいと思っています」
初期化……。
「ワタシのこの気持ちは」
「違う、恋じゃない! アンタはアンドロイドだよ? 今持っているのは擬似感情であって、それは本物じゃない。アンタに本物の感情なんてない!」
「本物の感情とはなんですか?」
「それは……わからないけど」
強い力で押し倒され、景色が変わる。
JJ109の無表情な顔に感情の色が広がっていく。切羽詰まったような悲しげな表情が、綺麗な顔に浮かび上がった。
その瞬間、私のなかでJJ109をアンドロイドだと意識していたものが揺らいだ。
心臓がドキドキと波打って、顔が熱くなった。
「ワタシが機械でも、学習によって得た偽物の感情でも構いません。あなたと同じになれなくてもいい。だけど、ワタシはあなたに恋がしたいです」
「初期化されたいの?!」
「構いません。何度だって、あなたに恋をします」
「っ……なに、言ってんの……」
こんな熱烈な口説き文句、人生で一度も言われたことがない。
私はJJ109の綺麗な顔を眺めて、もういいやと思った。
初期化はいつでもできる。もう少しだけその日を先延ばしにして、今のJJ109と過ごしてみよう。
理由は至ってシンプル。愛着がわいてしまったというだけ――名前もあだ名も付けてないのにね。
「ねぇ、触れたいってどこまで触れたい?」
JJ109が目を瞬いて、首を傾げた。
青い瞳のなかでガラスが動く。私の表情や仕草を見て、意図を汲み取ろうとしているみたいだ。
なんだかいじらしく感じてしまって、頭を撫でてしまう。
「恋をしてると思うなら、ここは答えられないと」
「……わかりません」
「よかった、アンタはやっぱりアンドロイドだね。……恋愛ドラマみたいな展開にちょっとドキドキしたから、クリーニングしたあとアンタで遊んでみようかな」
「ワタシと遊んでくれるんですか?」
「うん、いいよ。高性能な大人のおもちゃの実力、見せてもらおうじゃない」
「疲れた……」
「お疲れ様です」
「助けてくれてありがとう。不本意だけど、アンタに抱きしめられたときはちょっと安心したよ。頼もしいところもあるんだねぇ」
JJ109の頭をポンポンと撫でて、シャワーを浴びるべく脱衣所に向かった。
男に触れられたところが気持ち悪い。全部、洗い流したい。
シャワーを浴びて寝る用意を済ませると、JJ109は充電用のイスから立ち上がり、私を寝室へとエスコートした。
「はぁー、あっつ。シャワー浴びすぎたかも。触られたところが気持ち悪くって、長湯しちゃったよ」
ベッドの上に座って取るに足らない雑談をする私に、隣に座るJJ109がゆっくりと目を瞬く。でも急に、なにを考えたのか私の手を取って自分の頬に当てた。
やっぱり、変だ。
「なにも感じません」
「あ、当たり前でしょ」
「とても残念です。感じられたらいいのに」
目の前のコレは機械。だけど、アンドロイドではなく、もっと違うものになろうとしている。前よりずっと人間に近付いている気がした。
もうダメだと思った。
コイツの変化は止められない。
「恋について検索した結果、様々なことが書かれていました。そのなかでもワタシが有用であると判断した説は」
今すぐこの手を振り払わないと。
初期化しないと。
「"相手と触れ合いたいと思う気持ち"だという説です。ワタシはいつも、主様に触れたいと思っています」
初期化……。
「ワタシのこの気持ちは」
「違う、恋じゃない! アンタはアンドロイドだよ? 今持っているのは擬似感情であって、それは本物じゃない。アンタに本物の感情なんてない!」
「本物の感情とはなんですか?」
「それは……わからないけど」
強い力で押し倒され、景色が変わる。
JJ109の無表情な顔に感情の色が広がっていく。切羽詰まったような悲しげな表情が、綺麗な顔に浮かび上がった。
その瞬間、私のなかでJJ109をアンドロイドだと意識していたものが揺らいだ。
心臓がドキドキと波打って、顔が熱くなった。
「ワタシが機械でも、学習によって得た偽物の感情でも構いません。あなたと同じになれなくてもいい。だけど、ワタシはあなたに恋がしたいです」
「初期化されたいの?!」
「構いません。何度だって、あなたに恋をします」
「っ……なに、言ってんの……」
こんな熱烈な口説き文句、人生で一度も言われたことがない。
私はJJ109の綺麗な顔を眺めて、もういいやと思った。
初期化はいつでもできる。もう少しだけその日を先延ばしにして、今のJJ109と過ごしてみよう。
理由は至ってシンプル。愛着がわいてしまったというだけ――名前もあだ名も付けてないのにね。
「ねぇ、触れたいってどこまで触れたい?」
JJ109が目を瞬いて、首を傾げた。
青い瞳のなかでガラスが動く。私の表情や仕草を見て、意図を汲み取ろうとしているみたいだ。
なんだかいじらしく感じてしまって、頭を撫でてしまう。
「恋をしてると思うなら、ここは答えられないと」
「……わかりません」
「よかった、アンタはやっぱりアンドロイドだね。……恋愛ドラマみたいな展開にちょっとドキドキしたから、クリーニングしたあとアンタで遊んでみようかな」
「ワタシと遊んでくれるんですか?」
「うん、いいよ。高性能な大人のおもちゃの実力、見せてもらおうじゃない」
1
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる